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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2017-09-12 高価な「先端医療検査」の実力は?

[]高価な「先端医療検査」の実力は? 高価な「先端医療検査」の実力は?を含むブックマーク

研究途上にある医療を高額な対価をとって提供する医療機関がある。記憶に新しい例では■クリニックで行われた臍帯血投与に意味がない理由で紹介した臍帯血投与である。ある種の血液疾患に対する臍帯血投与は標準医療だし、臍帯血由来の幹細胞を利用した再生医療はきちんとした研究の対象である。しかし、クリニックで提供された臍帯血投与にはまったく意味がなかった。

研究途上の、言い換えればまだエビデンスに乏しい医療は、治療のみならず診断にもあてはまる。具体的には、



■高城剛氏が語る「最先端医療の衝撃」(高城 剛) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)



にて紹介されている「先端医療検査のひとつ」であるところの「血中エクソソーム内のマイクロRNA検査」がそうである。医療機関によっては保険外診療(全額自己負担)として数万円から数十万円で提供されている。

血液中のマイクロRNAを調べることでがんの早期発見ができるのではないかと期待されているのは事実である。国立がん研究センターでも研究されている。しかし、研究中であるということは、いまのところは実用化はされていないわけである。もしかしたら研究の結果、実用には耐えられないことが将来判明するかもしれない。研究とはそういうものである。

未だ実用化されておらず臨床的意義は不明であることを十分に情報提供し同意を得た上でなら、数万円の対価を取って検査を提供する自由もあるだろう。しかしながら、高城剛氏が話を盛ったり独自解釈をしたりせず正確に伝えているのならば、上記リンクした『現代ビジネス』で紹介されている事例はインチキである。高城剛氏によれば、マイクロRNAが膵臓がんの『ステージ−1(マイナス1)』という状態で、遅くとも1年以内にすい臓がんが発症する確率が9割以上ということを示していたそうである。



「僕のマイクロRNAは、早ければ数ヵ月、遅くとも1年以内にすい臓がんが発症する確率が9割以上ということを示していました。本当にびっくりした。もちろん自覚症状はないし、その前に人間ドックで受けた腫瘍マーカー検査でもまったく問題はなかったのに、です」

(中略)

「同時期に『マイクロアレイ』という遺伝子の損傷状態を調べる先端検査を受けましたが、遺伝子レベルでの損傷は見られなかった。さらに高性能のMRCP(胆嚢・すい臓に特化したMRI)やエコーなど、視覚化できる先端技術でもがんは発見できなかった。

一般的にがん細胞が上皮細胞内にとどまっている初期の状態をステージ0と言いますが、僕の場合はいわば『ステージ−1(マイナス1)』という状態だったわけです」



画像診断が不可能なほど小さい膵臓がんをこのような精度で診断できる技術は現在の地球上には存在しない。ある検査が陽性だと「1年以内にすい臓がんが発症する確率が9割以上」であると、どうやったら証明できるかを考えてみればよい。すでに膵臓がんを発症している人をいくら集めて検査しても証明できない。まだ膵臓がんを発症していない人をかたっぱしからマイクロRNA検査をして、マイクロRNA検査陽性かつ画像検査で陰性だった人を1年間追跡調査しなければならない。確率が9割以上と言うからには最低でも10人は必要だろう。

では、どれぐらいの人数にマイクロRNA検査を行う必要があるだろうか。50歳台の日本人男性の膵臓がんの発症率は人口10万人年あたり約20人強ぐらいである*1。5万人検査してやっと膵臓がんの症例が10人ちょっと得られる計算になる。膵臓がんの発症率の高い高齢者を対象にしても数千人を検査しなければ、「1年以内にすい臓がんが発症する確率が9割以上」などという結果は得られない*2。そのような大規模な研究を行っておきながら未発表なんてことがあるだろうか。

既に膵臓がんと診断された人(当然、画像検査で陽性)をたくさん集めてどのぐらいがマイクロRNA検査で陽性になるかという研究であればすでになされている。がん患者を対象にした検査で正しく検査陽性となる割合を「感度」と呼ぶが、報道によれば、95%以上が陽性になるという*3。結構いい感じだと思うじゃん?ところがそうでもないんよ。同じく報道によれば、がんでない人を正しくがんでないと診断する割合「特異度」は83%である。つまり、がんでない人100人に検査すれば83人は正しく陰性という結果になるが、17人は誤って陽性になってしまうわけ。

そこで問題です。感度95%・特異度83%の検査を一般集団に行って、陽性と出た人の中で実際にがんである人の割合(陽性反応的中割合)はどれくらいでしょうか。

これは一般集団における膵臓がんの有病割合にもよる。今後1年間に発症する人をがんの有病者とすると、先に述べたように高城剛氏の年齢ではだいたい20人/10万人ぐらいである。つまり10万人にかたっぱしからマイクロRNA検査をすると、本当に膵臓がんである20人中19人が検査陽性となる。一方で膵臓がんでない人9万9980人のうち、誤って検査陽性と出る人は約1万7000人だ。

50歳台の日本人男性のマイクロRNA検査で陽性と出た人の中で実際に膵臓がんである人の割合は、約1万7020人中の19人、約0.11%である。高城剛氏が受けたマイクロRNA検査が、現在の地球上に存在しないオーパーツ的な検査ではなく、国立がん研究センターで研究されているのと同程度のものであれば、高城剛氏が遅くとも1年以内に膵臓がんが発症する確率は9割ではなく0.11%程度である*4。ちなみに感度99%、特異度99%まで改良したとしても、陽性反応的中割合は1.94%である。

高城剛氏は、高濃度ビタミンC点滴をされた上で、3ヵ月後にマイクロRNA検査を受けた。「がん発症リスクは大幅に下がっていました」とのことで高濃度ビタミンCが効いたと高城剛氏は解釈したようだが、実際のところは、もともと膵臓がんでもなんでもなく、平均への回帰によってマイクロRNA検査の結果が変わっただけのように、私には思われる。

日常診療において、保険外の検査が必要になることはあるが、あくまでも例外的な事例である。自費診療の治療を行っているような医療機関が提供する「先端医療検査」のほとんどが臨床的意義に乏しい。検査だけならお金を失うだけで健康被害に遭うことはないだろうが、異常が出たと不安を招いてエビデンスのない高価な治療に誘導する手法もよく見られる。高額な医療を受けるときには「すごく効果があるとしたらいったいなぜ普及していないのか?」と考えてみよう。



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■特異度と偽陽性率と陽性反応的中割合と

■がんSTOP音頭/細胞カラーチェッカー

*1:がん情報サービスグラフデータベースより

*2:細かいことを言うと血液検体を採取、保存しておいて、膵がんを発症した人と対照群のみを検査する方法はある。だとしても数千人、数万人もの検体を適切に保存しておかねばならない

*3https://www.dailyshincho.jp/article/2017/08260802/?all=1&page=2

*4:他の検査で陰性であったので実際には0.11%よりもっと低い

カルストカルスト 2017/09/15 10:37 ナトロム先生、こんにちは。
高城氏の話はネットニュースでも見ましたが、なんだか新興宗教の教祖と信者みたいに感じる、というと言い過ぎでしょうか?
「最先端の医療検査」とか、「マイクロRNA」などと言われると、なんの疑いも持たなくなるのでしょうか。怖い話だと思います。

TAKATAKA 2017/09/15 20:33  こんにちは。私は、思考に憑りついて離れないニセ医学的な説をメベンダゾールで駆除できるかどうか、調べている者です。
 ちなみに私の場合、高城氏の考え方は一見すると正しいように思えてしまいます。
 「まずは、高濃度ビタミンC点滴をされた」
 「次に、3ヵ月後にマイクロRNA検査を受けた」
 「すると、がん発症リスクは大幅に低下した」
 「ゆえに、高濃度ビタミンCが効いたと結論してよい」
 私の場合、これで納得して信じてしまうわけです。「ほかの原因があるかも?」とまでは、思いが居たらないのです。
 ゆえに、私は現在進行形で怪しい医療のいいカモ状態です。
 以上で、報告を終わります。

フォーチュンフォーチュン 2017/09/23 22:57 グッ!ジョブ ( ^ー゜)b

何気なく聞き流して納得してしまっていることでも、ちょっと掘り下げればおかしなことがいっぱい、
そんな健康話に対するいい例ですね、ただ素人にはちょっと気づきにくいので、このようなブログがありがたいです。m(_ _)m

つまりこの先端医療検査っていうのは、すい臓がんに対しほどほど心配ないですよっていうレベルでは心配で、
ほどほどほどほど心配ないですよっていうレベルになりたい人が受ける検査なんでしょうねきっと。
で、結果17%の確率で、すい臓がん発生確率0.11%っていうことになり、
たぶん心配ないですよレベルに心配しまくるんでしょうね。(;´д` )

でもそんな先端医療機器、私が医療機関側の人間ならぜひ導入したいですね、なんてったって5人に1人の割合で一年間の継続検査の患者を確保でき。彼らにどんなトンデモ医療を高額で施したとしても治癒率99.9%ってことになるんでしょうから。ヽ (´ー`)┌

2017-08-28 クリニックで行われた臍帯血投与に意味がない理由

[]クリニックで行われた臍帯血投与に意味がない理由 クリニックで行われた臍帯血投与に意味がない理由を含むブックマーク

無届けで臍帯血(さいたいけつ)の投与を行ったとして、医師を含む6人が逮捕されるというニュースがあった。



■さい帯血無届け投与、販売業者や医師ら6人逮捕 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)



がんの治療や美容目的で臍帯血の投与が行われていたという。該当するクリニックで行われていた臍帯血の投与は、医学的には意味がない。意味がないというか、意味がわからない。よくある細胞免疫療法は、少なくとも理論上は効くかもしれないと思えるようなものであるが、臍帯血については逮捕された医師がいったい何を期待していたのか見当がつかない。ぜんぜんわからずに雰囲気で臍帯血投与をやっていたとしか思えない。

臍帯血移植は標準医療である。大きなくくりでは、骨髄移植や末梢血幹細胞移植と同じく、造血幹細胞移植の一種である。たとえば、血液系の悪性腫瘍(がん)に対して臍帯血移植が行われている。しかし、そのメカニズムを知っていれば、がん患者にただ臍帯血を投与したところで何の効果もないことがわかる。

臍帯とはいわゆる「へその緒」である。このへその緒から採れた血液中にさまざまな血球に分化する能力を持った造血幹細胞が含まれている。血液系の悪性腫瘍に対し臍帯血移植を行う前に、まず抗がん剤や放射線治療によってがん細胞を叩く。しかし、こうした治療は副作用として正常な造血細胞にもダメージを与える。抗がん剤の副作用として白血球減少や血小板減少は有名である。

がん細胞に対して十分な治療を行ったところで臍帯血を移植すると、ドナーの造血幹細胞が増殖、分化して白血球や血小板を造りはじめる。つまり、治療によってダメージを受けた造血機能が回復する。臍帯血を移植することで思い切った治療が行えるわけだ。また、造血幹細胞由来の免疫細胞が残ったがん細胞に対して攻撃するという移植片対白血病効果(GVL効果)も期待できる。

臍帯血移植が効果を発揮するのはその前に抗がん剤治療や放射線療法を行うからであって、ただ臍帯血だけ入れても意味がない。レシピエントの免疫細胞が残っているので、逆に臍帯血由来の細胞は攻撃されて死に絶えるだけである。通常の臍帯血移植であれば、レシピエントの免疫細胞はほとんど残っていないので、臍帯血由来の細胞は生き残ることができる。

クリニックで行われた臍帯血移植において、移植された造血幹細胞が死に絶えてくれるならまだよい。臍帯血移植を含めた造血幹細胞移植には移植片対宿主病(GVHD)という副作用がある。移植された造血幹細胞由来の免疫細胞ががん細胞を攻撃するだけではなく、正常な組織も攻撃することによって起こる。運悪く移植片対宿主病が起きたとき、クリニックの医師は正しく対処できたであろうか。というか、移植片対宿主病の存在自体を知らないのではないか。知っていたら、生きている他人の造血幹細胞を外来で患者の体内に注入するなんて恐ろしいことはできない。

今回は、再生医療安全性確保法という法律があったため、こうして事件となった。しかし仮に法律がなかったとしても、入院設備のないクリニックががんの治療を目的として臍帯血投与を行うのは医学的に考えて容認できない。今回の事件は、単に法律上の手続きの不備に留まらず、医学的な観点において根本的に問題があった。

やっかいなのは、幹細胞さえ使用しなければ、同レベルのインチキ医療を規制する法律が存在しないことである。賢いクリニックではわざわざ臍帯血移植には手を出さず、もっと効率的に儲かる代替医療を提供している。長期的にはなんらかの法的な規制が行われるかもしれないが、現時点では、患者さんが各自騙されないよう気を付けるぐらいしか方法はなさそうである。



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2017-08-18 因果推論の考え方を学ぶ。『「原因と結果」の経済学』

[]因果推論の考え方を学ぶ。『「原因と結果」の経済学』 因果推論の考え方を学ぶ。『「原因と結果」の経済学』を含むブックマーク

cover■「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法 中室牧子 (著), 津川友介 (著)



相関関係があるからといって必ずしも因果関係があるとは限らない*1。テレビを長時間見ている子どもほど学力が低いとしても、テレビの視聴が低い学力の原因とは限らない。たとえば、テレビ視聴そのものは原因ではなく、長時間のテレビ視聴を許すような家庭環境が低い学力の真の原因なのかもしれない。

因果関係の有無を検証するのはしばしば困難である。テレビの視聴以外の、家庭環境を含め条件がすべて同一で、唯一の違いがテレビ視聴時間だけの子どもの学力を比較できればよいが、通常はそのような比較は難しい。十分な数の子どもたちをランダムに二群に分け、テレビの視聴時間を減らした介入群と視聴時間が変わらない対照群との間に学力に差が出るかどうかを比較するランダム化比較試験を行えばいいが、コストも時間もかかる。ランダム化比較試験ができない場合でも因果推論は可能である。本書では、テレビ視聴と学力の因果関係を「操作変数法」で検証した研究を紹介している。

操作変数とは「結果には直接影響を与えないが、原因に影響を与えることで、間接的に結果に影響を与える」ような第3の変数のことである(P115)。アメリカ合衆国においてテレビが普及しつつあった1948年から1952年までの期間、新規のテレビ放送免許の凍結が行われた。これを利用し、1948年以前からテレビを視聴できた群と1952年以降しかテレビを見ることができなかった群とを比較できる。この場合、操作変数は「テレビの所有」であり、「子供の学力」には直接影響を与えないが*2、「テレビの視聴」には影響を与える。この研究ではテレビを見ていた子どもたちのほうが、わずかであるが学力テストの成績が良かったことが示された。

書名に「経済学」とあるが、因果推論は経済学だけではなく医学の分野でも重要である。たとえば「喫煙は肺がんの原因かどうか?」という問いは因果推論そのものである。治療についても同様だ。「高血圧の患者は降圧薬を内服すべきか?」という問いは「降圧薬内服は良好な予後の原因かどうか?」という問いに変換できる。

本書では因果推論の方法として、ランダム化比較試験や操作変数法のほか、「差の差分析」「回帰不連続デザイン」「マッチング法」「重回帰分析」などが紹介されている。マッチング法と重回帰分析は医学の分野でもよく使われるが、そのほかの方法はあまり馴染みがない。操作変数法も医学の分野で馴染みがないと当初は思ったが、よく考えてみると、「メンデルランダム化解析」という手法は操作変数法であるように思う。今後、経済学での手法が分野を超え医学の分野でも応用されるようになるかもしれない(というか応用されているが私が知らないだけかもしれない)。



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■『生態学と化学物質とリスク評価』

*1:本書では「相関関係」を「2つのことがらに関係があるものの、その2つは原因と結果の関係にないもの」という狭い意味で使用しているが、ここでは因果関係がある場合も含んだ広い意味での相関関係を指す

*2:当時、テレビを所有していたかどうかは、家庭環境などではなくテレビ放送されている地域に住んでいるかどうかでほとんど決まるため

2017-08-17 『生態学と化学物質とリスク評価』

[][]『生態学と化学物質とリスク評価』 『生態学と化学物質とリスク評価』を含むブックマーク

cover■生態学と化学物質とリスク評価 (共立スマートセレクション) 加茂 将史 (著)



生態学と生態リスク評価はだいぶ違うものらしい。本書は基本的にはリスク評価、とくに生態リスク評価の方法の解説であるが、ちょいちょい挟まれる著者の経験が興味深い。著者の加茂将史さんは生態学が専門で理学出身だ。一方で、リスク評価は工学的な考え方をするそうである。

リスク評価は工学の世界で誕生しました.理学者は「飛行機がなぜ飛ぶのか」を知ろうとします.工学者は「どうすればちゃんと飛ぶ飛行機を作ることができるか」を考えます.「なぜ飛ぶのか」といった原理はさておいて,とにかく安全に行って帰ってくる飛行機を作ることが最大の目的なのです.化学物質の影響なんて,細かく詰めていけばわからないことだらけです.わからないことはわからないというべきであって,わからないから研究を行うのである.何か主張したければまず証拠を示せ,というのが理学的な発想です.その発想からすると,わからない世界にあえて踏み込んでいくリスク評価の方法論は危なっかしいものに思えます.工学的な発想と折り合いをつけること,これが,理学出身の私が超えなければならないルビコンでした.(はじめに)

強いて言えば、基礎医学が理学的で臨床医学が工学的であるようなものか、とも思ったが、基礎医学と臨床医学は分野間の交流が密である。臨床経験のある基礎医学者はざらにいるし、臨床医であっても博士号を基礎医学の分野で取ることもよくある。ところが,生態学と生態リスク評価では「お互いが思っている『生態』という言葉の意味が違いすぎて,話が通じない」ほどだったそうだ。

生態学を学んできた著者は生態リスクの基礎知識を知らないゆえに、苦労もするし悩みもする。一方で、生態リスク評価村の住民は生態学村での基礎知識を知らない(P51)。生態学を学んだ人にとっては当たり前のことも生態リスク評価分野ではそうでもなかったりした。分野間に断絶があることに気づき、生態リスク評価分野においては新しい発想である「個体群の維持が困難となる濃度での種の感受性分布」についての研究を行い、高い評価を受けた。まさに「その世界の常識を知らないことがよい方向に働いた幸運な事例」(P74)である。

現代科学は各分野の専門性が高く、そのぶん、隣がなにをしているのかよくわからない。分野をまたいだ学際的な発想が進歩を促すのであろう。私はただ読むだけだが、たまには違った分野の本を読むのも面白い。本書を読まなければ、生態学と生態リスク評価の違いなんて知らないままだったに違いない。



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■食の安全や健康情報の「うんちく話」

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20170817

2017-08-16 食の安全や健康情報の「うんちく話」

[][]食の安全や健康情報の「うんちく話」 食の安全や健康情報の「うんちく話」を含むブックマーク

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■効かない健康食品 危ない自然・天然 (光文社新書) 松永 和紀 (著)



松永和紀さんの新刊。ちなみに和紀は「かずのり」ではなく「わき」と読む。本書のプロフィールによれば、毎日新聞社の記者として10年間働いた後に退職し、科学ジャーナリストとして活動を開始した。最近では、BuzzFeedNewsに載った■<偽装豆腐>という間違いだらけの指摘にこそ注意!という記事で注目を集めた。

本書では食の安全や健康情報の分野のさまざまな話題が扱われている。水素水、ブルーベリー、ウコン、酵素ドリンク、グルテンフリー、トランス脂肪酸などなど。各項目は数ページで、冒頭に数行のサマリー、末尾に1〜2行のチェックポイントがついている。たとえば水素水の項目のサマリーは

「抗酸化作用がある」「がんに効く」「糖尿病が改善する」など、水素水のさまざまな”効能”が話題です。でも、「効かない」「根拠がない」と批判する科学者も目立ちます。どちらを信用すべきでしょうか?

答えは今のところ、「効き目の根拠は、ほとんどなし」です。水素は体内の大腸でも大量発生しており一部は血液中を循環しています。それに比べ、水素水として口から飲める量はごくわずかです。

チェックポイントは

「効く成分」が入っていなくても、期待が効き目に結びつく「プラセボ効果」にご注意。

といった具合。一項目が長くないので好きなところ、興味のあるところだけスパっと読める。

書名の「危ない自然・天然」は、肉の生食、浅漬けや冷やしキュウリによる腸管出血性大腸菌の感染、ヒジキ中の無機ヒ素などのリスクを紹介していることによる。なんとなくイメージで「天然なら安全」と思い込んでいる人はこのブログの読者には多くないだろうが、さまざまな事例を学ぶことができ有用だろう。また、友人、家族に勧めるのにも本書は手ごろだと思う。

リスクだけではなく、だったらどうすればいいかという点も述べられている。たとえば「バランスの取れた食事」は死亡リスクを下げる。当たり前のことではあるが、だからこそあまり取り上げられない。根拠に乏しくても「健康になりたければ○○しなさい」「××を食べるだけでがん予防になる」といった刺激的なキャッチコピーのほうが広まりやすい。とくにインターネットではそうである。

最終章ではNHS(イギリスの国民保健サービス)の「健康ニュースの読み解き方」が紹介されている。また、各項目のチェックポイントは他の事例にも応用ができるだろう。ネットの情報は玉石混交である。そうした情報の見分け方を身に付けるのに本書は役立つだろう。



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