本当は怖くない、「ECM」

孤高のレーベル ECM

音楽ファンを自認する人なら、ECM というレコードレーベルをご存知かと思います。ベルリンフィルでベースを弾いていた男が1969年に興し、それ以来40年以上の長きに渡って、洋の東西・音楽ジャンルの垣根を越えて、ただただひたすらに美しい音を紡いできた唯一無二なレーベルです。そのコンセプトの元となった「静寂の次に美しい音楽を」という創始者、マンフレート・アイヒャーの言葉はあまりにも有名ですね。私が初めて聴いた ECM の1枚は、多分パット・メセニーの「Pat Metheny Group」だったと思いますが、それから30年余、このレーベルをフォローすることで素晴らしいアーティスト達との多くの出会いがありました。私の音楽生活には欠かせない存在です。

ECM って「怖い」?

ECM のようなレーベルは、それ自体がひとつの音楽ジャンルとも言えます。ですがジャズやロックといった区分けは無粋であることを承知で、敢えて乱暴に言えば、8割がジャズで、あとはクラシック(古楽から現代音楽まで幅広い)やワールドミュージックといった感じだと思います。ジャズ色が濃いだけで言わずもがなですが、もとよりヒットチャートとは無縁なタイプの音楽が圧倒的多数なので、「難解そう」「退屈じゃねーの?」という印象を持つ方も多いのじゃないでしょうか。まぁ、それも否定できない一面ではあります。私も ECM の全てが自分にピッタリくる訳でもないですからw

いえいえ、有名盤やポップチューンだってありますよん

でもね、先に触れたパット・メセニーや、ピアニストのキース・ジャレット等の有名なアーティストを数多く抱えている(または巣立っていった)のも ECM の魅力です。そんな訳で今日は、私の知っている ECM のナンバーから、比較的「人懐っこい」チューンを選んで紹介しようと思います。本当は Free Labell という、YouTube 動画をセレクトしてアルバムを作る Web サービス上でリリースしようと考えたアイディアだったんですが、思うように素材が集まらなかったので Apple の iTuesStore でプレイリスト公開することにしました。お手持ちの PC に iTunes がインストールされていれば、下にあるジャケット画像をクリックすると iTunes が起動して私が作ったプレイリストが表示されますので、そこで30秒程ですが試聴できます。聴かず嫌いしてきた人にも是非、聴いて頂いて ECM 入門サンプラーとなってもらえば嬉しいです。ついでに楽曲を購入して頂ければもっと嬉しいです(アフィリエイトしてるのでw)。

Mariyudu が選んだ10曲

前置きが長くなりました。では以下、(Free Labell 向けに作ったw)ジャケットと、曲目紹介です。尚、選者がギター好きなので、ギタリストに偏ってるのはご愛嬌ということでw

http://click.linksynergy.com/fs-bin/stat?id=zpEiuYuEQ78&offerid=94348&type=3&subid=0&tmpid=2192&RD_PARM1=http%253A%252F%252Fc.itunes.apple.com%252Fjp%252Fimix%252Fid439500405%253Fuo%253D4%2526partnerId%253D30

1. Pat Metheny / 「Praise」

もう説明の必要もないジャズギタリストの大御所、パット・メセニーの名盤「First Circle」から。パットがギターシンセサイザーにハマっていた時期で、音はギターじゃなくてパンフルートのようなシンセ音ですが、それが彼一流のフォークソングっぽいメロディにマッチしています。美しくて元気が出るナンバーです。

2. Chick Corea / 「Crystal Silence」

ECM と言えばこのカモメのジャケット、というくらいレーベルの代名詞的な名盤であり大ヒットもした「Return to Forever」から。チック・コリアの静謐なエレクトリックピアノジョー・ファレルのサックスが控えめにつぶやきます。うーん、耽美です。

3. Oregon / 「Pepé Linque」

ギターもピアノも他色々なんでも出来ちゃうマルチプレイヤーラルフ・タウナー中心に結成されたグループ、オレゴンの「Crossing」から。ウッドベースのユーモラスなリフから始まって、切ないメロディを次々に乗せてくるこの曲にノックアウトされてから今まで、もう何回聴いてきたかなー。コンパクトに纏まっているし、このプレイリストのイチ押しかも。

4. Jacob Young / 「Blue」

ノルウェーの新進ギタリスト、ヤコブ・ヤングのデビュー作「Evening Falls」から。アコースティックギターの爪弾きが普遍的な美を湛えながら、揺蕩っています。

5. Terje Rypdal / 「Laser」

ECM では異色かも? なロック志向のギタリスト、テリエ・リピダルがチェロ奏者のデヴィッド・ダーリングとコラボした「EOS」から。この曲はリピダルの無伴奏ソロギターです。そんじょそこらのメタル・ギタリストが足元にも及ばない、彼の振り切れ具合にびっくりぎょーてんして下さい。

6. Lester Bowie's Brass Fantasy / 「Coming back, Jamaica

泣く子も黙る(?)、フリージャズ集団アート・アンサンブル・オブ・シカゴのリーダー格なホーン奏者、レスター・ボウイがソロ活動の一環として結成したビッグバンド志向なグループがブラス・ファンタジーです。アルバム「I Only Have Eyes For You」から、ほっこり明るくて生命力が漲っている、この4曲目を。

7. Steve Tibbetts / 「Black Mountain Side」

エスニック志向なギタリスト、スティーブ・ティベッツの「Big Map Idea」から。そう、この曲は Led Zeppelin のデビューアルバム収録曲のカバーなんです。原曲にもあったラーガな側面をいっそう強調して膨らましてみたって感じで、アコギ好きにはタマりません。そもそも、原曲も実はブリティッシュ・トラッドの「Black Water Side」をパクって云々... というのはまた別の機会にw

8. Keith Jarrett / 「Part IIc」

2曲目のチック・コリアと並んで説明の必要すらない、ピアノミュージックの傑作「Koln Concert」のフィナーレを飾る曲です。ジャズ・ピアニストのキースではありますが、このアルバムは「ジャズ的」な要素はかなり希薄で、それ故にジャズ初心者への入門盤としてレコメンドされることも多いですね。

9. Ralph Towner / 「Wedding Of The Streams」

3曲目のオレゴンのメンバーでもある才人、ラルフ・タウナーのソロアルバム「Blue Sun」から。アコースティック楽器奏者とは別の顔として、彼はかなりの腕前のプロフィット5(アナログシンセサイザーの往年の名器)使いで、一聴して彼と判る音色を持っています。12弦ギターとプロフィット5の組み合わせというこの曲は、彼のポートレイトと言ってもいいかも。どちらかと言えば「静」の楽曲が多いラルフにしては、颯爽とダイナミックですしね。

10. Steve Reich / 「Music for a Large Ensemble」

最後は現代音楽の作曲家、スティーヴ・ライヒ作のミニマル・ミュージックです。一昔前ならこの手の音楽は「なにこれ? これでも音楽なの? 楽器鳴らしてるだけじゃ?」みたいな反応だったですが、ミニマル・ミュージックの認知が広がった最近ではテレビの CM ですら、こういうシーケンスを耳にするようになりました。15分とちょっと長尺ですが、「聴く」というより、さざ波のように変化しながら寄せては返す音に身をまかせてみて下さい。寝ちゃっても別にイイと思います。安らかな気持ちになれるのであれば。