『K2/ハロルドとテイラー 愛と友情のザイル』(1991)

●公開当時劇場で観ているのだがなぜか記憶が薄い。テイラーがオフィスでちょっと変わったストレッチマシーンでトレーニングをしているシーンだけがなぜか頭の中に残っていた。藤岡弘が出てたってこともすっかり飛んでいた。

●出だしから妙なバーの映像なので「これは真面目に山岳映画として撮っているのか?」といぶかってしまうが、山を登り始めてからはなかなかの映像だ。

●ロッククライミングのシーンもかなりリアル。その動きしてたらすぐに腕がパンプしちまうだろうなんて思ったりもするが、まあそんなことを抜きにしてよくぞこんなシーンを撮ったなと称賛したくなる映像だ。

●8000m峰の頂上に辿り着くシーンもあまりに簡単だし、その高度でその空気の薄さでそんなこと出来ないだろう!なんてことも思ったりするのだが、映像はなかなかに美しい。(実際はカナダやパキスタンの4000m峰で撮影しているということだ)

●ハロルドとテイラーが滑落するシーンに至っては息を飲むほどの凄さ。よくこんなシーン撮影したな。スタントマンがやっているとしても普通なら死んじゃうよと思ってしまうくらい凄い。

●山岳シーンは映像の美しさもあるし、撮影にしっかりと取り組んでいることもあり、数ある山岳映画の中でも秀逸な一作。ストーリーはちょっとという感じ。ハロルドの妻と、山を登ることに対する気持ちの葛藤も深堀されているわけでもない。片足の骨折したハロルドをあんな風におろしてくることなんて無理だろうし、それは目をつぶるって、ラストはちょっとホロリと繰る部分もある。


●今回確認して初めてわかったのだが、監督があの『さらば青春の光』(1979)でデビューしたフランク・ロッダムだったんだ。パンフレットを読み返してみると、その後ハリウッドに呼ばれたが、ハリウッドでは映画監督は映画工場の工場長だってことで反発し、干され、イギリスに戻り本当に長い時間のブランクののちに撮影されたのがこの作品だということだ。

今井通子さんがパンフレットで「こんな状況になったら日本隊なら撤退する。ここまでエゴな人間は日本隊にはいらない」と書いているのが面白い。またヒマラヤヒダが雪面に見えないことなどさすが登山家として厳しい見方をしているなという印象。

●先日見返した『WIND』にしてもそうだが、1990年前後は洋画の世界も今とは違ってちょっと骨太な作品を作ろうという気概がまだ残っていたのだろう。この映画にしてもそうで、非常に困難な山岳撮影をこなし、金儲けビジネスだけではなく、映画を通して何かを伝えようとしていたそんな思いが映画の中に息づいている気がする。