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 西村清和 “現代アートの哲学”






現代アートの哲学 (哲学教科書シリーズ)

現代アートの哲学 (哲学教科書シリーズ)






 一冊を通してひとつの論考を展開しているというより、現代美学の主要なテーマを個別に記していくような構成。「アート」を広範に採り上げ、写真、文学、広告とさまざまな対象を美学・芸術哲学の視点で分析する。
 基本的な構図は、モダン(ハイアートを維持するイロニーとアヴァンギャルド:前衛)からポストモダン(消費社会のシミュレーショニズム、キッチュとポップ:大衆)への移行。特に「寄生」という語がキータームとなっている。
 出版は1995年。広告に大きな関心が寄せられているところなどは時代が表れているけれど、アートワールド、虚構文、歴史記述や趣味といったように、現在も活発に論じられているような概念が散りばめられていて、アクチュアルなものとして読むことができる。






[内容メモ]


 第1章 近代「芸術」の終焉
          • デュシャン “泉” … モダン(モダンとポストモダン分水嶺
            • イロニーとアヴァンギャルドの身振り:一般に人々が評価するものを、不純で良からぬ文化の蔓延という危機として否定し、自分はそれらを超えた高みに立って完全な芸術水準を維持しようという運動。
          • ウォーホル “ブリロ・ボックス” … ポストモダン



 第2章 「美しい芸術」と精神の美学
    • デュシャンの “泉” が近代的な意味での芸術作品には属さず、それでもなおひとつの作品でありうる理由
          • アート/技術/ミメーシス/趣味 taste
          • 近代芸術とは、個として自立した精神が作品を介して人間と世界の本質・真実を洞察し共有するという、芸術家/作品/享受者の三項関係からなる美的コミュニケーション
          • 美的モダンとポストモダン分水嶺デュシャンが位置する。



 第3章 なにが「アート」か?
    • 〈アートワールド〉とは何か
          • ダントーによる定義
            • アートの理論と歴史からなる環境。そのなかで作品がアートとして位置付けられる。アーティストおよびその他の参加者は、先行するアートワールドを参照してそれを受け入れたり拒絶したりするかたちで依存する。
          • ディッキーによる定義
            • ダントーのアートワールドを「そのなかで芸術作品がその場所を持つ、広い意味での社会制度」と捉えかえし、アートを、制度的に確立した社会的実践のひとつとして分析。
          • ダントーによる再整理
            • アートワールドとは、制度化された理由付けのディスコースのこと。理由付けのディスコースに自ら参与する者がそのメンバーとなる。あるものがアートの作品であるためには、なぜそれが一定の歴史のなかでそう呼ばれるのかについての理由付けが体系から与えられなくてはならない。



 第4章 「作品である」ことの実質
    • オリジナルとコピーの違い
          • 見るということは、見るひとの帰属する文化・時代、そのなかで身につけた修練・慣習・知識に依存している。
          • 贋作やコピーは、それ自身の存在のクラスをどこにも持たない寄生物。
            • オリジナルと贋作・コピーの違いは、美的・芸術的品質の問題ではなく、存在論的な差異。
          • 作品の美的特質を同定するには、まずアートの定義を必要とするのであって、その逆ではない。ダントー
            • デュシャンの “泉” が作品であることは、アートの環境によって成り立っている。



 第5章 作品の論理的身分
    • イメージの「迫真性」や「リアリティ」とは何か
          • 絵が対象の本質を捉えている」と言うとき、それは絵が現実に一致していることをいうのではなく、現実の対象の印象を絵が独自の絵画的イメージに定着していることを意味している。
          • 作品についての主張や批評の真理性
            •  「意味 Sinn」/「指示 Bedeutung」の区別フレーゲ (明けの明星と宵の明星は、意味は違うが、指示するものは同じ金星)
              →「描写 depiction」/「肖像 portraying」の区別ビアズリー
          • 絵それ自体は命題を主張しない。意味解釈は絵それ自体から生まれるのではなく、美術史家や批評家によっておこなわれる。←作品外の慣習のコンテクスト、言語的・文化的慣習や合意が知識として必要。



 第6章 フィクションの快楽
    • フィクションを語るとはどのような行為なのか
          • 文学作品に含まれる命題的主張が現実世界とどのような指示関係にあるか。
          • フィクションを語ることは、現実世界についての主張とは異なった慣習・規則に従う独特の発話行為。(サールへの批判として)
            虚構文の発話の特性は、現実世界への指示のふりではなく、虚構世界への指示のふるまいだという点にある。
          • 主張というものは、一定の社会慣習とルールのもとで参加する相互主観的な対話の状況で果たされる。
            虚構のテクストは既に書かれ完結した全体であり、テクストと読み手の間には対話的状況の対称性とは異なった独特の非対称性がある。
          • 読み手と語り手
            • 読者は、テクストによってその構造に組み込まれ特定の見方を取らされている。「内包された読者 implied reader(イーザーの読書行為論)
            • 一方、語り手も一個の人格的発話主体に帰すことはできない。語り手とは、読みの視点に対応してテクスト内部に構造化された「語り手の視点」である。
            • フィクションのテクストと読者の間には、語り手と読者の対話などは存在しない。
          • テクストは、共感・反感に関わる読者の反応を操作する。
            フィクションとはそもそもそのような仕掛けものなのである。



 第7章 歴史と物語
    • 歴史を記述する文の構造
          • 歴史文には、それ特有の構造がある。
            • 歴史とは、原理的に証人をもたないようなできごとのただしい記述である。過去を体験したり目撃したりできないということ、まさにそのことによって、われわれにとって歴史が可能となる。
            • 人間の行動についての一般記述は、何世代にもわたって現実の経験から帰納的に一般化されつくりあげられた社会的遺産としてある。歴史家は、このような一般法則にみちびかれつつ歴史研究を遂行する。
          • フィクションが物語るふるまいもまた、このような一般法則に想像的に依拠してはじめて可能となる。
            • この一般法則とは、伝統的な表現をもちいれば「真実らしさ(ほんとうらしさ)」のこと。
          • 小説と歴史の違い:
            • 架空の物語:一般法則のみを必要とする物語
            • 歴史:一般法則にもとづく「真実らしさ」が、現実の資料によって「真実(ほんとう)」のこととして証拠立てられるもの



 第8章 趣味と批評
    • 趣味・批評概念のアポリア
          • 趣味は人それぞれの個人的なものなので議論できない。→普遍性が要求できず批評の意味がなくなる、というアポリア
          • 好き嫌いの個人的な選好が一定の理由づけにおいて正当化され主張されるとき、それはすでにひとつの評価であり判断である(マーゴリス)。:「鑑賞判断」
          • 「美」は客観的な属性ではないし、作品の価値も、一定の時代・民族や人々の趣味のふるまいと無関係に作品自体へ内属し歴史を超えた不滅の特質というものではない。
          • 範例的趣味は「争論」を通じたコンセンサスというかたちで形成されて一定の慣習や規範となり、伝統としての安定性を獲得する。
          • 文化という全体的コンテクストにおける複雑で動的な過程としての趣味を、制度としての発話というフーコー的な意味での「言説(ディスクール)」ということばを用いて、「批評的言説」と呼ぶことができる。



 第9章 キッチュと悪趣味
          • キッチュは芸術のまがい物ではなく、美的体験のあり方が異なる。(寄生的な美的対象)
          • ハイ・キッチュ
          • 絵を見るというわたしの美的なふるまい、美的な状況を決定しているのは、けっしてわたしではなく、作品である。
            作品は、それに固有の美的状況をたずさえており、われわれ鑑賞者は、指定された視点からこの状況に参与することではじめて、一定の美的経験をえることができる。



 第10章 写真メディア――視覚の変容
    • 複製メディアによる芸術/キッチュの無効化
          • 瞬間においてできごとを閉じる写真は、そのなかに「始まり/中間/終わり」という物語構造を宿す最小単位。
          • 写真という複製技術は、オリジナルのアウラから作品を解放する。



 第11章 ポップの美学
    • 広告の物語構造
          • 広告は、既存のイメージの転移・引用・再編・組み合わせによっている。(一瞬で関心をひきつけるために、共有された感性コードへ寄生する)
          • 広告はわれわれに何かを主張し説得しようとするために、ある種の文章の構造を持っている。
            • 広告には、画像そのものが語ることばとして、絵のタイトルやキャプションとは違う明らかな発話がある。
            • 自己同定の命題の主張。「わたしはシャネルNo.5の香水である」というように、主語である香水瓶が自らを述語(ラベル)として発話する自己同定命題。「同語反復的様式」ボードリヤール
              →広告の発話の基本形。(他の商品に対する差別化としての自己主張)
            • 広告は、消費者とイメージの断絶をつくりだし欠如を増幅することで、これを埋め合わせようとする欲望・羨望を呼び起こす。
            • 空間的:並置
              時間的:現実のわたしではなく、あるべき未来のわたし
            • 広告の物語には民話などの普遍的形式(葛藤→援助→大団円)が見られるが、本来の葛藤ではなく、解決する解(=商品)が自明。(伝統的物語の形式への寄生)



 第12章 美的多元主義の時代
    • アートの自己言及性
          • 「イコン(類似記号)」/「インデックス(指示記号)」(C. S. パース)
            • イコン:現実を再現描写する絵画。伝統的なイコンとしての絵画も、これを拒絶する抽象絵画も、表象としてはあくまで作品内部の「描写」レベルに関わる。
            • インデックス:写真芸術。それが刻印している当の実在物を「肖像」し指示する。
          • 前衛の能動的実験 / 大衆の受動的消費













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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell