『成功する自転車まちづくり(仮)』執筆中

  5月28日に書いた古倉宗治さんの原稿、スタッフのKさんが綺麗な初校に仕上げてくれた。是非、早く本し仕上げて出したい。
 5月28日には「自転車を生かしたまちづくり(仮)」と紹介したが、会社から「地味」とさんざん言われ、『成功する自転車まちづくり〜政策と計画のポイント』としようか、だが、ちょっと知恵不足かも?、というところだ。


 書名をどうするかはともあれ、中身は、自転車利用で健康で快適で、そしてCO2も削減するまちづくりに取り組む自治体、NPOなどの方に役立つことを目ざした本だ。
 自転車がブームとは言え、他部局や市民の共感を得るのは容易ではない。特にこれからの焦点と古倉さんが主張する自転車通勤奨励に企業の賛同を得るのは大変だ。
 そのための説得ネタもたくさん入っている。
 僕が感心した点を幾つか書き出してみよう。

自転車は健康に良く死亡率が40%違う

 自転車は健康に良いということは常識化してきているが、非自転車通勤者は自転車通勤者に比べて死亡率が39%も高いというイギリスの公式見解には驚いた。
 これがイギリスに特殊な話ではないとすると、従業員や学生の健康を守りたければ企業や大学は禁煙・分煙対策と同じぐらいの熱心さで自転車通勤を奨励しなければならないということだ。

自転車の客は良客

 古倉さんの調査によれば郊外ショッピングセンターに行くお客さんは、確かに一度にたくさん買い物をするが、月に数回しか行かない。たいして自転車のお客さんは一回の買い物額は少ないが頻度が多い。
 だからある調査では、郊外の車のお客さんが1万905円/週に対して、自転車のお客さんは1万2549円だったという。
 『中心市街地の想像力』で宗田さんが言っていることだが、京都の中心市街地の調査では、車が一台増えると歩行者が三人減るという。沿道のお店にとって、車は買い物をしないが歩行者は買い物をしてくれるかもしれない。自転車も短時間は無料の駐輪場があれば気軽に店に寄ってくれる。
 自転車客は良客なのだ。

自転車は安全

 もともと、自転車の事故率は車の1/50しかない。安全と言われる列車よりも、さらに安全だという調査結果がEUの機関から出ている。
 自転車が危ないというのは、轢いてしまったら損という車のドライバーが作り出した神話にすぎないと僕は思う。

多いのは歩道上の事故

 歩道の事故をいうと、傍若無人な自転車が歩行者を引っかけるといった事故が多いと思われるだろう。
 たしかにそういう事故もある。古倉さんの資料では1807件(2001年、ただいこの10年ほどで急増し、2009年には2934件、京都新聞2010.6.28)。


 しかし、多いのは駐車場や脇道から出てくる車に跳ねられる例で1万件以上だという。
 一方、歩車道の区分がある道路の車道で起こっている事故は2万2000件ほど。ただし、車道を走っている自転車が後ろから来た車にはねられた例は5000件ほどしかない。
 残りの大部分は脇道からの車にはねられたもので、一種のミニ交差点における事故だ。
 そして本名の交差点はなんと12万件。
 だから交差点が一番危ない。

ふらつき事故も極めて少ない

 さて、その車道上の事故だが、自転車のハンドルミスは事故原因の2%しかない。
 自転車の6割、車の8割が相手を見逃したもの、残りが判断ミスだ。
 なぜ、見逃すのか?
 たとえば駐車車両がないときは左端を走り、駐車車両があるときは中央よりに出るのが危ない。左端によっている自転車を車が見逃してしまうからだ。だから、駐車車両がなくなっても多少の距離なら左端に寄らず直進するに限る。

交差点での事故の原因

 日本では交差点を直進せず、横断歩道を押してわたることになっている(ただし歩行者がいないときに限り、乗ってわたっても良いそうだ)。
 だが、これは守れないと僕は思う。
 だからか、歩道から横断歩道の自転車通行帯に乗り込んだり、車道を直進せずに左折してから通行帯付近で右折して横断しようとする自転車があるが、これが一番危ない。事故が多発している。なぜなら、車が自転車の動きを認識出来なかったり予測できなかったりするからだ。
 ここは、直進するしかない。そのほうが安全だ、と僕は思う。
 本当は諸外国のように直進レーンを設けるのが事故対策には一番だという。古倉さんは、せめて交差点だけでも直進用の専用レーンを設けるように提言している。

専用道だけが解決法ではない

 自転車専用道によるネットワークが完備している国は、世界中を探してもどこにもない。自転車先進国で多用されているのは共用道だ。それも自転車レーンがきちんと取られているとは限らない。単に自転車も走る道だと注意を喚起しているだけの道もある。
 専用道、共用道を併用してでも比較的安全な道をネットワーク化しているのが世界の潮流だという。


 たいして日本はと言うと、専用道の工事をあっちで少し、こっちで少しやり、しかも歩道上に作ったりしている。いくら歩行者に自転車通行部分に立ち入らないように法律で促しても、誰も守らない。無理というものだ。


 自転車は車輌なのであり、本来、車道を走るのが道路交通法の基本だ。
 当てれば大事故につながる自転車が車と一緒に走っているのだから、自転車も車も気をつけるしかない。
 実際、世界的にみると自転車利用が多いほど、利用距離当たりの事故数は減っているという。ようは適度な緊張が事故を減らすということだ。


 そして、嬉しいことに、そういう対策なら、土地買収費も土木工事費もたいしていらない。
 考えを変えるだけ、道路の使い方を変えるだけで、劇的に改善できるということだ。財政当局が公共工事費を増やしたかった時代ならともかく、今ならこれは説得材料として好都合だろう。

自転車政策も高度成長的発想からの脱却を

 書き上げたらきりがないほど発見に富んだ本だが、このあたりで止めておこう。
 出版時にまた紹介したい。それに私の独断と偏見を信用せず、読んで頂きたい。読む人によって発見は無限にあると思う。


 最後に付け加えたいのは、自転車政策もいい加減に高度成長期を脱して欲しいということ。
 昔は車に乗っている人は国の発展を担う英雄だった。だから「よい子は道で遊ばない」のだし、つい10年ほど前に僕が受けた免許書き換え時の講習では、国道を走っている自転車のスライドを示し、「こんな奴らを轢いて一生をダメにするな」と強調していた。


 だが、もうそんな時代じゃない。車もゆっくり走れば良いのだ。自転車を歩道から閉め出し車道に戻す。そしてドライバーに道路は自転車のものでもあることを知ってもらうとともに、車線を見直し、自転車の優先通行帯を整備して行って欲しいものだ。



 

 写真解説;烏丸今出川交差点の同志社前。こんな狭い歩道で、しかもバス停があるところは自転車は車道を走るべきではないか。
ちなみにこの道はLRTを通せないかというので車線を減らす社会実験もしていた。当面LRTはできそうにない。
ならば自転車走行レーンをとるか、せめて自転車・バス優先レーンとするなど、考えるべきだと思う。
 


 

 写真解説;御池通は地下鉄工事のあと歩道が拡幅され自転車道が歩道上にとられている。左の写真のタイルの色でラインがなんとなく見えると思うが、その向こう側だ。しかし、あまり守られていない。
 まして地下駐車場の出入口があるところでは右の写真のように歩道が狭くなり、自転車は事実上行き場がなくなる。
 物理的に分離しようという話もあるようだが、このまま分離すると、こんなに広い道なのに歩道がせせこましくなる。
 一方、右の写真のタクシーは、走っているのではなく休んでいる。ここに限らず左端の車線は駐停車の車に占領されている。ならば違法な車を追い出せば、自転車の走行レーンをとっても渋滞は起きないはずだ。


 京都の改訂自転車総合計画を評した京都新聞の社説(2010.6.28)は、自転車走行空間は国内に8万1千キロあるが、そのうち歩行者と自転車が分離された自転車道等は2900キロしかないことを指摘し、自転車道の設置の必要性と自転車のマナー改善を訴えていた。
 やはり、ここにも車と自転車の共存という視点はない。一日も早く、1人でも多くの人に、自転車は車道を走るほうが安全という科学的な事実を知ってもらいたい。




○本ができたらお知らせします。
 ご希望の方は「成功する自転車まちづくり刊行情報希望」とお書きいただき、前田裕資(maeda@mbox.kyoto-inet.or.jp)にメールください。