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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2018-08-07 臨床環境医の利益相反

[]臨床環境医の利益相反 臨床環境医の利益相反を含むブックマーク

たとえばの話、「日本高血圧学会」の学会窓口を、降圧薬を売っている製薬会社がやっていたら、いくらなんでもまずいと思うよね。少なくとも現在の常識から言えば論外。何が問題かというと、たとえば「この降圧薬の効果はそれほどでもなく、むしろ副作用のほうが大きい」なんてことを学会で発表しにくくなる。また、学会の幹部が大学を退官したのち、製薬会社のビル内でクリニックを開業したらどう思うか。「それとこれとは無関係です。私は医学的に正しいと考える医療を行っています」と医師が言ったとして信用できるだろうか。



さて「臨床環境医学」という分野があります。臨床環境医が提唱した「化学物質過敏症」という病気は、ごく少量の化学物質に反応してさまざまな症状を引き起こすのだそうです。しかし、二重盲検法、つまり試験をする側と被験者の両方が化学物質かどうかわからない方法で化学物質を負荷すると、症状が出たり出なかったりします。化学物質過敏症は、主流の医学界では正当な疾患概念とはみなされていません。詳しくは■化学物質過敏症に関する覚え書きを参照してください。

臨床環境医の一人にダラス環境健康センターのウィリアム・レイ氏がいます。治療にホメオパシーを使ったりして、当局から医師免許を取り消しの懲戒処分請求をされたりしていますが、「日本臨床環境医学」の学会誌の創刊に祝辞が載るような偉い先生です。

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「臨床環境医学会」雑誌発刊を祝して


ウィリアム・レイ氏はAEHF(アメリカ環境健康財団・American Environmental Health Foundation)という組織を作っています。ウィリアム・レイ氏のクリニックに併設されているそうですが、インターネットでもどういう組織がわかります。普通の製品では症状が出てしまう化学物質過敏症の患者さんのために、さまざまな「安全な」商品を提供しています。化学物質過敏症の患者さんが増えれば増えるほどたくさん商品が売れそうです


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「すべて天然All Natural」の石鹸


日本にもAEHF-JAPANといってAEHFの支部があります。「(化学物質過敏症の)治療活動に必要なアイテムを取りそろえて」いるのだそうです。AEHF-JAPANは、とある食品会社内にあります。日本の化学物質過敏症の患者さんのために頑張っておられるのですね。


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「AEHF(アメリカ環境健康財団)は、アメリカはダラスに存在する組織です。

AEHFJAPANはその日本支部となります。」



日本に化学物質過敏症の疾患概念を伝えたのは日本臨床環境医学会です。さすがに今ではそうではないようですが、少なくとも平成17年ごろは、日本臨床環境医学会事務局はAEHF JAPANにおかれていました。「化学物質過敏症の治療活動に必要なアイテムは実はそれほど必要ではない」ことが科学的に明らかになればAEHF JAPANの売り上げが落ちますが、学会参加者が高邁な精神を持っていれば学会で遠慮せずに発表するので問題ないのでしょう。

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日本臨床環境医学会事務局はAEHF JAPANにおかれていた



日本の臨床環境医学に貢献した医師の一人に宮田幹夫氏がいます。日本臨床環境医学会元理事長で、化学物質過敏症の第一人者とされていて、著作も多数、■電磁波防護製品の効果を立証した研究も発表しておられます。宮田幹夫氏は北里大医学部教授を退官されてのち、「そよ風クリニック」を開業し、いまでも化学物質過敏症患者さんの診療にあたっておられます。このクリニックの住所がAEHF-JAPANがある食品会社と同一です。なんでも、その食品会社の2階にあるとか。クリニックを受診した化学物質過敏症の患者さんがすぐに安全な商品を買える素晴らしい環境ですね。



このたび、■街にあふれる「香害」で体調不良に 「誰もに起こり得る」化学物質過敏症に注意- 産経ニュースにて、宮田幹夫氏がコメントした。記事によれば「においによる被害の多くが「化学物質過敏症」(CS)の発症」とのことだ。しかしながら、記事で問題になっている「香害」は化学物質過敏症とはかなり異なる。臭覚として感知できるレベルの化学物質が体調不良を起こすというのは普通にありうる話で、臨床環境医学によるきわめてユニークな仮説に基づかなくても説明可能だ。化学物質過敏症の疾患概念が疑わしいとされている理由の一つは、臭覚閾値よりもさらに低いきわめて低濃度の化学物質でも症状が生じうるとの主張だ。臭覚閾値より濃度の濃い化学物質によって起こる「香害」と化学物質過敏症を混同すべきではないし、産経新聞は宮田幹夫氏にコメントを取るべきではなかったと、私は考える。



関連記事

■香水の自粛のお願いに化学物質過敏症を持ち出さないほうがいい

■臨床環境医学と化学物質過敏症

2018-07-30 「子宮頸がんで人は殆ど死なない」のか?

[]「子宮頸がんで人は殆ど死なない」のか? 「子宮頸がんで人は殆ど死なない」のか?を含むブックマーク

喫煙の害を過小評価しようとしているのか、「肺がんで死ぬのは10万人に80人、約0.08%である。タバコが肺がん死を数倍増やすとしてもたかがしれている」といった主張を散見する。10万人に80人というのはおそらく、日本人男性の肺がん租死亡率からきている。つまり日本人男性10万人につき年間で約80人が肺がんで死亡している。

0.08%を大したことがない数字だと思われるか。しかし、肺がんは日本の部位別がん死亡の第一位である。1995年ごろに胃がんを抜きトップに躍り出た。肺がん死がたいしたことがないなら、他の病気もおおむね大したことがないことになってしまう。

ポイントは、死亡率の分母は日本人男性全体で、死亡する確率が小さい若年者まで含めた数字であることと、そして何より、一年間あたりの数字であることだ。一生涯ならもっと数字は高くなり、日本人男性100人のうち肺がんで死亡するのは約6人、つまり日本人男性の肺がんの生涯死亡リスクは約6%である*1。約0.08%と比べるとずいぶん印象が異なるのではないか。

6%というのは喫煙者も非喫煙者もひっくるめた数字である。喫煙者割合と相対リスクから大雑把に推測してみると、非喫煙者の肺がんの生涯死亡リスクは約2%ぐらい、喫煙者は約10%ぐらいと思われる。ついでに言えば肺がん以外にも喫煙が死亡リスクを上げる疾患は多数あり、全部合わせると喫煙は10年ぐらい寿命を縮めるとされている。そうしたリスクを承知の上でタバコを吸うのは自由だ。しかし「タバコを吸っても肺がんで死ぬのは0.08%ぐらい」などという誤解に基づいて喫煙しないように願いたい。

HPVワクチンに反対する目的でも、疾患の死亡率を用いた過小評価が利用される。反ワクチンサイトから図を引用した「子宮頸がんのリスクは4万人に1人」とするツイートに対し、衣笠万里さんが注意喚起をしていた。


大雑把に言えば、日本人女性の子宮頸がん生涯死亡リスクは0.3%、子宮頸がん生涯罹患リスクは1%強である。「4万人に1人」というのは、死亡率なのか罹患率なのかすらよくわからないが、一年間当たりの数字であることは確かだ。子宮頸がんのリスクを過小評価させるのは、子宮頸がん検診の必要性も同時に過小評価させてしまうのできわめてまずい。HPVワクチンを接種しないという選択は自由であるが、「4万人に1人」という数字の意味するところを正確にご理解した上で選択して欲しい。

さて、生涯死亡リスク339人に1人を「子宮頸がんで人は殆ど死なない」と解釈した方がいたのには驚いた。日本全体で年間におおむね3000人が死亡している疾患だよ?


「くも膜下出血では、三人に一人が亡くなります」というのは、「クモ膜下出血にかかったら3人に1人が亡くなる」という話で、生涯死亡リスクの話ではない*2。online_checker氏は生涯死亡リスクの話を全く理解していない。おそらく、online_checker氏は、「子宮頸がんにかかっても339人中に1人しか子宮頸がんでは死なない」と解釈している*3。そんなわけないだろ。罹患と死亡の比から計算すると、子宮頸がんと診断された人のうち4人に1人は亡くなる。子宮頸がん全症例の5年生存率が約75%というデータとも整合性がある*4

日本のクモ膜下出血の死亡数が年間に約1万2000人なので、大雑把には子宮頸がんの4倍だが、クモ膜下出血は男性もかかるので分母も2倍、だいたいのところ生涯死亡リスクは子宮頸がんの2倍程度、約150人に一人が死亡といったところか。これは無視できない数字であるが、「三人に一人が亡くなります」という数字と比べるとずいぶんに小さい。リスクを比較するなら同じ指標で行わなければならない。子宮頸がんは生涯死亡リスクの数字を出しておきながらクモ膜下出血は致命率の数字を出すのは不適切である。

なお、online_checker氏は「約一リットルのビール大ジョッキを十分間で飲み切るのは容易い。しかも、大ジョッキ一杯で嘔吐する人なんて見かけない」ことをもって、■生理食塩水1Lを急速に飲むダイエット方法の注意喚起を「科学依存に陥っている」と評価した方だ。(■塩水洗浄(ソルトウォーターバッシング)を擁護するonline_checkerさん - Togetter)。



関連記事

■「個々の症状ごとに比べても意味がない」という批判の解説

*1https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

*2:「致死率」とか「致命率」という。甲状腺がんの議論でsivadさんが間違えたやつ

*3:でなければ、クモ膜下出血の生涯死亡リスクが33%ぐらいと考えているか、意図的にミスリードを狙ったか

*4https://ganjoho.jp/public/cancer/cervix_uteri/print.html

suzansuzan 2018/07/30 13:06 産婦人科医です。普段はROM専門ですが、自分の領域なので出てきてしまいました。
子宮頸がんは日本人女性が1年で1万人発症、うち3千人はなくなっています。
この数字はここ数年ほとんど変化していません。
さらに、子宮頸がんにかかっても死ななければいいのか、という問題があります。
子宮頸がんの最大発症年齢は25歳から40歳です。
結婚が遅い、こどもを持つのが遅い日本人女性ですので、子宮頸がん発症した時点で「これから結婚」「これから妊活」の可能性があります。
そういう女性にとっては「がんを治すために子宮を摘出する」はある意味、死ぬよりつらいかもしれません。

ぷーままぷーまま 2018/07/31 09:01 質問させてください。
娘は無料でワクチンを受けられる生まれ年ではなかったので高いお金を払ってワクチン接種に行かせていました。(私が乳癌経験者なのでハイリスクだと思っておりました)
2回目が済んだ時点でワクチン禍の話題が広がり、娘は3回目を拒否してしまいました。今からでもちゃんと受けさせたいと思っていますが、もう何年も経過してしまっている場合、最初からの受け直しでしょうか??
お分かりになる方がいらっしゃったら教えてください。

NATROMNATROM 2018/07/31 09:31 ぷーままさん、コメントありがとうございました。

3回目を受けてもいいし、受けなくてもかまいません。少なくとも「最初から受け直し」ということはありません。

当初はHPVワクチンは3回接種が必要とされてきましたが、どうやら2回でもけっこういいかもしれないということがわかってきつつあります「若年者では2回接種も3回接種に劣らない効果があるとされている」とされています。どこから若年者かという話になりますが、CDCの現時点の推奨では「15歳未満」です。

・15歳未満においてはワクチン接種は3回でなく2回で十分
・15〜26歳の10代および若年成人ならびに免疫機構が低下した人は3回接種を受けるべき

ただしこれはあくまでもアメリカ合衆国での話です。必ず従わなければならないわけではありません。15〜26歳でも2回接種でそこそこの効果はあります。

参考:
国立感染症研究所 HPVワクチンに関するWHOポジションペーパー 2017
https://www.niid.go.jp/niid/ja/route/std/1477-idsc/iasr-out/7389-449f02.html

海外がん医療情報リファレンス CDCがHPVワクチン接種の推奨を更新
https://www.cancerit.jp/53011.html

G.FoyleG.Foyle 2018/08/06 10:54 (すいません 本件に直接関連ない案件ですが)

>広島原爆被爆者の子供における白血病発生について
>https://ci.nii.ac.jp/naid/110009523713

私は医療関係者ではないこともあり、内容の閲覧は行えていないのですが
どうも 通説 に 喧嘩を売っている ような 話らしく

私の独善で大変申し訳ございませんが
よろしければNATROMさんの評価をお聞きしたく

NATROMNATROM 2018/08/06 11:35 G.Foyleさん、コメントありがとうございました。

私も抄録およびネットからの情報しか追えていませんが、これまでは被爆2世にがんの増加はないとされていたものの、白血病については増加した可能性がある、という報告のようです。

情報が少なくなんとも言えません。たぶん、本文を読んでもなんとも言えないと思います。通説に喧嘩を売っているというよりは、通説が必ずしも正しいと言えない部分があるかもしれない、という感じではなかろうかと。

G.FoyleG.Foyle 2018/08/06 16:27 NATROM様 お付き合いいただきありがとうございます

個人的に スモン に関してもかねてから思っていたのですが
発症が地域性を持つ疾病は、HTLV-1のようなウイルスによる感染症の可能性が
あるのではではないかと

それはともかく、本件は今年中に 一部の方々が確実に
持ち上げる・利用すると 考えます

G.FoyleG.Foyle 2018/08/12 00:10 失礼いたします

先日の「体内被曝でない被曝二世以下への影響の可能性」については
その後の情報収集により
>「福島で次世代に放射線被曝の影響は考えられない」ということ――日本学術会議の「合意」を読みとく
https://synodos.jp/fukushima_report/21590
でほぼ反論尽くされているようです(一安心)

ただ、HPVV関連で起こっている様な
「(結論ありきの)病状の 新理論 による解明」が湧いて出ない可能性も
ありますので注意は怠らない必要はあるとは考えますが

NATROMNATROM 2018/08/12 09:56 「体内被曝でない被曝二世以下への影響の可能性」も「HPVワクチンによる重篤で特異的な副作用」も、どんだけ調べても、「ない」と断言できないのです。「現時点での情報からは、あるとは言えない」とか「可能性は考えにくい」とかまでです。なので、「影響がある」という新しい研究が出てきたとき、「これまでの知見と結論が違う」という理由だけでは却下できません。

別の方法や、あるいはサンプルサイズを大きくすることで、「これまでの研究では本当は存在したのに見えていなかった影響」が見えてきたのかもしれません。もちろん、本当は存在しないのに方法論の問題や偶然誤差で影響があるように見えているだけかもしれません。だいたい医学はこんな感じで進みます。

それからスモンが感染症かもというのは、いくらなんでも、「通説 に 喧嘩を売っている ような 話」のように聞こえます。

狸化如狸化如 2018/08/12 11:50 「体内被曝」ですか。
「胎内」ではありませんか。

G.FoyleG.Foyle 2018/08/12 21:39 >狸化如 2018/08/12 11:50 「体内被曝」ですか。
「胎内」ではありませんか。

仰る通りです


それからスモンが感染症かもというのは、いくらなんでも、「通説 に 喧嘩を売っている ような 話」のように聞こえます。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%82%AD%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB

私はスモン発症に対しての事前のキノホルム投与が
 必要条件 であっても 十分条件 ではないと 考えております
キノホルムは諸外国で現在も処方されております
スモンの発症は優位に地域性を持ちます
勿論、日本人の民族的遺伝子が特にキノホルムに対する耐性が低かった
若しくは投与量が他国に比べて優位に多かった由来という可能性も考えられますが

NATROMNATROM 2018/08/13 08:12 十分条件でもなければ必要条件でもなくとも、薬害ということは普通にありえます(たとえば非加熱製剤の投与はエイズ発症の十分条件でもなければ必要条件でもない)。「スモン発症に対しての事前のキノホルム投与が必要条件であっても十分条件ではない」だと仮定して、スモンが薬害であるという通説に対する反論にはなりません。むしろかなり強い因果関係を示していると考えます。ましてやスモンが「HTLV-1のようなウイルスによる感染症の可能性がある」ということにはぜんぜんなりません。

G.FoyleG.Foyle 2018/08/13 20:09 NATROM様 御不快にして申し訳ございません
私の説明能力が不足であったのと考えます
私は「スモン発症が薬害ではない」とする気は毛頭御座いません 完全に薬害でしょう
https://www.hosp.go.jp/~suzukaww/smon/pdf/smon_paper.pdf
この論文によると「現在では動物実験においてもキノホルムによる
スモン様症状の発生が再現できている」とのことですから
ただ、問題が明確になった40数年前は急性致死量域を犬に投与しても
神経症状を再現できなかったこと
20年ほど前も「スモン発症はキノホルム単独毒性 だけ ではなさそう」という
通念が専門的研究者の中ではあったようですが

すいません スレッドのテーマから大幅にずれてしまいました
以下自制いたします

NATROMNATROM 2018/08/13 21:27 スモンに限らず、多くの(というかほとんどの)疾患において、複数の原因があるものです。たとえば、肺結核は定義上、結核菌の暴露が必要条件ですが、それ以外にも複数の要素があります(宿主が糖尿病だと感染・発症しやすいなど)。肺結核は、結核菌単独毒性だけではありません。HPVと子宮頸がんの関係も同様です。HPVに感染しても子宮頸がんの発症に至らない人が大半で、その差には複数の要因(喫煙など)が寄与しています。子宮頸がんはHPV単独毒性だけではありません。

水俣病の原因は有機水銀ですが、それ以外の原因もあります。宿主の感受性の違いで、同量の有機水銀に暴露されても、症状が出る人もいれば出ない人もいる、という具合に。スモンにもそういう点があるでしょう。ただ、ざっと和文論文を見た限りでは、スモンの地域性を「ウイルスによる感染症の可能性」によるとする論考は見つけられませんでした。スモンについては、未知の感染症を仮定しなくても、普通に代謝・排泄系の個人差/民族差/種差で説明可能であるように思えます(もしくはキノホルム製剤の主成分以外の成分の寄与)。

一方で、水俣病などの公害病において、誤って感染症であるという主張がなされたのは広く知られるところです。その誤りが意図的であったかどうか、歴史的背景は存じませんが、真実は人為的な要因による公害であるのに感染症であると誤認されると、加害責任があいまいになります。スモンについて、未知の部分が多い当時においてはともかく、現在において特に根拠なく感染症の寄与を言い出すのは「加害責任をごまかす意図があるのだろう」と勘繰られても仕方がありません。ひいては、「スモンを感染症かもしれないなどと薬害をごまかすような御用学者的な言説をなとろむは容認している」などといった攻撃に利用されかねません。

というようなことを念頭においてコメントいたしました。ご理解ください。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20180730

2018-06-23 HPVワクチンの問題はトロッコ問題か?

[]HPVワクチンの問題はトロッコ問題か? HPVワクチンの問題はトロッコ問題か?を含むブックマーク

「ワクチンで人が死んではいけない」といった趣旨のツイートがブックマークを集めている。そのいくつかが、HPVワクチンとトロッコ問題の類似性について指摘している。トロッコ問題とは、暴走したトロッコがそのままだと5人ひき殺すことろが、ポイントを切り替えて路線を変えると犠牲者は1人で済むという状況のときに、はたしてポイントを切り替えることは倫理的なのかという思考実験のことである。

確かにHPVワクチンとトロッコ問題は似ている。HPVワクチンを接種すると前がん病変や(おそらく)子宮頸がんを減らせるが、その代わり副作用が生じうる。比較すると利益のほうが害よりも大きいため接種を(国際的には)推奨されている。これは「多数を救うために少数を犠牲にする」トロッコ問題ではないか?しかし、私の考えでは、HPVワクチンとトロッコ問題には重要な違いがある

トロッコ問題ではポイント切り替え前の犠牲者と後の犠牲者は明確に区別できるが、HPVワクチンではそうではない*1。HPVワクチンを接種する前は(場合によっては接種してどれだけ時間が経っても)誰が利益を得られるのか、誰に害が生じるのかはわからない。トロッコ問題の少数の犠牲者はポイント切り替えによって利益を得られる可能性はまったくのゼロであるが、HPVワクチンの副作用被害者はワクチン接種時にはワクチンから利益を得られる可能性があった。

むろん「ポイント切り替え前の犠牲者と後の犠牲者が明確に区別できるかどうか」という点は些細なことであって、本質的にはHPVワクチンはトロッコ問題だという主張もあるだろう。ただ、そう主張する論者は、HPVワクチンだけでなく他のワクチンも、いや、ワクチンに限らずほとんどすべての医療行為はトロッコ問題であると考えなければならない。

そうした論者は、たとえば「手術しないと50%が死ぬ重篤な病気にかかった。手術が原因で死ぬ可能性は1%」という状況は「多数を救うために少数を犠牲にするのを許容できるのか、というトロッコ問題」と考えるはずだ。あるいはもしかしたら、「少数の命は切り捨てる」「命を大事にしているのではなくコスト計算しているだけ」などと言う人もいるかもしれない*2

がん検診はどうか。「無症状の女性1000人を対象に乳がん検診を行うと、1人の乳がん死を減らすことができる一方で、4人の過剰診断と200人の偽陽性が生じる」という状況は、「多数を救うために少数を犠牲にする」どころか「少数を救うために多数を犠牲にする」とすら言える。医療における標準的な考え方では少数とは言え、がん死という重大なアウトカムを減らすためなら、その程度の「副作用」は許容しうる、と考える。利益と害を天秤にかけるわけだが、利益と害を受ける対象が同一であるため一般的にはトロッコ問題とはみなされていない。

医療においてトロッコ問題(私が考える意味において)があるとしたら、たとえばこのようなものだ。「小児(学童)にインフルエンザワクチンを広く接種すると、高齢者のインフルエンザ関連死亡が減る。高齢者の死亡を減らすために小児にインフルエンザワクチンを接種すべきか?」。この場合、ポイント切り替え前の犠牲者(高齢者)と後の犠牲者(小児)は明確に分かれている。倫理的には、原則として、高齢者の死亡を減らすことだけを目的に小児にインフルエンザを接種すべきではない。ワクチン接種の主目的はまずワクチンを受ける人の利益である。幸いというか、現実にはインフルエンザワクチンは小児自身に対しても利益はある。

「自然に起こる病気よりもワクチンの副作用のほうが怖い」と考える人もいるだろう。人為によるリスクを大きくとらえるのは人の心として自然なことである。そういう人はワクチンを受けない自由がある。患者にはどのような医療を受けるのかを選択する権利がある*3。ワクチンについて不正確な情報を流したり、あるいは他人がワクチンを受ける自由を阻害したり(「HPVワクチンを定期接種から外せ」など)したならともかく、ワクチンを受けないという選択自体を他人が批判するべきではない。



関連記事

■HPVワクチンの「重篤な有害事象」7%は高すぎるか?

*1:HPVワクチンの場合はワクチン接種後の有害事象がワクチンと真に因果関係があるのか不明であるという点、HPVワクチンによって真に利益を受けた人が誰だか特定できない(ワクチンを打たなくても子宮頸がんにならなかったのかワクチンを接種したおかげで子宮頸がんにならなかったのか、個人レベルでは区別できない)といった点もトロッコ問題とは異なるが、今回のエントリーでは取り上げない

*2:URL:http://b.hatena.ne.jp/entry/366249505/comment/ccfva

*3:未成年の場合はどうなのか、という問題は医療ネグレクトにも絡んで複雑なので今回のエントリーでは扱わない。■医療ネグレクトの定義を参照のこと

nobuotakahashinobuotakahashi 2018/06/25 13:04 いつもながら明快な解説をありがとうございました(RikaTanの記事も拝読しました)。
トロッコ問題の解決方法はないのかもしれませんが、医療においては今の所そういうことは起きていないのですね。臓器移植が自由になると色々問題が起きそうです。一人が複数の臓器を提供して人助けをするなど。

「自然がなにより」という考え方は根強いですね。

nn 2018/07/05 12:01 この記事だけ読むと「致死的なHPVワクチンの副作用自体は低確率ながら確実に存在している」と認めたようになっていることが気になります。そういう立場なのでしたっけ? 1000mSvの放射線被曝や砂糖入り清涼飲料水なら「(直接区別ができないだけで)それのせいで一定確率で確実に死者がでている」を前提とした議論は理解できますが、HPVについてはそんな前提すらほぼ否定的のはずです。仮に10万人に1人だかで確実に犠牲者がいると証明されていることにしたうえでトロッコの例えを考えてみるのは構わないと思いますが、思考の前提は明記しておくべきのような気がします。

なんにせよ、「トロッコ問題」という言葉は、「選択と生死の因果関係が確実(確率が関係しない)」かつ「目の前で結果がすぐ明らかになる」という条件の時に限って使うべきだと思います。そこらを走ってる自動車だって、「使えば一定確率で確実に死者を出すことが完全に証明されている人工物」という点ではワクチン如きより遙かに酷い代物ですが、あれのリスクとメリットの天秤のことを「トロッコ問題」と呼ぶ人はいないでしょうし。

NOV1975NOV1975 2018/07/05 23:13 nさん
もともとトロッコ問題になぞらえたのはNATROMさんではなくリンク先の人ですよ。似ているが、完全に類似の問題ではない、というのがこのエントリの趣旨でしょ。

nn 2018/07/06 03:15 >NOV1975
そんなことは分かってますけど、似ても似つかないものを無理に比べてもーという。
本来のトロッコ問題は「確率や運の問題ではなく、原因と死亡との因果が明確に追跡できる」もの。
自動車や手術は「確率の問題で、原因と死亡の因果が明確に追跡できる」もの。
喫煙や被曝は「確率の問題で、原因と死亡の因果が明確に追跡できないが、統計的に死亡の原因になっていることが確実」というもの。
HPVワクチンは「原因との因果が明確に追跡できないとか以前に、そもそも死亡や重大な副作用を増やしているという証拠すら見つからない」もの。

個人的には「ここまでは似てる、いや似てない」とかじゃなく、もう「1番目以外をトロッコ問題と呼ぶな、はい終了」でいいと思います。妙に相手の喩え話に乗っかったせいで、この記事のままでは「NATROMがHPVワクチンの副作用による死亡があると大々的に認めた!」とかいう藁人形論法をする人がいるのでは、と気になっているわけですが、杞憂ですかね。

NATROMNATROM 2018/07/07 22:04 nさん、コメントありがとうございます。

HPVワクチン接種と因果関係が明確な死亡事例は現時点では知られていない、と私は理解しています(もちろん有害事象報告はある)。それはそれとして、HPVワクチンが絶対に死亡の原因にならないと100%断言できるかというと(HPVワクチン以外のすべての医薬品と同様に)断言できないわけでして、そのあたりは不確実性があるわけです。

ご指摘のように不確実性にもいくつかの段階がありまして、もともとのトロッコ問題のように個々の事例において因果関係が明確な事例もあれば、喫煙が肺がん死のように集団レベルで因果関係があるのは明確であるものの個々の喫煙者の肺がん死が喫煙由来かどうかは断定できない事例、HPVワクチン接種後の死亡といった有害事象として数えられるものの集団レベルでも個人レベルでも因果関係が不確実である事例もあります。

最初のような因果関係が明確な事例以外をトロッコ問題と呼ぶべきではないというのはその通りだとは思いますが、HPVワクチンとトロッコ問題をからめて考えている意見はけっこうあり、その一部は「少数を犠牲を前提にして多数の利益を得る(からHPVワクチンに反対だ)」という意見につながっています。

こうした意見に対する私の反論は、一言で言えば、「まあそうだけど、だったらすべての医療行為はそうだよね。君らすべての医療行為に反対してんの?」です。トロッコ問題かどうかというのは実は副次的なものであり、本質は医療の不確実性について話です。「NATROMがHPVワクチンの副作用による死亡があると大々的に認めた!」というような人が出ないとも限りませんが、そういう人は別に「1番目以外をトロッコ問題と呼ぶな、はい終了」と言ったところで別に考えを変えることもないでしょう。

ただ、本エントリーは、どちらかというと、HPVワクチンとトロッコ問題を関連付けているもののHPVワクチンには反対していないような人に対して書きました。「多数の利益を得るためには少数の犠牲は仕方ない」という意見ですね。いやもうほんと、「ワクチン問題はトロッコ問題と同義。助かる人が多くなるように医療者はポイントを切り替えるのが当然だ」というような主張もあるんです。ワクチン一般には集団免疫の話が関係してくるため、反ワクチンに対する過度な批判が生じやすく、それはそれで問題だと私は考えています。ひどい場合はバイオテロリスト呼ばわりです。

麻疹や風疹についてはワクチンで免疫が付かない弱者に対する保護という問題が別途生じて複雑ですが、HPVワクチンについては集団免疫はあまり考慮しなくていいでしょう。「集団を病気から守るためにワクチンを打て」ではなく、あくまでも「個々の立場でもメリットがデメリットが上回るのでワクチンを打った方がいいよ」という立場であるべきだと、私は考えるのです。ワクチン接種の主目的はまずワクチンを受ける人の利益です。HPVワクチンが推奨されているのは個々のレベルで利益があるからであって、集団としてメリットが大きいから個人レベルでデメリットが大きい人にワクチン接種が推奨されているわけではありません。

本文では触れませんでしたが、トロッコ問題とHPVワクチンの問題の違いは、不確実性や、潜在的な犠牲者が利益を得る集団に内包されていること以外に、ポイント切り替えの主体が犠牲者/受益者本人であることにもあります。トロッコ問題ではポイントを切り替える人は死んだり助かったりしませんが、HPVワクチンではそうではありません(未成年者の場合はまた話がややこしくなりますが保護者が意思決定の代理をしますのでやっぱりトロッコ問題とは明確な違いがあります)。HPVワクチンは、他の医療と同じく、不確実性を理解した上で受けるか受けないかを意思決定します。その点においても、トロッコ問題とは異なることが周知されればいい思います。

2018-06-04 日本語で書かれた教科書も理解できない大学教員

[]日本語で書かれた教科書も理解できない大学教員 日本語で書かれた教科書も理解できない大学教員を含むブックマーク

2017年11月に九州大学馬出キャンパスで行われた「福島小児甲状腺がん多発問題」に関する科学技術社会論学会の自由集会*1に参加させていただいた。集会に先立って、富山大学の林衛氏とやり取りする機会があった*2。林衛氏は、LDLコレステロールが動脈硬化性心疾患の原因であり、スタチンはそれを予防するという標準的な学説に否定的な「論文」を書いておられる*3。その根拠を尋ねてみたのだが、林衛氏は一次文献を読んでいないらしいことが判明した。教科書も読まなかったのかと尋ねたところ、お勧めの教科書を聞かれたので『ハリソン内科学』を勧めた。『ハリソン内科学』は内科学の定番の教科書で原著は英語で書かれているが日本語訳が出ている。結果から言うと、日本語で書かれた教科書でも林衛氏にご理解していただけることはなかった。以下、林衛氏のツイートを引用する。

スタチンの強力な脂質低下作用と多面的作用は,心不全のない患者群において主要な心血管イベントを減少させ生命予後を改善する」という部分は読んでいただけなかったらしい。「心不全の背景疾患としての冠動脈疾患進展の治療にスタチンが必要ならば,使用すべきである」という部分もだ。脂質低下が主な作用であるスタチンが、脂質が関与しない動脈硬化以外(弁膜症や心筋症など)による心不全に効果がなくても不思議ではない*4。『ハリソン内科学』のこの記述は「LDLコレステロールが動脈硬化性心疾患の原因であり、スタチンはそれを予防する」という学説とは矛盾しない。



『ハリソン内科学』におけるスタチンやLDLコレステロールの記述

■ニセ医学に騙されているのに境界線上の事例を検討できようかでも述べたように、少しぐらいコレステロールが高くても心血管リスクが小さい場合、薬を使うべきかどうか微妙な場合もありうる。しかしながら、幼少期からLDLコレステロールが高い家族性コレステロール血症や動脈硬化性心疾患を既に発症した人、糖尿病や慢性腎臓病がある心血管リスクの高い人に対するスタチンの有用性は確立されている。

『ハリソン内科学』において「心筋梗塞の危険因子にアテローム性動脈硬化はあげているが、コレステロールは慎重にはずすようになった」と林衛氏は書いているが誤りである*5。いったいどこを読んで「慎重にはずすようになった」と林衛氏が思い込んだのか不明だ。アテローム性動脈硬化の主要なリスク因子としてLDL高値は記載されているし、冠動脈疾患のリスク因子として脂質異常症は複数のページで触れられているし、もちろん治療の第一選択はスタチンだ。


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血漿LDL高値はアテローム性動脈硬化症の主要なリスク因子。『ハリソン内科学第5版』より引用。


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脂質異常症の治療が中心となる。『ハリソン内科学第5版』より引用。


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LDLコレステロール低下への介入が、総死亡、心筋梗塞、脳卒中といった心血管疾患を明らかに抑制するデータが豊富にある。『ハリソン内科学第5版』より引用。



他にも林衛氏の主張が間違っているところを『ハリソン内科学』から引用できるが、これぐらいにしよう。



林衛氏に科学リテラシーを教える資格があるのか

「教科書に書いてあるから正しい」とは私は主張していないことに注意していただきたい。仮の話として、林衛氏が教科書の記述を正確に理解した上で「標準的な学説ではLDLコレステロールが動脈硬化性心疾患の原因だとされているが、○○という理由で私は反対する」と主張したのであれば、有意義な議論ができたかもしれない。あるいはコレステロールが動脈硬化性心疾患の原因であること、スタチンがそれを予防することを踏まえた上で、どの程度のリスクがあれば薬物療法を開始するべきかという論点で議論ができたかもしれない。しかしながら林衛氏は、そもそも日本語で書かれていても教科書の内容を理解できなかったのである。有意義な議論をするためのスタート地点にすら立てていない。

林衛氏のやり方は、「コレステロールは心疾患の原因ではない。スタチンには効果はない」という結論がまずありきで、その結論に合うように見える部分を探して抜き出すだけである。だから、教科書が書いていないことを読み取ってしまうのだ。林衛氏とやり取りすると、常にこの「言ってもいないことを言ったとされてしまう問題」に悩まされる。本質的な議論に至る前に「そうは書かれていない」「そうは言っていない」というやり取りで終わってしまう。

林衛氏が単なる一人のTwitterユーザーであればいちいちこうしたエントリーを書かない。しかし、林衛氏は富山大学の教員の一人であり、科学コミュニケーションや科学リテラシーの講義を行っているのだ。いったい学生に何を教えているのだろうか。また、科学技術社会論学会年次研究大会ではオーガナイザーを務めている。どの分野にもこうした人はいるが、たとえば近藤誠氏が日本癌学会学術総会において座長を務めるようなことがあった場合、必ず批判が巻き起こるであろう。科学技術社会論の分野ではメンバー間で相互批判は行われないのだろうか。

コレステロールと心血管疾患の因果関係、および、スタチンの臨床における有効性については、多くの研究があり確立された事実であるが、それを理解するには疫学についての知識が必要である。低線量被ばくと甲状腺がんの因果関係、および、甲状腺がん検診の臨床における有効性について理解するためにもまた、疫学の知識が必要だ。教科書にも載るような基礎的な事例すらろくに理解する能力のない人が福島県の事例を果たして理解できるだろうか。



関連記事

■日本の成人でも甲状腺がんの過剰診断は起こっている

■ニセ医学に騙されているのに境界線上の事例を検討できようか

*1https://www.facebook.com/events/135058797059461/

*2:私が何度も「私と林衛さんとのやり取りの部分だけでもメールを公開してもよろしいでしょうか」と尋ねるも林衛氏の同意が得られないため公開できない

*3■コレステロール大論争で科学リテラシーを学ぼう

*4:細かいことを言えば、スタチンの多面的作用が虚血を伴わない心不全にも有効かもしれないという議論はある。『ハリソン内科学』の記述はそうした議論を踏まえている

*5https://twitter.com/SciCom_hayashi/status/929358778834628608

2018-05-21 HPVワクチンの「重篤な有害事象」7%は高すぎるか?

[]HPVワクチンの「重篤な有害事象」7%は高すぎるか? HPVワクチンの「重篤な有害事象」7%は高すぎるか?を含むブックマーク

医療情報を吟味し伝える活動を行うコクランがHPVワクチンのレビューを発表した。各新聞社が伝え、また、コクランの日本支部による日本語訳も読める。



■英民間組織:HPVワクチン「深刻な副反応の証拠なし」 - 毎日新聞

■子宮頸がんワクチン、「前がん病変」予防効果は高い…国際研究グループ : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)

■子宮頸がんおよび前がん性病変の予防を目的とするヒトパピローマウイルスに対する予防的ワクチン接種 | Cochrane



さまざまな論点があるが、今回は、HPVワクチンの重篤な有害事象が約7%である点を主に論じる。7%と聞くと不安に感じる人もいても当然であろう。HPVワクチンに子宮頸がんの前がん病変を減らすという利益(今回のコクランのレビューによればだいたい1万人中百何十人、パーセントに換算すると1%強)があるにしても、7%という重篤な有害事象の害と引き合わないのではないかと考える人もいるかもしれない。ただ、おそらくはほとんどのワクチンの専門家は、7%という数字を、まったく無視できるというわけではないのもの、それほど驚くような数字ではないと考えているだろう。それはなぜかという解説を試みたい。



有害事象と副作用は異なる

まずはおさらい。有害事象と副作用は異なる。もともとのコクランの記事自体に混乱がある*1が、7%というのは重篤な有害事象のことである。有害事象は因果関係の有無を問わない一方で、副作用は因果関係を否定できないものを指すという定義が一般的である。



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「有害事象(治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくない又は意図しない疾病又はその徴候)」

「副作用(少なくとも合理的な可能性があり、因果関係を否定できない)」

■有害事象より引用



よく引き合いにだされるたとえとして、ワクチン接種後に交通事故に遭っても有害事象として数えられる。ワクチンと無関係であろうと思われても、とにかく記録をしておかないと後から検証ができない。「いくらなんでも交通事故とワクチンは無関係だろう」「いやいや、ワクチンのせいでふらつきが起こって交通事故に遭ったという可能性が否定できない」なんて議論をする前に、とにかく、有害事象は記録することになっている。



対照群と比較して重篤な有害事象の頻度に差はない

当然のことながら、因果関係が否定できない副作用よりも、因果関係を問わない有害事象のほうが多くなる。ワクチンを否定したい人たちによって「こんなにも高頻度で有害事象が起こっている!ワクチン危険!ワクチン反対!」といった主張にしばしば利用される。有害事象と副作用の区別がつかないか、あるいは、区別がついていても意図的に無視して煽っているのかのどちらかであろう。

ただ、今回はそういう安易なワクチン反対者以外からも「いくらなんでも7%というのは高すぎるのではないか」という懐疑的な意見が出ている。当然である。ただ、この懐疑に答えるのはいくつか段階を踏まねばならない。

まず、ワクチンの使用後に起きた有害事象のうち、どれぐらいがワクチンと無関係で、どれぐらいがワクチンのせいなのか、どうやったら区別できるだろうか。それは、ワクチンを打った群と、打ってない対照群を比較すればいい。ワクチンのせいでふらついて交通事故に遭う確率が高くなっていれば、対照群と比較して、ワクチン群で交通事故の報告数が多くなるはずである(加えて、ふらつきや転倒といった関連する有害事象もワクチン群で多くなる)。

今回のコクランのレビューでは、すでにそのような比較がなされており、「重篤な有害事象の発現リスクは、HPVワクチン接種群と対照群(プラセボまたはHPV以外の感染症に対するワクチンを接種)とで同等であった(確実性は高い)」と結論付けられている。対照群にも有害事象は7%ほど起きているので、HPVワクチンとの因果関係は認められないというわけだ。比較試験で差がつきにくいほどの稀な(たとえば10万人に1人とか)副作用までは否定できないが、少なくとも7%も重篤な副作用が起きていることは否定できる。

「他のワクチンでもこんなに重篤な有害事象が起きているのか」という疑問も出されているが、たとえば、タイで行われたHIVワクチンの臨床試験では、3.5年間の観察期間中、ワクチン群で14.3%、プラセボ群で14.9%の重篤な有害事象があった*2



生理食塩水を対照にしないのには理由がある

次に問題になるのが、対照群が適切であったかどうかである。HPVワクチンの比較試験の多くでは、対照群は生理食塩水などの非活性プラセボではなく、アジュバントや他のワクチンを接種されている。アジュバントとは、ワクチンの効果を高めるために使われる薬剤のことだ。

HPVワクチンの反対者の主張の一つに、アジュバントこそが悪者でありさまざまな副作用の原因だ、というものがある*3。彼らの主張によれば、対照群にもアジュバントが打たれているがゆえに比較試験で差が出ないというのだ。対照群に7%もの重篤な有害事象が生じることこそが、その証拠であるとも。タイで行われたHIVワクチンの臨床試験も対照群にはアジュバント(aluminum hydroxide gel adjuvant)が接種されている。

対照群に非活性プラセボを使わない理由は、盲検が破れてしまうことと、対照群の不利益を考慮した倫理的なものである。HPVワクチンを接種した直後は接種部位に局所的な痛みや炎症が生じる。対照群が生理食塩水だとこうした痛みや炎症が生じにくいのでHPVワクチン群か対照群かが気づかれてしまい、試験の妥当性が落ちる。また、臨床試験に参加していただくからにはなるべく不利益にならないよう、対照群に対し安全性や効果がわかっているワクチン(A型肝炎ワクチンが採用されていることが多い)を接種する場合もある。



アジュバントなしの対照群でも重篤な有害事象の頻度はワクチン群と変わらない

そもそも、アジュバントなしと比較した臨床試験は存在する。それも日本の研究だ*4。20歳から25歳までの日本人女性を、HPVワクチン群と対照群にランダムに振り分けて24ヶ月間観察したところ、HPVワクチン群で3.5%(18人/519人)、対照群で3.6%(19人/521人)の重篤な有害事象を認めた。対照群はA型肝炎ワクチン(Aimmuge/エイムゲン)を接種されているがアジュバントを含有していない*5

A型肝炎ワクチンは長年使用されてきた実績があり安全性はおおむねわかっている。被験者がそれぞれの群で500人程度であるので稀な副作用が生じるかどうかはこの試験ではわからないが*6、少なくとも、HPVワクチンの対象となりうる女性においてアジュバントを含有していない安全とされているワクチンでも重篤な有害事象が数%は起こってもおかしくないことはわかる。

24ヶ月間(2年間)観察して3.5%の重篤な有害事象が起こるのであれば、4年間も観察すれば7%も不思議ではない。コクランのレビューは「0.5〜7年にわたってワクチンの安全性を評価」した結果である。ワクチンの専門家がHPVワクチンの重篤な有害事象の頻度7%を、それほど問題視していない理由をご理解いただけただろうか。



病気を数えるのは難しいし、しばしば直観に反する

疾患や異常の数を正確に数えるのは思いのほか難しい。つい最近、インフルエンザの治療薬であるタミフルの10歳台への使用制限が解除されたとの報道があったが、タミフルの異常行動が問題になった10年前も、専門家と一般の人たちの間で認識の違いがみられた。タミフル服用後の異常行動が広く報じられると、タミフルと因果関係があろうとなかろうと同じような事例が次々に報告される。タミフルを使用しなくてもインフルエンザ単独で異常行動は生じうるというのが専門家の認識である一方で、そのような異常行動は聞いたことがない、きっとタミフルのせいに違いないと認識した人たちもいただろう。

疾患や異常への認識、見つけようとする熱意、検査手段によって、発見される疾患や異常の数は変わる。疾患概念がなかったころはしつけが悪い困った子とみなされていたのが発達障害と診断されるようになる。検査機器の性能の改善や検診機会が増えただけで甲状腺がんの患者数が増加する。頭部CTがなかったころは老衰として対処されていたが脳血管障害として診断・治療されるようになる。HPVワクチンの臨床試験における高い有害事象頻度もその一つと言える。

私もたまに治験に協力することがある。私が関わるのは病院に定期的に通院しているような患者さんを対象にした治験だ。むろん重篤な肝障害とか腎障害とか進行がんの治療中とかいう患者さんは除外されるが、高血圧や脂質異常症があるのは普通であるし、おおむね高齢だ。そういう患者さんはフォローアップ中に、風邪を引いたり、湿疹が生じたり、転んで骨折したり、肺炎になったり、がんが新たに発見されたりする。これらはぜんぶ有害事象として報告されなければならない。

正直言うと、とても面倒くさい。書類を書いても直接の私の利益にはならない(病院の収入にはなる)が、正確な情報が正確な結果を生み、将来の患者さんのためになると思って協力している。報告漏れや記載漏れがないよう、治験コーディネーターと言われる職種の方々が手伝ってくれる。私の経験の範囲内だが、治験コーディネーターさんはきわめて厳密で正確な報告を要求してくる。たぶん、こうした職種の関与がなかったころは、医師が手を抜いて報告されていなかったような有害事象があっただろう。プラセボ群の高い有害事象頻度は、プラセボが有害である可能性の他に、漏れのない質の高い有害事象の調査が行われていることも示しているのではなかろうか。

完全に余談であるが、治験コーディネータが不適切に描写されたとして日本臨床薬理学会が抗議文*7を出したテレビドラマについての感想を治験コーディネーターさんに聞いてみたところ、「加藤綾子なにしてくれとるんじゃあ」とのことであった(加藤綾子はドラマに登場する治験コーディネーターに相当する役を演じる女優)。



HPVワクチンのこれから

コクランのレビューはきわめて信頼性が高いが無謬というわけではない。今後、結論が覆される可能性はゼロではない。また、今回のレビューで示されたのは重篤な有害事象の全体がプラセボ群と差がないことであって、特異的で稀な副作用が存在しないことは示されていない*8。HPVワクチンの効果についても示されたのは前がん病変の予防までであって、浸潤子宮頸がんの発症やがん死の抑制はまだ示されていない。これらの未解決の問題は今後も検証が必要だ。

一方で、現在わかってる知見からは、HPVワクチンの利益は害より勝ると考えられている。前がん病変を減らすなら浸潤子宮頸がんやがん死も減らすだろうというのはきわめて合理的な推測だし、検診を受けるつもりならHPV感染や前がん病変を減らすことだけでも利益になる*9。害についても、稀な副作用は否定できないものの、これまで使用されてきたワクチンと比較して【著しく】危険だとは言えないことはわかっている。

HPVワクチンの反対者はしばしば、「根拠に基づいてHPVワクチン批判をしているだけであってワクチン全体を否定はしていない。反ワクチンとレッテルを貼るな」などと言う。むろん、反ワクチンというレッテルが不適切な場合もあるだろう。しかしながら、HPVワクチンの反対者の一部には、やはり反ワクチンとしか言いようのない主張がみられる。有害事象と副作用の区別もつけずにHPVワクチンを危険だと主張する。コクランは買収されたので信頼できないという一方で、反ワクチンサイトの主張を鵜呑みにする。

HPVワクチンを批判するなら根拠に基づいて批判していただきたい。



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■イングランドにおいてHPVワクチン接種世代の子宮頸がんは増加せず

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*1:"The evidence also shows that the vaccine does not appear to increase the risk of serious side effects which was about 7% in both HPV vaccinated or control groups." http://www.cochrane.org/news/does-hpv-vaccination-prevent-development-cervical-cancer-are-there-harms-associated-being 。当初、日本の報道機関が誤訳したのかと思っていた。疑ってすまんかった。

*2https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22205930

*3:彼らの主張によればHPVワクチン以外の、アジュバントを含む他のワクチンも危険だということになってしまい、容易に反ワクチンにつながる。

*4https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20606533

*5https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/36/419/graph/dt41981.gif

*6:この試験【だけ】では1000人に1人の副作用もわからない

*7■プレスリリース|株式会社TBSテレビに対する見解送付のお知らせ:日本臨床薬理学会

*8:重篤な有害事象を全部漏れなく数え上げると、特異的で稀な副作用が「背景に埋もれて」見えにくくなるかもしれない。「内訳」の解析は必要だ。そして、得てして製薬会社は詳細な情報を出すことに消極的なので、ケツを叩く必要がある。一方で、多くの種類の「副作用」についてそれぞれ検定するとタイプ1エラーが生じる。疑わしい副作用をピックアップして観察研究で検証する、といった作業が必要だろう。というかそういう作業は現在も進行中で、今のところは、HPVワクチンと因果関係のある特異的かつ重篤な副作用は認められていない、と私は理解している。

*9:検診回数や円錐切除術といった侵襲性のある治療を減らせるため

ほうかいほうかい 2018/05/28 17:25 NATROMさん初めまして。いつも楽しくブログを拝見させて頂いております。

先に申し上げておきますが、私も一応医師であり、HPVワクチンの安全性にはあまり疑問を持っておりません。ただ疫学が専門ではないため一つだけ質問があります。

NATROMさんが書かれた「HPVワクチンのこれから」という内容に多少関連があるかもしれませんが、コクランレビューにしても日本人の方のRCTにしてもなぜadverse effectの観察期間がこれほど長いのでしょうか?観察期間を長くすればするほどそのadverse effectが(たとえば確実に0.1%の方で起きるとしても)埋もれてしまうのではないでしょうか?そうすると2年で3.5%とか、4年で7%とかは単にその年代の方々に何かが起きるnatural historyの統計を取っているだけということはないのでしょうか?

NATROMNATROM 2018/05/28 18:35 ほうかいさん、コメントありがとうございます。

・なぜ有害事象の観察期間がこれほど長いのか?
・あまり長く観察すると、まれな副作用が背景に埋もれてしまうのではないか?
・その年代の方々に何かが起きる自然史の統計を取っているだけではないか?

というご質問ですね。

有害事象の観察期間が長い理由は、いくつか考えられますが、HPVワクチンの効果そのものも数年間は観察しないとわからないため、はじめから長めの観察期間が設定されているのだと思います。HPVに感染すると、その一部は前がん病変を経て、子宮頸がんに移行しますが、HPVに感染してすぐに前がん病変にはなるわけではありません。観察期間が短いとワクチン群と対照群で前がん病変の発症率の差が出ません。どうしても数年の観察期間が必要ですが、それなら効果(HPV感染や前がん病変)だけでなく有害事象も同時に数えることになります。また、長い観察期間を置くことで、晩発性の副作用も見つけやすくなります(稀だと差が出ませんがとにかく数えないことにはわからない)。理想を言うなら前がん病変までではなく浸潤子宮頸がんの発症まで見たいので、もっと長い観察期間があってもいいです(たぶん調査進行中でしょう)。

ただ、観察期間が長いと、その分だけ有害事象も多くなり、副作用が生じていたとしても「背景に埋もれて」見えにくくなります。ご指摘の通りです。この問題は「内訳」別に解析することで、ある程度は解消可能です。観察期間の長さが問題なら、たとえば、「ワクチン接種後1年以内に起きた有害事象」に限定して解析すればいいわけです。いまのところ、そうした解析で有意に増えた有害事象は認められていません。

有害事象全体で数えると、おっしゃる通り、「単にその年代の方々に何かが起きるnatural historyの統計を取っているだけ」の可能性もあります。細かいことを言えば、「natural history+背景に隠れて見えにくいワクチンの副作用」を見ている可能性もあります。コクランが集計したのはランダム化比較試験ですので、稀な副作用は捕まりません。ただ、観察研究の知見も含めて考えると、HPVワクチンの重篤な副作用は、あってもかなり稀であるとは言えます。

私がHPVワクチンの反対者だったら、今回のコクランの発表を受けて、「有害事象が7%も起きているからHPVワクチンは危険だ」とは言いません。ましてや、コクランが買収されているかもしれないなどという陰謀論的な主張は信用を落とすだけです。単に、「今回のコクランの発表は、稀な副作用の存在を否定するものではない」とだけ言います。

ほうかいほうかい 2018/06/01 13:06 NATROMさん早速の返答ありがとうございます。
観察期間の長さの理由とその善し悪しについてもよくわかりました。

また、他にも様々な観察研究があるのですね。
新聞記事をみているとあたかもコクランレビューの結果を持ってしてHPVワクチンは完全に安全であるというかの論調がどうも納得いきづらかったもので、今回のコメントをしてしまいました。