【 Moai in ny Story vol.10 】 設計契約 【編集中】

諸事情があり、概算を依頼した施工者との縁が切れることとなったのは秋の事。
ちょうど一年前、仙台で取り組んだ住宅も同じように、その時は予算が合わずと
理由は異なるものの、縁の切れることがあった。
予算内で間違いのない施工の出来る施工者を探せるだろうか?と、
実施図面を携えて路頭に迷った事があった。不安と刹那さと一縷の希望と・・・


石橋を叩いて渡る事になるのだけれど、【 MoAi in ny 】は極小規模の住宅建築、
規模も仕様もギリギリの選択、後のない、言わば「背水」で計画をしていた。
実現の可能性を探る上では施工業者の概算が必要と考えていた。

実施設計に進む前に、この計画案を進めるのか、もう一歩踏み込んだ計画を考えるべきかの
設計においては重要な分岐点にあったと思う。


業者選定は通常、数社に見積もりを依頼し、その見積もり金額、内容等を判断し決定する。
または、概算時から協力を頂き、仕様決定の際にもお手伝い頂くケースがある。
選択肢の少ない建築計画の内容を考えると、後者が間違いの無い方法と考えていた。


予期せぬ状況に見舞われ先へ進めず、その後懸命に施工者を探す事になるのだけれど、
とても良い出会いがありお世話になり、伝い、幸運にも実際に施工頂いた工務店と出会う。
世の中が上手く出来ていることに感謝したい。


・・・計画提案から経過3ヶ月、不遇を乗り越え工務店に概算を依頼する。
余談ですが、竣工の時にお聞きしたのだけれど、工務店の現場代理人のO氏が当時の私を語る。
「概算依頼の際に模型まで持ち込まれ、熱かった!」と。・・・必死だったんです。


約二週間の後、時は2015年の10月末の事、概算見積もりが届く。
受け取りはクライアント同席の上、初顔合わせとなりました。
そして頂いた概算見積もりの数字を見て、たぶん、我々の笑顔は引きつっていたはずだ。


概算は予算2割オーバー。
実施図面なしの積算であるので当然、安全側にやや高価に積算をされているとしても、
頂いた見積もりは約70ページに及ぶ正確なもあり、進退に悩むことになる。


実施図面での本見積もり、予算に対して2割オーバーはギリギリ調整可能圏内にある。
と、自分は考えているけれど実際、2割の調整は相当に厳しい。
これは建築の規模、総予算、仕様内容により異なるのだけれど、抱えた計画はとても小さく、
そもそも調整代が極めて少ない。非常に厳しい現実を突きつけられる事となった。


それから2週間の間、クライアントとは悩ましい相談が続く。
選択肢は二つ。設計を中止するか、進めるか。


私自身はこれまで多難を幾度も経験している。むしろ、楽だった事がない。
いつもギリギリを模索し、滑り込む。思えば随分、鍛えられたのだと思う。
この数字は迷うには十分としても諦めるには及ばない。そう感じていた。


大いに迷われるクライアントに、安易に「大丈夫」とは言えない。
実施設計へ進み、本見積もりの調整が予算に届かず中止となった場合の
設計料の清算までを相談し・・・「進む」という判断を頂く。


設計契約は11月の中に差し掛かる頃。いよいよ実施設計がスタートする。