ラノベ読者が本格マニアの彼女にラノベミステリーを軽く紹介するための10本

 指名されたんだもの、仕方ないね。
 
 参考:アニオタが非オタの彼女にアニメ世界を軽く紹介するための10本
 まあ、どのくらいの数のラノベ読者がそういう本格マニアの彼女ををゲットできるかは別にして、「ラノベはまったく知らないんだが、しかしラノベに対する認識がブギーポップから止まっていて、その上で全く知らないラノベの世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」ような、都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、ラノベの面白いミステリーを紹介するために読ませるべき10本を選んでみたいのだけれど。
(要は「ミステリマガジン」のライトノベルレビューの変形版だな。本格マニアにライトノベルを布教するのではなく相互のコミュニケーションの入口として)
 あくまで「入口」なので、時間的に過大な負担を伴う20巻超え、30巻超えのシリーズは避けたい。
 できれば単発作品、長くても10冊以内にとどめたい。
 あと、いくらラノベミステリー的に基礎といっても古びを感じすぎるものは避けたい。
 富士ミス好きが『ブロークン・フィスト』は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。「これは『PSYCHO-PASS』の脚本家の作品だぜ!」って便利な誘導手段があったとしても。
 そういう感じ。

 本格マニアの設定はラノベ知識はいわゆる「金田一のノベライズ」的なものを除けば、ファウスト程度は読んでいる
 オタク度も低いが、頭はけっこう良い

 という条件で。
 まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。


クビシメロマンチスト西尾維新

クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識 (講談社ノベルス)

クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識 (講談社ノベルス)

 まあ、いきなりここかよとも思うけれど、「西尾以前」を濃縮しきっていて、「西尾以後」を決定づけたという点では外せないんだよなあ。長さも2作品目だし。
 ただ、ここで巫女子ちゃんトーク全開にしてしまうと、彼女に「甘えるな」って言われるかも。
 この情報過多な作品について、どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報をマニアに伝えられるかということは、ラノベ側の「真のコミュニケーション能力」の試験としてはいいタスクだろうと思う。


[映]アムリタ(野崎まど)、ビブリア古書堂の事件手帖三上延

[映]アムリタ (メディアワークス文庫 の 1-1)

[映]アムリタ (メディアワークス文庫 の 1-1)

 メディアワークス文庫って典型的な「ラノベ読者が考える一般人に受け入れられそうなラノベ(そうライトノベル読者が思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのものという意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを本格マニアの彼女にぶつけて確かめてみるには一番よさそうな素材なんじゃないのかな。
ラノベ読者としてはこの二つは“小説”としていいと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。


サクラダリセット河野裕

ある種のラノベ読者が持ってる異能者への憧憬と、時間SFのオタ的な考証へのこだわりを本格マニアに紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにも春樹フォロワーな
「気取った比喩のカッコよさ」を体現するケイ
「童貞的に好みな女」を体現する美空
 の二人をはじめとして、オタ好きのするキャラを世界にちりばめているのが、紹介してみたい理由。


子ひつじは迷わない玩具堂

 たぶんこれを見た本格マニアは「日常の謎だよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い。
 この系譜の作品がその後続いていないこと、仙波のツンっぷりが一部では大人気になったこと、
 米澤穂信ならソフトカバーになって、それが京アニでアニメ化されてもおかしくはなさそうなのに、スニーカー文庫でこういうのがつくられないこと、なんかを本格マニアの彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。


半熟作家と“文学少女”な編集者(野村美月

「やっぱりシリーズ物は完結してほしいよね」という話になったときに、そこで選ぶのは「グインサーガ」でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、この作品にかけるファミ通文庫編集部の思いが好きだから。
 断腸の思いで作者が8巻で本編を完結させたのに、それでも外伝や短編集とあわせて合計16巻、っていう尺が、どうしても俺の心をつかんでしまうのは、その「終わらせる」ということへの諦めきれなさがいかにもラノベ的だなあと思えてしまうから。
 文学少女シリーズの長さを俺自身は冗長とは思わない反面、もう延ばせないだろうとは思うけれど、一方でこれが火浦功佐藤大輔だったらきっちり2巻で投げ出してしまうだろうとも思う。
 なのに、作者に頭下げて迷惑かけて番外編を本編と同じ冊数だけ書かせてしまう、というあたり、どうしても「金になるコンテンツを終わらせられない業界」としては、たとえファミ通文庫がそういう編集部でなかったとしても、親近感を禁じ得ない。ホームズがバリツでライヘンバッハから生還したことと合わせて、そんなことを本格マニアに話してみたい。


『失踪HOLIDAY』(乙一

失踪HOLIDAY (角川スニーカー文庫)

失踪HOLIDAY (角川スニーカー文庫)

 今の若年層でスニーカー文庫時代の乙一見たことのある人はそんなにいないと思うのだけれど、だから紹介してみたい。
 GOTHよりも前の段階で、乙一の文体とか伏線の張り方とかはこの作品で頂点に達していたとも言えて、
 こういうクオリティの作品がザ・スニーカーでこの時代に掲載されていたんだよ、というのは、別に俺自身がなんらそこに貢献してなくとも、なんとなくラノベ好きとしては不思議に誇らしいし、いわゆる山白朝子でしか乙一を知らないミステリ好きの彼女には読ませてあげたいなと思う。


バッカーノ! 1931(成田良悟

 成田の「伏線回収力」あるいは「キャラクターづくり」をラノベ好きとして教えたい、というお節介焼きから読ませる、ということではなくて。
「終わらない戦いを毎日生きる」的な感覚がラノベ読者には共通してあるのかなということを感じていて、だからこそアニメ版『スレイヤーズ』は本編の第二部以降が作られていないとも思う。
「祝祭化した日常を生きる」というラノベ読者の感覚が今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の源は『スレイヤーズ』にあったんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、単純に楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。


修羅場な俺と乙女禁猟区(田代裕彦

 これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。
 こういうハーレム風味のラブコメをこういうかたちでフーダニット化して、それが非ラノベ読者に受け入れられるか、気持ち悪さを誘発するか、というのを見てみたい。


涼宮ハルヒの憂鬱谷川流

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

 9本まではあっさり決まったんだけど10本目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的にハルヒを選んだ。
 西尾から始まってハルヒで終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、YouTube以降のアニメ時代の先駆けとなった作品でもあるし、紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいい作品がありそうな気もする。
 というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10本目はこんなのどうよ、というのがあったら教えてください。
「駄目だ今さら四年前のネタは。俺がちゃんとしたリストを作ってやる」というのは大歓迎。
 こういう試みそのものに関する意見も聞けたら嬉しい。