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2016.04.24.Sun. 

[][][] Moe and ghosts × 空間現代 “RAP PHENOMENON” (2016)


RAP PHENOMENON




 先鋭的ヒップホップ・ユニットとエクスペリメンタルな3ピース・バンドによるコラボレーション・アルバム。

 Moe and ghosts は 1st アルバム “幽霊たち” の異彩で話題となったユニット。日本語なおかつ女性によるラップというのは、ヒップホップの中で二重に周縁的なポジションにあるようなものだと思うのだが、彼女たちの場合はどちらの要素も音楽表現として効果的に作用している。リズムチェンジのごとくめまぐるしく展開する高速のフロウは女性声の透明度および破砕された日本語音韻と相性よく組み合わさっていて、ラップの新奇領域を拓いたようなところが確かにあった。
 単独作品の方にはまだしもラップ/バックトラックという対比が感じられたけれど、空間現代の複雑なサウンドとセッションするこのアルバムではラップはもはや楽器のひとつのようであり、韻の単音それぞれがギター/ベース/ドラムと完全に並置して聞こえる。 “幽霊たち” よりも速度は少し緩和しているようで、その分、生楽器との精巧なアンサンブルが際立つ結果となっている。


 「先鋭」なるものは「非-正統」の裏返しだという面があるとして、ヒップホップにおける「正統」とは何かを問うとき、それが性差問題を根深く伴ったものであることは避けて通れないだろう。ポピュラー・ミュージックのなかにはジェンダー構成比が明らかに偏ったエリアというのがいろいろあり、ヒップホップもまちがいなくそのひとつに入っている。女性ラッパーが圧倒的少数であることが問題のすべてであるわけではなく、ジャンル全体で明示的にセクシズム傾向があると指摘されている事実がより重要だ*1。歴史的にレイシズムへの抵抗を担った音楽運動である一方、性差別を内在させたジャンルでもあるという捻れには、社会の構造に一筋縄ではいかない重層性があることが表れている。
 女性ラッパーは多かれ少なかれこの問題に直面させられざるを得ないと思うのだが、そうした状況を問題として突き付けられること自体への苛立ちというものもその反応のうちに含まれ得るはずで、この点についての Moe のスタンスが、ラジオ「菊地成孔の粋な夜電波」における菊地成孔・OMSBとのトークから把握できるcf. 「Moeさんのポリシー。」http://d.hatena.ne.jp/djapon/20140712。ここで述べられている「ジェンダーとセクシュアリティには触れないポリシー」というのがまさに、女性であるというだけでこうした問題を意識させられ対応を迫られてしまうことへの不自由を表明するものとして映る。
 この鼎談、本人が感じている煩わしさが如実に伝わってくるんだけど、そうした認識が示されればされるほど本来避けようとしていたはずの問題にむしろ絡め取られていくような構図にもなっていて、アンビバレンスがよくわかる内容となっている。期せずして態度表明させられてしまっているような側面はあるものの、この件にとどまらず彼女が今後も「女性ラッパー」と括られて語られ続けていくだろうことは充分に予想可能だ。少なくともヒップホップが容易に拭いがたい非対称性を維持するかぎりは。

 そうした事態がどのように脱せられるべきなのかについてはいろいろな戦略と考え方があると思うけれども、しかしいずれにしても、“RAP PHENOMENON” という名を備えたこのアルバムは音楽表現を拡げる優れた実践であり、であるからこそ、ポピュラー・ミュージックを活性化させる可能性のみならず、上記のような外部からの考察・議論を深化させるようなものでもあると思える。






Moe and ghosts空間現代 kukangendai
 
 Information Information
  Years active  : 2011 -   Years active  : 2006 -
  Current members    Current members  
   
Moe
: Vocals   野口 順哉
NOGUCHI, Junya
: Guitars, Vocals
   ユージーン・カイム
Eugene Caim  
: Track making   古谷野 慶輔
KOYANO, Keisuke  
: Bass
        山田 英晶
YAMADA, Hideaki
 
: Drums
 Links Links
  Officialhttp://moeandghosts.com/  Officialhttp://kukangendai.com/
   Twitterhttps://twitter.com/ututopia         Twitterhttps://twitter.com/kukangendai
        SoundCloud  https://soundcloud.com/kukangendai


Moe and ghosts × 空間現代
 
 Links
  Label: HEADZ  http://www.faderbyheadz.com, https://soundcloud.com/headzpromo/magkg2016

 ASIN:B01CC9X3M8


*1: 
 現時点の英語版Wikipedia “Misogyny in hip hop culture” の項目には、かなり充実したリファレンスが揃っている。
 また、日本語での社会学的論考として “「差別表現」の文化社会学的分析に向けて ―ヒップホップ〈場〉の論理に基づく意図と解釈を事例に―(栗田 知宏 ソシオロゴス NO.33, 2009)というものもある。これはジュディス・バトラーによる差別表現と言語使用実践に関する議論の他、ヒップホップの真正性・正統性指標をブルデューの〈場〉概念の応用により考察したものなど、ヒップホップにおける言語表現の具体例を分析したものとしてなかなかおもしろかった。

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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもう環 (ループ) を背負ってない”
―Angela Mitchell