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2018-04-17 『大脱出』

[][][]『大脱出――健康、お金、格差の起原』(Angus Deaton[著] 松本裕[訳] みすず書房 2014//2013)

原題:THE GREAT ESCAPE: Health, Wealth, and the Origins of Inequality
著者:Angus Deaton(1945-)
訳者:松本 裕

【目次】
目次 [003-006]
はじめに [007-013]

序章 本書で語ること 014
映画『大脱走』/経済成長と格差の起原/所得だけでなく健康も/発展はどのようにして起こるのか?/なぜ格差が問題なのか?/ロードマップ/発展を測り、格差を測る/国民幸福度と国民所得

第1章 世界の幸福 037
健康と財産/世界の平均余命と所得/壊滅的な中断を経ながらも、前へ上へ/世界的貧困と世界的格差/人々は自分の暮らしをどう見ているのか?/精神の幸福

第I部 生と死
第2章 有史以前から1945年まで 072
アメリカ合衆国に見る生と死の基本的概念/有史以前の生と死/啓蒙時代の生と死/1800年―1945年

第3章 熱帯地方における死からの脱出 115

第4章 現代世界の健康 140
高齢者も脱出できる/グローバル時代の健康/変わりゆく身体

第II部
第5章 アメリカの物質的幸福 182
アメリカの経済成長/アメリカにおける貧困/アメリカにおける所得の分配/労働の格差/政治と格差/収入と家族/アメリカの高所得者/何があったのか、そしてそれがなぜ重要なのか?

第6章 グローバル化と最大の脱出 235
世界を測定する/世界の成長/成長、健康、そして人口爆発/世界の貧困/世界の所得格差

第III部 助け
第7章 取り残された者をどうやって助けるか 284
物質的援助と世界的貧困/援助についての事実/援助はどのくらい効果があるのか?/開発プロジェクトの有効性/援助と政治/医療援助は別なのか?/私たちは何をするべきか?

あとがき これからの世界 [346-351]
原注 [vi-xxi]
索引 [i-v]

2018-04-13 『英米人のものの見方を理解するための教養の英語』

[][][]『英米人のものの見方を理解するための教養の英語』(臼井俊雄 ベレ出版 2013)

【目次】
はじめに(2013年秋 臼井俊雄) [003-005]
目次 [006-010]

Chapter 1 英米人の精神的根底にあるもの
1 現代社会における聖書の影響とは? 012
(1) 9・11テロ事件後の標語“UNITED WE STAND”はどこから来たのか? 012
(2) アメリカ独立運動の「自由の歌」と諺 013
(3) やはり聖書に由来した 014
(4) ギリシャ・ローマ時代のものの見方や考え方も聖書に引き継がれている 016
2 聖書やシェイクスピアなどに由来する諺 018
(1) 諺は民族の文化や考え方が濃縮された表現である 018
(2) 英語の諺を由来別に見てみよう 019
  (a) ギリシャ・ローマ時代に起源を持つ諺 
  (b) 聖書に由来する諺 
  (c) シェイクスピアに由来する諺 
  (d) その他に由来する諺 
3 アメリカ大統領 就任演説と聖書 027
(1) リンカーン第16代大統領 第2期就任演説 027
(2) ジョン・F. ケネディ第35代大統領 就任演説 027
(3) ジョンソン第36代大統領 就任演説 028
(4) ニクソン第37代大統領 第1期就任演説 029
(5) フォード第38代大統領 就任演説 030
(6) カーター第39代大統領 就任演説 031
(7) レーガン第40代大統領 第1期就任演説 031
(8) クリントン第42代大統領 第1期就任演説 032
(9) クリントン第42代大統領 第2期就任演説 032
(10) ジョージ・W. ブッシュ第43代大統領 就任演説 033
(11) ジョージ・W. ブッシュ第43代大統領 第2期就任演説 034
(12) オバマ第44代大統領 第1期就任演説 034

Chapter 2 アメリカの誕生
1 台頭するアメリカの光と影 038
(1) 自由・平等の基本的人権を掲げた独立宣言 038
(2) 南北戦争と奴隷解放宣言 039
(3) 人種差別を抱えて発展するアメリカ 041
(4) キング牧師とケネディ大統領の登場 042
2 押さえておくべき重要事項・名言 044
(1) 独立宣言 044 
(2) アメリカ合衆国国歌 046
(3) 奴隷解放宣言 048
(4) ゲティスバーグ演説 050
(5) ケネディ大統領就任演説 052
(6) アポロ計画 054
(7) キング牧師のワシントン大行進演説 056

Chapter 3 聖書を知れば英語はもっとわかる
1 聖書とは何か 062
(1) 代表的な英語訳聖書 062
(2) 旧約聖書 063
(3) 新約聖書 066
2 聖書の重要場面・名言・諺・イディオム 069
(1) 旧約聖書 069
  [1]創世記 069
  [2]出エジプト記 093
  [3]レビ記 102
  [4]民数記 103
  [5]申命記 104
  [6]士師記 105
  [7]サムエル記 上 109
  [8]サムエル記 下 114
  [9]列王記 上 120
  [10]列王記 下 123
  [11]歴代誌 下 125
  [12]ヨブ記 127
  [13]詩篇 132
  [14]箴言 141
  [15]コヘレトの言葉 152
  [16]イザヤ害 160
  [17]エレミヤ書 167
  [18]エゼキエル書 168
  [19]ダニエル書 170
  [20]ホセア書 173
  [21]ヨエル書 173
  [22]アモス書 174
  [23]ミカ書 176
(2) 新約聖書 178
  [1]マタイによる福音書 178
  [2]マルコによる福音書 222
  [3]ルカによる福音書 226
  [4]ヨハネによる福音書 236
  [5]使徒言行録 242
  [6]ローマの信徒への手紙 245
  [7]コリントの信徒への手紙1 248
  [8]コリントの信徒への手紙2 252
  [9]ガラテヤの信徒への手紙 253
  [10]エフェソの信徒への手紙 255
  [11]フィリピの信徒への手紙 255
  [12]テサロニケの信徒への手紙1 256
  [13]テサロニケの信徒への手紙2 257
  [14]テモテヘの手紙1 257
  [15]テトスヘの手紙259
  [16]へプライ人への手紙260
  [17]ヤコブの手紙 261
  [18]ペテロの手紙1 262
  [19]ヨハネの手紙1 263
  [20]ヨハネの黙示録 264

Chapter 4 シェイクスピアを楽しむ
1 シェイクスピア雑感 270
(1) できちゃった結婚 270
(2) 簡潔は機知の精髄 274
(3) To be, or not to be, that is the question.  276
(4) 生まれ故郷ストラット フォード アポン エーボン 276
(5) 関連するイギリスの歴史  277
2 シェイクスピア作品一覧 281
(1) 歴史劇 281
(2) 悲劇 281
(3) 喜劇 282
(4) ロマンス劇 282
(5) 詩作品 282
3 シェイクスピアの名言・諺・イディオム 283
(1) 悲劇 283
  [1]ハムレツト 283
  [2]マクベス 290
  [3]リア王 293
  [4]オセロー 295
  [5]ロミオとジュリエツト 297
  [6]ジュリアス・シーザー 299
  [7]アントニーとクレオパトラ 302
  [8]トロイラスとクレシダ 305
  [9]アテネのタイモン 307
  [10]タイタス・アンドロニカス 308
  [11]コリオレイナス 309
(2) 喜劇 310
  [1]ヴェニスの商人 310
  [2]お気に召すまま 313
  [3]空騒ぎ 316
  [4]十二夜 319
  [5]ウィンザーの陽気な女房たち 321
  [6]頁の夜の夢 322
  [7]終わりよければすべてよし 323
  [8]尺には尺を 325
  [9]ヴェローナの二紳士 326
  [10]じゃじゃ馬ならし 327
  [11]恋の骨折り損 328
  [12]間違いの喜劇 329
(3) ロマンス劇 330
  [1]テンペスト 330
  [2]シンベリン 331
  [3]ペリクリーズ 332
  [4]冬物語 334
(4) 歴史劇 335
  [1]ヘンリー4世 第1部 335
  [2]ヘンリー4世 第2部 336
  [3]ヘンリー5世 338
  [4]ヘンリー6世 第1部 339
  [5]ヘンリー6世 第2部 340
  [6]ヘンリー6世 第3部 340
  [7]ヘンリー8世 342
  [8]リチャ−ド2世 342
  [9]リチャード3世 344
  [10]ジョン王 346

付録 
1 初期近代英語のミニ文法 350
 (1) 二人称の代名詞 
 (2) 動詞 
 (3) 助動詞 
 (4) 二重比較、二重最上級 
2 聖書に登場する主要な人物名 356
  (a) アダムからイエスに至る主要登場人物の系図
  (b) 聖書に登場する人名等など

参考辞書・書籍 [364-365]
あとがき [366]



【抜き書き】

   参考辞書・書籍
1. The Holy Bible, King James Version, Zondervan 2002.
2. WR. F. Browning, A Dictionary of the Bible, Oxford Univ. Press 2009.
3. J. Brown et al. ed., The Complete Guide to Christian Quotations, Barbour Publishing 2011.
4. E. Knowles ed., Oxford Dictionary of Quotations, Oxford Univ. Press 2009.
5. J. Speake ed., The Oxford Dictionary of Proverbs, Oxford Univ. Press 2008.
6. J. Law ed., The Penguin Dictionary of Proverbs, Market House Books 2000.
7. U. McGovem et al. ed., Dictionary of Quotations, Chambers Harrap Publishers 2005.
8. N. Rees, Brewer's Famous Quotations, Chambers Harrap Publishers 2009.
9. J. Armstrong, The Arden Dictionary of Shakespeare Quotations, Bloomsbury Publishing 2010.
10. G. B. Evans et al. Ed., The Riverside Shakespeare, Wadsworth 1997.
11. J. Bate and E. Rasmussen Ed., William Shakespeare Complete Works, Macmillan Publishers 2008.
12. D. Crystal and B. Crystal, Shakespeare's Words, Penguin Books 2004.
13. C. T. Onions, A Shakespeare Glossary, Oxford Univ. Press 1986.
14. 竹林滋・東信行・寺澤芳雄・安藤貞雄・小島義郎・河上道生 編著『新英和大辞典』研究社 2002.
15. 小西友七・南出康世 編著『ジーニアス英和大辞典』大修館書店 2001.
16. 安藤貞雄 編著『英語イディオム・句動詞大辞典』三省堂 2011.
17. 荒井献・池田裕 編著『聖書名言辞典』講談社 2004.
18. 外山滋比古 他編『英語名句辞典』大修館書店 1984.
19. 戸田豊 編著『現代英語ことわざ辞典』リーベル出版 2004.
20. 曾根田憲三、ケネス・アンダーソン『英語ことわざ用法辞典』大学書林 1996.
21. 苅部恒徳・笹川壽昭・小山良一・田中芳晴『徹底解明欽定英訳聖書初版マタイ福音書』研究社 2002.
22. 盛田義彦『聖書英語の研究』英宝社 2013.
23. 中尾俊夫・寺島廸子『図説英語史入門』大修館書店 2009.
24. 小野捷・伊藤弘之『近代英語の発達』英潮社フェニックス 2009.
25. 寺澤芳雄 編著『名句で読む英語聖書』研究社 2010.
26. 小野経男『聖書に由来する英語員用句の辞典』大修館書店2011.
27. デイビツド・クリスタル著、橋本功・八木橋宏勇訳『聖書起源のイディオム』慶応義塾大学出版会 2012.
28. 西尾道子・バーバラ片岡『旧約聖書の英語』講談社 2000.
29. 西尾道子『新約聖書の英語』サイマル出版会1990.
30. ベンジャミン・ウッドワード編著、中村直子訳『英語で読む旧約聖書』ジャパンタイムズ 2010.
31. ベンジヤミン・ウッドワード編著、中村直子訳『英語で読む新約聖書』ジャパンタイムズ 2010.
32. 西森マリー『聖書をわかれば英語はもっとわかる』講談社 2013.
33. 木下和好『聖書がわかれば英語がわかる』ダイヤモンド社 2001.
34. 石黒マリーロ−ズ『聖書でわかる英語表現』岩波書店 2011.
35. 大島力 監修『図解聖書』西東社 2012.
36. 土井かおる 監修『よくわかるキリスト教』PHP研究所 2012.
37. 荒井良雄,大場建治・川崎淳之助 編著『シェイクスピア大事典』日本図書センター 2002.
38. 高橋康也・大場建治・喜村哲雄・村上淑郎 編著『シェイクスピア辞典』研究社 2000.
39. 小林章夫・河合祥一郎編著『シェイクスピアハンドブック』三省堂 2010.
40. 上野美子・松岡和子・加藤行夫・井出新 編著『シェイクスピア大全(CD ROM版)』新潮社 2003.
41. 大場建治『シェイクスピア選集全10巻』研究社 2005-2011.
42. 小田島雄志『シェイクスピア名言集』岩波書店 2012.
43. 中野舂夫『シェイクスピアの英語で学ぶここ一番の決めゼリフ』マガジンハウス 2002.
44. 河合祥一郎『シェイクスピアは誘う』小学館 2004.
45. 佐久間康夫『心に響け、シェイクスピア』NHK出版 2009.

2018-04-09 『〈おんな〉の思想』

[][][][]『〈おんな〉の思想――私たちは、あなたを忘れない』(上野千鶴子 集英社文庫 2016//2013)

【目次】
序文(上野千鶴子) [003]
目次 [005-007]
凡例 [008]

第一部 “おんなの本”を読みなおす 011
産の思想と男の一代主義――森崎和江『第三の性――はるかなるエロス』 015
生まれながらの故郷喪失者
ことばの旅へ
響き合うエロスの声
「対幻想」を求めて
「わたし」という自我
未来へ紡がれることば
注 037
参考文献 039

共振する魂の文学へ――石牟礼道子『苦海浄土――わが水俣病』 041
これはノンフィクションではない
「道子弁」の発明
憑依する文体
喪われた世界
男の思想との訣別
〈おんな〉の思想
注 067
参考文献 068

リブの産声が聴こえる――田中美津『いのちの女たちへ――とり乱しウーマン・リブ論』 071
一枚のちらし「便所からの解放」
学園闘争からリブ運動へ
「中絶の自由」をめぐって
「産める社会を、産みたい社会を」
「女はすべて永田洋子なのだ」
記憶と忘却の歴史
注 094
参考文献 095

単独者のニヒリズム――富岡多惠子『藤の衣に麻の衾』 097
「リブの伴走者」
単独者のニヒリズム
女は平和主義者か?
「不自然」な性
ラディカルな批評
ヒマつぶしとしての人生
注 120
参考文献 121

近代日本男性文学をフェミニズム批評する――水田宗子『物語と反物語の風景――文学と女性の想像力』 123
アメリカ文学からの出発
「ヒロイン」から「ヒーロー」へ
強靭な知性に支えられて
近代日本文学の男性像
『男流文学論』批判
フェミニズム文学批評の行方
注 147
参考文献 149

第二部 ジェンダーで世界を読み換える 151
セックスは自然でも本能でもない――ミシェル・フーコー『性の歴史I 知への意志』 155
性のパラダイム転換
「知への意志」
性を特権化する秘匿性
「セクシュアリティの近代」の装置
告白の制度
告解と日本人
注 174
参考文献 175

オリエントとは西洋人の妄想である――エドワード・W・サイード『オリエンタリズム』 179
パラダイムの転換
東洋人の歴史的役割
ジェンダー化されるオリエンタリズム
東洋と西洋の勢力均衡
ジェンダーと「逆オリエンタリズム」
家父長制下の抵抗様式
注 200
参考文献 201

同性愛恐怖と女性嫌悪――イヴ・K・セジウィック『男同士の絆――イギリス文学とホモソーシャルな欲望』 203
クィア批評の登場
異性愛秩序とは何か?
ホモソーシャルとホモセクシュアル
カミング・アウトとプライバシー
同性愛者の誕生
ニッポンのミソジニー
注 224
参考文献 225

世界を読み換えたジェンダー ――ジョーン・W・スコット『ジェンダーと歴史学』 227
ジェンダーの定義
女性史からジェンダー史へ
「女にルネッサンスはあったか?」
日本近代文学「語りの系譜」
「男性にして市民である者」
注 248
参考文献 248

服従が抵抗に、抵抗が服従に――ガヤトリ・C・スピヴァク『サバルタンは語ることができるか』 249
植民地出身の英文学教授
敵の武器をとって闘う
「認可された自殺」サティー
スカーフ着用問題
日本の「服従」と「抵抗」
「言語」と「行為」
注 270
参考文献 271

境界を撹乱する――ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル――フェミニズムとアイデンティティの撹乱』 273
バトラーの登場
セックス/ジェンダー二元論の解体
「おんな」という主体はどこにあるのか?
変革は可能か?
バトラーと竹村和子
注 290
参考文献 291

あとがき(二〇一三年 紫陽花の季節に 上野千鶴子) [292-297]
文庫版への追記(二〇一六三年 新緑の季節に 上野千鶴子) [298-300]
解説(チョウ・スンミ) [301-317]
初出 [318]


【抜き書き】
 フーコーの章から二つ。

  性のパラダイム転換
 一九七六年に性の見方が根本的に変わる出来事が起きた。ミシェル・フーコーの『性の歴史』第一巻「知への意志」が刊行されたのである。
 このとき以来、性を語るにあたって、「自然」と「本能」ということばは禁句となった。性は、自然科学から人文社会科学の対象領域に入った。それまで、性についての科学はセクソロジー sexology と呼ばれ、医学、動物学、解剖学、内分泌学、あとはわずかに心理学などの分野の研究者が参入するものであった。事実、世界で最初の科学的な性行動調査を実施したアルフレッド・キンゼイ(1894-1956)は、もともと蜂の研究から出発した動物学者だった。彼は人間の性は動物と同じく「自然」に属すると考え、あたかも動物を観察するように人間男性の性行動調査を行い、一九四八年に「キンゼイ・レポート」(『人間に於ける性の性行為』)を発表した(女性についての報告は一九五一年)。キンゼイが考えたように、性が「自然」に属し本能的な動物行動であるとすれば、そこには歴史は存在しないはずだった。それに対してフーコーは、性は社会や文化の影響を受けて変化し、わたしたちが思っている以上にその変化のスピードが速いことを論じた。
 正確にいえば、フーコーが論じたのは「性の歴史」ではなく、「セクシュアリティの歴史」である。全米性情報教育協会 SIECUS (Sexuality Information and Education Council of the United States) のメアリー・S・カルデローンレスター・A・カーケンダールの定義によれば、性(セックス)とは「両脚のあいだ」にあるもの、すなわち性器であり、セクシュアリティとは「両耳のあいだ」にあるもの、すなわち大脳である。フーコーの訳者、渡辺守章は、「セクシュアリティ」を「性的欲望」と訳した。「性的欲望」は「性現象」とも、「性に関わる欲望と慣習の総体」とも解することができる。むらむらするのは大脳であって、性器ではない。セクシュアリティの研究とは、下半身の研究ではなく、その実、上半身の研究なのだ。
 古代ギリシャ人は、近代人が性と呼ぶものを「アフロディジア」(アフロディテの業)と呼んだ。古代ギリシャ以来、性愛(エロス)の技術 ars erotica は存在してきたが、性についての科学的な知 scientia sexualis はなかった、とフーコーは指摘した。その性愛(エロス)の技術が、やがて科学的な知のことばで語られるようになり、セクシュアリティへと変化したことが「近代」を徴づけるものだと主張する。つまりキンゼイが実施した性行動調査に見られるように、性を自然科学の対象としてアプローチする態度こそが「近代」の産物なのだと。




  性を特権化する秘匿性
 『性の歴史』全三巻が出版されると、各国で性の歴史を研究する動きが進み、セクシュアリティ研究はひとつの学術分野として確立していった。アメリカでは、一九九○年に国際学術誌『ジャーナル・オブ・ザ・ヒストリー・オブ・セクシュアリティ』が刊行され、現在に至っている。『性の歴史』の出版によって、性が世界で学術研究の主題となったことには、隔世の感がある。
 それまで、セクシュアリティ研究は一部の好事家のものと思われてきた。性そのものが「いかがわしい」ものとされ、したがって性の研究もいかがわしいものと見なされてきたのである。性は公的な場から、タブーとして排除されてきた。
 社会学者・永田えり子(1958-)は、性には公的な場から排除され、プライバシー(私秘性)の領域に封じ込められる「非公然性の原則」があると『道徳派フェミニスト宣言』(1997)のなかで述べる。だが、フーコーは性が私領域に封じ込められていった歴史の過程を明らかにする。
 性はいつでも私的なことがらだったわけではない。権力者の間では誰が誰と媾[まぐわ]い、どんな子をなすかをめぐる性事は政治だったし、民衆の間でも、プライバシーなど無いも同然だった。性を公領域から排除することで、私秘性の領域は事後的に構築されていったものだ。
 社会学者・内田隆三(1949-)は『消費社会と権力』(1987)のなかで、「わいせつ性」とも訳される「いかがわしさ=オブシーン obscene」は、場面から退ける「オフ・シーン性 off scene」とつながっていると指摘した。だからこそ、「場違い out of place」な場面で性を持ち出すのは、それ自体タブーを侵犯する不作法なふるまいとなる。そのような性の配置こそが、秘匿によって逆説的に性を特権化するようになったのである。

2018-04-05 『韓国で日本のテレビ番組はどう見られているのか』

[][][]『韓国で日本のテレビ番組はどう見られているのか』(大場吾郎 人文書院 2012)

韓国で日本のテレビ番組はどう見られているのか

韓国で日本のテレビ番組はどう見られているのか

【目次】
目次 [001-004]
まえがき [007-015]

第一章 韓国のテレビ放送 017
地上波放送の誕生と停滞/ニューメディア、次々登場/今日の地上波放送/多チャンネルメディアの活性化/テレビ放送市場の規模と特性/放送番組に対する独特な規制/一日のテレビ放送と人気番組

第二章 日本のテレビ番組に対する規制 039
反日感情と日本文化排除/日本大衆文化=低質文化/放送される番組と放送されない番組/NHK衛星放送の衝撃/原則規制と実質開放/開放をめぐる一進一退/日本大衆文化、開放始まる/残る疑問とこれからの展望

第三章 韓国で日本のテレビ番組を放送する局 069
韓国への番組輸出量/話題を呼んだ日本ドラマ/放送中の日本ドラマ/日本文化専門チャンネル「チャンネルJ」

第四章 韓国人視聴者から見た日本のテレビ番組 087
外国製テレビ番組へのニーズ/韓国での日本ドラマ評/若者にとっての日本のテレビ番組/中年にとっての日本のテレビ番組/若者と中年の温度差

第五章 インターネット違法動画流通の影響 105
テレビ番組と著作権侵害/韓国の著作権意識/パソコン通信での情報交換/インターネット上の違法動画ファイル/動画共有サイトの隆盛/テレビ局にとっての違法動画/日本側の違法動画対策

第六章 バラエティ番組――パクリとフォーマット販売 131
「釜山出張」の意味/パクリが広まった九○年代/終わらないパクリと日本側の抗議/パクリ番組と著作権/なぜ日本の番組を真似るのか/日本のテレビ局のパクリへの所見/韓国人視聴者のパクリへの反応/フォーマット販売とは何か/韓国にフォーマット販売は通用するか

第七章 アニメ番組――日本色の消去 161
規制対象外だった日本アニメ/韓国アニメの黎明期/韓国版アニメオタクの登場/日本アニメの人気と国産アニメの優遇日本アニメに対する認識/依然続く日本色の修正

第八章 日本のテレビ番組の国際競争力と今後の展開 185
日本のテレビ番組購入をためらう理由/海外市場の重要度/ウィンドウ戦略とは何か/マルチユースを阻害する権利処理/利益が少ない海外販売/オールライツ契約の実現性/日本の番組のコストパフォーマンス/ガラパゴス化が進む日本の番組/韓国市場の重要性/今後の韓国における展開

あとがき [223-226]
参考文献 [227-237]

2018-04-01 『敗北を抱きしめて』

[][][]『[増補版]敗北を抱きしめて――第二次世界大戦後の日本人〈上・下〉』(John W. Dower[著] 三浦陽一,高杉忠明,田代泰子[訳] 岩波書店 2004//1999)

原題:Embracing Defeat: Japan in the Wake of World War II (1999, New Edition 2000)
著者:John W. Dower (1938-) 歴史学
訳者:三浦陽一(1955-)(みうら・よういち) 日本現代史。
訳者:高杉忠明(1952-)(たかすぎ・ただあき) 国際関係論。
訳者:田代泰子(1944-)(たしろ・やすこ) 翻訳家。

【目次】
献辞 [v]
増補版への序文(二〇〇三年十一月十九日) [vii-ix]
日本の読者へ(二〇〇一年二月一日) [xi-xviii]
凡例 [xix-xx]
謝辞 [xxi-xxiv]
目次 [xxv-xxix]
地図・日本帝国の拡大と崩壊 [xxx-xxxi]
上巻 写真・図版出典一覧 [xxxii]

序 001

第一部 勝者と敗者 015
第一章 破壊された人生 019
美化された降伏/無条件降伏/数字で見る敗戦/帰国だ……たぶん/難民/軽蔑された旧軍人たち/汚名を着せられた犠牲者たち
第二章 天降る贈り物 061
「上からの革命」/非軍事化と民主化/強制された改革

第二部 絶望を超えて 089
第三章 虚脱――疲労と絶望 091
飢餓とタケノコ生活/堪え難きを堪え/絶望の社会学/子供の遊び/インフレと経済破壊
第四章 敗北の文化 135
征服者への接待/「バタフライ」、「オンリー」、反抗する女たち/闇市の商売気質〔かたぎ〕/カストリ文化/デカダンスと正統性/「結婚生活」
第五章 言葉の架け橋 197
敗北を嘲笑する/明るさ、リンゴ、英語/昔なじみの「新しさ」/出版ラッシュ/ベストセラーと死後の英雄/女性ヒーローと犠牲者

第三部 さまざまな革命 243
第六章 新植民地主義的革命 245
植民地総督としての勝者たち/「猿人間」の評価を改める/専門家と従順な家畜
第七章 革命を抱きしめる 283
最高司令官に身をよせて/知識人と悔恨共同体/草の根の参加/改革を制度化する/日常言語を民主化する
第八章 革命を実現する 327
愛される共産主義者と急進化する労働者/「赤旗の海」/下からの革命を巻き戻す

上巻注 [357-379]


【下巻目次】
凡例 [v-vi]
目次 [vii-xi]
下巻 写真・図版出典一覧 [xii]

第四部 さまざまな民主主義 001
第九章 くさびを打ち込む――天皇制民主主義(一) 003
心理戦と「天子」/君主を禊〔みそぎ〕する/書簡、写真、覚書
第一〇章 天から途中まで降りてくる――天皇制民主主義(二) 039
傍観者となる/人間になる/ハサミで煙を切る
第一一章 責任を回避する――天皇制民主主義(三) 063
退位に直面する/巡幸、そして「現人〔あらひと〕」/ある男の砕かれた神
第一二章 GHQが新しい国民憲章を起草する――憲法的民主主義(一) 099
両性具有の生き物の性別変更/明治男の難題/新しい国家憲章への民衆のイニシアティヴ/SCAPが引き継ぐ/GHQの「憲法制定会議」/理想主義と文化帝国主義についての考察
第一三章 アメリカの草案を日本化する――憲法的民主主義(二) 135
保守派の最後のチャンス/翻訳マラソン/憲法草案を発表する/水は流れ、川は残る/民主主義を「日本化」する/戦争を放棄する……多分/既成事実に対応する
第一四章 新たなタブーを取り締まる――検閲民主主義 175
幽霊官僚機構/容認されない表現/勝者を浄める/映画を検閲する/政治的左翼を抑える

第五部 さまざまな罪 229
第一五章 勝者の裁き、敗者の裁き 231
厳しい裁き/ショーケース裁判――東京戦争犯罪法廷/東京とニュルンベルク/勝者の裁きとその批判/人種、力あるもの、力ないもの/敗者の裁き――名指し
第一六章 負けたとき、死者になんと言えばいいのか? 287
英霊のための鎮魂曲/非合理性、科学、そして「敗戦の責任」/懺悔としての仏教とナショナリズムとしての懺悔/残虐行為への反応/犯罪者を忘れず、その罪を忘れる

第六部 さまざまな再建 337
第一七章 成長を設計する 339
「オー、ミステーク!」/見える手(そして、見えない手)/最先端経済を計画する/予期せぬ展開と天佑紳助

エピローグ 遺産・幻影・希望 369

下巻注 [399-450]
増補版への訳者あとがき(二〇〇三年十二月 訳者を代表して 三浦陽一) [451-452]
訳者あとがき(二〇〇一年五月 訳者を代表して 三浦陽一) [453-455]
索引 [1-9]