小説「華厳経」1-1

わたしは誰にも嫌われないリカちゃん人形のようなアバターを作りたかった。毒も個性も主張もいらない。
 「消えろ」と望まれない。望まれたわたしの代わりのアバター
アバターサイトの広告が目に入ったのが七夕だったのがまた、理想のアバターを作るのに持ってこいの日だった。わたしの登録したアバターサイトは、フラッシュで作られた仮想世界の中をマウスで操ってアバターを歩かせたり、また、アバターの付いてないブログサービスと同じように日記を書いたりということができる。
 ただし日記を書いても常に横にアバターが表示され、書いている本人も読んだ人間も、可愛らしいアバターと書かれた文章を完全に切り離して読むことはできない。
 また、WEB全体に公開することも可能だが、SNS色の強い閉じた世界なので、そのアバターサイト内だけに公開するという設定を選んで日記を書く人が多かった。わたしもそれに習った。それを、選んだ。
 同じインターネットでも、同時期同時刻にわたしをキチガイ呼ばわりする人もいれば、閉じた陸の孤島みたいな世界でわたしの作ったアバターを慕う人もいる。
 「偽善と受け取られても仕方がないけど、わたしが七夕に願うことはただひとつ。人と人とが傷つけ合うことのない優しい世界になりますように」
 アバターサイトの日記にそう書いた。「七夕に願いたいこと」というのが今週のおすすめテーマとなっていたから、そのテーマで検索してアバターサイトに登録しているひとだけがわたしの日記にたどり着くことができた。
 
 わたしを罵る目的でたどり着くことのできない世界。
 
 わたしはすでに優しい世界を手に入れていた。