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2010年9月12日付でライブドアブログに引っ越しました。
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2010-05-08

ブラを着けると乳ガンの罹患リスクが跳ね上がるって本当?

f:id:LM-7:20100508131312j:image:right:w200レコードチャイナはブラジャーを1日12時間以上付ける女性、乳がんのリスクが21倍に―米国立癌研究所」として、ブラジャーの着用が乳ガン罹患リスクを増加させるとの報道を行った。

2010年5月5日、ブラジャーを1日12時間以上着用する女性は、全く着用しない女性と比べ、乳がんのリスクが21倍も高くなることが米国立癌研究所の研究で分かった。黒竜江晨報が伝えた。

記事によれば、同研究所がブラジャーの着用時間と乳がんとの因果関係について調査した結果、習慣的に長時間ブラジャーを着用する女性は乳がんなど乳房の病気にかかりやすいことが分かった。1日12時間以上着用する女性は全く着用しない女性の21倍、就寝時も着用する女性は同100倍も罹患率が高まるという。形が崩れるのを気にして就寝時もブラを外さない女性は要注意だ。

ブラジャーを1日12時間以上着ける女性、乳がんのリスクが21倍... - Record China

これが真実であるとすれば一大事だ。厳しい広告規制がされているたばこでさえリスク増加は数倍程度だ。20倍から100倍も増加するとなれば、国を挙げてノーブラを推奨せねばなるまい。ところが、当の米国立癌研究所(NCI: National Cancer Institute)のサイトを探しても、該当するような研究成果は見つからない。

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Dressed to Kill

実はこの記事で上げられた研究は米国立癌研究所(NCI)とはまったく関係がない。元ネタは、1991年から1993年にかけて行われ、Dressed to Kill: The Link Between Breast Cancer and Brasという書籍にまとめられた研究のようだ。世界の三面記事・オモロイドさんのところで紹介されているので、以下に要点を引用する(強調はLM-7による)。

彼等は、ブラジャーがリンパ系を締め付け、発癌性のある毒素が乳房内に滞留し乳癌を発症させるのではないかと考える。リンパ系は免疫機構の一部であり、体内から老廃物や毒素を取り除く役目を果たしている。多くの毒素は体脂肪内に蓄積するため、その大部分が脂肪組織で構成される乳房から毒素が排除されることは特に重要だ。しかし、女性がブラ、特に(ワイヤー入りブラのように補正力が強く)体にきついものを身につけた場合、乳房組織が締め付けられ、リンパ系の毒素排除機能が妨げられてしまう。乳房のリンパ腺は皮膚に近いので圧迫されやすいのだ。そして、乳房に滞留した毒素は、正常な細胞をガン細胞へと変貌させていくわけだ

彼等はこの仮説を検証してみるべく2年半にわたるリサーチを行っている。1991年5月から1993年11月までの期間、米国の五つの都市 - サンフランシスコ、デンバー、フィーニックス、ダラス、ニューヨーク - を訪問し、乳癌を患っている女性2,056人と乳癌と診断されたことがない女性2,674人の合計4,730人の女性たちからアンケートをとり、ブラジャーの使用状況について調査した。以下の表はその調査結果をまとめたものである。

ブラジャーの着用時間と乳癌罹患率
番号ブラジャーの着用時間乳癌罹患率罹患率の対比
(1)24時間3/4(1):(4)= 125
(1):(3)= 113
(2)12時間以上、ただし就寝時は着用せず1/7(2):(3)= 21
(3)12時間未満1/152(3):(4)= 1.1
(4)全く/ほとんど着用せず1/168

ブラジャーを毎日12時間以上着用すると、乳癌のリスクが21倍に増大(米研究) | 世界の三面記事・オモロイド

ブラ着用と乳ガンの罹患リスクに因果関係があるのか?

確かに調査結果が正しいとするならば、女性は夜寝る時にはブラを外して寝るようにした方が良さそうだ。乳房のリンパ腺が圧迫されて毒素排除機能が妨げられるというもっともらしい説明を聞かされると、そんな事もあるのかもと思ってしまう。

しかし、その調査方法および結論に関しては、多くの疑問が投げかけられている。Scientific Americanは"Fact or Fiction? Underwire Bras Cause Cancer"において、ブラ着用と乳ガン罹患の相関は科学的に証明されていないと主張している。本研究は、乳ガンの既知の危険因子の存在等の交絡変数の排除ができておらず、相関があるとの証拠にはならないという。

米国立癌研究所(NCI)のLouise Brinton氏によれば、一般的に乳ガンの危険因子は内因性ホルモンレベルに影響を与えるものだと考えられているという。これらの危険因子には、女性の年齢や初産年齢が含まれる(子どものいない女性および30歳を越えて初産を迎えた女性の乳ガン罹患リスクは増大する)。家族の中に乳ガンになった人がいれば乳ガンにかかるリスクは高くなるが、授乳や運動によってリスクを下げる事ができると考えられている。また、5-10%の乳ガンはBRCA1とBRCA2の遺伝子変異に関連していることが分かっている。こうした危険因子の影響の除外がなされていない上述の調査結果をもって、ブラ着用と乳ガンの因果関係を論じる事はできない。

Breastcancer.orgのMarisa Weiss女史によれば、ブラ着用によって乳房に滞留した毒素が乳ガンの原因となるという話は一見もっともらしいが、信憑性は疑わしいという。体液は実際には腋の外側を上昇していくのであって、ブラジャーのワイヤの方に下がっていって滞留するということは無いようだ。

結論

なぜかレコードチャイナによって研究主体とされてしまった米国立癌研究所(NCI)は自身のWebサイトで乳ガンの危険因子に対する誤解として次のように注意喚起をしている(強調はLM-7による)。

Misunderstandings About Breast Cancer Risk Factors

There are a number of misconceptions about what can cause breast cancer. These include, but are not limited to, using deodorants or antiperspirants, wearing an underwire bra, having a miscarriage or induced abortion, or bumping or bruising breast tissue. However, none of these factors has been shown to increase a woman's risk of breast cancer. In addition, cancer is not contagious; no one can "catch" cancer from another person.

Reproductive History and Breast Cancer Risk - National Cancer Institute

デオドラントや制汗剤の使用、ワイヤー入りブラの着用、流産や人工流産、乳房の打撲等に関しては、現在のところ、乳ガンの罹患リスクを上昇させる科学的に信用に足る報告は一切なされていないというのが、米国立癌研究所の公式見解である。

というわけで、ブラ着用が乳ガン罹患リスクを増大させるという事は今のところ無いと考えて良さそうだ。どうか安心してブラを着用していただきたい。ちなみに、今までの研究によれば、ブラをしないとバストが垂れるというのは迷信で、むしろ普段の生活では極力ブラを着用せず、激しい運動を行う時のみブラを着用するようにする方が良いようですよ*1

謝辞

本エントリを作成するに当たり、@popeetheclownさんから多くの情報提供をいただいた。感謝いたします。

ライセンス

利用した写真はFile:Circa 1975 Wonderbra.jpgであり、ライセンス条件についてはリンク先に記載されている。

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