とりま、直接民主制のダメなところを理解しよう

なにやらネットで10万人規模の直接民主制が可能、との発言が議論を呼んでいるようで。その可能性を探っている人も批判的な意見もあるのだけど、おのおので何か噛み合っていないというか、レイアーがそろってないんだよな。なので今後の議論のためにも直接民主制のダメと言われるところを整理して挙げてみる。
結論から言えば直接民主制のデメリットってのは3つに大別できて、ネットでの直接民主制はそのうち1つを解決できるに過ぎない。なお大別できるデメリットは以下の通り。

  1. 大衆は十分な能力がないからダメ
  2. 意見が多く出すぎてまとまらないからダメ (←ネットが解決できるのはコレ!)
  3. 直接民主制はマイノリティーの無視を正当化するからダメ。

以上三つ。ではそれぞれ簡潔にわかりやすく述べていきたい。

大衆は十分な能力がないからダメ

この市民自体がダメ、というデメリットはさらに2つに分けられる。1つはいわばエリート主義的な考えで、「一般人は無知だから、政治は政治のプロの政治家(あるいは官僚)に任せた方がよい」ということ。学者でいえばシュンペーターがこの考えを持っていて、政治に口出しする一般市民を「弁護士が専門を離れたことに意見するようなもので、的外れなことをさも真実のように語る」と弊害を指摘している。でも本当に市民に能力があるのか、ないのかってのは検証しずらいよね。一部のオピニオンリーダーたちは確実に有能だし。
一方のもう1点は非常に簡単。「市民の熱心さは続かない」ということだ。イメージして欲しいのだが、日本では年間100本以上の法案が提出される。ではこれらの法案を吟味して賛成・反対を市民が毎回投じることができるのだろうか?しかも無報酬で。もちろんそんなことはできないだろうと思う。アリストテレスの「国家」ににもギリシアの民会で配給をもらうためにかったるいなあと言いながら出席する市民が登場する。ネット上で討論や採決が行われることで肉体的な負担は減ったにせよ、素人が仕事の合間に政治をやるには無理がある。平日に仕事をこなして、土日に年間100本の立法を評価・採決できますか?つまり、直接民主制は地域のボランティアや、マンションの理事会に一生懸命になれる性格の人ではないと不向きということだ。こう考えると暇を持て余す老人がより参加して、忙しい若者は参加しにくいので、ネット導入によってますますシルバー・ポリティクスが促進するという逆説的な可能性もある

意見が多く出すぎてまとまらないからダメ

ネットで解決できるのはこれ。今まで直接民主制は多すぎる意見を統合するのが無理、あるいは人数が多すぎて話し合うのが無理、という問題があった。この点はネットというツールと工夫次第で解決が可能になった。例えばある人(オピニオンリーダー)が意見を書いたらハテブみたいに他の人がブックマークしてその上位の意見を考慮だとか、エロサイトや2chのまとめブログにあるようなアゲサゲ投票で意見に得点をつけてもいい。ようは「多くの意見を出して」、「順位付け」ができるようになったことがネットでのイノベーション

直接民主主義ではマイノリティーを無視することが正当化される

これは極めて深刻な問題で、例えを挙げるとしたら農家だ。仮に直接民主制で関税の議論がされたとしよう。関税を0%にすれば米価は5分の1になり、その他の食品も数分の1の値段になるとする。単純に言えば年間の食費が数分の1になる訳だ。有権者たちは「日本の農家が・・・」と思いながらも、直接民主制下ではきっとこの法案は可決されるだろう(少なくとも可決される可能性がある)。そして農家は文句を言ったところで「民主主義のルールにのっとって決まったこと」で却下だ。今までは政治家に文句を言えばよかったのだが、そもそも文句を言う相手すらいなくなる。文句を言うべく市民に向けてブログでも書くか「魚沼で働く零細兼業農家のブログ」。
というわけで、間接民主制では議員の理性(や特殊な政治力学)によってマイノリティーの意見も汲み取れる環境にあったのが、直接民主主義下ではその名のもとに完全にマジョリティーの意見に押しつぶされる運命にある。

まとめ

以上で述べていることまとめるとこうなる。

  • インターネットで可能となったことは「多数の意見を出すこと」「(多数の意見を議論させること)*1」「多数の意見から国民目線で順位付けすること」の3つ。
  • それ以外にも直接民主主義は問題があり、「大衆が政治参加することで衆愚政治に陥る」「そもそも市民は政治に真剣に取り組まない」問題や「少数意見が完全に無視される」という3点は全く解決できていない。

もちろん打ち手次第でかなり解決できる。例えば立法は議員が行って、採決をネット投票とかにすればかなり直接民主主義的だし(だるい民会という問題は解決できないけど)、ハテブ方式で500万件ブクマが集まったら立法とかの署名作業はインターネットで相当やりやすくなったと思う。
最後にA・トフラーの『富の未来 上巻』だったかな?とりまなんかの本から心に残ってるフレーズを。
「人や社会は急激に変わったのにも関わらず、政府や民主主義の方法はその誕生からほとんど変わっていない」
民主主義も人や社会や技術の変化を取り込んでよりいい制度にしていけばいい。そう思っております。
 
 
他の方の意見

*1:これはカッコ付だね