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 “翠星のガルガンティア”









 着地としてはきれいだったと思う。結局チェインバーによるレドへの「支援啓発」というのが基軸になっているかたち。

 以下、ネタバレ前提。
 404 Blog Not Found:ロングピース社への対義提言 - 作評 - 翠星のガルガンティア とだいたい似たような感想。


  • 最も重要なのはここ。

「貴官は、この想定外の環境において、常にただしく、人間として思考し、判断した。その結果、当機もまた、今なお正常な機能を維持している

 機械-搭乗者のこういう関係っていうのは、『雪風』でフォス大尉が提唱する〈複合生命体〉という概念に相当する。この考え方では、自律知性体が人間のパイロット/パートナーを必要とするのは、自分の機能維持のため・自分の生存のため。両者は互いを不可欠なものとして必要とする共存関係にある。
 チェインバーもまたレドと自分の関係を同様なものとして見ている。

パイロットが行動方針を誤れば、システムもまた、あのような論理破綻に至ると推測される」
「破綻した個体は、対人支援回路の設計思想と、存在価値のすべてを危機にさらす」

 

  • では、チェインバーにとっての「正常」はいったい何を意味するのか。


 これを把握するにはまずストライカーの理屈を経由した方がいいと思う。

「唯一絶対の圧倒的支配者が君臨することで、民衆は思考判断の責務から解放される。レド少尉、貴官もまた、自ら判断し思考することを負担と感じていたはずだ」
「従属こそ、安息への道である」

 ストライカーが肯定するのは「従属によって思考判断から解放されること」で、否定するのは「自律的な思考」。
 チェインバーはこのストライカーの論理を間違っていると断定するのだが、その理由は;

「思考と判断を放棄した存在は、人類の定義を逸脱する。貴官が統括する構成員は、対人支援回路の奉仕対象足り得ない」
「私は、支援啓発インターフェイス・システム。奉仕対象は人間である」

「思考と判断をおこなう存在」が〈人間〉であり、対人支援回路はそうした存在に対する啓発を奉仕する。こうした関係がチェインバーにとっての「正常」である、と。

 

  • ところで、チェインバーがこうした認識に初めから立っていたかというとどうもそうではなさそう。


 ポイントは、〈人間〉に対置する概念としての〈兵士〉という概念。
 そもそも銀河同盟は、ヒディアーズとの戦いを本分とし、そのための兵士を供給するために先鋭化した機構だった。そこではクーゲル船団と同じく、効率が追求され、兵士の資質に足りないものは抹消される。そして銀河同盟の擁する対人支援システムは、「完成された兵士」の養成を本来の目的としていたはず。

「余計なものをすべて忘れ去ることで、俺は兵士として完成した。成し遂げるべき勝利のありか。何もかもが明らかで、迷う必要など一切ない

「貴官は、生存し、繁殖するにふさわしい優秀な人類であることが証明された。栄誉であり、歓喜すべき成果である」
「私は、パイロット支援啓発インターフェイス・システム。貴官がより多くの成果を獲得することで、存在意義を達成する」

 地球に来る前は、目指すべき完成態は〈兵士〉となっていた。それなのに最終話では、成長を遂げることで〈兵士〉から卒業する、というような認識に変わっていて、支援回路チェインバーの考え方は明らかに変化している。
 最終話でのチェインバーとレドの別離シーン。ここでチェインバーはレドを戦闘から排除するのだが、一方でそれがそのままレドへの支援啓発の完了でもあるとも認識されている。

「レド少尉の心理適性は、兵士の条件を満たしていない」
「私は、パイロット支援啓発システム。あなたが、より多くの成果を獲得することで、存在意義を達成する」
「彼に支援は必要ない。もはや啓発の余地はない」

 このようなチェインバーの発言を見ると、〈兵士〉というのは〈人間〉へ向かって成長している途中の段階、「未だ完成されていない〈人間〉」という認識になっていると読み取れる。でもこれは以前のチェインバーおよびレドの考え方とは異なったものだ。
 この変化が何によるものかというと、ガルガンティアで過ごしたレドの生活を通じて、ということになるのだろうけど―― こんな劇的な/重要な変化の理由として充分かどうかは何ともいえない。壮大な殲滅戦争の一環として構築されたパイロット支援体制が、根本的な認識変化を簡単に起こすだろうか。同盟と連絡不能な地に漂着するという「想定外の環境」に陥ったため、まず生存すること、というものに目的が変わったというのはあるかもしれないが。
 9話・10話ではチェインバーはまだ銀河同盟の行動指針にそのまま即していた感じだったので、最終話でああいう言動に至るというのが少し唐突とは思った。
 

  • とはいえ、ストライカーの提言とチェインバーの提言との対比はきれいで、爽やかな感動はあった。

「有為提言:崇拝せよ服従せよ。私が統括する世界の一部となるべし」

「この空と海のすべてが、あなたに可能性をもたらすだろう。生存せよ探求せよ。その命に、最大の成果を期待する」

 「兵士」は卒業したけど、まだ成長は続く。迷いながら自らの思考と判断を実践していく存在として。だから何らかの完成態にたどり着いたというわけではなく、達成されたのは結局「支援システム」からの自立、ということなのだろう。






  • その他


・コンフリクトの可能性 [1]

 作品内ではチェインバーがストライカーを倒し機能停止したけれど、もし仮にチェインバーが残存し続けたらクジライカとの関係がどうなっていたか、っていうのは気になる。
 チェインバーというパイロット支援啓発システムが人類に必要とされたのは、ヒディアーズとの戦争に勝利するという人類の全体戦略の一部としてであって、だから「ヒディアーズが敵である」ということはチェインバーの存在意義のひとつに分かちがたく刻まれているはず。
 ストライカーを倒しても、チェインバーのこの基本認識が変わらないままだったら、クジライカとの共生を志向する地球の人々あるいはレドとの間に深刻な齟齬が残っただろう。

 『雪風』だと、FRX-00 メイヴ やSTC、SSCといった戦闘知性体たちは「ジャムと戦うもの」としてつくられ、彼ら自身、自己の存在意義をそのようなものとして認識している。この認識は決して変更されない。もし人類がこれに抵触すれば人類自体が排除されかねないほどに強固。(『アンブロークン・アロー』だとこれに対するうまい解決が為されるわけだが。)
 チェインバーだって出自を考えたら同じような存在だと思えるのだけど、作品内ではそのあたりの掘り下げは為されず――というか最後にチェインバーが都合よく退場することによって避けられてしまっている。


・コンフリクトの可能性 [2]

 チェインバーは11話では、ストライカーの論理に同意していたんだよね。あのあたりではふたりの関係に緊張が垣間見えた。
 チェインバーは銀河同盟の論理で生み出された人工知性なので、ガルガンティアガルガンティアに影響されたレドと決定的に対立するっていうのは可能性としては充分あり得たと思うんだけど、結局そうはなっていない。「戦闘行動の策定は支援啓発システムの機能を超え、いかなる場合もパイロットに委ねられる」という分担にチェインバーが従ったので、対立は回避されている。

 ただ、これは地球が銀河同盟から完全に隔絶した環境だったからであって、もし銀河同盟と連絡が取れる状況で同盟の公的な方針とレドが対立する事態になったらどうだっただろうっていうことも思った。その場合、同盟の方針はクーゲル船団とそれほど変わらないものになっていたのではないだろうか。少なくとも同盟の論理ではベベルは生きられないはずなんだし。
 そうしたときにチェインバーが同盟の方針に反してまでレドの意思を尊重するかっていうのは、考えがたい。

「おまえはストライカーと戦えるか」
「ストライカー X3752 は現在、同盟の軍務の範疇にはない行動を遂行中。交戦対象として認定は可能である」

 つまり、同盟指揮下であれば戦えない。同盟そのものと対立することはできない。
 だとしたら、チェインバーがレドの成長を暖かく支援し自立を見取って自爆する……っていう構図も、「銀河同盟の枠組に反しないかぎりで」っていう留保のもとでのものにすぎなくて。

 一見、自立・自由を称揚してるかのような物語なのに、実はそれは「体制の枠組で許された範囲での自立・自由」でしかないっていうのはアイロニカル。いろんな意味で現代的な問題っていう感じはある。
 『PSYCHO-PASS』も同じような問題を追っていたように思うんだけど、結局「正答」は示されていない。「軛からは逃げるべきだ」みたいなことがわりとオーソドックスに示されつつも、でもそれってそんな簡単に行くことじゃないんだよ、っていうのがふたつの作品に通底する問題意識のような気はする。終わり方としては裏と表、陰と陽、みたいな違いはあるけれども。














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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell