ちょこまかとtwitterにて書いていた2018年1月から3月の備忘録(一部加筆修正)です。
※
【劇 場】
◆奇抜なアイディアとケレン味、そして行き過ぎたユーモアに溢れるアクションを前作から十二分に引き継いだ『キングスマン: ゴールデン・サークル』(マシュー・ヴォーン監督、2017)は、しかし一方で展開をあれもこれもと盛り込みすぎの嫌いがあって、いささか感情のやり場に困った作品であった。
○
◆劇場公開“も”するOVA『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』(水島努監督、2017)は、そのメディアの性質上「えっ、そこで終わるの?」という物足りなさはあるが、それなりにいいぞ……てな印象。戦車ばかりでなく、キャラのアクションも豊富で楽しい。そうとも、戦車の砲弾とは、よけるものなのだ。
○
◆スティーヴン・キングによる大長編小説の映画化『ダークタワー』(ニコライ・アーセル監督、2017)は、小説の壮大さにはもちろん欠けるが、精緻に描かれた画面とケレンのあるアクション・シーン、95分の尺にテンポ良くまとまった構成など、SFアクションというジャンルものとして十二分の出来映えだ。
○
◆近未来、気象の完全掌握を可能にした衛星システムが、謎の暴走にみまわれて世界が大変なことになる超ディザスター映画『ジオストーム』(ディーン・デヴリン監督、2017)の良かった点は、上映時間が2時間以内であることと、都市破壊シーンが夜間でも適度に明るくて観やすかったことの2点、以上です。
○
◆紳士なフレンズ、もといクマが活躍する『パディントン2』(ポール・キング監督、2017)は、絶妙な存在感のパディントンが魅せるスラップスティックさに抱腹絶倒しながらも心温まる見事なコメディ。往年のチャップリンやキートンへのオマージュにくわえ、ウェス・アンダーソンからの影響も興味深い。
○
◆鳩と二挺拳銃のマエストロ翁が一大日本ロケを敢行した『マンハント』(ジョン・ウー監督、2018)は、なんていうか、変わらねえなあこの爺さんはというか、遅れてきた’90年代アクション映画というか、絶妙にたまらんものがあるですな。
○
◆唐の都・長安を舞台に、若き空海と詩人・白楽天が妖猫の呪いの謎に挑む夢枕獏の小説『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』の映画化『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』(チェン・カイコー監督、2017)は、絢爛な巨大セットが持つ力み加減と、あいだの演出における絶妙な緩み加減の按配が、どこか’80年代角川超大作を思い出す感触。角川映画らしいといえばらしい。
○
◆タリス銃乱射事件(2015)を映画化した『15時17分、パリ行き』(クリント・イーストウッド監督、2018)の、けっして“劇映画”向きとはいい難い実話ベースの脚本──しかも本人ら主演──を、たしかに不思議な感触だが、かくもソリッドにまとめ上げてしまうイーストウッドの手腕の凄まじさよ! 感嘆。
○
◆音楽を憎む一家のなかでただひとり音楽を愛する少年が黄泉の国を彷徨う『リメンバー・ミー』(リー・アンクリッチ、エイドリアン・モリーナ監督、2017)は、スリリングで面白く、黄泉の国を彩るなんとも知れぬ総天然色が美しく、そして本当にいい映画だった。邦題が原題を超えた久々の例ともなった。
○
◆謎多きアフリカの小国“ワカンダ”の国王が活躍するMCU作品『ブラックパンサー』(ライアン・クーグラー監督、2018)は、アフロ・フューチャリズムを徹底的に具現化した意匠や美術が美しく新鮮。また、思いのほか暴力描写が容赦ないところもよかった。主人公たちのルーツを巡る旅路と葛藤が胸を打つ。
○
◆人気ゲーム・シリーズの実写リブート版『トゥームレイダー ファースト・ミッション』(ローアル・ユートハウグ監督、2018)は、アクションの見せ方や謎解きの面など惜しいところ──それがどうしてそうなったのか、その仕掛けがどうして解けたのか、のロジックと段取りがあまりに乏しい!──がそこかしこにあるし、画面がもうちょっと明るければなと思う部分もあるけど、 トレーニングによって肉体改造を経たアリシア・ヴィキャンデルの熱演と、敵味方が怪我を負いながらジタバタ戦うという割と泥臭いアクション演出の感じもあって、かなり「好き!」な作品だった。3作くらいは、ぜひ続けてほしい。原作ゲーム(2013年のリブート作)でララ・クロフトを演じた甲斐田裕子を登用した日本語吹替版もイイ出来。
○
◆サーカスの創始者P.T.バーナムの半生を描くミュージカル『グレイテスト・ショーマン』(マイケル・グレイシー監督、2017)は、古色蒼然たる総天然色と意匠による往年の黄金期ミュージカル映画的な画面の手触りと、今日ならではのビートやテーマ性とが融合した、ジャンルを刷新する意欲作だった。
※
【ソフト】
◆恥ずかしながら、続編の存在すら知らなかった『クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち』(オリヴィエ・ダアン監督、2004)は、たしかにリュック・ベッソンによるオリジナル脚本には細かいツッコミが多々あるが、しかし演出がかなり巧みで最後まで楽しく観られるオツな1本だった。
○
◆かつて悔恨を残した遺跡に再び挑む羽目になったトレジャー・ハンターたちの冒険を描く『ロスト・レジェンド 失われた棺の謎』(ウー・アールシャン監督、2015)は、実に“ちょうどイイ”按配。少年時代に木曜洋画劇場とかで偶然観たらドハマリしそうな感じって伝わりますかね。近頃流行のI-MAX撮影のシーンのみ縦横比が変わるのを、シネマ・スコープとアメリカン・ビスタを使いわけて廉価に再現しているのが泣ける。吹替えも贅沢なつくり。
○
◆全篇主人公主観のアクションSF『ハードコア』(イリヤ・ナイシュラー監督、2015)は、主観カメラのみで進行する映画ながら、豊富なアクションのアイディアと見せ方の工夫、劇中の設定を用いた自然な編集も相まって、かなり観易く面白い。ただし作品の性質上、僕含め弱い人は酔うので休み休み観よう。
○
◆清掃局と思われたバイト先が実はキョンシー退治の専門業者だった『霊幻道士/こちらキョンシー退治局』(ヤン・パクウィン、チウ・シンハン監督、2016)は、キョンシーものに『ゴーストバスターズ』と『ベスト・キッド』、そしてなにより『ヒックとドラゴン』を見事にブレンドし、スマホの使い方など、そこかしこに新鮮なアイディアを盛り込んだなかなかの一品だ。いやほんと、翻案のお手本みたいな映画だった。見事なり。
○
◆本当は劇場で観たかった三島由紀夫原作の『美しい星』(吉田大八監督、2017)を遅ればせながら観た。ハッキリ言って、たしかに本作はパッと見トンデモ映画に属することは間違いないかもしれないが、しかし、本作もまたこれまでの吉田監督作同様に、客観的には常軌を逸したようにも思える虚構にすがることが、当人のささやかな、しかし切実な救いになることを複眼的にまざまざと見せ付けられるような作品だった。上映開始40分を境に激変する本編のテンションや編集、音楽使いなど、面白くって胸をグサグサ突かれるところ目白押しで最高だ。本当に吉田監督の映画は観るのに体力が要るなあ。
○
◆死亡事故が起きた演劇の再演前夜に巻き起こる恐怖をPOVで描いた『死霊高校』(クリス・ロフィング、トラヴィス・クラフ監督、2015)は、米本国では低評価らしいが、これがなかなか面白い。件の演劇を巡る因縁が呼び込む物語的円環構造、静かに忍び寄る死霊など洋画ホラーとしては地味、だがそこがいい。
○
◆爆発が過剰なシリーズの第5作『トランスフォーマー/最後の騎士王』(マイケル・ベイ監督、2017)は、実写とCG入り乱れる目を見張るような画の情報量にくわえて脚本があまりに支離滅裂なので、ついていくだけでも疲労困ぱい。なにを思って3種の縦横比をショットごとに混在させたのかも、謎を残す。
○
◆人気海賊シリーズ第5作『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(ヨアヒム・ローニング、エスペン・サンドベリ監督、2017)は、まずまず面白いが、アクションの見せ方が絶妙に下手で、痒いところに手が届かないもどかしさ。やっぱり、ヴァービンスキー(1〜3監督)はアクション演出が巧いね。
○
◆宇宙ステーション版“ニューヨーク1997”映画『ロックアウト』(スティーヴン・セイント・レジャー、ジェームズ・マザー監督、2012)は、良くも悪くもヨーロッパ・コープ製らしい雑多な面白さとユルさの混在している作品だが、本作はとにかく日本語吹替え版の出来が最高なので、一聴の価値あり。
○
◆モスクワ郊外に巨大宇宙船が墜落する『アトラクション 制圧』(フョードル・ボンダルチュク監督、2017)は、ID4かと思いきやスターマンでトワイライトで、ちょい第9地区という、なんともヘンテコな作品だった。ただ、冒頭の宇宙船墜落シーンと、それによって半廃墟と化す街の美術は見事な出来栄え。
○
◆江戸時代、師の行方を辿り日本に潜入した宣教師が、増勢する切支丹弾圧の現実に“転ぶ”までを描く遠藤周作の小説の映画化『沈黙 -サイレンス-』(マーティン・スコセッシ監督、2016)は、素っ気ないほどの演出のなかに発露する暴力の空気が恐ろしく、ある種の潜入捜査モノとしてもソリッドで面白い。
○
◆張込捜査のために痴呆気味の老婆の部屋を間借りした刑事コンビのもとに、家出少女が転がり込む『OVER SUMMER 爆裂刑事』(ウィルソン・イップ監督、1999)は、やがて擬似家族となる4人をほがらかに映す人情喜劇の側面が味わい深い。後半、映画史上でもトップクラスに緊張感溢れる晩飯シーンは必見。
※
【TVアニメ】
◆すっごーいと評判だったTVアニメ『けものフレンズ』(たつき監督、2017)をようやっと観た。ほんわかとしたキャラクターデザインや「狩りごっこ」という台詞が示すように、基本的にはお遊戯のようなユルさで進むにも関わらず、展開や画面のそこかしこに絶対的な虚無や死の香りがにおい立っていて、観ていると、楽しさのなかになんとも知れぬ不穏な感覚が立ち上ってくる。本作について「実質、飛浩隆『グラン・ヴァカンス』(早川書房、2002)のアニメ化ともいえまいか」という声を伝え聞いていたけれど、それも納得だ。正直、こんなに夢中になって観られるとは思ってもみなかった。たいへん面白かったです。
○
◆先日読んだ原作漫画(コトヤマ、小学館、2014-)が面白かったので、TVアニメ第1期『だがしかし』(高柳滋仁監督、2016)を観た。原作の精緻な作画を継承しつつ、1話8頁という作話を丹念に解きほぐし再構成した見応えのあるアニメ化だった。ただ、原理的に終われないのは、昨今のアニメ事情的にやむなしか。