『ヘブンズ・ドア』(2009)

●カメラはいい。フレーム、アングル、動き、映し出される絵にそれなりの緊張感がある。
だがこれは撮影監督の技量。

●なんとなくフランス・ヌーベルバーグ作品のような匂い。だがそれはストーリーの表面的な類似であり、本質的な部分、思想、哲学的な部分ではまったく違う。

●そもそもにして、話、脚本、状況設定、人物設定がかなりいい加減であり、非現実的。ファンタジーではないのにファンタジーを求めているのか、話に現実感(リアリティー)が全く無い。普通の人間ならこんなことをしないだろう、どうしてこういう考えをする?どうしてこんな展開になる? どうしてこう対応する? というあまりにおかしな脚本に呆れる。通常の人間行動、思考の感覚がまるでないオレサマ展開。

●現実世界を描いているのに、現実性が欠落していたのではどうしょうもない。

●死が迫った二人に死の影が全く見えない。これが後少しで死ぬという人間か?

●この映画は死というものを都合のいい小道具として使っているだけであり、死に対する、死に向き合う真剣さはかけらもない。

●よくもまあ、こんな話、こんな内容、こんな展開の脚本、こんな映画を作ったものだ。

●K3ホールディングス というわけの分からぬ企業も話のなかでわけの分からぬ配置にしかない。社長を演ずる長瀬智也の不気味さは許容するが。

●演技力の高い 田中泯もこんな映画には出ていたのでは名前に傷がつくようなものだ。

長瀬智也福田麻由子の二人はいい感じ。なにも死を目前にした設定など全く必要なく、歳の離れた二人が社会常識から逸脱し暴走し最後に死ぬという話でいけば、それこそ現代のヌーベルバーグ(似非ではあろうが)的雰囲気にはなっていただろう。

●余命僅かという設定などまるで必要がなかった、そんなご都合主義な設定など捨ててしまえと言いたいところだ。

●要するにカメラを除く、殆ど全てにおいて、映画として稚拙なのだ。

●『鉄コン筋クリート』のマイケル・アリアスが監督。あの映画も話題にはなったが話に芯がなかった。

●邦画バブル末期のどうしょうもない遺産とでも言える作品だろう。二次利用DVDで資金回収が見込めると沸き立った邦画バブルの時代にはこういう映画がどんどん作られたのだ。もう今はそれもないが。

【参】ビデオソフトの購入動向グラフ
http://www.garbagenews.net/archives/1768338.html