ラ・ボエーム(バーデン市劇場)

 9月23日にびわ湖ホールにウィーンの森・バーデン市劇場のラ・ボエームを見に行った。


 バーデンはウィーン郊外の温泉保養地で、映画『アマデウス』で、保養中だった妻コンスタンツエが、モーツァルトの身に何かが起こっているのではと不安になり、馬車で急いでウィーンに向かう印象的なシーンがある。あの保養地がバーデンだ。


 ベートーベンが結構長い間住んでいた街でもある。


 そのためか、たったの人口2万数千人なのに、市営の劇場とオーケストラ、そして合唱団を抱えている。訪ねたときは公園でオーケストラが無料コンサートを開いていた。また劇場ではオペレッタをやっていて、初めて海外で本物を見ることができた。


 言葉はさっぱり分からなかったが、ブラスバンドが出てくる場面では、街のおじいちゃん、おばあちゃんが参加しているのか、会場が大いに沸いていたのが印象的だった。


 そのバーデン市劇場が外部からソリストを呼び、オペラの公演に来日している。今年で15周年だそうだ。
 昨年のドンジョバンニが結構安くて良かったので、今年も期待に胸を膨らませていったのだが、席があまりにも悪かった。


 4階の左端の席なのだが、普通に腰掛けると舞台がまったく見えない。
 前屈みになれば半分ぐらいは見えるし、ほとんどの人は身を乗り出して見ているのだが、間が悪いことに連れの左隣の人が行儀が良いのか、背が高いからか、しゃんと背筋を伸ばして見ている。連れが前屈みになると、その人の視線を遮るから、行儀良くしているしかない。だから何も見えない。


 というわけで、連れの機嫌がすこぶる悪い。休憩時間になるとどこかに行ってしまった。
 ようやくラウンジでみつけると、3階に行こうという。
 S席の後方ががら空きだったからだ。



 許光俊さんの『オペラに連れてって! 完全版』によると、席の移動の「コツは風林火山、風のように素早く移動し、林のように人にまぎれ、火のような情熱で、山のようにどっしり座ることだ」というが、僕たちは素人のなのでそうはいかない。


 いかにも空いてますって感じのところにポツンと座ったので、劇場のお姉さんにめざとく見つけられてしまった。


 だが怒っているときの連れ合いは負けない。注意をしにきたお姉さんに、「あの席はなんだ」「全く見えない」と反撃する。こちらに火の粉が降りかかりそうになったときに、幸いにも暗転し、お姉さんはしかたがなく去っていった。


 4階の端の席を見てみると、姿勢を正して行儀良く見ていた左隣の人も消えていた。ひょっとして、なにも見えていなかったのだろうか。


 ラ・ボエームは一幕、二幕が「出会い」と「喜び」、幕間のあと、三幕、四幕が「別れ」と「死」という構成だ。
 席を変わって舞台はよく見えるようになったが、「別れ」と「死」だけ見て縁起が悪いと連れ合いは終わってからも怒っていた。


 来月、見に行くトリスタンとイゾルデも同じような席しかとれなかった。
 今日よりは少しはマシだが、たいして変わらない。う〜、頭が痛い。


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