南アフリカ競馬: 南アフリカの三冠路線

Horse Chestnutの話題が出たので南アフリカの三冠路線についても解説が必要になりました。Horse Chestnutは南アフリカ初の三冠馬と言われており、2014年にはLouis The Kingが2頭目三冠馬になっているのですが、Horse ChestnutとLouis The Kingでは勝ったレースが違いますし、実のところ2014-15シーズンから三冠の定義に微妙な変更が加えられております。
この点Wikipediaの記述(三冠(競馬)#南アフリカ)はやや正確さに欠けるものとなっています。解説文は海外競馬読本の丸写しなのですが、確かにここにはHorse Chestnutが三冠馬になったことは書いてあっても、その三冠の対象レースは書いてないですね。

前史: 南アフリカの歴史

南アフリカはイギリス領ケープ植民地がナタールのズールー王国とナタール共和国、内陸のオレンジ自由国トランスヴァール共和国に支配圏を拡大することで成立しています。イギリス領南アフリカ連邦として自治を認められたのが1910年、その後1931年のウェストミンスター憲章を経て、1934年に主権国家である南アフリカ連邦が成立します。
ここから長い間、南アフリカの地方行政区分は歴史的な事情を反映してケープ州、自由州、トランスヴァール州、ナタール州に分けられていました。現在は9つの州に再編されていますが、競馬においてもこれら地方の区分は根強く存在し、ケープ州のケープタウン(Cape Town)、トランスヴァール州のヨハネスブルグ(Johannesburg)、ナタール州のダーバン(Durban)が競馬開催において各地域の中心地となっています。

三歳路線

かつては各地域ごとに三冠体系を有していたとされています。南アフリカでは早々に長距離レースが衰退し、現在ではSt. Legerの名を冠するレースがブラックタイプとしてすら残存していません。
オーストラリアと同様のものをイメージすると捉えやすいのではないかと思いますが、各地域での三冠路線は開催時期がずれており、12月-1月のKenilworth、2月-4月のTurffontein、5月-6月のGreyville/Clairwoodとメイン開催が変遷していくことになります。また、5月からのナタール開催の裏ではKenilworthで冬季三冠となる路線も用意されています。

Kenilworth夏開催

南アフリカは8月から新シーズンが始まってもしばらくは大きなレースがなく、TurffonteinでのSummer Cが終わるころにようやく3歳馬のメインとなる路線がKenilworthで始まります。
このKenilworthの夏開催ではCape Fillies Guineas、Cape Guineas、Cape Derbyの3レースがG1として開催されます。この中ではCape Guineas及びCape Fillies Guineasが賞金総額100万ランドの高額賞金戦となっています。
また、Cape Derbyに対応したOaks格のレースは用意されておらず、Kenilworthのこの開催ではGuineasこそが重視されるレースの位置づけとなっています。Fillies Guineasに出走した牝馬がその後Cape Guineasで牡馬に挑戦するというケースもよく見ることができます。
通常Cape Fillies Guineasが12月初頭に開催され、その後Cape Guineasが中旬から後半にかけての開催です。Cape Derbyは年が明けて1月末頃のJ&B Metと同日の開催となります。

Cape Derby

このレースは1925年にWest Province Derbyという名称で開始されました。したがって、South African Derbyに対して後発のレースということになります。一方、第二次世界大戦の直後のことですが南アフリカで最高額となる賞金を掲げ、国王George 6世の臨席を賜る栄誉を受けています。
初期には距離が変わったり、開催競馬場が変わったりしますが、1949年以降は開催がKenilworthの2400mに固定され、南アフリカ競馬において重要なレースであり続けました。この時代の勝ち馬としてColorado KingやSea Cottageも名を連ねています。
距離が2000mに短縮されてからも多くの活躍馬を生んでいるレースですが、近年になって開催日程が変更され同条件のJ&B Metのアンダーカードとされてしまったことと、総賞金が60万ランドとCape Guineasなどより低く設定されていることからレースの地位が低下していると感じさせられます。

Turffontein秋開催

Kenilworthの夏開催がJ&B Metでひと段落すると開催の中心はTurffonteinに移ります。
この開催での三歳戦は牡馬がGauteng Guineas、South Afrilan Classic、South African Derbyを、牝馬がGauteng Fillies Guineas、South African Fillies Classic、South African Oaksを戦い抜くことになります。Guineasが1600m、Classicが1800m、Derby/Oaksが2450mという距離で実施されますが、これらのうちでG1格付けを得ているのはSA Classic、SA Fillies Classic、SA Derby、SA Oaksの4レースで、Gauteng Guineas、Gauteng Fillies GuineasはG2で開催されています。なおSA OaksがG1格を得たのは2014年からのことで、それまではG2として開催されていました。
この開催には力が入れられており、G2であるGauteng Guineasでも100万ランドの総賞金を有し、SA Classicは200万ランド、SA Derbyは150万ランドとなっています。また牝馬限定戦はそれぞれ対応するレースの半額を総賞金としています。
これら格付と賞金額から明らかなとおり、南アフリカでは中距離のSA Classicが最も重要視されています。Turffontein調教馬は最初のGauteng Guineasから参戦してきますが、他地域からの転戦馬はしばしばGauteng GuineasをスキップしてSA Classicからの参戦になりますし、距離を考慮してDerby/Oaksに出走せずDurbanの開催に備えるケースも散見されます。
Guineasが3月初めに開催され、Classicは3月末頃でだいたいDubai World Cup Meetingと重なる時期に古馬戦のHorse Chestnut Sと同日の開催、DerbyとOaksは4月末頃のChampions Challengeのアンダーカード的な扱いとなります。

South African Derby

1882年の南アフリカジョッキークラブ(The Jockey Club of South Africa)結成の後、1885年に東ケープに位置するポートエリザベス(Port Elizabeth)で開催されたレースにさかのぼることができます。1907年に開催がTurffonteinに移って今日まで継続しています。
2450mと距離が長いことからやや避けられる傾向も出ており、南アフリカで三歳馬の頂点を決めるレースとしての立場はSA Classicに奪われています。

Durban開催

5月に入るとGreyvilleとClairwoodでのDurban開催が本格化します。
3歳戦は5月の初めにGreyvilleでKRA Guineas、KRA Fillies Guineasが行われます。これらは距離が1600mのG2です。開催時期がTurffonteinのSA Derbyと近いことからこれまでに実績を持つ馬の参戦は少なくなっています。
その後6月初めにはDaily News 2000、Woolavington 2000というG1がGreyvilleで行われます。かつては2200mとDurban Julyと同条件の開催でしたが、距離が短縮されて2000mとなりました。これらのレースがDurban地域最大の3歳戦で、Durban Julyへのステップとして使われています。
その後6月半ばにはBetting World Derby、Betting World OaksがClairwoodで距離2500mのG2として開催されていますが、距離や路線の関係からDaily News 2000などとはほとんど共通していません。

Kenilworth冬開催

5月からはKenilworthでWinter Guineas、Winter Classic、Winter Derby/Winter Oaksという冬季三冠路線が存在します。これらはケープ地域のローカルな三冠です。距離はGuineasが1600m、Classicが1800m、Derbyが2400m、Oaksが2200mで開催され、GuineasとClassicがG3、DerbyとOaksはListedの格付けとなっています。少し前まではWinter DerbyもG3の格付けを有していましたが、ここでも距離の長いDerbyの衰退が見て取れます。
主に出世の遅れたケープ調教馬によるレースですが、当時全てG3で行われていたこの三冠を達成して台頭したのがKenilworthに君臨した王者Pocket Powerです。

東ケープの開催

南アフリカではTurffontein、Kenilworth、Greyville、Clairwood以外では重賞そのものが極端に少ないのですが、ポートエリザベスのArlingtonでは唯一の重賞としてG3 East Cape Derbyを開催しています。開催時期は5月で距離は2400mです。またこのDerbyに対応するEast Cape GuineasはFairview開催のListedとして存在します。
草刈り場になりやすく重視される路線ではありませんが、ここからLizard's Desireが出ています。彼は東ケープ調教馬で、零細と言ってもいい馬主Mr. A J Boshoffの自家生産馬でした。東ケープのArlingtonとFairviewでそれなりの戦績を残してCape Guineasに挑戦するも惨敗、その後立て直してEast Cape Derbyを勝ってDaily News 2000に挑むも再び惨敗し、Gold Circle Derbyは3着という結果は珍しいものです。

現代の南アフリカ三冠の歴史

各地域が個別に三冠体系を有していた頃の結果は調べても出てきません。南アフリカでは20世紀末から大規模な競馬界の再編が行われ競馬場の数も減っていますし、独立性が高かった各Racing Clubは実権をほぼ失い、PhumelelaやGold Circleが競馬開催の主導権を握ることになりました。
すでに見てきたように現代の南アフリカで3歳馬に与えられる3つのレースセットはGuineas、Classic、Derby/Oaksとなり、イギリス式の三冠とは異なっていますが、距離の長いレースが衰退する傾向は変わらず、Derby/Oaksの格がやや低下しています。
さて、1999年にPhumelelaは南アフリカにおける三冠を設定します。この時選ばれたのが、次に示す3レースです。

  • 南アフリカ三冠1999
  • Argus Guineas (Cape Guineas): Kenilworth
  • SA Classic: Gosforth Park
  • SA Derby: Turffontein

後段が実施された競馬場で、全てG1で開催されています。
そしてこの設定がされたまさにそのシーズンに現れたのがHorse Chestnutで、彼はこれら3レースを全て圧勝して三冠馬の栄誉を受けることになりました。
2000年にKenilworthのArgus Guineasに代わってNewmarketのGauteng Guineasが三冠に加えられます。この時Gauteng GuineasはG1格を有していました。

  • 南アフリカ三冠2000-2001
  • Gauteng Guineas: Newmarket
  • SA Classic: Gosforth Park
  • SA Derby: Turffontein

2002年からは牝馬路線が整備されるとともに、Gosforth Parkの閉鎖で開催競馬場に変更が発生しました。追加された牝馬戦のうちFillies ClassicとOaksはG2格でした。すなわち、この時点ではFillies Guineasの方が格上だったということになります。

  • 南アフリカ三冠2002-2004
  • Triple Crown 1600/Triple Tiara 1600: Turffontein→Turffontein→Newmarket
  • SA Classic/Fillies Classic: Newmarket→Turffontein→Turffontein
  • SA Derby/Oaks: Turffontein→Turffontein→Turffontein

Newmarket競馬場も閉鎖された2005年からはTurffonteinに集約されるとともに、格付けも見直され、2005年からGauteng GuineasがG2に落ち、Fillies ClassicがG1に昇格しました。また2005年だけですがSA DerbyがG2に落ちています。SA Oaksは2014年になってG1に昇格しています。

  • 南アフリカ三冠2005-2014
  • Gauteng Guineas/Fillies Guineas
  • SA Classic/Fillies Classic
  • SA Derby/Oaks

この三冠を達成したのは2011年の牝馬Igugu、2013年の牝馬Cherry On The Top、2014年のLouis The Kingの3頭です。
2015年からはファーストレグがKenilworthのCape Guineas又はTurffonteinのGauteng Guineasという形に拡張されました。

  • 南アフリカ三冠2015
  • Cape Guineas/Fillies Guineas or Gauteng Guineas/Fillies Guineas
  • SA Classic/Fillies Classic
  • SA Derby/Oaks

もともとPhumelelaによる設定であり、彼らが所管するヨハネスブルグに集中させていたものをスポンサーが付くなどしたためCape Guineasを対象に含めざるを得なくなったといったところもあるでしょうか。これでHorse Chestnut風のレース選択でも三冠を達成することができるようになりました。
従来の三冠はGauteng Guineasの賞金増額もあって後半に3頭の達成馬を出していましたが、特にKenilworthで走る三歳馬にとってはGauteng Guineasは日程面で出走しにくく、最初から三冠を狙わないケースが多く見られました。ここをCape Guineasでも良いとなれば、普通にKenilworthからTurffonteinにG1を渡り歩く一流馬のローテーションで対応可能になります。
南アフリカでは近年一部のG1レースの賞金が大幅に引き上げられており、これら三冠の対象となるレースも軒並み100万ランドを超える賞金額を有しますし、三冠達成ボーナスとしてTriple Crownなら200万ランド、Triple Tiaraなら100万ランドが設定されていますから、狙って取りに来るケースが増えそうです。
牡馬戦には南アフリカスポーツ連盟オリンピック委員会(SASCOC: South African Sports Confederation and Olympic Committee)が、牝馬戦にはWilgerbosdrift Studがそれぞれスポンサーに付いています。