自分のなかで2014秋アニメ最高作品だったのがこの『SHIROBAKO』。
2クールなので冬も継続して放映中だけど、あまりに好きすぎるので現時点で一旦感想を書いておきたい。……先日の第13話見たら2クール目も密度濃くなりそうだったので、1クール分について今メモしとかないとあとで書くこと飽和しそうってのもある。
もう誇張なしに各話最低3回以上ずつ見返してるぐらい好き。
概要
アニメ制作会社で働く人々を描いている作品。仕事群像物、といった感じ。
本数過多で百花繚乱な最近のアニメ業界、その制作現場が舞台というところがもちろんまず大きく興味を引くポイント。アニメ作品はこういう人たちがこういうふうにつくってるんだ、っていうのが強いデフォルメほとんどなしで実態に沿って描写されてる。「監督」「演出」「撮影監督」「作画監督」「原画」「制作進行」…etc といったさまざまな担務はいったいどのようなことをおこなうポジションなのか、構想〜制作〜納品までどのようなプロセスを経てアニメ作品は放映に至るのか、いわゆる「作画崩壊」はどうして発生するのか…… といった諸々がこのアニメを見るとよくわかる。
一方で、仕事をおこなう上での困難や達成、あるいは人間関係のトラブルや協力というような、わりとどの業界であっても普遍的に共通するようなビジネス模様もしっかり描けている。――というかこっちの観点で見ても物語として完成度高く、とてもおもしろい。
仕事の描写
- 納品期限に追われる毎日。ハードワークでトラブル続きな日常。緊迫した状況に臨場感があって身につまされる。
キャラクター描写が真に迫ってるので、自分も実際にこの職場で仕事してるような気分になって、だから難局下ではこっちも胃が痛くなりそうだし、それが乗り越えられるたびに心底ほっとするというか、癒やされる。
- 第3話での、先輩制作矢野さんとデスク本田さんとの会話。
「田之倉さんに原画、初めて頼みましたけど、丁寧ですごくいいです」
そつなくこなし、人物論評なんかをデスクと交わせる余裕もある矢野さんのベテラン感と、新人宮森のこなれてない雰囲気とのコントラストが絶妙。
「心入れ替えたのかなぁー。あ、でも油断は禁物だよー?」
「小笠原さんが間に入ってますから、顔つぶすようなことはしないと思います」
「そうだといいけどねー。……宮森さんは?」
「ふぁっ!? えぇっとー、いま木佐さんが連絡つかなくて……」
アニメ業界の描写
- このアニメ開始直前ぐらいの頃、舛本和也による『アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本』(ISBN:4061385496)という本が発売されてて、それをちょうど読んだばかりでアニメ制作への自分の関心が高まってたところにこの作品が始まった、というタイミング。この本で強調されてたのが、アニメをつくるのには制作進行というポジションがすごく重要、ということなんだけど、主人公が制作進行である『SHIROBAKO』でもそのあたりの事情がまったく同じように理解できる。
- 『SHIROBAKO』制作を手がける P.A.Works のホームページはけっこうおもしろい。
採用情報の会社説明Q&Aのところとか。(http://www.pa-works.jp/q-a/index2.html)
- あと、『アニメ屋だけど「SHIROBAKO」説明するわ』のシリーズ(http://nyankobiyori.com/articles/33079.html とか)もとても参考になる。
内容
『SHIROBAKO』――って、なんだかぴんとこないタイトルだし第1話アバンの学生時代のあたりはあまり訴求力感じないなー… ってのがいちばん最初の印象だったんだけど、それは一瞬だけのこと。直後、一気に時間が飛んで主人公が制作会社で働いてる段階になってる状況から雰囲気が一変、こっちがこの作品の本来の姿。第1話後半から話が加速し、さっそく窮地に。ラストにはいきなりクリフハンガーがあって、初回から密度濃い30分。
続く第2話・第3話は、「アニメの第3話は山場」…という昨今のアニメ鉄則を充分に上回る出来での神回、その後も安定して高クオリティ。
1クール目に当たる第1話〜第12話は、劇中作である『えくそだすっ!』放映開始から最終話納品まで経時的に進み、だいたい2話セットぐらいで個別のテーマに焦点を当てたいくつかのエピソードに分かれてる、という構成になっている。
- 導入
- 完全主義的リテイクと逼迫状況でのトラブル続発
- 第2話 “あるぴんはいます!”
- 倒れた瀬川さんのヘルプ / あるぴん泣き顔リテイクミーティング / 『えくそだすっ!』キャラ降臨描写 / アニメ業界のモチベーション・情熱を確認
- 第3話 “総集編はもういやだ”
- 仕事に降りかかるトラブルの連続をみんなでわたわたしながらも乗り切っていく感じ
- 第2話 “あるぴんはいます!”
- 仕事と将来
- 第4話 “私ゃ失敗こいちまってさ”
- ずかちゃんの声優オーディション / 居酒屋 / 家族との電話 / 監督、最終話絵コンテぜんぜんできない
- 第4話 “私ゃ失敗こいちまってさ”
- 作画と3Dの対立
- 第5話 “人のせいにしているようなヤツは辞めちまえ!”
- 監督軟禁 / 制作進行の調整不足・コミュニケーション不足に起因する、作画と3Dの衝突
- 第6話 “イデポン宮森 発動篇”
- イデポン展にて初期衝動の確認 / 作画と3Dの和解
- 第5話 “人のせいにしているようなヤツは辞めちまえ!”
- 新人原画の悩み
- 第7話 “ネコでリテイク”
- 落合さん退職表明 / 宮森最終話担当に決まる / 瀬川さんダメ出し・絵麻リテイク / ぷる天作画崩壊 / ねいちゃん来訪
- 第8話 “責めてるんじゃないからね”
- ねいちゃんダウナーからのリフレッシュ / 井口さんと公園 / 絵麻復活 / 本田さん将来の夢
- 第7話 “ネコでリテイク”
- オリジナル作品の産みの苦しみ
- 第9話 “何を伝えたかったんだと思う?”
- 絵コンテBパートがまだ終わってない / 最終話進行、万策尽きる寸前、みたいな / みーちゃんの悩み / 第三飛行少女隊獲りにいく / 舞茸さんとのキャッチボール
- 第10話 “あと一杯だけね”
- 音響効果 / みーちゃん退職 / 絵コンテ上がり / 本田さん退職表明 / 瀬川さんにネコ褒められる / アフレコ終了・打ち上げ
- 第9話 “何を伝えたかったんだと思う?”
- 最終話総力戦
- 第11話 “原画売りの少女”
- 原画探し / ザ・ボーン / 就活の思い出 / 採用面接 / 小津設定な矢野さん / 菅野監督を紹介される
- 第12話 “えくそだす・クリスマス”
- 菅野監督訪問 / 杉江さん参画 / 完パケ・納品(放送前日)・打ち上げ
- 第11話 “原画売りの少女”
特に心に残ったのは、絵麻が井口さんのおかげでスランプから脱出するあたりとか、舞茸さんとのブレスト、とか。
あとは、第12話はやっぱり良いよなぁ……。「えくそだすっ!」ってどんなアニメかほとんど不明だけど、最終話Bパートの断片見るだけで、全体ストーリーまったくわからないにもかかわらずひとつの作品実際に見終わったような感動が。あのテーマ曲は謎の盛り上がりを喚起する。
シーンとして好きなところもいろいろあるけど、第3話の屋上での羊羹のシーン、「あんたもう脳みそ動いてないっしょ、糖分とりな」…のあたりとか。(矢野さんって、「みゃーもり」と「宮森」を微妙に使い分けてる、ような…?)
- 特殊な業界なので職名には馴染みないし、登場人物がいっぱいいて、名前も役割もピンとこないのが最初。でも見てくとだんだん把握できるようになるし、ポジションとキャラクターがよく描き分けられてるっていうのが実感できてくる。物語内でそれぞれスポットが当たる局面があって。
第1話、みんな集まって『えくそだすっ!』見てるところで、一応各キャラに名前と職名のテロップが出されるんだけど、まだぜんぜん誰がどういうことやってる人なのかもさっぱりだし、まさかこれ全部きちんと描き分けられていくとは思わなかったんだけど、ある程度話数が進んでから見返してみると全員説明できるぐらいになってる自分。
- 声優の演技。
- みんな良いけど、筆頭は本田さん(声:西地修哉)と監督(声:檜山修之)かなぁ……。本田さんは「万策尽きたぁー」は当然として、「せっかく底力を見せるチャンスだったのにぃ〜」の抑揚とか。辞めるの聞いたときは、現実の良き上司がやめるかのごとくにショックと残念感あったほどで……。
- 監督は「あるぴんはここにいるんだよっっ!!」のところの情熱が伝わってくる感じとか。
本田さんとの掛け合いも。とくに第9話。「もう空母のデザインは発注したじゃないですかぁー」
ここはふたりとも台詞の抑揚がすごく良い。
「そうだっけー…?」
「しないと間に合わないですからぁ」
「あのさあ…」
「なんですかぁ…?」
(2クール目では本田さんの代わりにナベPがもっとフィーチャーされてきそうで期待。第13話のナベPとかもいい感じなんだよなぁ……) - 矢野さん(声:山岡ゆり)も。「うわわーってなりますよっ!」のところ。
- OPとEDは、原画からアニメ動画へ、っていうのがうまく表現されてる。
- アニメ内アニメを実際にある程度つくって見せてくれるのが良い。
- あるぴん泣き顔リテイク / 2D爆発シーン / SMC社長の過去作品 / 馬の疾走 ……とか。
2クール目の展望
- 第13話 “好きな雲って何ですか?” 見た段階での簡単な感想も書いとく。
- 宮森がいきなりデスクとは思わなかったなー。なんだかんだ言って矢野さんが復帰してデスク、ってのが妥当だと思ってたんだけど。
でもたしかに宮森は向いてると思う。 - 『えくそだすっ!』と同じようにスケジュール的な切迫があるだろうことは当然として、原作者との何らかの軋轢、原作ファンからのバッシング、あたりも容易に想像できるところ。いろいろ予想されてるなかでは、高校の5人が何らかのかたちで全員関わる、っていうのはたぶんありそうだし、菅野監督が原画か何かで参画、ってのもあるかも。
- あとは興津さんの過去話に触れられる、とかもあるかな…?
- 1クール目は宮森にしても絵麻にしてもまだ新人という目線だったけれど、2クール目はふたりよりもさらなる新人が入ってきて、先輩としての目線というのも描かれていくのだろう。中途採用の制作は、ムサニと違う他の会社でのやり方、みたいな視点の導入とかかなー。
- 宮森がいきなりデスクとは思わなかったなー。なんだかんだ言って矢野さんが復帰してデスク、ってのが妥当だと思ってたんだけど。
- とりあえず、ここまでのSHIROBAKOは作画も安定してたし評判も良い……という感じだったと思うので、2クール目も期待してる。けど、万が一今後、作画崩壊とか総集編とかあっても、たぶんそれはそれで同情、というかなんか違った目で見そうだ……。いや、もちろんふつうに最終話までこのままのクオリティでいってほしいって思ってるけれどもね?