読んだり食べたり書き付けたり

霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

『グランド・ブダペスト・ホテル』

エンドロールに流れる音楽や、その画面の隅々まで手の込んだ、工芸品のような映画。美術品のような女優、ティルダ・スウィントンも、ほかの役者たちも、完璧な作り込みでミニチュアのような世界を彩っている。まるで、シュテファン・ツヴァイクに供えられた、砂糖菓子のよう。

そして、ずっとハンナ・アーレントがすこし苦手だった理由を思い出した。それはツヴァイクの態度への彼女の批判。正しいといえば正しいけれど、誰もがアーレントのように強くはないのにな、と思ったことを。

「たよりない現実、この世界の在りか」展@資生堂ギャラリー

http://www.shiseidogroup.jp/gallery/exhibition/

これを書いている22日の金曜日までの展示。アリスの落ちたうさぎ穴にありそうな、あるいは村上春樹作品に出てくるようなホテル。不安でもって感覚を掻き回す、という点ではお化け屋敷にも似ているけれど、自分か誰かの夢に入り込んだような、もっと美しい不気味さを味わった。

あの、上品な少女が滞在中の痕跡を残したホテルの一室で、姿見を見、そこに自分が映っていないこと、その対角線上にいるほかの客を発見した時の動揺は、なんとも言い難い、貴重な体験。

いくつか、二つくらい、見つけ損ねたものがあるように思うけれど、それについて思いを巡らすのも、また愉し。