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2007-05-01

LM-72007-05-01

蜂群崩壊症候群の原因は携帯電話なのか?

ミツバチが忽然と消える蜂群崩壊症候群(CCD: Colony Collapse Disorder)*1だが、Technobahnによれば、Koblenz-Landau大学のJochen Kuhn博士が携帯電話原因説を提示したという。この記事の一次ソースは英Intependent誌の"Are mobile phones wiping out our bees?"であり、多くのメディアがJochen Kuhn博士の研究を引用して、携帯電話原因説を紹介した。

ところが、「蜂群崩壊症候群により世界からミツバチが消える日」に示したように、CCDの最初の報告は1896年であり携帯電話だけを原因とするには無理がある。携帯電話の電磁波が原因の一つである可能性はあるが、それだけではないはずだ。Fosterの"Researchers: Often-cited study doesn’t relate to bee colony collapse"では、上記の携帯電話原因説の提唱者とされたJochen Kuhn博士自身が、彼の研究はCCDとは関係がないとして、記事内容を否定している

CCDが話題になる以前に行われたJochen Kuhn博士の研究によれば、ミツバチの巣箱の近くにコードレスフォン*2と充電器を配置すると、帰巣するミツバチの数が減ったという。また、ミツバチが帰巣するまでの時間もより長くなった。

しかし彼の研究チームによれば、これはCCDとは直接関係が無く、単に電磁波がミツバチの学習能力に与える影響を調べるものだという。ミツバチは時さわぎとよばれる学習飛行を行うことで巣の位置と周囲の状況を覚えることが観察されており、どんな場所に巣箱を置いても帰ってくる極めた高い帰巣能力を有している。昆虫記で有名なファーブル(Jean-Henri Casimir Fabre)は、ヌリハナバチの学習能力を攪乱するために、磁石を使ったり、ヌリハナバチの目を回して方向感覚を攪乱させてみたりしたが、それでもヌリハナバチの帰巣能力には差が出なかった。しかし、その優秀な学習能力も電磁波には大きく影響されるようだ。

電磁波によりミツバチの帰巣能力が阻害されたとすると、ミツバチの死骸が巣箱の周辺に見つからない理由を説明することが出来る。ミツバチの巣の周囲にある電話アンテナがミツバチに影響を与えるとする研究結果が複数発表されており、たとえば、オーストリアDoz大学のFerdinand Ruzickaによる2003年の研究によれば、巣箱の近くにアンテナを配置したところ、いくつかのコロニーの消失が確認されたという。また、電磁波を浴びせるとミツバチが落ち着きをなくし、攻撃的になると言う観察結果も報告されている。

このように電磁波がミツバチに何らかの影響を与えることは確かなようだ。しかし、上記の研究は極めて小さな群に対する小規模な実験に過ぎず、それが真にCCDの原因であるか確かめるためには、より大規模な実験を行わなければならない。International Herald Tribuneの取材によれば、Jochen Kuhn博士の共同研究者であるStefan Kimmelは、CCDの原因を探るには除草剤や農薬、遺伝子組み換え作物の影響を調べるべきだとし、彼らの研究があたかもCCDの原因を解明するかのように取り上げられたのは彼らの落ち度ではないと釈明した。

Stefan Kimmelによれば、携帯電話原因説の一次ソースである英Independent紙の記事が出る前には、研究チームには一切の連絡がなかったし、その記事が出てからというもの、ひっきりなしにかかってくる確認の電話やe-mailに対して、彼らの研究はCCDとは関係がないことを説明するのに掛かり切りだという。これは、研究内容が意図的かそうでないかに関わらず、拡大解釈ないしは誤って解釈されて、事態が研究者の意図しない方向に走ってしまう危険性を示唆した。

結局、携帯電話原因説はCCDの原因解明を目的とした実験によって裏付けられたものでもなく、極めて小規模な他目的の実験結果を、Independence紙の記者が勝手にCCDと結びつけて報じたことによって生まれたものだと言える。携帯電話の電磁波がCCDの一因である可能性はあるが、その可能性を検証するためにはより大規模で徹底的な実験による実証を積み重ねていく必要がある。農薬説や病原体説を立証するための研究も活発に行われており、もうしばらくすればCCDの原因を説明できるようになるだろう。安易に分かりやすい原因を求めるのではなく、しばらくは研究成果が揃うのを待つのがよさそうだ。

関連エントリ

*1:初期は群崩壊症候群とも訳された。また、CCDと言う名前が決まる前にはイナイ・イナイ病という名前で紹介されたこともある。しかし、最近は蜂群崩壊症候群という訳語が定着したようだ。

*2:携帯電話ではない