はつせアーカイブス 〜三つ編み外様大名の蔵〜 このページをアンテナに追加 RSSフィード

1991-12-31

[]Wiz.hackについて

迷宮探索物を書きたくなって、勢いだけで書けるところまで書いた物。ほんの触りしかないのは、熱しやすく冷めやすい筆者の性格を良く表している。

確か、「ソードアート・オンライン」(第一部)を読み終わって急にやる気が盛り上がったんだと思う。ただ、「『F』〜The labyrinth of 1000th〜」の存在は知らなかった。もし知っていたら、もっと影響を受けているはずだから。

舞台設定はほぼウィザードリィそのまま。狂王トレボーと魔術師ワードナ、城塞都市リルガミンなども固有名詞だけ変えて使っている。迷宮の中はローグというかネットハック。25階の城やドラゴン十字路、サブダンジョンなんかの構造はほぼそのままで、当然一番そこはゲヘナまでつながっている。

ストーリー構成としては、主人公が1話毎に入れ替わる短編連作シリーズを考えていた。

迷宮マニアの魔法戦士、サウラ。

その養女で相棒の盗賊戦士、ウェンディ・スー。

盲目の魔女、シェーラ・シエラ。

無口な狂戦士、サ・ゾン。

死の商人、シャムロック。

幇間騎士、アリアノン。

……と、キャラクターについてもそれなりに設定はできていたが、設定を作っただけで満足してしまう悪い癖が出てしまった。

ま、そのうち気が向いたら翻案して書き直そうと思います。

1991-12-30

[]Wiz.hack (1)

その日、俺はちょっと機嫌が悪かった。

端的に言うと、ムカついていた。

訳は後で詳しく説明するが、身近な女二人が、俺のペースをいいようにかき回してくれたのだ。

何度も落ち着こうとしたが、そのたびに、普段気の強うそうな女が目に涙を浮かべて青ざめた顔でこちらを見ている情景と、普段朗らかな娘がひどい剣幕で怒鳴る情景が脳裏に浮かび、どうにも落ち着かない。

いらいらした気分を切り替えるには、気晴らしが必要だ。

普通、いい年した男が憂さ晴らしにすることといったら、飲むか打つか買うかだろう。

龍王のお膝元ベリリオプルには荒くれ者が集っていることだし、その手の娯楽だけには事欠かない。

しかしながら。

黒エールをジョッキで3杯も飲めば頭痛がして、5杯も飲めば飲み食いした分をまとめて払い戻してしまう。

金はあるに越したことはないが、博打好きの叔父が借金こさえてオヤジに押しつけて逃げて以来、1ゴールドだって賭けに使ったことはない。

女なんて以ての外だ。奴らは、男を騙して操るためにあの髪と顔と体を与えられているのだ。下手にそんなのと関係を持ったら、どこまでもつきまとって、雨雲のように俺の人生に影を落とし続けるだろう。仕事以上の関わりは持たないに限る。

俺という男は、とことん娯楽とは無縁に出来ているらしい。

だから結局、憂さ晴らしにはいつもと変わらず修練所に寄ることになる。

修練所は、龍王トリブルが運命の大迷宮を攻略する兵士を育成するために作った施設がもとだが、今では王立4つに私設7つもある。

とはいっても、どこでもやることは大して変わりない。

剣の腕を鍛え、魔術を教え、生き残る術を叩き込む。

修練所によって得手不得手はあるものの、総じていえば、金と時間と忍耐力さえあれば、迷宮の入り口辺りでコボルトにフクロにされない程度に鍛えてくれる。

大抵の者は、一通りの訓練を終えると、迷宮に挑んでいき、修練所には帰ってこない。

自分の腕を過信して、深入りしすぎて力尽きる者。

危険相応の実入りを得て、迷宮徘徊稼業から足を洗うもの。

迷宮探索をあきらめて、探索者相手に商売に精を出すもの。

いずれにしろ、彼らにはわざわざ修練所に戻ってきて修行し直すような必然がない。

運命の大迷宮に集う者の多くは、彼らなりの一攫千金が目当てであるのだから。

しかし。

少数ではあるが、修練所やそれ以外の場所で技を鍛え直す者もいる。

その一番の理由は、大迷宮の攻略難易度が途中から跳ね上がるからだ。

地下25階、通称「ワードゥラ城」までを、「四分一」と呼ぶ。

呼び名自体は、大迷宮が100層でオーラスだといわれていた頃の名残である。

この「シブイチ」までは、駆け出しの探索者でも、運と実力によってはパーティさえ組まずに切り抜けられる。

だが、余程の者でない限り、そこから先はそう簡単にはいかない。

25階最奥部のワードゥラ城からは、龍がうろつき出すからだ。

とくに25階名物である、3体の龍のブレス攻撃に挟み撃ちにされる「魔の十字路」は、中級以上の手慣れた探索者でも一人で挑むには危険な代物だ。しかも、固定アイテムの出現する宝物庫前なので始末に悪い。

龍対策一つとっても、それまでのやり方を考え直すのに十分だが、ほかにも、罠を解除しないと下に進めなかったり、同時にスイッチを入れないと開かない扉など、こった仕掛けが増えてくるのもやっかいである。

結果として、それまで単独や多くても3人程度の少人数が主流だったパーティ構成は、4〜8人程度のものが増えることになる。

前衛2+回復役+盗賊系を基本に、前衛のボリュームにあわせてサポート系のメンツを入れると、6人前後が妥当だといわれる。それ以上になると、安全性は増すが分け前が薄くなってしまう。

現実の問題として、シブイチのうちに満足のいく額を稼いだやつは、そこで安定した職を探す。

ベリリオプルの迷宮探索者といえば、下手な貴族よりもマシな職が見つかる。何しろ、偏執的に記録好きの龍王は、どの探索者が何階まで到達し、どれだけゴールドを稼ぎ、どんなアイテムを手に入れたのかほとんど記録を持っている。

巷では鼻毛の本数まで知っていると言うやつまでいる。

もちろんモグリも居るだろうが、それらの記録が後々証明付きの経歴、即ち能力のお墨付きになるとなれば、消して悪くない取引だ。例え迷宮での上がりの1割を巻き上げられるとしてもだ。

25階以降は、運が悪くて稼ぎが悪かった者、金以外の目的がある者、そして、迷宮に魅入られて離れられない者だけが残る。

25階より下を、独力で戦い抜ける者は極少数と言っていいだろう。

次に進むための仕掛けを見破り、罠を解除し、入手したアイテムを鑑定し、時には100を超えるモンスターを薙ぎ払わなくてはならない。

生還率を上げ、アイテムとゴールドを効率よく稼ぐには、仲間の腕を慎重に見定める必要がある。

人数を増やせば増やすほど、収穫は悪くなるわけで、当然、一人二役こなせる者はパーティーのメンバーとして価値は高い。

また、千里眼とか回復魔法といった必須の能力を持っている者は、パーティ間の引き合いも強くなる。

一方、多少剣の腕が立ってもそれ以外に能が無いような奴は、次第に敬遠されるようになる。

そうなれば、どうしても専門以外の技術を身につける必要があるし、それを効率よく、少なくとも後は独学で何とかなる程度に学べるのは、修練所を置いてほかにない。

目の前の若い剣士が打ち込んでくる木剣を、自分の木剣で軽くいなす。腕の構えは変えずに、手首の返しで受け流す。

「いいか。受け流す時に一番大事なのは、その後攻撃にどう繋げるかだ。」

こちらを興味半分、侮り半分に見ている駆け出しの連中を見やりながら、左手を動かして剣先を相手の喉先にピタリと付ける。

「場数を踏めば誰にでも分かることだが、相手の体勢を崩して隙を作る。剣技に必要なのはただこれだけだ。」

もう一度打ち込ませて別の捌き方を見せる。

熱心に見ている奴もいるが、鼻で笑ってやる奴の方が多い。

一攫千金を狙う奴なら、それくらい自信過剰でないとな。

「へ。俺ならあんな簡単にはやられないけどな。」

小声で言った奴に笑いかける。

「なら、試してみるか?」

王立修練所の良いところは、新たな技能や術の習得に必要な金を、師範として働くことで立て替えられることだ。

もちろん、師範や師範代になるためにはある程度実力が必要だし、審査なんかもあるが、迷宮で生き残った人間なら、何かしら教えるモノを持っているのが普通だ。

俺の場合、主に基本剣技と迷宮構造の座学を教えている。

両方とも、修練所で必ず一度は受ける必修講義だ。

龍王の命令で、迷宮にはいる免許を取るには資格が必要だし、それを取るには修練所で必須講義をいくつか受けるのが手っ取り早い。

これは、ただ通行税を取るより実入りも評判もいいのと、素人が山っ気を出して潜り込み、死体が山積みになってひどい臭いがしたことがあって設けられた制度だ。

ともあれ、必修だけに、聴講者が多い割に講義の時間は少ない。結果、週に2〜3回も講義をすれば、食うには困らない程度の収入になる。

講義の中身も、極々簡単なものだ。

何しろ、龍王とその臣下にしてみれば、実質的に迷宮自体を兵士の養成所にしているように、修練所は使える兵士を選抜するための最初のふるいだ。

まずは、まるで資質のない、コボルドの餌になりそうな奴を挫けさせるように、脅しを掛ける必要がある。

実際、はっきりそう言われてるしな。

俺は、4つの王立修練所の中で中堅になる、パリヤール修練所ではちょっと顔が利く。

この時間の基礎剣技の講座も、無理を言って変わってもらったものだ。

「どうした。元気なのは口だけか?」

さっき大口を叩いた奴は、それでも頑張った方だ。

足をすくわれて顔面スライディングを敢行し、剣をたたき落とされ、組み付こうとして突き飛ばされ、尻餅をつきながらも殺気だった表情を変えていない。

立ち上がりながら木剣を拾って構える。

膝が多少震えているが、最初の時より大分様になってきた。

「気の強さは合格だが……」

腰溜に切っ先を向けて突っ込んでくるのをいなしながら、柄頭を首に叩き込み眠らせてやる。

「もう少し冷静にならないと、10階辺りでハイオークの餌だぜ。」

他の連中を見ると、真剣に見ている奴が若干増えたが、残りは青い顔になっていた。

「言っておくがな。毎月千人からが迷宮に入って、出てくるのはその半分だ。お前らのうち、半分は怪物どもの腹に収まるってわけだ。」

意地の悪そうな顔をして、生徒達の顔を見回す。

「お家に帰るんなら今のうちだぜ?」

さて、イタイケな若人(年食ったのもいるが)をいたぶって機嫌も直ったので、そのムカついた理由について思い出してみよう。

今朝のことだ。

行きつけの口入れ屋に顔を出したところ、看板娘のリーニィに呼び止められた。

俺向きの依頼があるという。

「ミズラ神殿からアイテム奪取の依頼なんだけどさぁ、カムドの珠って知ってる?」

知ってるとも。持ってるだけで女運金運出世運何でもござれの現世利益ばっちりな宝珠だ。権勢欲旺盛なミズラ教の信者なら喉から手が出るほどほしがるだろうな。

「んでさぁ、なんでも神託で宵待ちの谷にそれがあるって事なのよ。坊さん達、10万ゴールド出すって言ってるんだけど、場所が場所だからさ。」

宵待ちの谷は、大迷宮の46階から分岐するサブダンジョンだ。

数こそ少ないが、魔獣系の強力なモンスターが要所を守っているし、何よりたちの悪い仕掛けが多い。

しかも、薄暗くて湿っぽくい上、むやみに広い。おまけに、今まで大したお宝が出て来ていない。

結果、ほとんどの探索者がまたいで通るのが慣例となっている。

150階近くまで制覇された大迷宮の中で、未だに完全踏破されていないサブダンジョンの一つとして有名だ。

もっとも、50を超えるサブダンジョンの中で、この谷が有名になったのには理由がある。

谷の奥にある神殿に、男女一組でしか挑めない仕掛けがあるのだ。

「恋人達の回廊」というふざけた名前を冠したこの仕掛けは、男女が交互にスイッチを動かして進むようになっている。

しかも、モンスターを一対一で倒さないと開かない扉があるらしい。

数ヶ月前、中堅どころのちょっと名の知れた探索者のコンビが、ここで死人を出した。

騎士とプリーストの組み合わせで、それぞれ結構な手練れだったのだが、プリーストがインキュバスに倒され、遺体回収に賞金が掛けられて、一時期話題になった。

結局、付き合っていたその二人は、気まずくなって別れたそうで、それ以来、別名「別れの回廊」と呼ばれるようになったとか。

「でもさ、あんたとスーちゃんなら、本気になれば何が出てきてもチョロいでしょ?」

「………。スーとはパーティ解消した。」

「えええっ!どうしてよ!!」