名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

はじめに

このブログでは、名古屋大学公認サークルである名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会(Twitter : @TaroSF) が活動報告やレビューを行っています。

活動内容

 名大SF研は、読書・映画好きが集まっているサークルです。週一で例会&本の内容について語り合う読書会をおこなっています。また、小説(時に漫画や映画なども含む)のレビューを部員が書き、それらをまとめて載せたPIT(イベントごとに発行)やBIT(不定期発行)という名の部誌を作っています。PITに関してはサークル内でテーマを決めて書き、コミケや名大祭、文学フリマなどで頒布を行っています。

名大生の方へ

 現在も会員募集中なので、SFに興味がある名大生の方は下記連絡先やTwitterにてご連絡お待ちしています。他大学の方もお待ちしています。

通販のご案内

 名大SF研では、過去のPITや、本サークルのOBである作家・殊能将之さんの名大SF研在籍当時の原稿をまとめた『Before mercy snow』などの通販を行っています。

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連絡先

 不明な点がございましたら、nagoya.u.sfa[at]gmail.comまでご連絡ください。

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会について

 こんにちは。名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会です。
 名古屋大学に合格した皆さん、おめでとうございます。このブログでは、名古屋大学公認サークルである当サークルの活動について紹介します。

Q1. どんなサークル?
 SFやミステリ、幻想小説が好きな人が集まっているサークルです。本がメインですが、映画やアニメが好きな人もたくさんいます。
当サークルのOBには『ハサミ男』で有名な殊能将之さんなどがいます。

Q2. どんな活動をしている?
 例会と部誌発行が主な活動です。例会は週に一度おこなっています。例会では1~3か月かけて短編集を読み、感想を語り合います(比較的軽い感じなので敷居は高くないです)。最近の例会では『AIとSF』という短編集を皆で読んでいました。
 部誌発行は年3回ほどおこなっています。テーマを決めて、そのテーマに沿った作品のレビューを載せています。たまに部員の創作短編も載っています。部誌は名大祭やコミックマーケット文学フリマなどで販売しています。

Q3. 活動日は?
 現在の例会は毎週水曜日で、17:30から1時間くらいやってます。曜日は部員のスケジュールによって半年ごとに変わります。長期休暇中やテスト週間は例会はありません。

Q4. 会費は?
 会費は半年ごとに1,000円です。新しく入る部員は最初の半年は無料です。なお、例会で読む短編集は各自で購入することになっています(新しく入る部員の分の短編集は部費から払います)。

Q5. 人数は?
 例会は毎回10人くらいが参加しています。例会に参加せずに部誌へレビューを載せる人も結構います。部員の学部はさまざまで、文学部、経済学部、理学部、工学部、医学部など多様です。

Q6. 他大学のSF研との交流は?
 各地の即売会やイベントでたまに交流はあります。

Q7. 部室には何がある?
 大量の本とDVDと漫画が置いてあります。これらのほとんどは部員ならだれでも借りることができます。部室の場所は第一文化サークル棟の1階です(ちょっと分かりづらい場所にあります)。部室見学はいつでもできます。是非ご連絡ください。

Q8. 他大学の学生でも入れる?
 当サークルはインカレサークルなので、他大学の学生も大歓迎です。

Q9. 入りたいんだけど
 当サークルのメールアドレス(nagoya.u.sfa[at]gmail.com [at]を@に変換してください)やXのDM(@TaroSF)などからご連絡ください。4月初めに大学構内で地獄の細道というサークル紹介のイベントがあるので、そこで部員から直接話を聞くこともできます。他に聞きたいことや気になることがある方も、当サークルにご連絡ください。

トム・ハザードの止まらない時間(マット・ヘイグ)

トム・ハザードは約400年ぶりにロンドンへ還ってきた。歴史教師として。以前に彼がロンドンで暮らしていたのは16世紀末――彼は400年以上生きている「遅老症(アナジェリア)」なのだ。思い出のこの地で、トムはこれまでの人生を回顧する。生まれた地での魔女狩りシェイクスピアとの出会い、ペスト流行、太平洋航海、――そして遅老症の人々による謎の組織「アルバトロス・ソサエティ」への加入。この組織に加入させられてから、トムの状況は一変した。ある秘密の責務を負うこととなったのだ。自身の安全と、生き別れの娘マリオンに会う代償として……。悠久のごとく長い時間を生きる男の孤独と愛を描いた物語。

 新☆ハヤカワ・SF・シリーズは中国SFがきっかけでよく読むようになった。中国SFをあらかた制覇すると、『黒魚都市』『翡翠城市』『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』『とうもろこし倉の幽霊』『第六ポンプ』などの中国SF以外の作品もよく読むようになった。最近はあまり読んでなかったが、久しぶりに手に取ってみると分厚い二段組に懐かしさを感じた。
 
 奇妙な体質のため何百年も生きているトムは、各地を転々として人と深く関わらない生活を送ってきた。ロンドンで新たに歴史教師として働き始めたトムは、同僚のフランス語教師カミーユに段々と惹かれていく。
 また、トムは失踪した実の娘マリオンの行方も追っている。トムが若い頃(十六世紀!)に生涯ただ一度の結婚をして生まれた子で、トムと同じ遅老症だと分かり、ある日忽然と姿を消してしまった。以来、トムはアルバトロス・ソサイエティの力を借りてマリオンを探している。果たしてトムはマリオンに再会することができるのか、カミーユとの関係はどうなるのか、そしてアルバトロス・ソサイエティとは何なのか……。
 文章は読みやすく、合間に様々な時代・地域でのトムが描かれるので飽きることもない。劇的なシーンは少ないが、安定して面白く、長く生きた人ならではのトムの思考に考えさせられることもあった。今年読んだ本の中で今のところ一番面白い。(肇)

白亜紀往事(劉慈欣)

恐竜と蟻が、現代人類社会と変わらぬ高度な文明を築き、地球を支配していたもう一つの白亜紀。恐竜は柔軟な思考力、蟻は精確な技術力で補完し合い共存していた。だが、二つの文明は深刻な対立に陥り……。種の存亡をかけた戦いを描く、劉慈欣入門に最適な中篇

 以前出た『老神介護』に収録されている短編「白亜紀往事」の中編バージョン。大まかな内容と後半部分はほとんど変わらないので、既に短編のほうを読んでいる人はこちらを読まなくてもいいと思う。
 想像力豊かだが巨体のために細かい作業ができない恐竜と、機械のような精密さで働くが新たなものを生み出す力ができない蟻は、互いに協力して発展した文明を作り上げた。しかしだんだんと恐竜は蟻を軽んじるようになり、戦争が始まる。最終的に両者は和平するが、やがて恐竜の国同士でも対立がおこるようになり……。
 あんまり書くことない。申し訳ない。(肇)

波の音が消えるまで(沢木耕太郎)

サーフィンの夢を諦め、バリ島から香港を経由し、流木のようにマカオに流れ着いた伊津航平。そこで青年を待ち受けていたのはカジノの王「バカラ」だった。失った何かを手繰り寄せるようにバカラにのめり込んでいく航平。偶然の勝ちは必要ない、絶対の勝ちを手に入れるんだ――。同じくバカラの魔力に魅入られた老人・劉の言葉に導かれ、青年の運命は静かに、しかし激しく動き出すのだった。

 ギャンブルを主題にした小説は多いが、運要素の強いものをどうやって物語に組み込むかはなかなか難しいように思う。特に本作『波の音が消えるまで』ではバカラにのめりこむ男が描かれているが、バカラは「庄(バンカー)」と「閒(プレイヤー)」のどちらが大きな目を出すかを当てるという比較的単純な博打で、客は「どちら」に「いくら」賭けるかを選ぶことしかできない。そのため、作者が話に説得力を持たせるのは非常に難しいように思える(作者が賭けの結果を決めることができるから)。また、最終的にギャンブルで(大切なものを何も失わずに)大勝ちするストーリーはコメディタッチ以外の作品では早々お目にかかれないように感じる。本作も例にもれず、主人公である元カメラマンの航平も最後は全てを失うのだが、彼はただ賭けに勝つことを目的とせず、娼婦の李蘭や、バカラの先輩でもある劉さんとともに、「バカラの必勝法」を求めて賭けを続ける。

 バカラと合わせてこの小説を覆っているもう一つの要素、それは「自殺」であると言える。航平の父親は信用金庫に勤める真面目なサラリーマンだったが、金庫の金を使い込んで自殺した。金を工面するために一度帰国した航平が一緒に仕事をした元AV女優のユリアは、後に息子とともに心中した。劉さんの娘は、ホストの男に捨てられ電車に飛び込んだ。航平の写真の師匠の妻は薬物中毒で亡くなった。航平もバカラに段々と取り憑かれていき、一発勝負を繰り返したりパスポートを換金したりするなど、緩慢な自殺に近い生き方をするようになっていくと言える。

 本作はバカラと航平の過去とが混ざり合ってストーリーが進行していく。とても熱くとても切ない物語だが、それだけに、夢か現実かが曖昧になるような締め方をしてほしくはなかった。(肇)

仕掛島(東川篤哉)

岡山の名士が亡くなり、遺言に従って瀬戸内の離島に集められた一族の面々。球形展望室を有する風変わりな別荘・御影荘で遺言状が読みあげられた翌朝、相続人の一人が死体となって発見される。折しも嵐によって島は外界から孤絶する事態に。幽霊の目撃、鬼面の怪人物の跳梁、そして二十年前の人間消失――続発する怪事の果てに、読者の眼前に驚天動地の真相が現出する!
本屋大賞作家が満を持して放つ、謎解きの興趣とユーモアあふれる本格推理長編。

 今年二度目の孤島ミステリレビュー。わずか1か月半でかぶるのはなかなか珍しいかもしれない。
 『館島』と同じ系列の本作だが、読んでいなくても全く問題ない。僕も『館島』は昔読んだが、トリックの根幹だった館の構造くらいしか覚えていないし。東川作品特有の軽いノリ&ユーモア探偵with年下助手というおなじみの(?)ペア&伊坂幸太郎ばりのギャグパートに潜む伏線も健在である。


 以下ネタバレ。


 鷺沼博史=西大寺慶介は読めた。普段はミステリの犯人やトリック当てはまったくもって不得意だが、東川作品はほぼ網羅してるのでさすがに察せます。でも道楽和尚=北崎信也は分からなかった。
 「仕掛島」の名の通り、館には秘密通路や秘密の部屋があり、巨大な仕掛け絵本も登場する。使用人の小池夫妻が作中ほぼ空気だったので何か終盤にあるのかと思ったら何もありませんでした。孤島での料理人ポジションが必要だったのかもね。(肇)

マイノリティ・リポート(フィリップ・K・ディック)

プレコグ(予知能力者)の助けを借りて犯罪を取り締まる犯罪予防局が設立され、あらゆる犯罪行為を未然に防ぐことができるようになった。その結果、現実の殺人はこの5年起こっていない。そんなある日、犯罪予防局長官アンダートンが、いつものようにプレコグの予知を分析したカードをチェックしていると、その中に自分が翌週までにある男を殺すというカードを見つける。これは自分を陥れる陰謀に違いない。カードに細工をするには、内部に共犯者が必要だが、それは果たして誰なのか。新しく赴任してきたウィットワー、局の高官でもある妻のリサ、部下のペイジ、それとも…。警察に追われながらも真相に迫っていくアンダートンの前に、突然謎の男が現れる。
トム・クルーズ主演、スピルバーグ監督による映画化原作の表題作ほか、シュワルツェネッガー主演の映画『トータル・リコール』の原作「追憶売ります」など全7篇を収録。

 大学受験前の僕がよく聴いていたアルバムの一つに、UNISON SQUARE GARDENの『Dr. Izzy』があるのだが、そのアルバムの4曲目に、『マイノリティ・リポート(darling, I love you)』という曲がある。正直歌詞の意味はよく分からない(これは田淵が作詞した曲の多くに言えることだ)が、僕の好きな曲である。気になる人は是非聴いてみてね。ちなみに6曲目には『マジョリティ・リポート(darling, I love you)』もあり、こっちは多数派懐古厨のことを歌った曲である(?)。
 田淵が本作を読んだのか、映画を見たのか、はたまた名前だけ借りたのかは知らないが、僕がこの『マイノリティ・リポート』を手に取ったのはこの曲がきっかけである。


 久しぶりにディックを読んだが、表題作の「マイノリティ・リポート」をはじめ、ディックの小説は非常に読みやすい。それでいてアイデアもその魅せ方も非常にうまくて、感心するほかない。
 オススメは「水蜘蛛計画」。宇宙船を救うために、タイムマシンで過去のプレコグ(予知能力者)の元に行き、救助方法を予測してもらおうと画策する移住局の三人。実はプレコグとはSF作家のことで、移住局の三人は「SF小説の内容が論文として扱われ、実現している世界」の住人なのだ。内輪ネタ満載のコメディで、オチもしっかりついている。(肇)

紅雀(吉屋信子)

勝気な美少女・まゆみと幼い弟は、突然両親を亡くし、たまたま居合わせた男爵家の家庭教師に引き取られるが――。悲運に負けず、自らの手で人生を切り開くまゆみの姿に、日本中の乙女たちが熱狂した傑作!

 京都の丸善に行ったときに気になっていた本その3。勝気だが繊細な姉のまゆみと、誰からも可愛がられる弟の章一。天涯孤独となってしまった姉弟は、それを哀れんだ若い女家庭教師・純子が働いている辻男爵家に引き取られる。心優しい未亡人・由紀子、その息子でやや神経質な若き当主・珠彦、そして妹の綾乃たちとともに、姉弟は生活することとなる……。
 作中にはまゆみを快く思わない人たちも登場する。綾乃の同級生の成金娘・利栄子や辻家に仕える老女の槇乃である。まゆみはこの二人に心を傷つけられることが多く、ついには章一を残して家出をしてしまう。このあたりにまゆみの気の強さと不器用さがよく表れている。一方で、同じく綾乃の同級生の篤子のように、ミステリアスなまゆみを信奉するようなキャラクターも登場する。最初はまゆみを快く思っていなかった珠彦も、まゆみの音楽や乗馬の才能を見て段々と惹かれていく。
 まゆみの家出から物語は大きく動き出すのだが、以降は結構な駆け足&超展開で進んでいく。純子の初恋エピソードからまゆみと章一の両親の話まで盛りだくさんである。個人的には序盤のほうが好きだけれど、若干詰め込んだ感のある後半も嫌いではない。最後はまゆみが辻家に戻り、珠彦と婚約してハッピーエンドで終わる。
 僕が昔読んだ『花物語』と同じく少女小説だが、『花物語』が少女同士の淡い恋物語を描いたのに対して、こちらは正統派の成長物語である。(肇)