8月に読んだ本(前編)

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)

ある事件に対して素人探偵の集まりがそれぞれの推理を披露するというパターンは、名作「虚無への供物」をはじめジャンルとして確立している。これは素人殺人者の集まりが順番に殺人を犯し、方法を推理するというゲームにいそしむとんでもない小説。この作者は登場人物が全員○○だったという「葉桜の季節に君を想うこと」など変な小説が多いが、やっぱり変だ。


生活者発想塾

生活者発想塾

消費者の視点からもう一歩つっこんで「生活者」の視点から考えるマーケティングの本。どうでもいいが、広告代理店が作ったこの手の本はなんで紙が厚くて活字が大きくて読み出がないのだ。あ、その時点で釣られているのね。


変愛小説集

変愛小説集

誤植ではない。「恋愛」ではなくて「変愛」なのだ。変な物に愛情を抱いたり、変なシチュエーションの愛や恋の話を集めたオムニバス。この手の奇妙な味の短編集というのはいろいろあるが、古今東西から集めるとなかなか豪華、どれも独特の読後感があり読み応えがある。


貴族探偵

貴族探偵

これは面白かったなあ。筆者は、名探偵があくまでも論理的に事件を解決しながらもバカミステリすれすれの傑作をいくつも出している私が好きな作家だが寡作なのが玉に瑕。本作はすごいぞ。殺人事件が起こって警察が現場で調査をしていると、貴族探偵と名乗る青年が、あるときは初老の執事、あるときは可愛いメイド、またあるときはごっつい運転手を従えて乗り込んでくる。刑事が追い出そうとすると署長から「その人はやんごとなきお方なので協力するように」と電話がかかってくる。ところが貴族探偵はなにもしないで執事やメイドが現場の調査や関係者の聞き込みを行なう。なるほど、その情報を元に探偵が推理するアームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)の変形だなと私は予想した。関係者全員が広間に集められいよいよ推理が披露される。ところが事件の説明をして犯人を指摘するのは探偵ではなくて執事やメイド。「あなたが推理をするのではないのですか?」と刑事が問うと「そんな労働を私がする必要は無い。雑用は家人に任せればいいことだ」と貴族探偵は答える。なんだよこれ。これでは貴族探偵じゃなくて、ただの貴族。そもそも貴族ってなによ。ああ、なんてすごい設定だ。続編が読みたい。これはドラマ化したらぜったいに面白いよ。


疲れすぎて眠れぬ夜のために (角川文庫)

疲れすぎて眠れぬ夜のために (角川文庫)

そういえば内田先生は休筆宣言をしたね。出版社に求められるまま粗製濫造を続けたくないと。そんなこと言わないでえ。


キング&クイーン (100周年書き下ろし)

キング&クイーン (100周年書き下ろし)

「命を狙われるチェスの王者の警護を任された元SP。犯人と主人公の頭脳戦」のはずだったのに、どっちもたいして頭を使ってないよ。


光媒の花

光媒の花

もともとトリッキーな作品を書く、いまもっとも脂の乗っているミステリー作家なのだが、前作あたりからミステリー色が薄くなり、叙情的な切ない話に傾倒してきている。本作はもうミステリーより純文学に分類されてもいいような悲しくも一筋の光明がある話の短編集。

8月はまだまだあるのだが、日付が変わっちゃうので残りはまた明後日