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2010年9月12日付でライブドアブログに引っ越しました。
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2007-05-11

LM-72007-05-11

第二の月が夜空を明るく照らすZnamya計画

夜空を明るく照らす月は、照明がない時代や地域において貴重な存在である。いつでも満月が夜を照らしてくれれば、夜中の活動もずっと楽になるだろう。

ロシアが本気で空に第二の月を作り出すZnamya(ズナーミャ)計画を推進していたことはあまり知られていない。この一見荒唐無稽に見えるZnamya計画においては、地球周回軌道上に巨大な反射鏡を投入し太陽光を反射することによって、シベリアなどの高緯度地域から闇夜を無くすことを目的としていた。

1992年最初の実験機であるZnamya-2がProgress-TM-15によって高度350,000mの軌道に投入され、1993年2月4日に直径20mに及ぶ薄膜反射鏡の宇宙空間内における展開が成功した。第二の月が天空に誕生した瞬間であり、これは同時に人類史上初の太陽帆の実現でもあった。この第二の月による最初の照射は西ヨーロッパの夜明け前の早朝に行われた。直径5kmほどになる反射スポットは時速8kmの速度で南フランスからスイス、ドイツ、チェコ、ポーランドを経由してベラルーシ共和国の朝日の中に消えた。残念ながら当日は天候が悪く南ヨーロッパは厚い雲に覆われていたが、それでも多くの人が眩しい光が夜空を横切るのを見たという。数時間後、Znamya-2は軌道から外れ、カナダ上空で大気圏に突入し焼失した。第二の月は一度に複数の都市に対して照明サービスを提供でき、特に冬の極地方においては非常に重宝するようになると考えられていた。大規模災害時などの緊急照明装置としての利用も想定されていたようだ。

1998年ロシアはZnamya-2の後継となるZnamya-2.5計画を実行に移した。反射鏡の直径は25mに大型化され、直径5-7kmの範囲を満月の5〜10倍の明るさで照らすことが出来るよう設計されていた。また1〜4分ほど特定の目標に反射光を固定することが出来る機能も実装されていた。計画では1999年2月4日から5日の24時間にかけて、カザフスタン、ウクライナ、ベルギー、ドイツ、カナダ、アメリカ北部を照射する予定だったが、Znamya-2.5の解放時にミールのアンテナに引っ掛かる事故が発生した。アンテナから外す懸命の努力もむなしく、最終的にZnamya-2.5は軌道から外れ、反射鏡を広げることなく大気圏に突入することとなった。

Znamya-2.5が失敗に終わったためZnamya計画は打ち切られてしまうこととなったが、計画が順調に進めば2000年もしくは2001年には直径60〜70mのZnamya-3を打ち上げることとなっていた。将来的には直径200mの反射鏡を高度150〜450kmの軌道上に投入し、直径15〜45kmの範囲を満月の10〜100倍の光で照らすことが可能になると見られていた。12機の反射鏡から構成される1セットで、5つの大都市をカバーし、最終的には北極上空に100機の反射鏡を配置、1年中シベリアを昼間のように明るくする構想が真剣に検討されていたのである。

当然のことだが、この第二の月製造計画には世界中から中止を求める声が上がっていた。世界中の天文学者が地球上からの天体観測の障害となることを懸念し、実験中止をロシアに求めていた。また、反射鏡が地球環境に及ぼす影響についても多大な懸念が示されていた。これに対し、ロシアは、反射鏡による光の照射は北極夜に覆われた高緯度地域のインフラが未整備な都市ないし産業地域に限定して行われるとし、ほとんど熱や二酸化炭素を発生することが無く、地球環境に及ぼす影響は極めて軽微であるとしていた。結果的にはZnamya計画は中止されることとなったため、実際に運用した場合にどのような問題が発生するかは未確認だが、バタフライ効果を挙げるまでもなく、地球環境は極めて複雑に入り組んだ様々な要因によってドラスティックに変化するため、実現にはリスクが大きすぎるように思える。特に地球温暖化の阻止が緊急課題となっている現状においては、第二の月を作ろうという計画が国際社会の理解を得られるとは思わない。

宇宙空間に巨大な太陽光反射鏡を打ち上げようというアイデアは珍しいものではない。たとえば、火星を地球化するテラフォーミングにおいては、火星のレゴリスを巨大な太陽光反射鏡によって反射集積された光であぶり、トラップされた二酸化炭素を大気中に放出させることで温暖化を加速させる手法が提案されている(2007-03-17:火星を水の惑星AQUAに変える方法)。またアメリカは、巨大な太陽光反射鏡をラグランジュポイントに配置、地球に入射する太陽光の1%を遮蔽することによって、温暖化を阻止する計画の推進を提案している(2007-02-04:地球温暖化の進行は太陽光反射鏡の完成を待ってはくれない)。また、エネルギー問題解決の切り札としての宇宙太陽発電衛星(SPS: Solar Power Satellite)構想が国内外の研究機関で進められている。Znamya計画は終結したが、その要素技術に関しては現在でも異なる目的で研究開発が進められているのである。

遠い将来、夜空を照らす月は1つでなくなるのかも知れない。

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