『クラッシュ CRASH』 

●第78回アカデミー賞で作品賞、脚本賞編集賞に輝いた珠玉の作品。

アカデミー賞と言ったって一部の映画関係者は気にせずにはいられないだろうけれど、一般的には「あ、今年どんな作品?」「そんなのまだやってたの?」という感じで最近は殆ど話題にもならない状況になっている。

●一般的に日本ではアカデミー賞よりも出ている俳優だとか、面白さだとか、CGの凄さだとか・・・・そちらのほうが映画に興味を抱くフックになる。実際私の普通の知りあいに「今年のアカデミー賞知ってる?」なんて聞いたって「知らない」って答える人が大多数じゃないかと思う。

●この「クラッシュ」今年の作品賞ということは知っていたが、なんだか派手さもなく、メディアの取り上げも殆どなく、映画関係の雑誌なんかではそこそこに取り上げられていたがどうも話題としてパッとしなかった。過去には同じく作品賞をとった「シャイン」なんかもこんな感じだったかな。

●自分も作品賞を取った映画という以外は事前情報は殆ど無しで、時間的にちょっと余ったから、まあ見ておこうかな?程度で劇場に足を運んだのであった。

●ところが・・・・・・・・・・

●ガーン・・・・・・・・・・・

●驚きのあまり、ええ・・・・と声を失ってしまう・・・・

●それほどに凄い作品だった。

●今のアメリカがこれだけ自分たちの現状の苦悩、社会的な問題を真正面から取り上げ、それをアカデミー賞の作品賞とまでするとは・・・信じられなかった。

●この作品を見ると、自由の国アメリカがどれだけ悲惨な状態に陥っているかが恐ろしいほどに感じられる。

●その作品内容の素晴らしさをより際立たせているのが映画の技法としての素晴らしさ。編集の素晴らしさ。脚本の余りに、余りに凄い見事さ。良い意味で愕然とした。この脚本の構成は「マグノリア」に似ているが、それを遥かに超越する素晴らしい映画でである。「え、こうなっってこうなるのか・・・・」と最後の最後まで驚きを与えてくれる。特に天使のシーンと、ラストは・・・・・涙が出そうになった。

●ここ10年位で最も感動と驚きの作品だと思う。

●もっと何度も見たい。複雑な部分のストーリーをもう少し理解したいと思い、早速アメリカからリージョン1のDVDを取り寄て再見。私が取り寄せたのは通常版だったが、本国ではディレクターズカットバージョンもあるようで、これも見てみたいと思っている。さらに凄い感動が隠されていたりして。日本でのDVD発売も決まったようだが、通常版のみのようなので、ディレクターズカット版はR1でしか見れないかもしれない。この作品に心打たれた人ならディレクターズカット版も必見であろう。

●でもね、これだけ素晴らしい作品でも私の周りで見ている人は殆ど居ない。見ろ見ろと薦めているけど、上映している劇場も少ないし、もう殆ど公開終了している。アカデミー作品賞というこれ以上ない栄誉を受けた作品でも、認知度は非常に低い。まあ内容は重たいし、配給元もこれを巧く宣伝出来ていないな。それともやはり売れるのは派手なSFやアクションものであり、このような作品には力を込めなかったのかなという気もする。劇場側も内容が難しすぎると敬遠したのかも? 作品は素晴らしいけれど、それをどう伝えるかというところで、余りにポスターも地味だし「面白そう」って普通の人が思うようなPRはなされていない。まあこれも今の日本の映画産業の現状と言ってしまえばそれまでなんだろうけれど・・・・。

2008/3/30追記
ちょっと前にヤフーが、ぽすれんと組んでネットレンタルを開始したとき、その予約ランキンを見たら「クラッシュ」が数週間の間、ずっと一位になっていた。作品の良さが口コミで広がり、レンタルで見たいと思う人が沢山増えたのだろう。劇場がダメでも二次利用でのこういう火の付き方は日本的であるが、嬉しいことだ。」
ポール・ハギス監督が「Valley of Elah」という新作を発表した。これもイラクを題材としたかなりの衝撃作ということである。