実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第587回】北川景子『ヒポクラテスの誓い』第2話の巻

1. 理想のアイドル映画



 乃木坂46の橋本奈々未がグループからの卒業と芸能界引退を発表しましたね。
 と言っても、私もそんなによく存じ上げているわけではない。ただ昨年テレビ東京の深夜枠「ドラマ24」で放送された『初森ベマーズ』(2015年7月〜9月)のメイン監督が実写版セーラームーンの鈴村展弘だったので観た。



 ナナマル(西野七瀬)たち初森第二女子商業高校の生徒たちがソフトボール部「初森ベマーズ」を結成し、いきなり次の大会で優勝を目指す。どうしてかというと、圧倒的実力を誇る田園調布ポラリス学園のエース投手、権田原キレイ(白石麻衣)から「大会で私たちよりも良い成績を残せば、公園の再開発を白紙に戻す」と約束されたからだ。



 彼女の父親(津田寛二)は「セレブ都市開発」の社長で、再開発で下町の庶民たちの憩いの場、初森公園を取り壊そうとしているのである。



 という他愛のない話で、ソフト経験者のいない、急ごしらえの初森ベマーズ(「ベアーズ」のつもりでユニフォームを発注したら、字が下手で「ア」を「マ」と間違えられてしまった)のなかで、唯一の経験者、しかも豪腕スラッガーのマルキューを演じていたのが橋本奈々未だった。初登場で、ヤンキー女子校チームがデッドボール狙いでぶつけに来た球を、マトリックスみたいにかわしてホームランにしちゃうんだからたまんない。






 これは所々スズヤンらしい光る演出はあったものの、まあちょっとそれ以上はどうしようもない話だった。でもこの前年の暮れに公開された山下敦弘監督の『超能力研究部の3人』(2014年)は、個人的にはすごく良かった。それまで乃木坂46なんてほとんど知らなかった私が、観終わったらファンみたいな気分になってしまったので、これは良い映画なんじゃないかと思う。が客観的には評価は分かれるだろうな。興行的には大コケしたらしい。



 アイドル映画って本編を劇場の大スクリーンで見るのもいいけど、DVDの特典映像でメイキングやインタビューを観るのも楽しいですよね。なにしろこっちはアイドルが目当てなんだから。そのあたりを踏まえてこの映画は、本編のなかに、もう特典映像を入れ込んで、一本にパッケージしまったような構成になっている。つまり、漫画を原作とした「超能力研究部の3人」というドラマ本編があって、その合間に、リハーサルの様子、監督の演技指導、撮影中のトラブル、それに主役を務める乃木坂46の三人(秋元真夏・生田絵梨花・橋本奈々未)のオフショットやインタビューといった舞台裏の映像が入ってくる。



 でも、たとえば美術スタッフのバイト君の一人が橋本奈々未の学校の先輩で、雨で撮影が中断しているあいだ、その先輩といろいろ話していて、ちょっといい感じの雰囲気になる、なんて場面が入ってくる。




 どうも出来すぎで怪しいなあ、と思っていると、山下監督がキスシーンはヤラセなしで本当にキスさせたい、とか主張して、当然それを拒否する乃木坂のマネージャーと言い争いになるあたりで仕掛けがばれる。このマネージャー、山下監督の映画ではお馴染みの俳優、山本剛史である。つまりドキュメンタリー部分もフェイクで、全部フィクションなのだ。



 それでもところどころで「あれっ?」と思う場面があって、たとえば西伊豆松崎町の大浜海岸だったかな、海岸で橋本奈々未が、カメラマンの問いにポツリポツリと自分語りをしながら、不意に涙を流すシーンなんか胸キュン(死語)で、これも計算された演出・演技なのか、ハプニングなのかは、もう分からない。おじさん思わず感動してファンになってしまいました。







 この映画の主役の三人のなかで、こういう「フィクションのはずなんだけど、案外これが素でもあって、けっこう本音も出ているかも」というリアル感が最も強かったのが橋本奈々未で、つまり虚像(アイドル)と実像(プライベート)のしたたかな使い分けが出来ない人なのかな、と思った。乃木坂のことをあまりよく知らない私が、グループ卒業と同時に芸能界引退という話を聞いて「なるほどな」と妙に納得したのはそういう事情による。


2. 「校閲ガール・河野悦子」第3話


 さてこのブログ、週末の更新が無理なら、せめて日曜日のうちにお詫びの番外編メッセージをアップする、というルールを自分で決めていたんだけど、それすら守れなくなって、一週間のブランクを作ってしまった。こんなブログでも更新を待って下さる方々がいる。すみませんでした。
 でもあれだね、『ヒポクラテスの誓い』は全5話なので、多少怠けても追いつける(あまり反省していない)。本日は第2話です。
 と思ったけど、その前にもうひとつ、前回コメント欄で百日紅さんから教えていただいた、新生セラミュの初代うさぎちゃん、大久保聡美の近況をご報告いたします。



 我らが北川景子の新たな代表作『家売るオンナ』をクリエイトして下さった恩人のひとり、日テレの小田玲奈プロデューサー。彼女が引き続き今シーズンも「水曜ドラマ」枠で手がけているのが石原さとみ主演『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』だ。3話を経て視聴率はフタ桁を堅調にキープしているようで、まずはめでたい。「出版社の校閲部」という題材は『家売るオンナ』でも実験済みだし、和田正人やともさかりえといった、前作で見たキャストも登場するし、主演の石原さとみの芝居は『シン・ゴジラ』の脱リアリズム路線を継承しているし、なんとなく親近感が湧く。



 ヒロインの河野閲子(石原さとみ)はオシャレが大好きで、愛読するファッション雑誌『Lassy』の編集部に憧れて出版大手の景凡社に就職したんだけど、地味な校閲部に配属されてくさっている。それでも毎日おしゃれな格好で出勤し「すぐに『Lassy』編集部に異動する」と広言し、周囲の反撥を恐れない。言いたいことは何でも言うタイプ。



 そんな彼女と正反対なのが、化粧気もなく地味なスーツで真面目一徹の先輩、藤岩(江口のり子)だった。実直を絵に描いたようなルックスで、男とも縁のなさそうな彼女のことを、社内の若い女の子たちは、こっそり「テツパン」と呼んでいた。鉄のパンツでもはいているんだろう、という意味ね。当然、お洒落大好きなヒロインの閲子とも仲良くはなれそうには見えないが、第3話になって一転、心を通わす。



 藤岩さんは、閲子が校閲を担当している人気作家・四条真理恵(賀来千香子)のデビュー以来の大ファンで、ずーっとファンレターを送り続けていた。だから閲子のところにある新作原稿を盗み見て、シリーズ初期作品の設定との矛盾を指摘した付箋をこっそり貼ったりもしていた。そのことを知った閲子は、藤岩先輩を四条先生に引き合わせるべく画策する。
 でいろいろあって、藤岩さんは四条先生の自宅に招待される。あこがれの作家に会う機会なんだからと、閲子は『Lassy』編集部にいる学生時代の後輩(本田翼)に頼み込み、撮影に使った服を借りて、打合せ室で藤岩先輩をお洒落にコーディネイトする。
 閲子がちょっと席を外した隙にやってきたのが、『Lassy』編集部の若い女子社員二人(水原ゆきと大久保聡美)。水原ゆきの役名は「『Lassy』編集部の水島琴音」ということだが、大久保聡美の役名はわからない。とにかく琴音の後輩(と思ったら、↓のコメント欄に、彼女の役名は「小堺茉莉」であるとの指摘がありました。大久保聡美ブログにオフショットが掲載されていて、小道具の社員証から判明したとのことで、百日紅さんまたまたありがとうございました)。



琴 音「あ、ね、打合せ室のなかとか」
茉 莉「あ、そうですね」


二人は何か探し物をしていて、メイク中の「テツパン」を目撃してしまう。





二 人「失礼しました」



琴 音「なに今の」
茉 莉「テツパンですよね。化粧してませんでした?」
琴 音「してた〜」



茉 莉「テツパンがお洒落してもねえ」
琴 音「無駄でしかない」



 という若い女子社員に、戻ってきた閲子がキレる。



閲 子「ちょっと待って」



閲 子「あなたたちさ、テツパンってどういう意味か知ってて言ってんの?」



琴 音「は?」



閲 子「テツパンとは、鉄のパンツ、いわゆる貞操帯のこと。貞操帯というのは、パートナーの純潔を求めて、性交渉不可能にするために用いられる施錠装置のついた下着のことで、かつて十字軍にいた兵士が離れて暮らす妻や恋人の貞操を守るために装着させたらしいんだけど、近年ではSMプレイにも用いられているグッズなんだよ」



茉 莉「なんでこんな詳しいんですか?」
琴 音「SMが趣味なんだよ」



閲 子「違えよ。校閲で調べたからだよ」



閲 子「あんたたちは、彼女がそういったことに無縁なお堅い女だって意味で呼んでんだろうけど、真の意味は真逆だから。貞操帯っていうのはむしろ、パートナーに愛され、束縛したくなるほど魅力的な女性が身につけるもんなんだよ」



閲 子「意味も知らないくせに陰でこそこそアダ名つけて呼ぶんじゃねえよこの若いだけの女が」



琴 音「行こう」
茉 莉「はい」


 だいたいどんなドラマか、お分かりいただきましたよね。
 ということで、大久保聡美さん、エピソードのクライマックスを演出するためのイヤな若い女の役でした。




 はい、お待たせしました。北川さんのWOWOWドラマ『ヒポクラテスの誓い』第2話です。


3. ボートレースの死



 浦和医大の研修医、栂野真琴(北川景子)は、医者としての見聞を広げてくるようにと、内科医からしばらく法医学教室へ出向するよう命じられる。しかし真琴にとっては正直なところ、あまり嬉しい話ではない。



 彼女には柏木裕子(佐藤めぐみ)という、マイコプラズマ肺炎を患う親友がいる。本当は入院が望ましいのだが、経済状態が厳しく、二人暮らしの母親(大塚良重)に看病されながら、自宅で療養中である。



 「裕子を治せるような内科医になりたい」というのが真琴の希望だった。でも法医学教室で扱う「患者」はすべて遺体である。不明だった死因が明らかになれば将来の医療行為には役立つだろうが、いま死んだ人間はもう戻らない。真琴にはとても、やり甲斐のある仕事には思えなかった。
 


 しかも、法医学教室の光崎藤次郎教授(柴田恭兵)は、死体ばかり扱っているせいか、義理人情のたぐいは一切理解しない変人だ。遺体に少しでも疑惑や不明な点があれば、遺族感情も無視して検死解剖を主張する冷徹な性格の持ち主である。



 けれども第1話では、光崎教授の強引な検死解剖のおかげで、「スピード違反の車が自転車走行中の若い女を撥ねた」という、一見単純な事故の背後にひそむ真相が明らかになった。実は女性(長谷川千尋)は、撥ねられる前に急性の硬膜下出血で死んでいた。死んだ彼女を乗せたまま自転車がふらふら車道に入っていって車に撥ねられた、というのが真相だった。



 車の運転手をひたすら憎んでいた娘の父親(遠山俊也)も、無実を主張し続けていた運転手(高橋洋)も、そして有責であるため自動車保険も利かず、慰藉料などをどのように払うか途方にくれていた運転手の妻(松本若菜)も、少しずつ救われた。



 そういうこともあって、真琴の光崎に対する評価が、やや変わり始めたかな、というところから第2話は始まる。





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真 琴「もしかして、また死因不明のご遺体ですか」
古手川「まあね。光崎教授に相談をね」



真 琴「光崎教授ってどんな方なんですか?」



真 琴「言っていることはすごくドライで、気持ちなんかないように見えますけど、口に出さないだけで本当は、ご遺族のこと、患者さんのこと、思ってるんじゃないでしょうかね」



 真琴が話しかけている相手は、浦和県警捜査一課の古手川刑事(尾上松也)。古手川は光崎の検死能力を高く評価していて、しかも実は光崎から「管轄内で死体が出たらすべて情報をまわして欲しい」という謎の依頼を受けている。光崎教授に何かの考えがあることは明白だが、その人格を信頼している古手川は、あえて言われたとおりに情報を流している。そしてしばしば司法解剖に協力し、その情報を捜査や真相解明に役立てている。正義感は強いが(あるいは強すぎて)違法行為も適当にやりこなしちゃう、あぶない刑事だ。



 今回、古手川刑事が持ってきたのはボートレースの事故という案件。大勢の観衆の前で、競艇中のボートがコースを曲がり切れずに防波堤に激突、ボートは木っ端微塵、乗っていた真山選手(塚田知紀)は放り出されて頭を強打し脳挫傷で即死。
 もう疑問の余地もない事故死だが、奥さん(荻野友里)だけは夫のミスを認めようとしないという。



真 琴「明らかに事故ですよね。これが死因不明なんですか?」
古手川「女房が主張しているんだよ。夫は誰かに殺されたって……」


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公 美「だからボートを調べてください。エンジンです! 誰かが細工を……もっとよく調べて下さい」


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古手川「管轄の警視庁大森南署は事件の可能性は低いと見ている。女房は納得いかず、地元の埼玉県警に訴えてきた」


 管轄内で死体が出たら取りあえず情報を回す約束をしている古手川刑事は、いつもどおり勝手に資料を持ち出して浦和医大の光崎教授に見せる。中央監察医務院の医師が書いたずさんな死体検案書に対して、光崎は辛辣だ。



古手川「検案調書と解剖者の覚書です」



真 琴「あの、行政解剖が済んでいるんならもううちの出番はないんじゃないですか……」



古手川「解剖の結果に疑問点がなければね」



光 崎「疑問点以前の問題だ。精査する価値もない」



樫 山「明白な事故だからって、かなり手を抜いていますよね。臓器の計測値も書いてないし、ひどいのはここ」



樫 山「『損傷を有する部位』に『頭』としか書いていない。いくら死因が脳挫傷だからって、時速80キロで水面に叩きつけられたのよ。他にも損傷があって当然なのに」



光 崎「遺体は今どこにある?」
古手川「まだ中央監察医務院だと思います」


 死体検案書にさっと目を通した光崎は、特記事項として気管支炎の既往症があること、浦和医大病院の内科で治療を受けていたことをチェックすると、検死解剖を訴える。



 実は光崎は第1話でも、車に轢かれた女性が(病名は違うけど)かつて敗血症で浦和医大病院の内科で治療を受けていたことを確認した上で、検死に踏み切っている。



 光崎は明らかに何かを突き止めようとして、旧知の古手川刑事に管轄内の死亡事故の情報を集めさせているのだ。



光 崎「よし、ウチで解剖をやり直す」



真 琴「やり直す!?」
古手川「分かりました。司法解剖を試してみます」



真 琴「ちょっと……」



光 崎「まだ動くな。解剖に疑問があると言われて、大人しく遺体を渡すと思うか? 遺族のもとに返されてから遺族と交渉するんだ」
古手川「はい」



真 琴「そんなの許されるんですか、やり直すなんて」
樫 山「そりゃ大問題よ。中央監察医務院を敵に回すことになるわね」


光 崎「そんな稚拙な検案書を書く医者だ。屁でもない。古手川」
古手川「はい」
光 崎「真山さんの生前の動画を手に入れてくれ。なるべく最近のものがいい」
古手川「分かりました」



真 琴「あちょっと……じゃあせめて、ご遺族に会いに行かせてください。どうしてこの事故に納得できないのか確認しておきたいんです」



樫 山「いいんじゃないですか。日本も法医学者が現場に行くべきですよ」



樫 山「コロンビア医大で仕事していたときは監察医として捜査に係わるのが普通だったのよ」



光 崎「まあ好きにしろ。ただし解剖の不備については話すな。遺族から中央監察医務院にクレームが行ったら面倒だ」



真 琴「分かりました」


 前にも書いたとおり、准教授の樫山は、原作ではキャシー・ペンドルトンというアメリカ人の設定になっているんだけど、このドラマ版では、アメリカ留学経験がある日本人ということのようだ。

4. お兄ちゃんとの再会


 あいかわらずの強引な(というか違法な)やり方に疑問を感じつつも、遺族を訪問する真琴に、古手川刑事も同行する。光崎に命じられた、故人の生前の動画を手に入れるためだ。公美夫人(荻野友里)は古手川の要望に応え、ついでに北川さんの立場も考えて、SONYのハンディカムに収めた故人の動画をビデオカメラごと提供する。



公 美「最近のはここに入っています。ほとんど家族で撮ったものばかりですけど」
古手川「どうも。お借りします」



公 美「それで埼玉県警が捜査してくださるんですか?」
古手川「いえ、今日は法医学の先生をお連れしただけで……。前にもお話ししましたように、管轄は警視庁なんで」



真 琴「あの、奥様はどうして事故じゃないと思ってらっしゃるんですか?」
公 美「あり得ないからです。主人に限ってあんなミス。もう何十回も走ったコースなのに曲がり損ねるなんて」
真 琴「レースの前に体調を崩されていたとか、何か精神的におおきなショック……」



公 美「ありません!もしあったとしたらレース直前に何か……そうですよ。誰かに何か飲まされたんじゃないですか?睡眠薬とか」



古手川「もしそうなら解剖で薬が検出されていると思いますよ」
真 琴「失礼ですが、事件に巻き込まれるようなお心当たりは」



公 美「それを調べてくださるのが警察でしょう。なのに事故だろうって、そんな簡単に片付けられちゃ……」



 一流ボートレーサーの夫が運転ミスをしたとは信じられない公美夫人は、司法解剖すれば事故のなんらかの手がかりが得られると信じて疑わない。
 そこへ、預けていた一人息子の圭太(斎藤絢永)が帰宅してくる。付き添いは夫の友人で眼科医の三田村(林泰文)。



圭 太「お母さん」



三田村「ゴメン、どうしても帰るって聞かなくて」



三田村「圭太、あっちで待っていよう。な」



 故人の親友とは言っても、息子の相手もしてやるなんて、親切すぎないか。ひょっとしてこいつ、実は奥さんが好きで、とうとう我慢できず親友だったダンナを亡き者に……と思わせぶりな登場をするのは結局ひっかけなんだけど(ネタバレすみません。何しろ先を急いでいるもんで)、なにせ林泰文である。『モップガール』の桃子のお兄ちゃんだ。北川さんと本格的に共演するのはあれ以来じゃないかなぁ。
 『モップガール』第9話( 2007年12月7日放送、脚本:荒井修子/演出:常廣丈太)より。巡り合わせで、余命いくばくもないヤクザの親分を救急車でふるさとに運ぶことになった長谷川桃子(北川景子)と大友(谷原章介)、それにお医者さんの桃子のお兄ちゃん(林泰文)。腹が減ったので大友がそのへんでハンバーガーを調達するが、肉が苦手なお兄ちゃんは食べられない。ここで大友は長谷川兄妹の底力を思い知る。



大 友「メシ買ってきたぞ」



桃 子「いただきまーす」



 兄 「あーっ、僕どれも食べられないなぁ」



桃 子「お兄ちゃん、オバタリアンなんですよ」



 兄 「それを言うならベジタリアン。まったく桃子はひょっとこちょいだな」
桃 子「あ〜あ」



大 友「あの…それを言うなら、おっちょこちょいでは?」



 兄 「えーっ、僕ずーっとひょっとこだと思ってた」



桃 子「私もー。あはははは、やだなお兄ちゃーん」



 兄 「桃子だってー。あはははは」
大 友「はははは……家系か」


 しかしもちろん今はどシリアス演技である。話を終え、ビデオを預かって帰ろうとする真琴と古手川刑事を呼びとめる。



三田村「すいません」
古手川「先ほどはどうも」



三田村「事故でけっこうです。大森南署の方にそうお伝え下さい」



三田村「彼女はああ言ってましたが、長引けばつらいだけですよ。圭太のためにも早く受けいれた方がいいんです」




 なにかもう解剖されたくない雰囲気がぷんぷんする。改めて検死されたら不都合なことでもあるのか。ドラマ的には疑惑の行動である。ひっかけなんだけど(だからネタをばらすなよ)。


5. 承諾解剖



 真琴と古手川刑事と真琴は、さっそくビデオカメラ(SONY)の中に録画された映像にひととおり目を通すが、奥さんの言ったとおり中身はプライベートな映像のものばかりで、事件の手がかりになりそうな人物情報は得られそうにない。



息子の誕生祝いも、家族三人と、さっきの親友の眼科医、三田村しか映っていない。何も手がかりはなさそうだ、と諦める。




 なんかちょっとイイ感じの二人ですね。



そもそも原作者は、以前から自作に出てくる古手川刑事に良いパートナーを作ってやりたくてこの作品のヒロインを考えた、みたいなことをどこかのインタビューでいっていたぞ。ってことは、ドラマもこのまま、ちょっとは二人の関係が微妙になっていくのかなぁ。



 それはともかく、このビデオを受け取った光崎教授は、息子の誕生パーティーで、故人がジュースのコップをひっくり返す場面に注目する。





「もうまったく」とか普通にあきれる夫人だが、本人の態度はぎこちなく、眼科医の三田村の表情は硬い。




この光景を繰り返して再生してから、光崎教授は、検死のための再解剖を決意する。遺族の説得役は真琴だ。
 前回は遺族が解剖に否定的だったが、今回はむしろ夫人の方が真相究明のための検死を望んでいるくらいなので、説得は簡単に済むかと思ったが、思わぬ横やりが入る。三田村だ。



公 美「承諾解剖?」
真 琴「ご遺族の承諾を得て、ご遺体を解剖させていただくという制度があるんです」



三田村「いやでも、解剖はもう済んでいるんですよ。大森南署からも事故死だと言われました」



真 琴「でもその結果にご納得されていないんですよね」
三田村「いやおかしいでしょ。眼科医の僕だって分かりますよ。二度解剖するなんて聞いたことがない」



公 美「でも調べ直してもらえるなら……」



三田村「やっと家に戻ってきた真山をまた解剖するのか。本当は事故だって分かっているんだろ。久美ちゃんも前を向かないと、圭太だっていつまでも辛いままだよ」



真 琴「いちばん大事なのはご遺族が納得されることです」
三田村「何なんですか帰って下さい」



古手川「解剖されたら困る理由でもあるんですか?」



三田村「どういう意味ですか?」



三田村「分かりました。それならこちらにも考えがあります」




どうしても再解剖を阻止したいらしい三田村は、中央監察医務院に、すでに検死の済んだ遺体を浦和医大が再解剖しようとしていると通告する。しかしそのときすでに、光崎教授は中央監察医務院に向かっていた。



光 崎「ちょうどいい、今そこで遺体を検案しろ」



真 琴「ええっ?」
光 崎「中央監察医務院の検案書に間違いがないか確認したいと言え」



真 琴「無理ですよ、検案なんて私には」
光 崎「解剖しろとは言っていない。見るだけだ」



真 琴「見たって間違いなんて分かりませんよ」



光 崎「分かるはずだ、見れば」



 光崎の指令どおり「遺体を見るだけだから」と家族を説き伏せて、棺桶の蓋を開け、遺体を改めた真琴は唖然とする。












 遺体の胸を開くと、メスひとつも入っていない無傷であった。つまり司法解剖がそもそも行われていないのだ。




 一方、中央観察医務院。遺体を改めて承諾解剖させて欲しいという光崎の申し出に、医務院長の剣持(日野陽仁)、そして執刀にあたった監察医の永瀬(坂田聡)は反感を隠そうともしない。まあ当然だ。



 そこへ、遺体がまったく解剖されていないという真琴の報告が入る。



光 崎「うちの者がいま、真山さんの遺体を検案しました。皮膚縫合の痕がどこにもなかったそうです」



剣 持「ははっ。何を言っている。解剖なら永瀬君が……」



剣 持「していないのか!」



光 崎「永瀬さんは非常勤だそうですね。本業は開業医で大変にお忙しい。医務院の勤務は過酷だ。日に何体もの行政解剖が入る。大観衆の前で事故を起こして死んだ遺体。解剖するまでもないと判断し、助手たちも了解した。」



剣 持「君はこの中央監察医務院を何だと思っているんだ」



永 瀬「もううんざりなんだよ。自分の病院だって忙しいのに、人手がないからって医務院の非常勤までやらされて、こんな明らかな事故死まで解剖する必要があるんですか?何体解剖させれば気が済むんですか?」



永 瀬「僕は死体を切り刻むために医者になったんじゃない!」



光 崎「生体だろうが死体だろうが、メスを入れるべき時に入れない医者など医者ではない。医師免許という紙切れを持っているだけの、ただの糞虫に過ぎん」



光 崎「遺族に連絡してもらえますか。解剖に不備があったので浦和医大で承諾解剖をするようにと」

6. 望まれない真相




 こうして遺体は浦和医大で再解剖というか、初めての検死解剖を受けることになった。





古手川たち警察サイドは、奥さんの言うように、真山選手がなにか睡眠薬のような薬を飲まされて事故を起こした可能性があるのではないかと疑っていたが、意外なことに薬物反応はいっさい見られなかった。



 腹部の損傷も、ボート事故で起こった以上の不審点は見られない。ではいったいどこが? ここで光崎は予想外の場所にメスを入れる。



光 崎「次に眼底および網膜を調べる」



真 琴「網膜? どうしてですか?」



光 崎「見ろ、網膜が壊死している」
真 琴「壊死?」



光 崎「血管が閉塞することによって、網膜に十分な血液が送られずに視細胞が死ぬ」
真 琴「網膜動脈閉塞症」



古手川「どういう病気だよ」



樫 山「網膜の壊死にしたがって視力が急速に失われていく」




真 琴「この状態だと、レースが始まった時点で真山さんはほとんど目が見えていなかったっていうことですか?」



 真山選手はだいぶ前から視力が低下して、秘密を守ってくれる親友の眼科医、三田村のもとで治療に努めたが、残念ながらほとんど失命に近い状態まで追い込まれていた。ボートレースを続けられないならば、生きている価値もない。そう考え詰めた真山は、高額の生命保険に入り、覚悟のうえで最後のレースに挑んだ。



 しかし、もし保険金目的の自殺であることが分かれば、彼がせっかく家族のために残そうとした生命保険が下りなくなる。だから眼科医の三田村は、真相究明を訴える妻を必死でなだめ、なんとか事故で処理しようとしていたのである。



 自殺と知っていて隠蔽したのだから、警察としても事情聴取をしなければならない。




刑 事「話を聞かせてもらえますね」



三田村「だから事故でいいと言ったんだ」



 真相は明らかにされたが、それは遺族が、そして真琴が望むようなものではなかった。光崎は最初からおおむね真相を見抜いていたが、真琴はよかれと思って協力し、結局、死んだ真山や残された家族のためを思えば伏せておくべきであったかも知れない事実を暴いてしまったのである。



真 琴「真山さんの目が見えなくなっていたこと、ビデオの映像を見たときから分かっていたんですよね」



真 琴「自殺なら、真山さんの思いは報われないと分かっていて、それでもデータのために強引に解剖していたんですよね」



真 琴「私は、何だかんだ言って教授は、ご遺族のために真実を見つけようとしているんだと思っていました。教授の解剖はなんのためですか」



光 崎「最初から言っているだろう。法医学は遺族のためにあるんじゃない」



 と、そこへ親友の裕子(佐藤裕子)の容態が急変したという知らせが母親(大塚良重)から届く。



 慌てて内科に駆けつける真琴。



良 重「裕子、裕子、裕子」




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真 琴「血圧は89の50、脈拍は72、SPO247%、呼吸15」



真 琴「低酸素血症です」



 果たして彼女はどうなるか、というところで第3話へ。
 今日はほとんどあらすじ紹介だけ。すまん。