加山雄三は木村拓哉だった。

 若い頃、テレビでたまに加山雄三という芸能人が映っているのを見たことがある。見た目はなんてことのないタダのオッサンなのだが、周囲の出演者はみな彼をVIPのように扱っているのが不思議だった。両親に聞くと、なんでも昔は映画などに出演して非常に人気のある俳優だったそうだが、彼が出演した映画のタイトルなどを聞いても、自分の知る狭い知識の範囲では聞いたことのない名前ばかりだった。とても重要人物には見えず、テレビの中での彼の扱いに、ずいぶん違和感を感じたのを覚えている。
最近になって、ようやくその謎が解けたように思う。彼はおそらく現在でいうところの木村拓哉のようなポジションにあったのだろう。特別、歌が上手いわけでもなく、演技が優れているわけでもなく、何か才能があるわけでもない。しかし、商業的な演出と意図によって、時代を代表する重要人物であるかのように扱われている。同時代を生きた人間にとっては、そのポジションは理解しやすいが、世代がずれてくると存在意義そのものがぼやけてくる。おそらく自分より上の世代にとっては、加山雄三がそういった立ち位置にあったのだろう。
木村拓哉も、もう30台。最近の若い世代から見れば、充分なオッサンなのではないだろうか。自分がかつて加山雄三に感じたように、木村拓哉がVIP扱いを受けていることに違和感を感じる人達が、そろそろ出始めても不思議じゃないんじゃないかと思う。