2009-09-11 911は遠くなりにけり?
■[ロシア]12人の怒れるロシア人
『12人の怒れる男』を見ようと思ってツ○ヤに行ったが見つからず,代わりにロシアでリメイクされたヴァージョンが見つかったので借りてきた。そしたら,これが実に面白い。
- 出版社/メーカー: 東宝
- 発売日: 2009/01/23
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被告人は,自分を育ててくれた義父を殺したという容疑をかけられたチェチェン人の青年。彼は実の両親を紛争で失くしていたのだ。今日有罪判決が下れば,彼には終身刑の判決が下され,死ぬまで監獄に繋がれる。陪審員たちは,原作にもあるように様々な事情を抱え,早く審理を終わらせたいと望んでいる――
基本的な筋は原作の通りなので詳述はしないが,この映画の中では,ロシア社会の歪みが克明に映し出される。陪審員たちが案内された小学校の体育館は,老朽化しているにも関わらず,おざなりな補強しかなされていない。更衣室からは注射針が出てきて,それを見て激昂した陪審員のひとりがそれをダーツの的に投げつける――彼は麻薬で親類を失っていたのだ。
この作品にも,強い偏見を持った男が登場する。彼は,最初に説得された男を「ユダヤ人的」と評すが,男はにこりと笑って「そうだ。わたしはユダヤ人だよ」と答える。偏見を持った男は,懇々と,モスクワがいかにカフカース人で溢れ,異国的な街になっているかを訴える。そしてその男が少年を「カフカースの野蛮人」と呼んだ次の瞬間,別の男が立ち上がって言う。「わたしもカフカース出身だ。そのような侮辱は受け入れられない」と。
陪審員たちは,衝突しあいながらもある推測に辿り着く。それは,この事件は[事件の起きたアパートから住民を立ち退かせるための建設会社の陰謀]ではないか,というものだ。証拠はない。あくまでも状況証拠だけだ。ロシア社会には,未だ根深い闇が巣を張っていることを,陪審員たちは今更ながらに思い出す。うちのひとりは,彼が墓場で行っている詐欺と,それで彼が[故郷に学校を建てている]ことを露悪的に語る。
最後まで粘っていた男は説得された。陪審員たちは帰ろうとする。だがそこでひとりの老紳士だけが頑強に「有罪」を主張する。男たちは彼に詰め寄る。彼は言う。青年を有罪とする根拠が薄いこと,この事件は何らかの陰謀である可能性が高いこと,それはよくわかった。だが彼は有罪を主張する。なぜか。彼は淡々と言う。青年は,[釈放されるより監獄にいた方が長生きできるだろう],と。
陰謀の存在を知ってしまった青年,身寄りもない彼をそのまま放り出していいのか。その切々とした訴えは,だが通らない。そして物語はエンディングへと向かう。そのエンディングについては,ここでは語らない。是非その結末を,実際に見届けて欲しい。
この映画は,先程も述べたように,有名なアメリカ映画のリメイクというだけに留まらず,社会主義から資本主義へと移行する中で巨大な闇を抱え込んだロシア社会の姿を抉り出している。暗躍するマフィア,カフカースとの軋轢,進まないインフラの整備。そして所々に挿入される青年の回想で,長閑なカフカースが戦場と化した有様をも描いてみせる。ヴラヂーミル・ヴラヂーミロヴィチのもとで大国へと雄飛したロシアの「影」が,確かにそこにはある。
アメリカ映画の代用品のつもりだったが,終わってみれば,実にすぐれた作品だった。そして,やはりロシア語の響きは流麗で美しく,何度も音楽を聴いているかのような心地にさせられた。こんないい映画を見ずにおく手はあるだろうか,いやない。是非とも多くのひとに見られて欲しい映画だ。
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