久繁哲之介『地域再生の罠』に反論する(3)富山市のコンパクトシティ政策は失敗か

富山市も繁華街は著しく衰退

 久繁さんによると
 富山市は前例依存体質で、中心市街地活性化基本計画やコンパクトシティにいち早く飛びついたが(p154)、繁華街は著しく衰退しており、駅前も単純ににぎわいがあるとは言い難い。繁華街には廃墟ビル、空き地、駐車場が多く、商店街には空き店舗が多いと言う(p149〜150)。
 だいたいコンパクトシティは、老いも若きもアクティブで、交流することが好きな西欧から生まれた政策で、価値観の違いを無視して、表面だけを模倣して日本に持ち込む土建工学者、あまりに心ないと批判されている(p153)。

富山市の政策の評価には時間がかかる


 富山市LRTをいち早く導入し、串(公共交通)と団子(歩いて暮らせる町なか)型のコンパクトシティ構想を打ち出したことで、コンパクトシティ政策の先進事例とはされている。
 僕が携わった本でも『改訂版・まちづくりのための交通戦略』など、交通系を中心に何冊かで紹介している。


 しかし、もっとも郊外化が進んでしまった、DID人口密度が低い街の一つであることも周知の事実であり、『改訂版・まちづくりのための交通戦略』でも前提としてきちんと書いている。
 あまりに郊外化が行き過ぎたので、舵を切ったというところで、今、町なかに賑わいがないからといって、始まったばかりの政策が失敗したとは言えない。

活性化は高度成長期の復活ではない


 また瀬田さんが『広域計画と地域の持続可能性』の第3章で強調しているように、富山市の計画は、それが実現できたとしても、「かつての賑わいは取り戻せないものの、都市機能はそれななりに揃い、自然も豊かな中都市の生活を、高齢者になっても安心して、またリーズナブルなコストで享受できる」ことを目ざしているにすぎない。


 持続可能性とはそういうことだ。札束が舞った時代。客が行列をつくっていた時代を取り戻すことではない。

郊外で車に乗らない人の足を確保できるか

 また車に乗らない僕には体感的に理解できないし、実際、郊外に住む親が車に乗れなくなりそうで真っ青なのだが、久繁さんが言うように地方都市の郊外にも魅力があり、ましてや田舎に魅力があること、それを愛する人たちがいること(p151)は、その通りだろう。
 人はそれぞれ好きずきでよい。


 しかし、久繁さん自身が指摘するように「車を運転しない高齢者が街中で元気に外出するためには、移動する手段としての足が必要」(p152)であることは自明だ。まして郊外なら、車を運転できなくなったら、お先真っ暗だ。



 それとも久繁さんは、郊外の生活交通を立て直す具体案があるのだろうか。
 土建工学者の方々にも、そのために汗水流しておられる方がいるが、簡単ではない。


 だから、廃れたと言っても郊外よりは人口密度が高い町なかを立て直すことには、公共性があると思う。郊外にこれ以上、住宅や商業施設が広がり、将来に禍根を残すことに歯止めをかけることは必要だと思う。

冷静かつ総合的な議論を

 しかし、それがなんで、岐阜駅前に超高層ビルをぶったてることとイコールなのか。
 コンパクトシティは久繁さんが言うように外来語であり、まだ咀嚼されていない。
 だからそういうものも、コンパクトシティの名の下に行われることもあるだろう。だからといって、すべてがそうであると決め付けるのは止めて欲しい。

 
 注:
 とはいえ岐阜の事情は全く知らないので、是非の判断は保留したい。
 ただ、コンパクトシティは持続可能性の議論とともにあることを忘れてもらっては困る。
 CO2に限らず、環境の持続可能性、社会や経済の持続可能性を高めることが目的だと思う。そのためには、いままで中心部に蓄積された人的、物的、産業的なストックを活かすことが大切だろう。
 もちろん路面電車もその一つだ。
 しかし批判するのであれば、もっと総合的に、かつ根拠を示しながら説明してくれないと、「路面電車を撤去して高層ビルを建てるのはけしからん!!、ネーミングライツも安売りだ!」だけでは、飲み屋で気勢をあげているって感じじゃないか。



 注2:
 富山市については、蓑原敬さんが『街は要る!』(2000年)でとりあげている。
 学者ではないかもしれないが、学者以上に影響力がある土建工学界のオピニオンリーダーだと思う。


 で、そのなかで、富山市の今後とるべき方策としてコンパクトな街づくりを提言しているが、久繁さんがいうように「中心部に箱物をどんどんつくれ」なんて書いていない。


 この本では駅南北一体化と大手町・総曲輪をのぞき都市軸上の整備はほぼ完了し、かつ軸上の概念ではない、広がりをもった圏域になっている。もはや公共主導でその圏域をうめていくという発想はとれないとし、ストックの保全と活用、民間の建物更新等のマネージメントを訴えている。
 もちろん路面電車をふくめた公共輸送機関のサービスの充実も書かれている。
 品切れなので中古を買っていただくしかないが、今なお古びない内容だ。


 注3(追補):
 p165では上勝町の葉っぱビジネスも、黒壁も1980年代後半の取り組みを、土建工学者は2000年代後半になってから、「突然」こぞって推奨していると馬鹿にしているが、三橋重昭さんのメルマガを読んでいると、彼がはじめて黒壁を知ったのは1991年9月に社団法人コミュニティ・マートセンターから発行された冊子『街づくり会社』(編集委員石原武政、大川陸、西郷真理子、福川祐一)だったそうだ。
 黒壁の設立は1988年だから、結構めざとい。というか、何人かは設立前後から関わっておられたのだと思う。商業系学者の石原さんをのぞくと、立派な土建工学者だ。「突然」と思うのは、久繁さんが知らないだけじゃないか。


(続く)


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