::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

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 “ミッション:8ミニッツ”






“Source Code”
 Director : Duncan Jones
 US, 2011




 原題は邦題とだいぶ違っていて、“ソースコード” というもの。
 
 列車内で目覚める主人公。見覚えのない同伴者。状況をつかもうと右往左往しているうちに、列車は突如爆破される。
 次に目覚めると薄暗いポッドの中。スクリーンの向こうから話しかけてくる軍服姿の女性との当を得ないやり取り。
 そして主人公はふたたび列車の中へ。爆破までの8分間を何度も繰り返し、爆弾を仕掛けた犯人の情報を集めること。――それが目的。


 8分間のこのミッションを成り立たせる仕組みは、細かい技術的設定がどうもよくわからなくはあるのだけど、あまり深く気にせず、“仮に過去に戻れたら” ということを可能にする一種のシミュレータのようなものと捉えておけばいいと思う。
 脚本を担当したベン・リプリーが公式サイトで語っていることによれば、過去へのタイムトラベルに伴うパラドックスを回避するためにこのような設定にしたようだ。

「光速に近いスピードで移動することで時間の進み方をスローダウンさせ、その結果として未来に行き着けるはずだという理論を多くの科学者が語っています。一方で過去へのタイムトラベルを理論立てて考えるには問題が多すぎる。物理的に過去は変更することができません。これを突きつめると、私たちの現実とそっくりなコピーの世界、つまりパラレル・ユニバースという発想になる。特殊プログラム “ソースコード” は8分間だけ、このもうひとつの現実にアクセスできるミッションなのです」


 劇中の説明では、人間の脳神経は死んだ後でも直前8分間分の情報を微弱に宿しており、ある特殊な技術でこれを抽出することで、あたかもフライトレコーダーのように生前の情景を再現することができる――と語られている。そしてそれは単なる再現にとどまらない。「潜入者」は自分の意志をもって行動することができるため、実際に起こったことと異なる出来事を引き起こすことができる。視点人物が体験していなかった出来事、視点人物が知り得ぬはずの情報を、暴き出せる可能性がある。

「これはタイム・トラベルではない。タイム・リ-アサインメント(時間の再割り当て)だ。」(ラトリッジ博士)


 しかし、実際に過去に戻っているのではなく、あくまでもシミュレーション。だからそのなかでいくらがんばったって、既に現実に生じてしまった出来事を変更することはできない。未来に起こるであろう惨事を食い止めることはできても、目の前にいる女性を救うことはできない。
 そのあたりがストーリー上、ある種の出発点と言える。「現実」と「シミュレーション」の間に優劣がはっきりしていて、「現実」の方は揺るぎなく残酷な内容のものとして定まってしまっている、という構図。
 そしていかにこの関係を覆し「現実」を奪い返すか、という挑戦がストーリー上の骨子となる。


(以下ネタバレ含む)


 最後の方は、“ソースコード” 上で展開される単なるシミュレーションにすぎないはずの世界が、現実世界と同等の資格を持ってしまう事態、と考えると納得いく。
 この並行世界では、主人公は結果的に爆破を防いだので、“ソースコード・プロジェクト” は実行されないことになる。メールの届いたグッドウィンは、“ソースコード・プロジェクト” を実行していないグッドウィン。だけど主人公は2ヶ月前に基地に収容されているため、基地を探せば見つかる。
 ……と、まあそういう図式自体は多少わかりづらくはあるのだけど、クライマックス部分はそのあたりが直感的に訴求される見事な映像になっている。コメディアンとの賭けに始まるこのクライマックスは、本当にすばらしいと思う。それまでのストーリーが映像技巧と合わさってきれいに頂点を迎える。
 何よりもぐっとくるのは、この頂点からさらに「先」があるということ。(ここはどうしたって “順列都市” の「塵理論」を思い出さずにはいられない)









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―Angela Mitchell