読書録

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終わった人

終わった人

終わった人

 同窓生がSNSに面白かったと書いていたのを見て手に取ったが、確かに考えさせられることが多々あった。おととし9月に刊行され、その年の11月に「さわや書店」のいちばんおすすめしたい本ランキングでベスト1位になってから売れ行きがかわり、去年話題になっていたという。本屋や新聞、ネットなど、さまざまな情報には接しているつもりなのに、知り合いからのSNSで気付いて今になって読む、というのも不思議な感覚ではある。

 内容については、以下のサイトで概要は出ているが、「定年って生前葬だな。」という書き出しから、主人公の田代壮介の仕事や家族との向き合い方、生き甲斐を求め居場所を探しながらさまざまな人と出会い、ハプニングにあえぎながら物語は展開してく。石川啄木の詩も、その時の心情にあわせて随所に織り込まれている。帯にあるように、一喜一憂しながら次はどうなるか、まだその年代ではないけれども、主人公に自分を重ねながら読んだ。

 ベスト1に選んだ岩手県盛岡市の「さわや書店」は、この本の紹介文「こんなにも壮年男性の心に刺さる小説があっただろうか。野心・虚栄心・下心、すべてを裸にして見通す洞察力に完敗…」といい、「文庫X」という中身がわからい形でプロモーションをしかけて話題になった。サイトを今回初めて拝見したが、トップの作り方も工夫があり、地方でありながらこれだけの影響力を発揮するというのは、なかなかのことだと驚く。


発刊した講談社BOOK倶楽部のサイト⇒ http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062197359
日経スタイルの紹介記事⇒ http://style.nikkei.com/article/DGXKZO05313430X20C16A7NZDP01?channel=DF260120166509
さわベス=さわや書店2016年ベスト1位→ http://books-sawaya.co.jp/wp-content/themes/sawaya/images/contents/sawabes/best/pdf/best_s_16_l.pdf


<印象に残ったフレーズをいくつか引用。テレビ脚本家の経験なのか、短く響く内容が多い>
◇「強気に出ると、人はひるむ」p5←こういう方けっこう多い
◇俺がいなくとも。誰も何も困らずに。p6
◇組織というところでは、本人の実力や貢献度、人格識見とは別の力学が働くp10
◇「散る桜残る桜も散る桜…」良寛の辞世の句p26ほか多数引用あり
◇(一応、東大です、など)「一応」は嫌らしいエリート意識の表れだろうp49
◇俺には背骨として「仕事」が必要なのだ。それがあれば誇りとなる。p85
◇学歴や職歴は俺を作っている。俺らしさはそこにある。誇りを捨ててはならない。p97
◆俺が本当にやりたいのは、仕事なのだ。p126
◇まったく心の入らない常套句として、「お仕事がんばって下さい」と「応援よろしくお願いします」は双璧だ。この言葉から、相手の愛情や熱意を受け取るバカはいるまい。p161
◇傍から見れば、サラリーマンとして成功したようであっても、俺自身は「やり切った。会社人生に思い残すことはない」という感覚を持てない。成仏していないのだ。だからいつまでも、迷える魂がさまよっている。p191
◇(女性で秋田美人の浜田久里さんに対し、)こんな妄想ばかりの自分が、恥ずかしい。p205…お笑いだ。…(久里の言葉→)「男と女になれば、十年も二十年ももつ関係が、半年や一年で終わります」p217
◆だが、短い一生で、関われる人がどれくらいいるというのか。p229
◇『ああ、しゃらくさい。思い出と戦っても勝てねンだよッ』p319…思い出から解放されていい年齢なのだ。p323
◇(娘の道子が母の千草に)「結婚なんでギャンブルだよ…結婚はギブアンドテーク、その根性がないなら、別れる。二つにひとつだよ」p345
◇(妻の千草から主人公に)「専業主婦には強烈な『終わった人感』はないと思う。パパを見ていると、つくづく自分が幸せだと思うよ」p348
◇(主人公から妻に)「できる我慢はして、将来のために今を犠牲にして頑張る…人は『今やりたいことをやれ』が正しいと身にしみた」p359
◇(お袋から主人公に言葉があり)八十九歳から見れば、六十六歳はいい塩梅の年頃で、これから何でもできる年代なのだ。「終わった人」どころか、「明日がある人」なのだ。p361
◇どうしても切れない他人と人生を歩き続けることは、運そのものかもしれない。p370
◇あとがきに、国際政治学者の坂本義和さんの言葉を引用「重要なのは品格のある衰退だと私は思います」(英国が)「衰え、弱くなることを受け止める品格を持つことで、その後もインドと良好な関係を結んでいます。(中略)品格のある衰退の先にどのような社会を描くか。」p373


 あと何年か、ただ、面白いと思った同年代からすると、こういう意識が交錯して、いわゆる“あるある”があるということかも知れない。
 テレビドラマで、ことし1月クールで放送していた三浦友和が演じた『就活家族』( http://www.tv-asahi.co.jp/shukatsukazoku/ )が、役員候補からいきなり退職して、という展開で似ていたところがあった。また、同じテレビ朝日で放送されている連続ドラマ『やすらぎの郷』( http://www.tv-asahi.co.jp/yasuraginosato/ )も、往年の名優たちが集う場所で、いわゆる「終わった人」たちが織りなすさまざまなエピソードや、脚本家の倉本聡さんが投げかける言葉が、心に響くところがある。高齢化社会を迎え、こうした内容の小説やドラマは、今後も増えていくのかも知れない。


{2017/4/24-29読了、記入も同日}