2009-01-17 日本の同化はきれいな同化
■[民族]「アイヌ差別には反対だけど」「過去の事を蒸し返すな」
時機を逸した感があるけれど,まずは,以下のまとめブログを読んで欲しい。
【毎日新聞】 「お前アイヌだろ。気持ち悪い」「あそこの家はアイヌなんだよ」…今なお消えぬ格差、「血」隠す苦悩…北海道 - 痛いニュース(ノ∀`)
そのブクマコメと,それを纏めたエントリも。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1208185.html
アイヌ差別についてのブクマを全力でまとめてみた - E.L.H. Electric Lover Hinagiku
アイヌに関する問題,つまるところアイヌに対しどのように向き合うのかという和人*1の問題については,ぼくも過去に何度か言及した。
母語を取り戻そうという渇望 - Danas je lep dan.
小林よしのりが今更ながらおバカすぎる件(1) - Danas je lep dan.
さて。アイヌに関する言説を見ると,実に奇妙な論理が見出される事がある。アイヌを先住民族と認めよ,その言語を公用語とせよ,そういう主張に対しては次のような言葉が投げつけられる(「痛いニュース(ノ∀`)」の記事中から引用)。
243 :名無しさん@九周年:2009/01/11(日) 14:44:40 ID:+h36GJpm0
新しい差別を作り出そうと必死ですね。
狙いは分断ですか?利権ですか?反日なのは間違いないですね。
859 :名無しさん@九周年:2009/01/11(日) 15:19:25 ID:l8NS3qKf0
>>821
68年は長すぎだろwww
ぶっちゃけ、もうほとんど融和しちゃってるし
いまさら差別する理由はなんも無いんだけどね…
966 :名無しさん@九周年:2009/01/11(日) 15:26:48 ID:6nP3nwh20
こうやって過去の事を蒸し返して日本人同士を対立させるのが
毎日新聞の目的なの?
ここで言われている「分断」とは何なのか?
例えば,アイヌ独立国家論は少数派である。大方の人は「日本国」という枠組みの内部での解決を求めている。国家を分断する,などというのは杞憂というか妄想に近い(そもそも論として,何故「日本国」という枠組みを無条件で承認せねばならんの? というのもあるが,ここでは触れない)。今時,ひとつの民族の承認が即その民族の分離独立に繋がるなんてのは有り得ない(身近な例でいえば,台湾を見よ)。
では彼らが恐れている「分断」とは何か。
ひょっとすると,彼らは「均質で単一な日本民族」像が破砕される事を恐れているのではないか?
ぼくが今更言うまでもないように,「単一民族」なんてのはエスノサイドの肯定でしかない。もしくは,おぞましい血統主義の現れでしかない*2。エスノサイドの完了した状態を指して「融和」といい,それを掘り崩そうとする営みを「分断」というのなら,それはなんという強者の傲慢だろうか。「分断」という言葉は,かつてアイヌに対するエスノサイドを繰り広げたのと同一のメンタリティの現れである。
「差別には反対だけど」という前置きで語られるそれらのエスノサイド肯定論は,パフォーマティヴに差別を肯定しているのだ。そしてその暴力性が自覚されずにいる事が問題なのだ。
「風化」を望む言説――それは,善意から出ているのかもしれないが,しかし差別者,抑圧者の片棒担ぎにしかなっていないのである。「風化しかけた」差別。無論差別は根絶されるべきものである。しかし上記のような文脈における「風化」とは何か? それは,「アイヌの根絶」といったい何処が違うというのか?
アイヌ語やアイヌ文化が滅びていくのは「仕方のない事」であり,それらは博物館の中には残されるべきだが,という主張もある。しかし,アイヌ語なんてどうせ滅びるべきものだから放っておけ,けれど貴重なのでアーカイヴには残させてね,なんてのは無慈悲な搾取に他ならないと思うのだがどうか。それはアイヌ語を「化石/標本あつかい」*3している。われわれは,やろうと思えば言語を復興させる事ができる(欧州各地の少数言語復興政策を見よ)。それなのにそのような搾取を強いるというのは,植民地支配と変わらない。
ちなみに誤解している人もいるが,公用語というのは必ずしも話者数の多い言語ではない。例えばポルトガルにおけるミランダ語もそうだ。1999年に公用語に指定されたミランダ語は,都市部を除くと2000人ほどの,60歳以上が多数を占める人びとによってしか話されていない*4。にも関わらずポルトガルはミランダ語を公用語と認め,教育の普及がはかられている。要するに,公用語認定というのは,われわれが少数者を尊重するという姿勢の現れなのだ。
1/24追記
ミランダ語は,確かに国内で使用できる言語として認められてはいますが,「公用語」とまでは認められていないようです*5。ポルトガル政府は,ミランダ語言語法制定の3年後,憲法を改正しポルトガル語を公用語にしており,現在のポルトガルの公用語はポルトガル語のみのようです。不正確な記述をしてしまった事を訂正しお詫びします。
だいたい,「アイヌ語を公用語に」という叫びのどこに非難されるべき要素があるのか,ぼくにはさっぱりわからない。祖父母の言語を学校で教えられるようにしてくれ,という要求は,本来保守派・民族派こそが首肯するべきものではないのか。けれどアイヌや沖縄に関しては,そのような人たちが「新しい利権をゆるすな!」とか何とか言っている。「日本語で画一的に行われる教育」という自明性を脅かすものへの攻撃――それは繰り返すがエスノサイドの肯定である。
「アイヌ差別には反対だけど」――このような枕詞でもってエスノサイドは肯定され,無条件で“国民国家・日本”の枠組みは承認される――「過去の事を蒸し返すな」「寝た子を起こすな」*6
このような論理を克服できた時,われわれは真に「差別を克服した」と言い得るのではなかろうか。
*2:血液型がどうとかDNAがどうとかいうアレね。この平成の御代にもまだ「血」のみで民族を推し量ろうというナチス的心性の持ち主がいるというのには空恐ろしいものがある。
*3:ましこ・ひでのり「『沖縄方言論争』というアリーナのゆくえ」『ことばの政治社会学』三元社,2002,p.114。
*4:浅香武和「消滅の危機にある公用語・ミランダ語」『月刊言語』2008年4月号,pp.82-83。
*5:寺尾智史「ポルトガルの少数言語ミランダ語――その特徴と保全の現状」『月刊言語』2008年7月号,pp.94-95。
*6:これは,時として少数者の側から発せられる言葉でもある。それを「ほら,彼らも納得しているじゃないか」などと解釈する人がいる,というのが困りものだが。
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