前向きに、世界は広がっていく - 翠水惑星年代記



翠水惑星年代記/大石まさる(Amazon)


水惑星年代記も4冊目の単行本。
「翠水惑星年代記」です。



水惑星シリーズは1編、もしくは前後編の短編を基本としたお話で、それぞれを単体で読んでも楽しめる作品です。
もちろん、同じキャラクターの話の続きや、別の話ででてきた人物の親類縁者が登場したりするので全ての話を網羅しておくとより楽しめることは請け合い。
時系列はバラバラでも、全ての話はこの”水惑星”を舞台にしていて繋がっている感じがして、非常に好きです。


何より、短編としても読める全ての話はすべからく”前向きな終わり方”で締められているのが良いですね。
ハッピーエンド大好きなので。
いや、”終わり方”じゃないですね。そこからその人たちの未来は続いていく。


水惑星年代記は、自然と隣り合わせのどこか懐かしい田舎を感じさせる舞台に、近未来的なSF要素が入った作品世界。
単行本の感想の度に書いていますが、その自然の描写が美しい。特に海や湖・川などの”水”が。


で、登場人物たちは明るい人や悩みを持っている人など様々ですが、その自然や新しく出会う人・再会した人、その他諸々のものから影響を受けて、何かしら発見したりして「○○が好きだ!」や「世界はこんなにも輝いているんだ!」と前向きになっていく。
その発見する”何か”は、人との絆や関わり方、自分の中にあって忘れていた感情、科学的に画期的な発見だったり様々。
何を得るかはそれぞれの話で違いますが、いずれも世界や視界が広がってそこから進んでいける。
世界は続いていて、そこで終わりじゃない作風が大好きで大好きで。



■”翠”収録分、感想


”翠”に収録されている話は機動エレベーター稼動前の話が多いらしく、「平賀少年少女探偵係。」と「なまいきサーヤ」はSF要素はほぼないです。



■スターガイド
■タイタンねこーず


「スターガイド」は絵本風のカラー作品で、ネコミミ少女と黒猫のメルヘンチックなお話。
その2匹が書き下ろしの「タイタンねこーず」の主役でもあります。
「タイタンねこーず」は、土星の衛星のタイタンに不時着した2匹の話なのですが、「救援を待つ間に探検しよう!」と探検に出るのが良いです。
状況を悲観するんじゃなくて、前向きに楽しもう!という作品全体に感じられる姿勢がここでも感じられて。
原住民(?)の娘がしっかりしていて嫉妬したりするけど、嫉妬の理由が「自分ができないのが悔しい」と感じてのことなのがいいね。


関係ないけど、大石先生の描く猫が可愛すぎる。



■浦島乙姫


別の時間からバグを退治する為にやってきた乙姫。
時間を飛び越える話は初だったはず。


乙姫は基樹の家に居座り、基樹は乙姫の話も適当に聞き流してたんだけど、バグを目の当たりにして乙姫の話がマジだと驚愕。
バグ退治を始める前と後で、基樹の乙姫を見る目が変わってます。


適当にあしらっていたのが、相手をキチンと見ることで−他の人より近い距離にいることもあって−本当の彼女、サバサバして明るい表面の奥に隠されているものを感じ取れるようになった、と。
はじめからちゃんと向き合えよ、と思うけど、淡い恋心を抱いていて抵抗があったのかな。
キチンと乙姫を見るようになってから、恋が自覚されているようで何より。


ループしていた時間が元に戻ったわけですが、二人はまた会えたと妄想しておきます。
会えなかったらキツすぎるから。



■平賀少年少女探偵係。


転校してきてクラスに馴染めていない少年・ヨウが主人公の話。前後編。


ヨウは観察力・推理力に長けており一言多いからか、クラスメイトを見下したような態度が馴染めていない原因。
その推理力を買われて、担任に勝手に探偵係にされるワケですが…


ある事件が起きて、それを小学生の子供だけで大人に立ち向かい解決する話です。
子供である自分の無力さを感じて、それでも居ても立ってもいられず、思考を巡らせて真実に行き着くヨウ。
そこから先は、少し距離が近くなったクラスメイトとともに立ち向かう、と。


少年ならではの無鉄砲さと、保険として大人に知らせもしておく周到さ。
そして、仲間と手を取り合って仲間の為に立ち上がる姿!
少年時代ならではの体験でもあり、かけがえのない仲間との絆ができる瞬間。熱いね。



■なまいきサーヤ


大石先生の作品には珍しく、優越感を持って他人を見下す少女が主人公の話。


都会から親の仕事の都合で、一時的に田舎の学校へ編入してきたサーヤはその学校の子を見下した態度で、案の定、嫌がらせされるのです。
気丈な性格のサーヤは影で反撃。
反撃は陰湿かつ、エスカレート。しかも悪びれもしない。


サーヤの行動は孤独感からくるもので自分のやっていることに自覚もあるんだろうけど、ちょっとやりすぎだと思うですよ。
「誰かに必要とされたい。でも理解されない」という感情からきているはずで、その感情から出たものは外に向くか内に向かうかだよなぁ。


とりあえず、私はイジメの描写は嫌いです。
でも、サーヤは前向きになれましたし、サーヤの反撃にあった子もラストでは笑ってるから解決してるハズ。描写はなかったけど。



■雲母回廊


やり手の女性設計主任が、重大なプロジェクトの後の休日で自分を振り返る話。


社会人になって日々を忙しくしていると、昔の自分が何をして、何に楽しみを見出していたか忘れてしまうもの。
ゆっくり休んで、何を楽しんでいたのか思い出してゆっくり解きほぐしていくのは大切ですね。


「この世に義務なんてものはない」のセリフはちと無責任だと思いますが、好きなこと・楽しいことを重視する選択も正しいと思います。
何に価値を見出すか、ですね。
しかし、思い切りが良すぎるぞ、雲母さん。



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