2008-09-18 Doviđenja, Jugoslavijo.
■[読書][バルカン]「哲学的意味がありますか?」
ぼくが何故ここまでユーゴに取り憑かれているのかと考えてみた時,もともと紛争地域に興味があったというのもあるが,それ以上に,凄惨な紛争で引き裂かれた国が「民族の共存・友愛」を謳っていたという事実,「民族国家」ではない論理で組み立てられた国家という存在,そういったものに惹き付けられているのだろうと思う。
そしてその,今は消えてなくなってしまった国への興味を掻き立てたのが,これから紹介する本だ。
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/06/10
- メディア: 文庫
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これを読んだのは,高校3年の時だった。書店で衝動買いして,一気に読んでしまった。その時雨が降っていたような気がするのは,本当に降っていたからなのか作品に没入していたがゆえの錯覚なのか。
ストーリーは,作者が得意とする「日常の謎」系だ*1。1991年,ユーゴから,日本について学ぶ為にやってきた少女,マーヤ。彼女は突然主人公たちの日常に現れ,そして,突然の紛争勃発とともに帰っていった。彼女は様々な事を不思議がり,それらに「哲学的な」意味を見出そうとする。それに主人公たちは振り回され,そして彼女が帰った時,最後の謎解きが始まる。
「最後の謎解き」が何なのか,物語がどのような結末を迎えるか,については,興醒めになるといけないのでここでは触れないが,作中でマーヤが語った理想に,ぼくは心奪われたのだろうと思う。それが叶わない夢,実現する事のなかった砂の上の楼閣だとわかってはいても。
「Da.七十三年は長いです。わたしの父はスルビヤ人です。母はSlovenija人です。母の父はMakedonija人です。わたしは? わたしはユーゴスラヴィヤ人です。
ユーゴスラヴィヤには六つの文化があります。でも,わたしは,んー,わたしたちは,七つ目を作っています。そうしたくなくてもそうなるのです。そしてわたしたちはそうしたいのです。それならわたしたちは,いつか記念の塔を建てなければいけません。それは遠い先のことではないと,わたしは思います。……んー,上手く話せていますか?」
「わたしたちの伝統は創造されたものです。わたしたちの共同体は想像されたものです。それでもわたしたちは,六つの文化のうちどれか一つにではなく,わたしたちの文化に生きることになるのです。もう一度言います,そうしたくなくてもです。わかりますか?」
「…………」
「でも,ユーゴスラヴィヤは豊かな国でもありません。とても残念ですが,豊かでないユーゴスラヴィヤ人は七つ目の文化をそれ自体と見ることができません。どうしてかと言えば,他の文化と比べることができないからです。
そして,わたしは豊かなユーゴスラヴィヤ人です。わたしの父は党の上の方にいます。わたしはどちらかというと自由に,いろいろの国を見ることができます。わたしたちの中で,わたしは例外です。それならいろいろの国を,んー,いろいろのものを見ることは、わたしの仕事だとわたしは思います。
いつか,わたしたちは六つの文化を止揚するでしょう。ユーゴスラヴィヤを連邦でなくするでしょう。だからわたしは見てまわります。……わかりますか?」(pp.142-143)
ユーゴスラヴィアは,現実には,北と南の民族主義に引き裂かれて滅んだ――多くの血を,まるではなむけであるかのように吸いながら。しかし,いやだからこそ,掲げられたユーゴスラヴィア主義という理想が,意義深いものに思えるし,それが成功しなかった事を極めて残念に思う。
無論ユーゴスラヴィアには多くの矛盾があったし*2,民族の文化を止揚するという思想にも問題はあるだろう。しかし,クロアチアやボスニアで,ナショナリズムとショーヴィニズムが巨大な悲劇をもたらした歴史を見た時に,「民族主権国家」のオルタナティヴとしてのユーゴスラヴィアの意味というものに,思いを馳せずにはいられないのだ。
多分ぼくは,そういう風にユーゴスラヴィアを見ているのだろうと思う。そしてぼくがそのようにユーゴを見るきっかけになったのは,間違いなくこの小説だった。という事で,今更ながら紹介してみる。ユーゴについての知識がなくても読めるので,是非とも読んでみて下さい。
さて,この本は上のような真面目な視点をぼくにもたらしてくれたが,もう一つ,スラヴの女の子の可愛さについて妄想するきっかけになったという点でもぼくを変えた本だった。ぶっちゃけスラヴ系って可愛いと思いません? 「Yes」と言われるより「Da」と言われた方が萌えませんか? ロシア美女もいいけどセルビア美女もいいよね! おっと話が変な方向に逸れた。
結論として,本書は二重の意味でぼくの原点である。
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