Hatena::ブログ(Diary)

昆正和のBCPブログ RSSフィード

2016-09-24

[] チョゴリザへの道を阻むもう一つの脅威(1) 15:20

 外部の者であれ、内部の者であれ、ある人物が何らかの権威やパワーを持っていて、自分が関与する個人や組織に対して自由に影響を与えられる立場にあるなら、その責任は重大である。

 言い換えれば、規律あるバランスのとれた、そして理性的とは言わないまでも、ある程度は自分の感情をコントロールでき、冷静にものごとを判断できる人物でなければ務まらないし、その資格がないのなら、その立場にいてはいけないということだ。

f:id:Masa-K:20160924150510j:image:left

 しかし残念なことに、いつの時代も上に述べたことは理想論で終わるのが常である。現実はどうか。ニュース記事から引用するまでもなく、我々の周囲にはいくらでも理想を逸脱した者たちが見られるから珍しくはないだろう。

 責任の重さを自覚していない会社の上司、社長、官僚政治家、議員、警官、自衛官、教師、弁護士、医師…。彼らが引き起こすパワハラや不祥事、数え上げれば切りがない。医師などはうっかりミスや手抜きで患者の命を奪ってしまっても、本人が表に出て謝罪することもなく、うやむやになるケースが多い。何という世の中だ。

 こんな極端な例もある。1978年12月28日に起こったDC機の事故のケースだ。この日、オレゴン州ポートランドの空港に向かっていたユナイテッド航空173便に車輪のトラブルが発生した。故障の原因を究明する余裕はない。機長は胴体着陸も已むなしと判断し、ただちに胴体着陸に備えた手順の確認に着手した。ところが、あまりにこの作業に没頭してしまい、燃料不足に陥ったことに気づいていなかったのだ。

 一方クルーたちは、このままじゃ間もなく燃料切れになるぞと予想したが、そのことを機長に言えない。当時の機長の権限は絶対的なものである上に、この機長は実にはげしい気性の持ち主だったからだ。彼らには「機長には何も逆らえない、口出しできない」という意識が根強くあった。

 案の定、当機は着陸態勢に入つて間もなく燃料が尽きて近郊の森に墜落、乗客と乗員189人の内、10人が死亡したのである。

 さて、前置きはこのくらいにして、今回は、ヒマラヤやカラコルムなどの海外登山隊に随行するリエゾンオフィサー(連絡将校)と呼ばれる監視役の話である(出所:『Epic:Stories of Survival from the World's Highest Peaks―Dangerous Liason』より)。

f:id:Masa-K:20160924120324j:image

http://www.nature.gr.jp/spiritual/karakorum/pg21.html

 1995年、ジョン・クリマコら登山隊はカラコルム山脈中の秀峰チョゴリザ(2つのピークのうち標高7654メートルのII峰には1958年桑原武夫を隊長とする京大隊が初登頂している)を目指していた。その際にパキスタン政府から派遣された軍人のアユブという名の連絡将校随行することになったのだが、この人物、権威を笠に着た絵に描いたような悪党なのである。

 なにしろ、チョゴリザ遠征の成否は、政府派遣のこのリエゾンオフィサーのさじ加減一つにかかっているといっても過言ではない。アユブがご機嫌ナナメになれば登山遠征は失敗する。腰を低くして何事もハイハイと言いなりになるしかない。当初はクリマコらもそう考えたに違いない。

 ところが、まさにその足元を見て自分の権限と立場を悪用し、思う存分好き勝手にふるまったのがアユブなのである。どんなひどいことをしたのだろうか。この続きは次回としよう。

-

2016-09-14

[] K2における危機の連鎖 09:37

 「不運や悪い出来事は相次いで起こるものだ」とは、よく聞く言葉である。これをもう少し手短に表現すれば、「危機は連鎖する」となるだろう。

 この「危機の連鎖」の立ち現れ方には二通りある。一つは因果関係に基づく連鎖である。たまたまAが起こってそこからBが起こり、そしてそのことが原因でCが起こるという場合だ。もう一つは、[A]、[B]、[C]という、お互いに何の関係もない独立した危機が、時間の流れの中にポン、ポン、ポンと無作為に放り込まれるように起こる場合である。

f:id:Masa-K:20160912122032j:image:w360:left

 後者のパターンの典型は、山岳遭難に見出すことができる。例えば1953年にカラコルム山系の偉峰K2(標高8,611m。登頂はエベレストよりも困難とされる)で発生したアメリカ登山隊のエピソードだ。ストーリーはざっと次のようなものである。

 モンスーン期、アメリカ登山隊は世界初登頂を目指してK2を登っていた。ところが頂上へのアタックを目前に、とつぜん山が荒れ始める。なかなか天候が回復しない中、アート・ギルキー隊員が血栓性静脈炎で倒れた。容態は悪化の一途をたどるばかりであった。

 一行は下山を決意する。悪天候と重病人の発生で下山するしかなかったのである。病人を寝袋にいれて四方からザイルで確保しながら慎重に下りはじめた。ところが一人がスリップしたために5名が急斜面を滑落してしまった。が、氷河の彼方に消えてしまうことはなく、全員一命はとりとめた。

 この事故に巻き込まれた隊員(この記録の著者)は「なぜ我々は助かったのだ?」と、その不思議さにしばらく自問自答を繰り返している。実は唯一滑落を免れた隊員の一人がとっさにピッケルを氷に打ち込み、ザイルを確保して滑落の勢いを食い止めたからだが、反射的にやったことなので本人も自覚がなかったのだ(これもまた偶発的というべきか)。

f:id:Masa-K:20160912181054j:image:w360

From http://www.museumsyndicate.com/item.php?item=56602#

 もちろん全員無傷というわけにはいかなかった。みなそれぞれどこかにケガをし、手足が凍傷にかかっていた。隊長のハウストンなどは頭を打ったたため意識朦朧とした状態が続き、「ここはどこだ? 俺たちは何をしている?」を繰り返すばかりだった。

 さらに残酷なことが起こった。隊員たちがやっと正気に帰り、ビバークの支度を整えているうちに、いつの間にか(ピッケルとザイルで頑丈に確保されていた)ギルキーがまったく痕跡を残さないまま寝袋もろとも消えてしまったのである。雪崩にさらわれたのだ。彼を救うために命の危険を顧みずに地獄のような悪天候の急斜面を下ってきた隊員たち。満身創痍の彼らの顔に計り知れない喪失感があったことは想像に難くない。(『Epic:Stories of Survival from the World's Highest Peaks―K2:The Savage Mountain』より抜粋及び要約)

 この悲劇の原因や発端はどこにあるのか?、なぜ起こったっか? 事故を防ぐすべはなかったのか?といった問いかけは意味を持たない。まったく脈絡のない個々の危機がたまたま相次いで起こっただけである。

  • 天候の悪化
  • ギルキー隊員の血栓性静脈炎の発症発症は時間の問題だったかも)
  • スリップ事故(必ずしもギルキーの搬送が原因であったとは言えない。単独でも起こり得る)
  • 全員が生き延びるも隊長は機能不全に
  • ギルキー隊員の死(隊員たちは雪崩が起こったことすら気づかなかった) 

 これらの危機を100パーセント防ぐ反則技的な解決策も、もちろんある。それは「山に行かないこと」だ。しかしこれでは、私たちの行動目的を根本からくつがえす最も無責任で現実味のない解決策としか言いようがない。交通事故に遭いたくなければ「車に乗らないこと」「道路を歩かないこと」と言っているのと同じだ。

 残念ながら実際には、この種の危機の起こり方は防ぎようがない。前もってこうしておけば、このように行動していれば防ぐことができた、などというのは後知恵に過ぎないのだ。山では何が起こるか分からない。その可能性を肝に銘じて、その時々に応じて一つのひとつの性質や特徴の全く異なる危機に全力で抗するほかはないのである。

Epic: Stories of Survival from the World's Highest Peaks (Adrenaline)

Epic: Stories of Survival from the World's Highest Peaks (Adrenaline)

2016-09-10

[] あの手この手の代替手段 09:33

 山岳雑誌 『山と渓谷』に、「山のまさか!とほんと?を知る講座」と題して、登山のリスクマネジメントをテーマにした見開き2ページの連載を書いています。第19回(2016年10月号)のエピソードは「あの手この手の代替手段」です。

 山中で、登山靴のソールがはがれたり、大切な登山用具が壊れてしまったりしたとき、あなたならどうしますか? 一般に商品や製品というのはどれも「吾が輩は唯一無二の存在である」的な顔をしています。もしそれが突然壊れたり無くなったりしたら、同じものを買い換えるしかないという単純思考に私たちを駆り立てます。

 しかし、街中なら財布を握りしめてショップへ行けばすぐに代替品が手に入りますが、山中ではそうはいかない。無理に行動を続けようとすればアクシデントにもつながるからです。ここに何かを代用・応用してリスクをカバーすることの大切さが見えてくるのです。いざという時に備え、手元にあるものを最大限活用できるよう心得ておく知恵。今回はこれをテーマにお話したいと思います。

続きは本誌をご覧ください!

-