2009-02-28 今日はペリ犬の誕生日
■[バルカン][にゅーす]コソヴォに関する備忘録
1.日本とコソボ共和国との間の外交関係開設のための書簡の交換が、2月25日(水曜日)、プリシュティナ(コソボの首都)において、日本側水内龍太在オーストリア大使館公使とコソボ側ラム・マナイ(Mr. Ram MANAJ)コソボ共和国副首相との間で行われました。
2.この書簡の交換をもって同日付けで、両国間の外交関係が開設されました。(日本側書簡の署名者は中曽根弘文外務大臣。コソボ側はスケンデル・ヒセニ(Mr. Skender HYSENI)コソボ共和国外務大臣。)
3.これにより、今後の日・コソボ間の友好・協力関係の基礎が築かれることとなりました。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/21/2/1188511_1092.html
コソヴォを承認しているのは現在55ヵ国と,少数です。それはコソヴォがセルビアから「双方の合意なしで」分離独立したという事情にあるのでしょう。地位としては,南オセチア,アブハジアと同じな訳で,それを承認してしまった,というのは,日本がバルカン情勢に介入する資格を失った,という事でもあります。もともとあの地域に対する関心は薄いわが国とはいえ,常任理入りを目指すのであれば,紛争地帯に対する適切な対処くらいはわきまえて欲しかったと思います。
さて,今度は別の話題になりますが,コソヴォ紛争時のセルビア大統領が,ハーグのICTYで無罪判決を受けました。
【ブリュッセル26日共同】オランダ・ハーグの旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷は26日、コソボ紛争時の市民殺害などで戦争犯罪に問われたセルビア共和国のミラン・ミルティノビッチ元大統領(66)を無罪とする判決を下した。判決は「被告の具体的な指揮の立証が不十分」と述べた。同法廷は2審制で控訴が可能。
ともに起訴された軍関係者ら5人に対しては禁固15−22年の有罪判決を下した。
ミルティノビッチ氏は、コソボ紛争当時を含む1997−2002年に共和国大統領を務めた。紛争時に軍や民兵を動員して約80万人のアルバニア系市民を強制退去などにより難民化させ、数百人を死亡させたとして、戦争犯罪と人道に対する罪などで起訴された。
セルビア元大統領に無罪 コソボ紛争で国際法廷 - 共同通信
コソヴォ紛争についてはあまり本を読んでいないのでよくわかりません。だから詳しい言及は避けますが,ミルティノヴィチ元大統領の役割が小さい,というのは考えにくいものがあります。末端の民兵の暴走としても,彼がそれを承知していなかったとは思えないからです。ただ,法廷というのは推定無罪を原則とするものなので,その観点に立てば,妥当な判決であるのでしょう。
紛争後の和平構築という課題においては戦犯の処遇が重要な問題になってきます。多くの戦犯を処罰する事は深刻な社会不安をもたらしかねませんが,一方で追及を緩めれば被害者側は正義が侵害されたと感じます。この折り合いをどうつけていくか。コソヴォ側でもハラディナイ被告が無罪判決を受けましたが,その判決にアルバニア系コソヴォ市民の多くは歓喜し,セルビア市民の多くは憤慨しました。この地域の憎悪の連鎖をどうやれば止められるのか。ICTYは,その問いに対して有効な答えを示せないままその役割を終えるのでしょうか。
■ストライクウィッチーズ カールスラント反攻作戦1
前々から,ストパン2期のストーリーがこんなんだったらいいなぁ,と妄想していたストーリーがあったんですが,ストパン2期決定の報を聞き,いてもたってもいられなくなってSSを書いてみる事にしました。
拙い作品ですがお楽しみ頂ければ幸いです。
触発されたまとめ記事↓
ストライクウィッチーズ 面白かったWeb上の二次創作 小説と漫画と二期予想 - karimikarimi
1.第501統合戦闘航空団,ふたたび
――あの時と,同じだ。
宮藤芳佳は,落ちてきたものを見て,咄嗟にそう思った。いや,状況が同じなわけでは決してない。あの時は,親戚であり,それ以上に大事な友達である女の子が大けがをしていた。けれど今,目の前で茂みに埋まってもがいている女の子は,見たところ無傷だ。そしてその脚にはストライカーユニットが……ストライカーユニット?
「ウィッチ?」
「ほえ!?」
中々に面白い奇声を上げて,眼鏡を掛けたウィッチは起き上がった。
「あの……わたくし,陸軍飛行隊47中隊,諏訪天姫であります」
「こ,こんにちは」
真面目そうな口上に,思わず普通に挨拶をしていた。
「え,えーっと……宮藤芳佳さんは?」
「あ,はい,わたしですけど……」
「ああ」
そのウィッチは安堵の溜息をついた。
「よかったぁ」
「え?」
何が良かったのだろう。そう聞き返そうとした矢先,目の前に封筒が差し出される。
「宮藤博士より,お手紙です」
「えっ」
――その言葉は,あまりにも予想外で。
「えっ,ええええええええ――――!?」
思わず,あの時をなぞるように,叫んでしまっていた。
……ここから,彼女たちの物語は,再び動き出す。
1945年。第501統合戦闘航空団,再結成。
ガリア上空からネウロイを駆逐し,軍高官の陰謀を暴いた乙女たちは人類の救世主扱いだった。ひとまずブリタニアを根拠地としてガリア作戦に従事する必要はなくなっていたので,その部隊も一度は解散し,おのおのの原隊に復帰していたのだが,ガリア復興も端緒についたばかりの人類は再び大攻勢に打って出る決意をする。それで,彼女たちにお呼びがかかったのだ。
欧州に残された最大級の,そしてもっとも手強いネウロイの巣――カールスラント。ガリアが解放された今,その奪われし大地は大きな注目を集めていた。
「お久しぶりですわ,ミーナ中佐――いえ,大佐」
「お久しぶりね,ペリーヌさん」
ストライカーユニットを外した二人は握手を交わした。幸いここは軍事基地なので,ジャーナリストが追いかけてくる心配はない。何故かペリーヌは,心持ち頬を上気させて,何かに腹立たしげな様子だった。
(どうしたのかしら……そういえば)
ふと疑問に思ったことを,ミーナは口に出す。
「そういえば,そちらの隊長さんは? わたし,隊長どうしの挨拶と思っていたのだけど」
「隊長は来ません。わたくしが代理を仰せつかりました」
ペリーヌの顔が怒りに歪んだ。ああ,それで怒っていたのか,とミーナは得心する。
「本当は,隊長が来るはずだったのですが,おまえが行け,と……あのひとは適当すぎますわ」
「いいのよ。そのおかげであなたと久々に会えたんだから」
ミーナは,ペリーヌの上官であるウィッチを思い出していた。ずぼらで適当なように見えて,妙に気を利かせる子だった。きっと,かつての上官ということで,粋な配慮をしたつもりなのだろう。思わず心の中で苦笑を漏らす。
(あの子らしいわ)
しかしそんなことはおくびにも出さず,ミーナはなだめるように言う。
「副隊長が隊長の代理を務めるのは当然のことだわ。たしかに……こういう改まった場で代理というのは珍しいけれど」
「まったくですわ。……それで,用件についてはどこまで聞いておられますの?」
「だいたいは」
ここに来る途中の輸送機で,ブリーフィングは受けた。自分の階級を鑑みてだろうか,各国の武官や将軍といったお偉いさんばかりが出てくるのには辟易したが。もっとも,あと一息で将軍という地位にいれば,そういうことだらけにもなるのだろう。たったひとつ階級が変わっただけなのに,どうしてこうも変わるのか,世の中は肌が荒れるような理不尽なことばっかりだ。ミーナは心の中で嘆息した。
「それでは改めてご説明しますわ。わたくしたちはカールスラント反攻作戦に従事することになります。わたくしたちガリア空軍第2航空団と,オストマルク空軍近衛航空団が,第501統合戦闘航空団をバックアップしますわ」
「ええ,頼もしいわ。あなたたちなら,信頼できる」
ペリーヌは少し頬を赤らめた。
(この子も変わったわね)
そうミーナは思う。本当は優しいのだけど,思い込みが激しくて,いつも空回りしていた彼女。けれど,坂本美緒が撃墜されたあの騒動から,彼女は徐々に変わっていったように思う。これも,途中からやってきた,あの少女のおかげなのだろうか? 今の彼女は,色々なことに打ちひしがれてつっけんどんな態度を撒き散らしていたあの頃よりも,凛々しく,精悍であるように見えた。
「作戦は,この基地――ストラスブール空軍基地を中心として,ライン河の向こうに橋頭堡を築くことが第一段階となります。わたくしたちガリア空軍が国境を守ります。オストマルク空軍が,あなたがたを現場で補助することになりますわね。彼らとはいずれ顔合わせを――」
「――失礼ですが,ヴィルケ大佐でしょうか?」
横からかけられた声に,ミーナとペリーヌは振り向いた。中背の,細い目をした少女が立っていた。髪は茶色。
「はじめまして。オストマルク空軍近衛航空団隊長代理,ハンナ・ヴェルフト中尉であります。以後,お見知りおきを」
「オーリャ」
呼ばれて,振り返る。自分よりも軍歴の長い戦友たちが,笑顔で駆け寄ってくるのが見えた。思わず身構える。
「すごいじゃない! 第501統合戦闘航空団に行くんですって? いいなぁ,ガリア。わたしも行きたい……」
「ターニャ。あなたのそれは,『観光したい』でしょう?」
「うう,だってー」
ターニャとソーニャのやり取りはいつものことだ。彼女らのことはひとまず考えないものとして,その脇を見る。眼鏡の奥に,何もかもを見透かすような瞳を持っている少女は,短く言った。
「おめでとう,オーリャ」
「……ありがとう,カーチャ」
くい,と眼鏡のつるを上げると,彼女は言った。
「無理はしないでね。あなたはいつも,無理しているように見えるから」
「……無理なんて,してない。大丈夫だよ,カーチャ」
「でもオーリャ,いっつも難しい顔してるよねー」
横からターニャが口を挟む。ソーニャもうんうんと同意した。
「何か悩みでもあるんだったら,いつでも相談に乗ったのに」
「……あったとしても,もう遅いでしょうに」
カーチャが呆れたように言う。確かにそうだった。今のオーリャの足下には,頑丈なトランクが置かれている。彼女はこれから輸送機に乗って,ガリアに行くのだ。
「みんな,ありがとう。でもわたしは,本当に大丈夫だから。こういう顔なの,もとから」
「ふーん」
ターニャがつまらなそうに反応した。もう聞き飽きた,と言わんばかりに。
「ごめんね,もう飛行機に乗るから」
足早に立ち去ろうとする。戦友たちに背を向けた。彼女たちは,ほんとうに良くしてくれた。こんな「遅咲き」の自分なんかに――けれど,それは,オーリャにとっては申し訳なさでいっぱいの日々だった。
背中の方から,足を揃え袖が伸ばされるきれいな音が響いた。
「オリガ・ワシーリエヴナ!」
思わず振り向く。三人が敬礼していた。いつにない,真面目な表情で。
「貴女のご武運と,幸運を心から祈ります。――どうか,生還を」
しばらく呆然としていたオーリャだったが,すぐに答礼する。そして今度こそ,歩き出す。
(本当に,いいひとたちだった)
直立不動で敬礼を続けている友人たちに背を向けて無骨な輸送機へと早足で向かいながら,オーリャは考える。「遅咲きの白薔薇」の異名を持つウィッチは,
(――わたしなんかに,そうしてもらう権利はなかったのに)
何かを悔やんだままで,祖国オラーシャを後にした。
『ハンナ。何を言っているんだ』
思わず,そう言っていた。苦労をともにしてきた部下であり友人でもある少女の主張が,にわかには信じられなかったからだ。
『わたしはこの隊を抜けるんだ。なのにどうして,わたしの席を残そうとするんだ?』
『そちらのそれは,一時の任務でしょう』
怜悧な視線に射抜かれる。思わず,何も悪くないのにたじろいだ。
『作戦が終わればあなたは戻ってくるはず。その時までの臨時のものとはいえ,あなたの席に座っているというのはどうも収まりが悪いのです』
『いや,それは……そうかもしれないが……』
生真面目な副隊長に,どうしたものかと頬を掻く。
『じゃあ,ヘドヴィガに座らせよう』
『彼女も,わたしを支持しているのですが』
彼女は,がっくりとうなだれた。どうやら自分は,隊長だというのに,部下に命令を聞かせることもできないらしい。自分が情けなく思えてきたが,
(……まあ,これはこれで,慕われてるってことで,いいか)
そう思い直す。部下の説得は諦めて,彼女は荷造りのために部屋に足を向けた。
『それじゃあ,おやすみ,隊長代理どの』
『おやすみなさい,エミナ』
……その静かな声に安心したのだろうか。その日の夜は深く眠ることができて,おかげで輸送機から降り立った今は体中に力が漲っている気がした。見渡すと,見たことのない基地の光景が目の前に広がっていた。新鮮な情景だ。けれど,後ろから響いてくる声が,その新鮮さを台無しにしている。
「いやー,長旅ってほどでもなかったけど,やっぱり輸送機ってのは肩が凝るねー」
「……わたしにとっては地獄に思えたわ……」
「カリン,大丈夫? 軍医さん呼ぼうか?」
「いいえ! こ,これぐらい,大丈夫なんだから……うぷ」
呆れて,振り返る。ここまで監督してきたかつての部下たちは,戦場という緊張感をかけらも持っていないようだった。思わず指示が口から出る。
「マーリア,カリンを医務室に連れていけ。ハンナ,きみは挨拶があるんだろう。さっさと行ってこい。残りのものは……」
ここまで言って,彼女はようやく気付いた。もう,彼女たちは自分の部下ではないのだということに。
「……いや,すまなかったな。ヘドヴィガ,あとはまかせた」
「そんなに堅苦しく思わないでいいのに。あたしは,今でもあんたの部下のつもりよ,エミナ」
「他の部隊になるんだからな。あんまり馴れ馴れしいようではいかん」
口許に,微笑とも苦笑とも判別し難い笑みを湛えながら,エミナは言った。後ろでヘドヴィガが,やれやれ,と首を振った気がした。
基地に着くと,思わず,その姿を探し求めてしまっていた。きょろきょろと,辺りを見回す。馴染んだブリタニア基地ではなかったので,位置関係がよくわからない。見回してみて,彼女は自分が異邦人になった気がした。彼女――サーニャは,任務という,この上なく正当な理由でこの基地に足を踏み入れたのだが。案内役の女性兵士が,気遣うような声をかけてくる。
「大尉? 荷物を運ばせますので,そちらに――」
「あ,だ,だいじょうぶです。それで,あの……」
「何でしょう?」
「い,いえ,なんでも,ないです……」
今までサーニャに付き添っていた女性兵士は,怪訝な顔をした。その表情を見たサーニャは焦って,今の自分の対応の理由を説明しようとする。けれど,口ごもってしまう。上手く言葉が出てこない。
「あの……」
「サーニャっ!」
懐かしい,声がした。幻聴ではない。ゆっくりと声の方向を見る。ブリタニア基地で,いちばんの友達だった少女,誰よりも自分を安心させてくれた少女が,手を振っていた。
――それでやっと,安心できた。
「あの」
傍らの女性兵士を見上げる。
「案内は,ここまででだいじょうぶです。どうも,ありがとうございました」
そう短く告げると,彼女は荷物を引きずってそちらへと歩いていく。女性兵士が驚いたような顔をしたが,サーニャには見えていなかった。ただ,声をかけてくれたひとのところへと,向かう。
近づくにつれて,懐かしい思い出が次々と蘇ってくる。次に会う時は何て言おう。そう考えていたのだけれど,言葉がうまく出てこない。
「……エイラ。久しぶり」
だから,ぼそぼそとそう言うだけ。それでも,声の主は嬉しそうに笑うのだ。いたずらっぽさの残る,無邪気な笑顔で。
「久しぶりだなっ,サーニャ」
再結成とはいえ,その旅立ちは地味なものだった。少女たちはブリーフィングルームに集められる。ネウロイから奪還された後に作られたものなので,ブリタニア基地の重厚なそれと違い,新しいセメントの匂いが残っていた。
次々と,着席していく。ひとり隊長が,前に立ち部屋を見渡している。
第501統合戦闘航空団は,そっくりそのまま再現されたわけではなかった。坂本美緒少佐は魔力の減衰が顕著だったし,祖国が解放されたペリーヌ・クロステルマン中尉は精鋭部隊経験者として新生ガリア空軍で重宝されているようだった。坂本がいない部隊に留まる意味はないと割り切っていたのかもしれない。だから,中佐に昇進した後退役した坂本と,大尉に昇進して副隊長という役職につけられているペリーヌは,ここにはいない。
去っていく人材もいれば,やって来る人材もいる。魔眼の使い手だった坂本がいなくなったため,オストマルク空軍から魔眼を持つウィッチが推薦された。また,オラーシャ方面で多くの戦果を挙げた新進のウィッチが,精鋭に相応しいと選抜された。
新しい陣容で,連合軍第501統合戦闘航空団,通称「ストライク・ウィッチーズ」は,新しい作戦にのぞむ。
オーリャは,自分も含めて11人のウィッチが集まった広い部屋を,ぐるりと見回した。オラーシャのボロボロの基地とは大違いだな,そう思う。オラーシャ方面のネウロイはいまだに駆逐されていなかった。仲間たちはそれと日々戦っている。
(わたしも,戦わないと)
机の下に隠した拳の形の決意を握りしめる。前に立った赤毛の女性が咳払いをするのを聞いて,慌てて視線を前に向けた。ざわめいていた室内が,静まる。
「みなさん,わたしが隊長のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ大佐です。これからよろしくお願いします」
赤毛の女性は挨拶をすると,前列に座っていた真面目そうな黒髪の少女に目を向ける。彼女は勢いよく立ち上がった。
「わたしは副隊長のゲルトルート・バルクホルン少佐だ。よろしく頼む」
バルクホルンは着席すると,隣で寝ている金髪の少女を揺り起こす。
「ハルトマン,いつまで寝ているんだ。立って,自己紹介しろ」
「……ふああい……あ,えーと,エーリカ・ハルトマン大尉です。どうも」
歴戦のエースらしからぬその態度に,かつて第501統合戦闘航空団の隊員だったウィッチたちは平然としていたのだが,オーリャは驚いた顔をした。エーリカ・ハルトマンといえば,カールスラント空軍の「黒い小悪魔」とも呼ばれる名エースだ。オーリャは,彼女に対して抱いていた先入観と憧れが,がらがらと崩れ落ちていくのを感じていた。
「えーと,じゃあ……次,そこのひと」
「あ,はい」
指名されて,思わず立ち上がる。
「オリガ・V・クンツェフスカヤ少尉です。よろしくお願いいたします」
教範どおりの敬礼を綺麗に決めた。後ろの方に座っていた少女が,驚いたような顔でこちらを見ている。わたしがどうしたというんだ……そう心中で悪態をつきかけて,気付いた。あの少女は……
「えーと,次,あたしでいいのかな?」
オーリャは,立ったままだったことに気付いた。
「どうぞ」
赤面しながら座る。
「あー,あたしはシャーロット・E・イェーガー少佐だ。シャーリーって呼んでくれ」
「はいはーい! あたしはフランチェスカ・ルッキーニ中尉! みんなよろしくね!」
シャーリーと名乗った少女が座りもしない内から,よく日焼けした活発そうな少女が名乗る。これがロマーニャの「仔猫(ガッティーノ)」か,と,オーリャは妙に納得してしまった。シャーリーはそんなルッキーニを怒るでもなく,優しげに見つめている。
ルッキーニが座ると,後ろの方に座っていた色素の薄そうな少女が立ち上がった。
「エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉。よろしくな」
平板な口調で言うと,隣に座っている少女を促した。少女はおずおずと立ち上がる。彼女を,オーリャは紹介されなくても知っていた。年少でウィッチに志願し,着々と戦果を築いてきたまだ幼い少女。母国オラーシャ出身のウィッチの憧れの的。
(わたしは……)
知らず,きつい目線を向けてしまっていたのかもしれない。少女は怯えたような表情をして,そして名乗った。
「ええと……サーニャ・リトヴャク大尉です。みなさん,よろしくお願いします」
中々に面白い……もとい,頭の痛くなりそうな隊だな,とエミナは部屋を見渡して思った。原隊で繰り返された騒動を思い出す。
(まあ,この隊は人間関係に問題はないだろうな。新入りは,わたしとそこのオラーシャ人だけみたいだから)
そう考えたところで,自分の番がまわってきた。
「エミナ・アヴディチ大尉です。よろしくお願いします」
こういうときは型通りのことしか言葉が出てこない。けれど,それでいいのだろう。今まで,誰からも文句を言われたことはないのだから。淡々と型をこなせば,それで。
「わたしは,豚肉が食べられません。普段は気にしないでもいいですが,憶えておいてくれると助かります」
こう言って頭を下げる。すでに事情を知っていたミーナと,聡明そうな数人がああ,と頷く。東洋人とロマーニャの仔猫はわかっていないようだったが,後で誰かが説明してくれるだろう。そう期待して腰を下ろした。
「ええと,リネット・ビショップです……あ,階級は曹長です。よろしくお願いします」
「宮藤芳佳曹長です! みなさん,よろしくお願いします!」
これで全員が名乗り終えた。前に立ったミーナがにこりと微笑む。
「わたしたち,連合軍第501統合戦闘航空団のウィッチはこれで全員です。知っているひともいれば知らないひともいるでしょうが,空に上がれば一蓮托生の戦友。ぜひ仲良くしましょう。……さて」
その顔が引き締まった。今まで温厚な保護者の顔をしていたのが,連合軍のウィッチの中でもかなり高位にある前線指揮官としての顔になる。
(やはり,貫禄が違うな)
エミナは素直にそう思った。褒め言葉を口に出すのは性に合わないので,本人に言うことはないだろうが。
そしてその選択は,ミーナの精神衛生上も正しい選択だったのだが,エミナ本人は知るよしもない。
「早速,明日から訓練に入ります。カールスラントとの国境は不安定な状況にあるので,しっかりと身体で覚えなければいけません。補助してくれる部隊との連携も,訓練を繰り返すことではじめて身に付くものです」
補助する部隊……それを思うと,エミナは複雑な感情にとらわれるのだった。
連合軍第501統合戦闘航空団を補助する部隊とは,彼女の古巣……オストマルク空軍近衛航空団のことなのだから。
それは,彼女が,責任を十分果たさぬままに放り出してきた隊だった。
「……話は以上。解散!」
一斉に隊員たちが立ち上がって敬礼する。ようやく解放された,早く眠りたい,そう思っていたサーニャだったが,
「ああ,エイラさんとサーニャさんには,話があるからちょっと残ってね」
ミーナの言葉に,溜息をついた。
何故自分とエイラが呼ばれるのかはよくわからなかったが,夜間哨戒のシフト決めだろう,と思って立ち上がる。
「大丈夫か? 眠くないか?」
エイラが気遣うように言った。
「うん,大丈夫」
心がぽわぽわと暖かくなるのを感じながら,サーニャはミーナのもとへと向かう。ひとがいなくなったのを確認して,ミーナは申し訳なさそうに告げた。
「ロッテのことなんだけど……サーニャさんはオリガさんと,エイラさんはエミナさんと組んで欲しいの」
――それは,あまりにも予想外な「お願い」だった。
