吐息雪色 / 綾崎隼

吐息雪色 / 綾崎隼 / メディアワークス文庫
吐息雪色 (メディアワークス文庫)

「私なんか何処にでもいる、普通の恋に焦がれる女ですよ。会ったその時から、あなたを好きになるような気がしましたし、こんな出会い、奇跡でもなきゃ有り得ないって、心の何処かで思ってます」

綾崎隼が綴る花鳥風月シリーズ第四弾、「吐息雪色」です。
今作も素晴らしかったです。


話の進み方は今までの作品と違い、最初から最後まで女性主人公の結城佳帆視点で物語が進んでいきます。*1
また最初の作品から3年後が舞台となっているため、今までの作品の登場人物が出てくるクロスオーバー作品にもなっています。
あの子が元気に働いてけるようになってたのは嬉しかったです。
この作品の前に「蒼空時雨」と「初恋彗星」を読むとより一層楽しめます。


物語は結城佳穂が舞原葵依に一目惚れするところから始まっていきます。
彼女はこの出会いを運命だと思い、なんとかして接点を作ろうと奮闘します。

今日、勇気を出さなければ、明日はもっと大きな勇気が必要になる。どうせ奮うしかない勇気なら、今日、奮いたい

という、信念の元に葵依との恋を進展させていく姿は色々と考えさせられました。


彼女にはこの恋を進展させることの他にもう一つ、悩みがありました。
それは一年間家に引きこもって外に出ない妹、真奈の存在でした。
幼い頃に両親を無くし姉妹二人で暮らしている彼女はどうしても妹には甘く接してしまいがちです。
それでもどうにかして、彼女にもう一度外の世界に出て欲しいという願いです。


葵依との恋の話と真央との話が絡み合いながら進んで行き、
物語が綺麗に終わるかと思えたところで、隠されていた一つの真実が見えてきます。
彼女がなぜ、舞原葵依に一目惚れしたのか…


以下、ネタバレを含んだ感想
傷つくことを厭わず、葵依が背負っているものを知ってもなお、彼の幸せを願う姿は当初違和感を覚えましたが、
一番大切な人を彼女自身が失っているのだと判ったときに納得しました。
葵依にはまだ大切な存在が生きているかもしれないという可能性があった。
けれど佳帆は大切な人を失うという絶望を知っているだけに、葵依の幸せを願わずにはいられなかったのだと。
強いです。そんな彼女の幸せを願わずにはいられなくなります。
彼女だからこそ、一つの嘘が真実に変わったのかもしれません。
傷つく覚悟があったからこそ、得られた結果なのでしょう。

*1:幕間だけは違います