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2018.06.17.Sun. 

[][][] Alva Noto “Unieqav” (2018)


UNIEQAV [解説つき/ボーナストラックのダウンロードコードつき]




 2008年の “Unitxt”、2011年の “Univrs” と続いた “UNI-” シリーズの幕を引くアルバム。
 このシリーズは、ビートが強いフロア向けのサウンドを追求したもの。Alva Noto / Carsten Nicolai の音源のなかではもっともアプローチしやすい。聴きやすいサウンドだけど、Alva Noto らしくやはりミニマルではある。緻密で構築的という特徴も保たれている。要素としての音それぞれの感触にも、はっきり Alva Noto の個性が表れている。


 Alva Noto の楽曲で用いられているサウンドは、ノイズやグリッチ、ドローン、ベースライン、シンセ、といったようなことばで記述することができるけれど、ここではもっと簡単に、連続音と短音というふたつで考えてみたい。
 シンセの主旋律やドローンが担っているのは連続音。派手ではないけれど情感を表すメロディをかたちづくる。
 一方、ALva Noto のサウンドを決定的に特徴付けるのは短音の方。グリッチやビープといったような、現れるやいなや消えてしまうような瞬間的な音。これらの短音は、単体で取り出すと、機械の発するノイズのようなものにしか聞こえない。ところが同じ音が反復されてリズムのなかに配列されると、楽曲を構成する要素に姿を変える。

 長さのある線と長さを持たない点という区別。
 こうした二種類の区分はどのような音楽からも程度の差はあれ取り出すことはできるだろうけど、Alva Noto の場合、持続しない破砕音の多用、絶えず続いていく微少な短音の反復が非常に目立つ。
 聴く者にとって、そこにはふたつの特徴がある。個々の短音が、瞬く間に過ぎ去る知覚体験であること。捉えようとしたときには消えているそれらは、ただ記憶のなかに刻まれたパターンとして残る。そしてこれらの音が残響を伴わないこと。音像内での定位によって抽象的な広がりは感じさせても、それが置かれた空間の形状を感じさせない。示されるのはただ位置そのものだけ。このこともやはり「パターン」に意識を向けさせることにつながる。仮にこの音楽を視覚化してみるなら、微粒子が秩序立ったパターンの上に散りばめられているような姿として表象されるだろうと思う。

 こういった特徴は “UNI-” シリーズのみに限ったものではなく、“Trans-”シリーズなどではもっと顕著に出ている。
 だが “UNI-” シリーズは、抽象的な点の連なりだけにすべてが尽くされるわけではない。鋭い短音が列する背後では、環境を構成する連続音が機能している。音響的な特質はこれら連続音によって生み出されている。また、残響を引く低音のビートも音像全体の基盤として重要な役割を果たすものだ。微粒子の抽象的パターンはそうした具体的な情景や音像の上に形成され、結果、全体の統合として楽曲ができあがっている。
 短音の秩序ある配列がこうした全体のなかで持つ働きは、定規のような補助線、方眼紙のグリッドラインのようなものと見てもよいのだろうけど、自分としてはむしろ、微細な瞬間への志向、圧縮された時間の局所へ意識を向ける仕掛けだと整理したい。

 “Uni Normal” のような典型的なテクノのフォーマット、“UniEdit” の分断され引き裂かれたようなビート、あるいは “Uni DNA” でのヴォイスが主導するトラック。いずれにおいても微細な音の数々が知覚を研ぎ澄ませて内部に誘い込む構造があり、そのように鋭敏に開かされた知覚で体験される解像度の高い世界がこのアルバムには広がっている。





Alva Noto

Information
  Birth name  Carsten Nicolai
  OriginSaxony, East Germany
  Current Location   Berlin, Germany
  Born1965
 
Links
  Officialhttp://www.alvanoto.com/
    Twitterhttps://twitter.com/alvanoto
  LabelNoton  https://noton.greedbag.com/buy/unieqav/

ASIN:B07BWBDMJB


2018.06.03.Sun. 

[] 谷甲州 “工作艦間宮の戦争”





 航空宇宙軍史シリーズの最新作品。
 『スティクニー備蓄基地』『イカロス軌道』『航空宇宙軍戦略爆撃隊』『亡霊艦隊』『ペルソナの影』『工作艦間宮の戦争』の6作品が収載されている。
 前作『コロンビア・ゼロ』では、外惑星連合軍の奇襲攻撃によって第2次外惑星動乱が始まるまでが語られていた。
 この短編集は開戦後の話となる。劣勢に置かれた航空宇宙軍が反撃に用いた戦略兵器が、全体の主軸を成している。


 ようやく第2次外惑星動乱が始まり、読者としては期待が高まるところ。
 しかしどうも今回のこの本、評判が芳しくない。
 特に、話題になっていたこのレビュー。

 実際に自分の目で確かめる前にネガティヴな意見に引きずられる必要はないのだが、長きに渡る読者としての落胆が率直に綴られているという点で、どうにも軽く流せないレビューだったということ、そして自分としても実は『コロンビア・ゼロ』でかすかに疑問を覚えた個所がいくつかあったこと*1と併せて、不安を持って本編を読むこととなった。
 作品タイトルにも若干の違和感を感じたということにも触れておく。知らずに見かけたら航空宇宙軍史シリーズだと気付かなかったと思う。艦船に和名が付けられているのって、このシリーズでは初めてだという気がする。
 このあたりも、読む前のそこはかとない不安を増やすことにつながっている。





語られ方の変化

 ということで、読み通してみた結果。
 ……たしかに全体的に読みづらいものがあった。
 とはいえ、書かれていることの意味は掴めるし、致命的に論理破綻してるというようなことは感じなかった。(たとえば先述のレビューで例に挙げられている個所も、わかりづらくはあるものの論理的に成り立つ意味は読み取れる*2
 しかし、各話にドラマがなさすぎる。なんというか……オチがない。会話なしでまず背景の説明と状況の説明が延々とあって、最後の方で動きがあったかと思うとそこで唐突に終わる。えっこれでおしまいなの……?という終わりがどの話でも毎度同じ。
 ――いや、これまでの作品も説明文章が主体でドラマ比率が小さい側面はあったのだが、もうちょっとそれなりに起伏があってストーリーラインがあった上で話が閉じられていたと思う。でも……今回の作品では、自然なクロージングという感じはしない……。ドラマがこれから始まるという前にぶつ切りにされているように見えてしまう。
 

 それから、人称の混濁が多くてとてもわかりづらい。
 これはテーマとして意図的におこなわれているところではあるのだろうけど、それにしても。
 自分としては、文章が破綻しているとまでは思わなかったけど、そう断じる人が出てくるのがまったく信じられないとも思わない。
 誰の内面をどの視点から語っているのかが一貫性なく突然変わるところがある。今までのシリーズでは、語りは第三者人称形で基本的に主人公の内面に沿った透明なものだったけれど、本作では視点の唐突な変換が逆に「語りの視点」というものの存在を読み手に意識させる。そしてそれが効果的に作用しているとも言えない。特に『航空宇宙軍戦略爆撃隊』後半部分は語りの混乱が激しく、非常にわかりづらい。
 視点の混濁という手法は『星の墓標』でも用いられていたが、そこでは珍しく一人称の語りが採用されていたこともあって理解しやすかったし、表現手法としても有効に機能していた。しかし今回は、少なからず疑問を感じさせる書き方となっている。
 

 このようにさまざまな個所で躓かされたわけだけど、事前に見た感想による先入観が自分の読みに影響しなかったとは言い切れない。
 でも仮に事前情報を何もなしに読んだとしても、違和感は受けたと思う。その場合おそらくそれを自分の読解力のせいにしていただろうという気はするが……。



物語構造の系譜

 そうしたことすべてを踏まえた上で、これまでの航空宇宙軍史シリーズの読者がそれでもなおこの本を読むべきかどうかというと、やはり読む価値はある。この書では航空宇宙軍の行動原理に関わる重要な議論が展開されているからだ。
 事件・出来事という意味では、それほど大きなことは起こっていない。外宇宙艦隊の艦船を改造した戦略兵器が出てくる程度。戦争の行方を左右しかねないものではあるけれど、作中ではその直接的なインパクト自体には焦点は当たっていない。
 しかしこの戦略兵器「特務艦イカロス42」は、前作『コロンビア・ゼロ』での外惑星連合軍の新型戦闘艦と同様、収載された各短編に共通し背後をつなぎ合わせる接点として意味を持っている。そして、登場人物のなかからもっとも重要な者をひとり挙げるなら、それはイカロス42の艦長である早乙女大尉ということになるだろう。イカロス42による作戦をめぐるこの人物の思考と行動推移、および記憶が攪乱され人格を弄られたという顛末は、物語全体の軸を成す。
 航空宇宙軍史シリーズの魅力は、単に技術的リアリズムと「現場」のドラマという面にとどまらず、航空宇宙軍の根源的ドクトリンとそれへの対抗という基本構図にもあったわけだが、『航空宇宙軍戦略爆撃隊』でのガトー中佐と早乙女大尉の論争はそうした構図の変奏になっている。(ところが前述の通りここは語りが非常にわかりづらいところでもある……。)
 そして彼らの描く戦略に沿って飛ぶイカロス42は、航空宇宙軍側の反撃を担う兵器として各短編の焦点を成し、前作での外惑星連合軍の新型艦が果たした役割へきれいに対置されている。
 

 また、本作品は全体的な違和感にも関わらず、やはり過去の航空宇宙軍史シリーズと同じ特徴を備えているという点は見過ごせないところだ。
 たとえば、閉鎖空間でのモノローグと少人数での切り詰めた会話という特徴。これは6話すべてに共通する。
 リソース不足による諸々の不便という点も、これまで通り作中世界の雰囲気をかたちづくるものとして大きな部分を占めている。老朽化や急拵えの妥協、人材不足。本作では特にこの人材不足という側面が目立って語られている。これは今までのシリーズでも重要な問題のひとつとして扱われており、欠乏しがちな上級士官へのリソース集中が高機能化・長寿命化に結びついていく様子として描かれていた。また長大なタイムスパンでの同一キャラクターの継続というように、物語のあり方にもつなげられている。本作の場合は、もう少し狭い範囲の事柄として描かれ、世代交代とそこに伴われる問題というかたちで表れている。
 このように何かが「限定されている」ということ、とりわけ「閉鎖空間」「少人数」という要素は、宇宙への進出という状況設定から来る必然的な特徴だ。このことが、小説・物語としての本シリーズの特徴を形成している。
 内/外に明確に切り分けられる閉鎖空間で2〜3人の少人数が実務的な会話を交わし、いくつかの異常事態とそれへの対処が描かれる……という共通した物語構造。状況についての登場人物の思考。どのように対応するかという最小限の会話。提案される方策とその吟味、対抗案の表明、選択と実行。
 ――基本的状況設定が小説の展開や文体に直結しているというところにこのシリーズの決定的な特徴があり、それは本作においても変わることなく健在だ。
 

 この状況設定はシリーズ全体の揺るぎようのない前提条件であるから、本作品でも物語構造はやはり同じような形式を見せている。
 ただし本作の各短編は、終わりが唐突だということでこれまで異なる印象を受ける。過去の短編では、語られるべきテーマ、提示されるべき構図といったものがあった上で終わっていた。本作ではそうしたものがほとんどないまま、ひとつかふたつの「進展」「発見」があっただけで終わりを迎えてしまう。
 好意的に見るならば、各短編自体で成り立つのではなく全体を通してテーマや構図が成り立つように書かれているのだ、と受け取ることもできるかもしれないし、実際それこそは早乙女大尉とその戦略に託されている役割なのだとは思うが……どうもその試みが寸分の隙なく成功してるとは感じられなかったというのが正直なところではある。

 ただし、だからといってこの作品が完全に破綻しているとまで言えるかというと、それは言い過ぎだと思う。『工作艦間宮の戦争』は紛れもなく航空宇宙軍史シリーズに連なる作品として成り立っている。これについては自分で読んで確認するしかないだろう。読みづらいのは確かだが、精読の価値がある作品であることは間違いない。







*1:表題作最後でのシュトレム少佐の言動が唐突に感じたこと、『ジュピター・サーカス』での木星の太陽化という記述。ただし『コロンビア・ゼロ』は全体としてはおもしろかったと思っている。

*2:過去の自分に拘るなら昇進はできない / 過去の自分に拘らないなら昇進できる

2018.05.20.Sun. 

[][][] Jon Hopkins “Singularity” (2018)


シンギュラリティー




 ビートに伴うノイズの力というものを示したのが、前のアルバム “Immunity” の大きな功績だった。5年ぶりにリリースされたこのアルバム “Singularity” も同じ延長上にある。
 パルス、破砕音、グリッチといったノイズ要素は、それ自体が主役の位置にあるわけではないけれど、情景を構築する上で欠かせない役割を果たしている。ベースドラムの4/4ビートが全体を引っ張っていく一方で、まとわりつくグリッチ・ノイズはリズムを微少に区切り、複雑な細部を生み出している。
 リズムにおける「微少性」のようなものに関連しているという意味ではグルーヴという考え方に通じるものもあるけれど、根本的なところで異なる。溜めが生むオーガニックな揺らぎで一定の拍からの極微のずれを扱うのがグルーヴだとすると、ここでのリズムはあくまでもリジッド。大きな軸ははっきりした4/4ビートだけど、細かく覗き込んでいくとどこまでも分割された断片が現れてくるというようなかたちでの微少性。
 ノイズといっても制御不能の混沌ではない。雑多で偶発的なものを秩序の中に整頓して配列したというような感じがある。局所的にはどこまでもディテールがあって、でも全体は整序されている。
 Jon Hopkins のサウンドを語るとき、メロディとビートの融合とか “blissfulness” といった側面が外せないところだけど、飼い馴らされたノイズとも言うべき細部のテクスチャーも決定的に重要な特徴だと思う。


 前半の4曲は特にフロア志向。このパートの締めくくりとなるような M-4 “Emerald Rush” は10分以上に及ぶもので、“Immunity” での “Open Eye Signal” に匹敵するような昂揚に満ちている。
 後半はピアノ主体でアンビエントに寄った曲が続きながら、M-8でふたたびひとつのクライマックスとなるトラックが現れる。この “Luminous Beings” もやはり12分近くある長い曲。静かに始まりつつも次第に情景を切り替えていき、味わうべき局面が次々に立ち現れて、流れと変化、抑制から盛り上がりへという展開があり――つまりは非常に物語的。
 M-4 や M-8 のような長大な曲を弛まずにまとめ切るには、叙情的・叙景的な「描写」の力とそれらの展開という「構成」の力という両面を特に備えていなければならず、この2曲の完成度からも、前作からさらに一段階の進化を遂げたことが見て取れる。




Jon Hopkins

Information
  Current Location   London, UK
  Born1979
  Years active  2001 -
 
Links
  Officialhttp://www.jonhopkins.co.uk/
    YouTube  https://www.youtube.com/user/JonHopkinsVEVO
    Twitterhttps://twitter.com/Jon_Hopkins_
  LabelDomino  http://www.dominorecordco.com/artists/jon-hopkins/

ASIN:B079VTLZ2Y


2018.05.19.Sat. 

[][][][] Simian Mobile Disco “Murmurations” (2018)


MURMURATIONS




 James Ford と Jas Shaw によるユニットの5th アルバム。テック・ハウス/エレクトロ・ハウス。
 このアルバムは、ロンドンのヴォーカル・コレクティヴ The Deep Throat Choir の女声コーラスをフィーチャーしているのが特徴。ヴォーカルとシンセが崇高を醸し出す一方、前進するビートとベースが不穏な空気を張り詰めさせている。

 アルバムタイトルの “Murmurations” は、ムクドリの一糸乱れぬ群体飛行を指すことば。小さな個体の集合が捉えがたく形状を変化し続けるという様態は、この音楽を記述する表現として示唆的なものがある。ひとつのテクスチャーをもって激しく渦巻きながら流れる動体。
 バックのコーラスとメインヴォーカル、4/4ビートにその他のリズム細片というように、ここには多段階の “速度” がレイヤー状に重なり合っている。異なる時間感覚が融合した結果としてこの流動体がつくり上げられている感じがある。

 今回の The Deep Throat Choir とのコラボレーションは過去作品とは一線を画していて、これまでの作風からすると少し突然変異とも言えるような結果を生んでいる。果たして今後も同じ路線で続けていけるものかは難しいところかもしれないけれど、少なくともこのアルバムにかぎっては間違いなく成功している。





Simian Mobile Disco

Information
  Current Location   London, UK
  Years active  2003 -
  Current members   James Ford, Jas Shaw
 
Links
  Officialhttp://www.simianmobiledisco.co.uk/
    SoundCloud  https://soundcloud.com/simianmobiledisco
    YouTube  https://www.youtube.com/user/SMDTV
    Twitterhttps://twitter.com/smdisco
  LabelWichita Recordings  https://www.wichita-recordings.com/posts/simian-mobile-disco-announce-new-album-share-video

ASIN:B079VRR12G


2018.05.13.Sun. 

[] ハンヌ・ライアニエミ “複成王子”


“The Fractal Prince”
 2012
 Hannu Rajaniemi
 ISBN:4153350222




 『量子怪盗』に続く〈ジャン・ル・フランブール〉シリーズの第2巻。これも全3部作とのこと。原作は2012年刊行で邦訳が2015年。第1巻は原作2010年・邦訳2012年だったので、2巻邦訳刊行にはけっこう時間がかかったことがわかる。
 ただこれは無理もない。独特の設定や用語が溢れていて、ロシア語・フランス語・フィンランド語・アラビア語といった多数の言語とその文化、さまざまな現実の古典作品にリンクした語彙など、相当に広範な知識がないと訳せない作品。訳者は酒井昭伸、巻末あとがきでもそのあたりの苦労が語られている。とはいえ日本語での最終的な語感については、やはりこの訳者ならではの仕上がりとなっているし、全体的に翻訳の寄与が大きい作品だと思う。


 2巻は1巻よりも難解だったかも。これはアラビアンナイト風の地球社会の描写が取っつきづらいところにもよるけれど、「物語内物語」というものが全体の構成とテーマに大きく関わっている点からもきている。文章を追っていくのがかなり大変だったけど*1、それに見合うおもしろさがある。
 ポスト・シンギュラリティの未来世界。トランスヒューマンの強大な存在たちが太陽系に覇を唱えていて、その抗争の一端で「怪盗」と「戦闘少女」という属性の主人公ふたりが活動していく物語。
 自我の分裂や融合も自由自在、集合知性や遠距離転送、コピー軍団等々、超技術が当たり前のように繰り出される世界ではあるけれど、物語自体は結局のところ、ごくわずかな数の人格個体たちの相関模様で成り立っている。そういう意味では古典的構図にある。
 ただし2巻はここに、物語の交換によって人物間の特別な結びつきが生じるという設定が絡むことによって、より複雑で自己言及的な小説になっているのが特筆すべきところだろう。随所に混入される物語内物語、登場人物たちがそれらを語る行為自体が果たす機能、当然それら全体もまたひとつの物語として語られるものであり……そのようにして目眩く重層構造が展開する。

 超技術的な「変装」や精神融合などが多用されるため誰が誰だかわからなくなる小説なんだけど、このように入れ子的な物語という要素が組み込まれていることで、どのパートが誰に語られている物語なのか、それが何を目的として語られているのかという点でもよくわからなくなってくる。この酩酊感覚、読者に混乱と労力を強いるものであると同時に、作品の大きな魅力を成している。
 1巻同様の派手な戦闘シーンも健在。用語センスとか全体的に癖のある世界だとは思うけれど、大風呂敷的なシンギュラリティSF概念と良く構築されたストーリーで、近年のSFエンターテイメントのなかではかなりおもしろいシリーズだと思っている。第3作目は “The Causal Angel(『因果天使』)”、現時点で邦訳刊行予定なし。原作は刊行済だけどさすがにこのシリーズを原語で読むのはしんどいので、邦訳が出ることを期待している。






*1:用語や前のパートを確認しながら読むことが必須。kindle版は基本的に複数ページを同時に開けないので、こういう作品は読みづらい。

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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもう環 (ループ) を背負ってない”
―Angela Mitchell