リンダとTsunamiと上をむいて歩こう

2009年秋から東京のアメリカ大使館で仕事をしていたリンダが任期を終えて帰国するというので、先週末に送別会があった。
リンダは国務省:State Departmentの職員、身分は外交官。年齢を聞いたことはないけど多分”アラフォー”。ノリのいい気さくな女性だ。2年前、日本に赴任する直前に日本語の練習パートナーを務めて仲良しになった。

リンダの他にも国務省には何人も友人が出来たが、誰も個性的で面白い人ばかり。聞くと、なるべく多彩な人材を集めるという省の方針があって、他の分野で経験を積んだ人材を集めている。以前はメガバンクのディーラーだったとか、コンピュータのシステムエンジニアだったとか、教師だったとか経歴はさまざま。リンダはもとUnited Airlinesのフライトアテンダント。成田勤務の経験があって、初めて会ったときにすでに日本語はかなり堪能だった。

海外に派遣する職員は、任地の言葉を半年から1年間しっかり勉強して、最終試験に受からないと派遣しないというのが国務省の方針。私はリンダの最終試験の準備を手伝ったというわけ。試験は、その場で日本の政治・社会・経済などからテーマが出されて、準備時間5分の後、日本語で5分間、起承転結のあるスピーチをするなど、3つの課題を半日でこなす。かなりハードルの高い試験だった。もちろんリンダはすんなり合格して、2009年夏に東京へ赴任していった。

そのリンダが任期を終えて、もう帰国になる。Time flies...

リンダの送別会は、夜8時から六本木のカラオケ店でスタート。参加者30人くらい。私と同様ワシントンにいるときに知り合った別の友人と、あと大使館員の奥様という3人を除くと、あとは全員アメリカ人。リンダの同僚の大使館職員だ。平均年齢30代から40代。アメリカ人のカラオケ大会、ちょっと興味津々で参加した。

夜8時過ぎ、参加者が8割方そろった頃合いに、いきなり主役のリンダ本人による「マイケル・ジャクソン・メドレー」でカラオケパーティがスタート。のっけからノリノリだ。男女比だと男性6割超の感じの参加者が、次々ノリのいい曲を歌っていく。ロックあり、カントリーあり、ボンジョビあり、マドンナあり、シャキーラあり、ビートルズあり、ローリング・ストーンズあり。もちろん基本的に英語の曲。iPhoneなどスマートフォンの画面をライトにしてペンライトみたいに腕をふったり、ノリのいい合いの手を入れたり。みんなカラオケ大好きで盛り上がるのよ、とは聞いていたけど、ホントだ。

1時間くらいたった頃、日系人の大使館スタッフが入れたらしいブルーハーツの「リンダ リンダ」が始まる。サビのところはひたすら「リンダ、リンダ」なので、全員で大合唱。日本にはリンダにぴったりの曲があったんだ! 

この辺までカラオケには参加してなかった私、「そういえば、日本にはもう1曲、『リンダ』あったよね」とふと思いついて、アン・ルイスの「リンダ」を選曲。歌詞を覚えていたわけでなく、タイトルの「リンダ」と後半が英語だったよなと思って選んだのだけど、竹内まりやが親友アン・ルイスの結婚祝いに送った曲は、なんと最後に:
Before you walk away, just remember I will always be your friend.
と、送別にはぴったりの歌詞がついていた。ラッキー!

Good Job! と周囲から声がかかって、カラオケ苦手な私も無事に役割を果たした気になっていたとき、誰が選んだのか『上を向いて歩こう』が始まった。意外にも、全員が日本語の歌詞で大合唱になった。さすがに東京勤務のアメリカ大使館職員、「上を向いて歩こう」くらいは歌えるらしい。というか、震災後の日本の応援歌になっている曲だから、ということだったらしい。

このあとで、アジア系アメリカ人の男性が私のところへやってきて「ケイスケ・クワタのTsunamiが好きで歌いたいんだけど、気を悪くしませんか?」と聞かれた。

なるほど... あの震災以来、Tsunamiは御法度な曲になっているのか? 「いや、もちろん気にしませんよ。全然別の意味で使っているわけだし。でも気にしてくれてありがとう」みたいな会話があって、彼はTsunamiを入力したんだけど、15曲も先の予約になっていた。同行した友人が早めに帰るというので私は一緒に席を立ってしまい、その後のTsunamiがどうなったか、いつまであのノリノリのカラオケが続いて、最後はどんな風に盛り上がって終わったのか見届けることができなかった。ちょっと残念。

残念と言えば、カラオケパーティでは、ほとんど話ができない。派手に騒ぎまくっていたアメリカ大使館職員のみなさん、震災直後のメールのやりとりでは救援隊の後方支援などでめちゃくちゃ忙しく、1日16時間勤務だ!などと聞いていたので、少し話を聞きたいと思っていた。でも、大音響のカラオケでは、とても話などできなかった。またの機会に。

リンダはこのあと、しばらくワシントン勤務。その後はどこに行くか、まだ分からない。日本の前にはインドにいた。彼らは、難しい国(発展途上国とか反米感情が強い国とか)の勤務を終えると働きやすい国(主に先進国)を選べる、というローテーションで働いている。日本は「働きやすい国」に分類されているそうだ。次はまたどこか、ちょっと「難しい国」に行くことになるのだろう。地球のどこかで、また会えますように。