【 MoAi in ny Story vol.25 】 プレカット 【編集中】

今は大工さんが墨付けして刻んで加工して、という昔ながらのスタイルを見る事は殆ど無くなってしまった。
先日、とある現場の小さな木造建築増築で、それがあまりに小さい事もあり現場で加工する事になった。
墨や墨壷、それにボードに描いた伏図、イロハニの通番号など本当に久しぶりに出会い感激してしまった。


現在は「 プレカット 」全盛、工場で木軸構造材を加工してしまう。使うのは主に集成材となる。
大工の手仕事からプレカットへ変遷した理由は様々あるものと思う。棟梁と呼べる職人さんの不足、
工期の短縮、コストの削減、木造構造金物の設置精度の要求など考えられる。
実際、在来工法は木軸が組みあがる「 上棟 」までに相当な時間を要するものなのだけれど、今はとても早い。
パネル工法と変わらぬような早さで組み上がる。大抵は建て込み時に他の大工の応援を借りて一気に建ててしまう。
直ぐに合板を張り、屋根はルーフィング材までを施工するので雨に打たれる事もない。
それに、昨今はプレカット技術者の技術も確かでもあり不足を聞く事もない。


【 MoAi in ny 】はS工務店の使う知床のプレカット業者と聞き、また遠い所から!と驚く。
輸送の手間はあるけれど、これは数時間の差でしかなく、遠方の業者である事は良くある。
実際に加工する前に提出されるのが「プレカット図」。実は案外、設計者は見ない人が多いように思う。
工務店によっては、言わないと出してくれない事もあるし。


プレカット図は木造の施工図と言えるだろう。鉄筋コンクリート造(RC造)の施工図や鉄骨造(S造)の鉄骨加工図に同じ。
契約図を基にして製作される、何を造るのか?どう造るのか?・・・どちらかと言えばプラモデルの組立説明書に近い印象。
必ずチェックをするのだけれど、見慣れぬ図面に最初は何をチャックすれば良いか?結構、時間を要します。


昨年の仙台の住宅では施主がプレカット業者を指定され、施工者は初めての業者となり、プレカット図のチェックは何度だろう?
直接プレカット業者と主体的に打ち合わせる事にもなり、皆が相当な労力を費やす経験があった。
担当者は一生懸命な方で労を惜しまず、最後まで取り組んで下さった・・・その苦労を施主は知らないのだけれどね。


【 MoAi in ny 】では20枚のプレカット図が届く。伏図(構造木軸の平面図)と断面図(壁一枚一枚の軸組図)の施工図。
開口部の高さ関係も含め詳細に記されている。先に描いたディテールのスケッチを元に仕上寸法から、
仕上材の部材寸法や施工クリア確保を考慮したのが構造材の寸法となる。
施工者采配の図面となるのだけれど、S工務店のI氏は確かな方で、私にはすっかり調整済みのチェック図が届く。


ロフト構成その他、実は複雑な断面である【 MoAi in ny 】は合計9つの床レベルがあり、仕上げを考えると10となる。
天井、壁付けの窓が多数ある上に、縦横様々な連窓があり、その方立材と無目材は構造材となるので・・・考えるとパズルだ。
更に水廻りと換気の配管類は狭い所を通していることもあり、かなり難易度の高いプレカット図になってしまう。
・・・一つ一つを確かめて行き、不明点や疑問点を問い、問われしつつチェックをして行く。

こうして木造建築の骨格となる構造が実現すべく準備が整ったのは、配筋検査時の頃の事。




I氏はお会いすればいつも優しく微笑む様な方なのだけれど、仕事に手抜きはなく厳しく取り組んで下さる。
お会いしての余談もホドホドに時間に急かされ、互いに互いが何者かも良く知らずに、互いの要望や技術レベルを知る仲となる。
設計者は施工者に「どこまで求めるのか?」を伝える機会であり、施工者は設計者が「何を求めているのか?」と知る機会となる。
当然ながらS工務店のO氏もこの流れは確認していて漏らさずにある。思えば不思議な関係だ。


設計者と施工者には契約関係はない。施主と施工者との間で取り交わす工事契約書に「監理者」欄があり押印はするのだが。
契約関係はないものの互いに責任を負い果たすべく取り組む関係、それが確かな時の安心感は格別でもある。


竣工写真が綺麗に見えるとすれば、それはこの時の成果がとても大きい。出会って即座に互いの技量を求め合う関係は、
一気に信頼関係にまで及び、厳しい事を言い合うにも関わらず結束を強める事になり、そう出来れば揺るがない。


ディテールのスケッチやプレカット図という、まだ基礎も出来ていない頃に実は、設計者と施工者は鬩ぎ合う。
実施図面や見積書で互いに予測した相手を、実際に直に確かめるのだけれど、ここは互いに技術者故に理解は早い。
自分はクライアントの代弁者として挑み、施工者は建築する者として挑み、調和を目指す。