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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2018-05-21 HPVワクチンの「重篤な有害事象」7%は高すぎるか?

[]HPVワクチンの「重篤な有害事象」7%は高すぎるか? HPVワクチンの「重篤な有害事象」7%は高すぎるか?を含むブックマーク

医療情報を吟味し伝える活動を行うコクランがHPVワクチンのレビューを発表した。各新聞社が伝え、また、コクランの日本支部による日本語訳も読める。



■英民間組織:HPVワクチン「深刻な副反応の証拠なし」 - 毎日新聞

■子宮頸がんワクチン、「前がん病変」予防効果は高い…国際研究グループ : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)

■子宮頸がんおよび前がん性病変の予防を目的とするヒトパピローマウイルスに対する予防的ワクチン接種 | Cochrane



さまざまな論点があるが、今回は、HPVワクチンの重篤な有害事象が約7%である点を主に論じる。7%と聞くと不安に感じる人もいても当然であろう。HPVワクチンに子宮頸がんの前がん病変を減らすという利益(今回のコクランのレビューによればだいたい1万人中百何十人、パーセントに換算すると1%強)があるにしても、7%という重篤な有害事象の害と引き合わないのではないかと考える人もいるかもしれない。ただ、おそらくはほとんどのワクチンの専門家は、7%という数字を、まったく無視できるというわけではないのもの、それほど驚くような数字ではないと考えているだろう。それはなぜかという解説を試みたい。



有害事象と副作用は異なる

まずはおさらい。有害事象と副作用は異なる。もともとのコクランの記事自体に混乱がある*1が、7%というのは重篤な有害事象のことである。有害事象は因果関係の有無を問わない一方で、副作用は因果関係を否定できないものを指すという定義が一般的である。



f:id:NATROM:20180521131946j:image

「有害事象(治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくない又は意図しない疾病又はその徴候)」

「副作用(少なくとも合理的な可能性があり、因果関係を否定できない)」

■有害事象より引用



よく引き合いにだされるたとえとして、ワクチン接種後に交通事故に遭っても有害事象として数えられる。ワクチンと無関係であろうと思われても、とにかく記録をしておかないと後から検証ができない。「いくらなんでも交通事故とワクチンは無関係だろう」「いやいや、ワクチンのせいでふらつきが起こって交通事故に遭ったという可能性が否定できない」なんて議論をする前に、とにかく、有害事象は記録することになっている。



対照群と比較して重篤な有害事象の頻度に差はない

当然のことながら、因果関係が否定できない副作用よりも、因果関係を問わない有害事象のほうが多くなる。ワクチンを否定したい人たちによって「こんなにも高頻度で有害事象が起こっている!ワクチン危険!ワクチン反対!」といった主張にしばしば利用される。有害事象と副作用の区別がつかないか、あるいは、区別がついていても意図的に無視して煽っているのかのどちらかであろう。

ただ、今回はそういう安易なワクチン反対者以外からも「いくらなんでも7%というのは高すぎるのではないか」という懐疑的な意見が出ている。当然である。ただ、この懐疑に答えるのはいくつか段階を踏まねばならない。

まず、ワクチンの使用後に起きた有害事象のうち、どれぐらいがワクチンと無関係で、どれぐらいがワクチンのせいなのか、どうやったら区別できるだろうか。それは、ワクチンを打った群と、打ってない対照群を比較すればいい。ワクチンのせいでふらついて交通事故に遭う確率が高くなっていれば、対照群と比較して、ワクチン群で交通事故の報告数が多くなるはずである(加えて、ふらつきや転倒といった関連する有害事象もワクチン群で多くなる)。

今回のコクランのレビューでは、すでにそのような比較がなされており、「重篤な有害事象の発現リスクは、HPVワクチン接種群と対照群(プラセボまたはHPV以外の感染症に対するワクチンを接種)とで同等であった(確実性は高い)」と結論付けられている。対照群にも有害事象は7%ほど起きているので、HPVワクチンとの因果関係は認められないというわけだ。比較試験で差がつきにくいほどの稀な(たとえば10万人に1人とか)副作用までは否定できないが、少なくとも7%も重篤な副作用が起きていることは否定できる。

「他のワクチンでもこんなに重篤な有害事象が起きているのか」という疑問も出されているが、たとえば、タイで行われたHIVワクチンの臨床試験では、3.5年間の観察期間中、ワクチン群で14.3%、プラセボ群で14.9%の重篤な有害事象があった*2



生理食塩水を対照にしないのには理由がある

次に問題になるのが、対照群が適切であったかどうかである。HPVワクチンの比較試験の多くでは、対照群は生理食塩水などの非活性プラセボではなく、アジュバントや他のワクチンを接種されている。アジュバントとは、ワクチンの効果を高めるために使われる薬剤のことだ。

HPVワクチンの反対者の主張の一つに、アジュバントこそが悪者でありさまざまな副作用の原因だ、というものがある*3。彼らに主張によれば、対照群にもアジュバントが打たれているがゆえに比較試験で差が出ないというのだ。対照群に7%もの重篤な有害事象が生じることこそが、その証拠であるとも。タイで行われたHIVワクチンの臨床試験も対照群にはアジュバント(aluminum hydroxide gel adjuvant)が接種されている。

対照群に非活性プラセボを使わない理由は、盲検が破れてしまうことと、対照群の不利益を考慮した倫理的なものである。HPVワクチンを接種した直後は接種部位に局所的な痛みや炎症が生じる。対照群が生理食塩水だとこうした痛みや炎症が生じにくいのでHPVワクチン群か対照群かが気づかれてしまい、試験の妥当性が落ちる。また、臨床試験に参加していただくからにはなるべく不利益にならないよう、対照群に対し安全性や効果がわかっているワクチン(A型肝炎ワクチンが採用されていることが多い)を接種する場合もある。



アジュバントなしの対照群でも重篤な有害事象の頻度はワクチン群と変わらない

そもそも、アジュバントなしと比較した臨床試験は存在する。それも日本の研究だ*4。20歳から25歳までの日本人女性を、HPVワクチン群と対照群にランダムに振り分けて24ヶ月間観察したところ、HPVワクチン群で3.5%(18人/519人)、対照群で3.6%(19人/521人)の重篤な有害事象を認めた。対照群はA型肝炎ワクチン(Aimmuge/エイムゲン)を接種されているがアジュバントを含有していない*5

A型肝炎ワクチンは長年使用されてきた実績があり安全性はおおむねわかっている。被験者がそれぞれの群で500人程度であるので稀な副作用が生じるかどうかはこの試験ではわからないが*6、少なくとも、HPVワクチンの対象となりうる女性においてアジュバントを含有していない安全とされているワクチンでも重篤な有害事象が数%は起こってもおかしくないことはわかる。

24ヶ月間(2年間)観察して3.5%の重篤な有害事象が起こるのであれば、4年間も観察すれば7%も不思議ではない。コクランのレビューは「0.5〜7年にわたってワクチンの安全性を評価」した結果である。ワクチンの専門家がHPVワクチンの重篤な有害事象の頻度7%を、それほど問題視していない理由をご理解いただけただろうか。



病気を数えるのは難しいし、しばしば直観に反する

疾患や異常の数を正確に数えるのは思いのほか難しい。つい最近、インフルエンザの治療薬であるタミフルの10歳台への使用制限が解除されたとの報道があったが、タミフルの異常行動が問題になった10年前も、専門家と一般の人たちの間で認識の違いがみられた。タミフル服用後の異常行動が広く報じられると、タミフルと因果関係があろうとなかろうと同じような事例が次々に報告される。タミフルを使用しなくてもインフルエンザ単独で異常行動は生じうるというのが専門家の認識である一方で、そのような異常行動は聞いたことがない、きっとタミフルのせいに違いないと認識した人たちもいただろう

疾患や異常への認識、見つけようとする熱意、検査手段によって、発見される疾患や異常の数は変わる。疾患概念がなかったころはしつけが悪い困った子とみなされていたのが発達障害と診断されるようになる。検査機器の性能の改善や検診機会が増えただけで甲状腺がんの患者数が増加する。頭部CTがなかったころは老衰として対処されていたが脳血管障害として診断・治療されるようになる。HPVワクチンの臨床試験における高い有害事象頻度もその一つと言える。

私もたまに治験に協力することがある。私が関わるのは病院に定期的に通院しているような患者さんを対象にした治験だ。むろん重篤な肝障害とか腎障害とか進行がんの治療中とかいう患者さんは除外されるが、高血圧や脂質異常症があるのは普通であるし、おおむね高齢だ。そういう患者さんはフォローアップ中に、風邪を引いたり、湿疹が生じたり、転んで骨折したり、肺炎になったり、がんが新たに発見されたりする。これらはぜんぶ有害事象として報告されなければならない。

正直言うと、とても面倒くさい。書類を書いても直接の私の利益にはならない(病院の収入にはなる)が、正確な情報が正確な結果を生み、将来の患者さんのためになると思って協力している。報告漏れや記載漏れがないよう、治験コーディネーターと言われる職種の方々が手伝ってくれる。私の経験の範囲内だが、治験コーディネーターさんはきわめて厳密で正確な報告を要求してくる。たぶん、こうした職種の関与がなかったころは、医師が手を抜いて報告されていなかったような有害事象があっただろう。プラセボ群の高い有害事象頻度は、プラセボが有害である可能性の他に、漏れのない質の高い有害事象の調査が行われていることも示しているのではなかろうか。

完全に余談であるが、治験コーディネータが不適切に描写されたとして日本臨床薬理学会が抗議文*7を出したテレビドラマについての感想を治験コーディネーターさんに聞いてみたところ、「加藤綾子なにしてくれとるんじゃあ」とのことであった(加藤綾子はドラマに登場する治験コーディネーターの相当する役を演じる女優)。



HPVワクチンのこれから

コクランのレビューはきわめて信頼性が高いが無謬というわけではない。今後、結論が覆される可能性はゼロではない。また、今回のレビューで示されたのは重篤な有害事象の全体がプラセボ群と差がないことであって、特異的で稀な副作用が存在しないことは示されていない*8。HPVワクチンの効果についても示されたのは前がん病変の予防までであって、浸潤子宮頸がんの発症やがん死の抑制はまだ示されていない。これらの未解決の問題は今後も検証が必要だ。

一方で、現在わかってる知見からは、HPVワクチンの利益は害より勝ると考えられている。前がん病変を減らすなら浸潤子宮頸がんやがん死も減らすだろうというのはきわめて合理的な推測だし、検診を受けるつもりならHPV感染や前がん病変を減らすことだけでも利益になる*9。害についても、稀な副作用は否定できないものの、これまで使用されてきたワクチンと比較して【著しく】危険だとは言えないことはわかっている。

HPVワクチンの反対者はしばしば、「根拠に基づいてHPVワクチン批判をしているだけであってワクチン全体を否定はしていない。反ワクチンとレッテルを貼るな」などと言う。むろん、反ワクチンというレッテルが不適切な場合もあるだろう。しかしながら、HPVワクチンの反対者の一部には、やはり反ワクチンとしか言いようのない主張がみられる。有害事象と副作用の区別もつけずにHPVワクチンを危険だと主張する。コクランは買収されたので信頼できないという一方で、反ワクチンサイトの主張を鵜呑みにする。

HPVワクチンを批判するなら根拠に基づいて批判していただきたい。



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*1:"The evidence also shows that the vaccine does not appear to increase the risk of serious side effects which was about 7% in both HPV vaccinated or control groups." http://www.cochrane.org/news/does-hpv-vaccination-prevent-development-cervical-cancer-are-there-harms-associated-being 。当初、日本の報道機関が誤訳したのかと思っていた。疑ってすまんかった。

*2https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22205930

*3:彼らの主張によればHPVワクチン以外の、アジュバントを含む他のワクチンも危険だということになってしまい、容易に反ワクチンにつながる。

*4https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20606533

*5https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/36/419/graph/dt41981.gif

*6:この試験【だけ】では1000人に1人の副作用もわからない

*7■プレスリリース|株式会社TBSテレビに対する見解送付のお知らせ:日本臨床薬理学会

*8:重篤な有害事象を全部漏れなく数え上げると、特異的で稀な副作用が「背景に埋もれて」見えにくくなるかもしれない。「内訳」の解析は必要だ。そして、得てして製薬会社は詳細な情報を出すことに消極的なので、ケツを叩く必要がある。一方で、多くの種類の「副作用」についてそれぞれ検定するとタイプ1エラーが生じる。疑わしい副作用をピックアップして観察研究で検証する、といった作業が必要だろう。というかそういう作業は現在も進行中で、今のところは、HPVワクチンと因果関係のある特異的かつ重篤な副作用は認められていない、と私は理解している。

*9:検診回数や円錐切除術といった侵襲性のある治療を減らせるため

2018-04-30 ネット時代の医療情報との付き合い方

[][]『健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方』 『健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方』を含むブックマーク

cover■健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方 朽木 誠一郎 (著)



私は「WELQ問題」にぜんぜん気づいていなかった。WELQ問題とは、「一部上場企業のディー・エヌ・エーが、グーグルなどの検索エンジンを攻略し、ウソや不正確な情報を、検索結果上位に大量に表示させていたことが発覚したもの」(P11)だ。私は日常的に医学用語で検索しており、WELQが上位に表示された検索結果もきっと目にしていたはずなのだが、おそらく意識せずに無視していたのであろう。ネット上の医学情報は玉石混交だが、慣れると検索結果を一瞥すれば、信頼できそうかある程度は判断できる。しかし、必ずしも患者さんも同じように判断できると限らない。

WELQは長文の記事を大量に公開する方法で検索上位を獲得していた。検索上位に不正確な情報が大量に表示されていれば、それを信用してしまう患者さんもいるだろう。このWELQ問題を最初に指摘した*1のが、本書『健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方』の著者である朽木誠一郎さんだ。

『WELQ問題を指摘するためには、「健康についての情報がウソや不正確なものであること」と「その情報を上位に表示させるテクニックに問題があること」の両方を理解している必要』がある(P11)。著書の朽木さんは、医学部を卒業後、医師にはならずにネットメディアのライターになられた。その経験がWELQ問題にいち早く気づき、指摘することにつながったのであろう。複数の分野をつなぐ、ある意味学際的な役割を果たしたのだと言える。

朽木さんの指摘の後のネットメディアの反応は早かった。私もささやかながら■ネットの“ニセ医学”に要注意! 自衛手段を現役の医師に聞いてみた - トゥギャッチという記事に協力させていただいた。近藤誠氏のような問題のある医師を批判することがあまりない医療業界とはえらい違いである。WELQ運営は「自分たちはプラットフォームである」「情報発信はユーザーが勝手にやったものである」として批判をかわそうとしたが、外部ライターに記事の書き方を支持するマニュアルもあったことがバズフィード・ジャパンのスクープで明らかになった(P79-80)。これらの指摘をうけて2016年末にディー・エヌ・エーはWELQの全記事を非公開とし、責任者が会見で謝罪するに至った。朽木さんの指摘からほんの3ヶ月間程度である。詳しくは本書を参照していただきたい。

もちろん、WELQが閉鎖したからといってネット上の医療情報の問題が解決したわけではない。「本当の戦いはWELQの後」(P92)である。WELQ後にも不正確な医療情報を含むページが上位に表示されていた。しかし、グーグルのアップデートによってそうしたページは順位を落とすなど、少しずつ改善はしている。インターネットの自浄作用は確かにあると感じる。

とはいえ、ネット上から不正確な医療情報を撲滅することはできない。また、仮に可能だとしても撲滅すべきではない。多様な情報にアクセスできることもネットの価値の一つであるからだ。そのネット上の多様な医療情報のうち、信頼性のあるものの見分け方、声の上げ方の提案も本書でなされている。まさしく副題にあるように「ネット時代の医療情報との付き合い方」についての本である。



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トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20180430

2018-03-30 HPVワクチンが自己免疫疾患を増やすという証拠はない

[][]HPVワクチンが自己免疫疾患を増やすという証拠はない HPVワクチンが自己免疫疾患を増やすという証拠はないを含むブックマーク

全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会事務局長・日野市議会議員の池田としえ氏が、「HPVVの副反応は、1000人に1人とされているが、健康な若い女性13236人の治験の結果、ガーダシル9の自己免疫疾患系副反応の発生率は、2.3%であることが明らかになっている(表)」とするツイートを引用リツイートし、『「10万人当り7人の子宮頸がんのために、2300人の副反応被害者を作り出すのは狂気の沙汰」恐るべき数字!』とツイートした。

「2.3%であることが明らかになっている(表)」からは、HPVワクチン接種群10706人のうち全身性自己免疫疾患の発症が245人であることが読み取れる。しかし同時に、対照群9412人のうち218人(2.3%)が自己免疫疾患を発症したことも表には載っている。どちらも2.3%で差がない。つまり、この表はHPVワクチンと自己免疫性疾患の発症には因果関係がないことを示している。わざわざ対照群のほうまで赤で強調されている。対照群と比較することを知っている人ならば「10万人中2300人の副反応被害者を作り出す」という主張が間違っていることは容易にわかる*1

f:id:NATROM:20180330164427j:image

「2.3%であることが明らかになっている(表)」

https://twitter.com/usotsukibakari/status/979211742998769664より引用


左の表は添付文書からの引用であろうが*2、「10万人中2300人の副反応被害者」の元ネタはどうやら"sanevax.org"というサイトである*3。信頼できるサイトかどうかは、自閉症やワクチン被害や慢性疾患に対してホメオパシーを推奨しているようなページ*4が含まれていることから推測してみよう。

しばしば「研究という根拠に基づいてHPVワクチン批判をしているのに反ワクチンだとミスリードしたり、レッテルを貼ったりするな」という意見を聞く。なるほど、その通りだ。根拠に基づいたHPVワクチン批判を反ワクチンと一括りにしてはいけない。そのような一括りにしたような主張はぜひどうぞ具合的に事例を挙げてどんどん批判していただきたい。

それはそれとして、一部の(というか私の見るところでは多くの)HPVワクチン批判が、今回指摘したように根拠に基づいていないことについて、危惧を覚える。今回も取り上げたのは、一被害者のツイートではなく、「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会事務局長」という肩書のあるアカウントのツイートである。こうした誤りに対し、被害者連絡会内部から間違いを指摘したり訂正を促したりする様子は私の観察範囲内ではみられない。もしかしたら、そのような指摘をする人が排除された結果かもしれない。一方で、HPVワクチンを否定するような主張であればまったく検証抜きに受け入れられている。

HPVワクチン批判を反ワクチンと一括りされてるような事例が存在するとしたら、それは一部のHPVワクチン批判が反ワクチンサイトから無批判に主張を引用し拡散しているからではないか。「ミスリードしたり、レッテルを貼ったりするな」と主張する人たちは、池田としえ氏に「誤った医学情報を拡散しないように」と助言してみてはどうだろうか。



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*1:細かいことを言うと対照群にはAAHS(アジュバント)投与された人も含まれているので「HPVワクチンそのものではないがアジュバントによる自己免疫疾患発症を否定できない」という主張もあるだろう。その主張を全面的に受け入れても「2300人の副反応被害者を作り出す」という表現は誤りである。さらに言うなら、アジュバント不使用群を対照とした臨床試験や、これまでアジュバントが使用されてきた他のワクチンの使用実績から言って、2.3%といった高い頻度で自己免疫性疾患を引き起こすことはきわめて考えにくい。免疫系に作用するという薬の特性を考えるともしかしたら今後、アジュバントもしくはHPVワクチンが自己免疫性疾患を増やすという証拠が出てくるかもしれない。しかしながら、2.3%といった高い頻度ではありえない

*2:2018年4月5日「左の表は添付文書からの引用であろうが」を追記。このエントリーは添付文書やFDAのサイトにも載っている有害事象(因果関係を問わない)をワクチンとの因果関係のある副作用であるとする反ワクチンのいつもの手法に対する批判である。「自己免疫性疾患2.3%」については私が確認できるいちばん古い情報が2014年12月のsanevax.orgのページである

*3:http://sanevax.org/fda-approved-gardasil-9-malfeasance-or-stupidity/

*4:http://sanevax.org/a-proven-cure-for-autism-vaccine-injuries-and-chronic-disease-homeopathy/

usotsukibakariusotsukibakari 2018/04/05 10:57 表のオリジナルは、ガーダシル添付文書にあります。2.3%というのは、メルク社が提供した数字です。
https://www.fda.gov/downloads/biologicsbloodvaccines/vaccines/approvedproducts/ucm111263.pdf

この赤線が引かれたも表の出典はこちらです。赤線は、Robert F. Kennedy, Jr.氏が引いたものです。

New study: Vaccine Manufacturers and FDA Regulators Used Statistical Gimmicks to Hide Risks of HPV Vaccines

https://worldmercuryproject.org/news/new-study-vaccine-manufacturers-fda-regulators-used-statistical-gimmicks-hide-risks-hpv-vaccines/

この表は、ガーダシル9のものとしたのは間違いで、ガーダシル9の添付文書(FDAが提供)によると「全身性自己免疫異常の兆候とされる症状」を示したのは 2.2%(351/15,703)、同時に対照として接種されたガーダシル群は3.3%(240/7,378)と記載されています。

usotsukibakariusotsukibakari 2018/04/05 11:10 ガーダシル9の添付文書には

“In total, 2.2% (351/15,703) of GARDASIL 9 recipients and 3.3% (240/7,378) of GARDASIL recipients reported new medical conditions potentially indicative of systemic autoimmune disorders, which were similar to rates reported following GARDASIL, AAHS control, or saline placebo in historical clinical trials.”
と記載されています。

しかしこちらも、実際は、saline placebo 群は0%であったことから、記述のより正確な記載が要求されています。

fnorderfnorder 2018/04/05 11:22 ワクチンを打っても打たなくても「2.3%」。
危険はなさそうだ、という資料ですよね。分かってます?

NATROMNATROM 2018/04/05 12:51 usotsukibakariさんへ。

左の表のオリジナルがガーダシル添付文書にあることは存じております。というか、読者のほとんどがわかるでしょうに。添付文書に恐ろし気なことが記載されていることを根拠に標準医療を否定するのはニセ医学の常套手段です。

では、添付文書もしくはFDAのデータを元に、「10万人中2300人の副反応被害者」などと最初に言い出したのはいったい誰でしょう?具体的には、以下のツイートにある「資料右」を作成したのは誰でしょう?

『ハンフリー医師「10万人当り7人の子宮頸がんのために、2300人の副反応被害者を作り出すのは狂気の沙汰」とコメント(資料右)』
https://twitter.com/usotsukibakari/status/979211742998769664

その資料右を作成したのが、"sanevax.org"[ http://sanevax.org/fda-approved-gardasil-9-malfeasance-or-stupidity/ ]でしょう。少なくとも"sanevax.org"より古いものは見つかりません。ハンフリー医師は、"sanevax.org"の資料を引用もしくは利用したと思われます。資料右にはアジュバントが対照群であることの不適切さへの言及は一切なく、有害事象をすべて因果関係があるとみなすニセ医学の典型的な手法しかありません。

「HPVワクチンの安全性を見積もるために、対照群にアジュバント使用者を含めるのは不適切である」という指摘なら、一定の合理性はあります(同時に一定の合理性のある反論も可能です)。そういう合理性のある指摘であれば私はブログで批判的には取り上げなかったでしょう。専門性の高い興味深い議論として提供することはありえたかもしれません。

アジュバントの件で反論があることは予想できたので、あらかじめ注でもその件について触れています。しかしまさか「なとろむはブログではFDAのデータであることを隠している」というようなきわめて読解力のない的外れな反論(のようなもの)があることまでは予想できませんでした。

usotsukibakariusotsukibakari 2018/04/05 15:34 『標準医療を否定するのはニセ医学の常套手段です。』の標準医療について、元tweetで、池田氏がどこで議論されているのでしょうか?
またHPVワクチンを接種することが標準医療だということでしょうか?
どのワクチンよりもVAERSの報告数が多く、世界中で薬害提訴が起きている、HPVワクチンの副反応を否定することが、ニセ医学なのですか?

counterfactualcounterfactual 2018/04/05 22:06 10万人当たり2300人の有害事象が観察されるというデータなのに、10万人当り2300人の副反応被害者を作り出すという大嘘こいてるわけですな。
赤線引いてある表には、"Regardless of Causality" ってくっきりはっきり書いてあるんだけどね。

HPVワクチンの安全性に疑問があるのは理解できるが、嘘つき(usotsuki)はいけないね。

NATROMNATROM 2018/04/05 22:15 usotsukibakariさん、コメントありがとうございました。

●資料右を作成したのは、"sanevax.org"[ http://sanevax.org/fda-approved-gardasil-9-malfeasance-or-stupidity/ ]である

という指摘に反論がないようで何よりです。


>『標準医療を否定するのはニセ医学の常套手段です』の標準医療について、元tweetで、池田氏がどこで議論されているのでしょうか?

池田としえ氏は近藤誠氏の本やPeter Duesberg氏やAndrew Wakefield氏の映画の紹介をしていたりします。池田としえ氏の行動原理はワクチンに不利な主張であれば「良く調べてないけど拡散希望」というものですので、標準医療に否定的なツイートは掘ればいくらでも出てきます。それはそれとして、よしんばこれまで一切標準医療を否定したことがなくても、「添付文書に恐ろし気なことが記載されていることを根拠に」標準医療を否定すれば、それはニセ医学の常套手段です。



>またHPVワクチンを接種することが標準医療だということでしょうか?

標準医療です。WHOでもCDCでも推奨されています。ご存じなかったですか?日本ですら、積極的勧奨が中止になっただけで、いまだに定期接種の対象です。「世界中で薬害提訴が起きている」ことは別に標準医療ではないことを示しません。ワクチンによって薬害が起きていたらもちろんですが、起きてなくても薬害訴訟は起こりえます。

「WHOの言うことがいつも正しいとは限らない。今現在、標準医療とされていることでも間違っているかもしれないではないか」と主張されるならまだわかります。「標準医療だということでしょうか?」というのは、もしかして、標準医療ではないと思っていらっしゃるのでしょうか。

それからいつも不思議に思っていることがあります。「HPVワクチンは確かに有用だけど、言われているほど安全ではないよね」程度の主張ならわからんでもないのですが、「もっとも悪質なタイプのニセ科学案件だ」とまで言うような人たちは、WHOやCDCをはじめとした公的な組織の推奨をどう思っているのでしょうか?「WHOも製薬会社の傀儡だったんだよ!!」とでも考えているんでしょうか。



>どのワクチンよりもVAERSの報告数が多く、世界中で薬害提訴が起きている、HPVワクチンの副反応を否定することが、ニセ医学なのですか?

あやふやな根拠でHPVワクチンの副反応を否定したり、あるいは肯定したりすることはニセ医学です。たとえば、「どのワクチンよりも有害事象報告が多い」「世界中で薬害提訴が起きている」から、HPVワクチンは有害だ、と結論することはニセ医学です。

NATROMNATROM 2018/04/05 22:23 usotsukibakariさんへ。

当ブログのコメント欄が「信者」がいていやだ、というのであれば、字数制限がなく可読性のよいところならどこにでも場所を移してもいいです。たとえばsivadさんのブログのコメント欄とかでもいいです。あるいは、そちらで用意していただいた掲示板やtogetterのコメント欄とか。あるいは、私とusotsukibakariさん以外の人のコメントを禁止するエントリを新しく立ててもいいです。過去にもそういう事例がありました(URL:http://d.hatena.ne.jp/NATROM/00140122#p1)。

ツイッターは字数制限がある上に、こちらがした質問に一切答ず延々と論点ずらしをしてくる不誠実な論者とは議論ができないのです。usotsukibakariさんは、こうして字数制限がなく可読性の高い場所で議論しようとするだけ誠実であると思います。

usotsukibakariusotsukibakari 2018/04/05 23:46 実際、HPVワクチンの副反応被害者の診察も治療もできず、言葉使いの議論ばかりしている医者と討論するのは時間の無駄ですね。

副反応被害者のために闘ってくれる男気のある人たちの方が、好きだし尊敬に値すると思うので、そちらの力になれるようなことを今後はしたいと思います。

これで失礼させていただきます。

NATROMNATROM 2018/04/09 09:21 usotsukibakariさん、コメントありがとうございました。このブログのコメント欄は開かれていますので、気が向いたらいつでもコメントしてください。また、繰り返しになりますが、字数制限がなく可読性のよいところならどこにでも議論の場所を移してもいいです。

フォーチュンフォーチュン 2018/04/10 16:57 usotsukibakariさん、副反応で辛い思いをされている方を親身になって診療されている医師の力になれるよう、がんばってください。

しかしながらその一方、10年先、20年先に発症するかもしれない16型・18型ヒトパピローマウイルス由来子宮頸がんの発生を抑えるため、また16型・18型ヒトパピローマウイルス由来の異形成による円錐切除術を余儀なくされる方を減らすため、また16型・18型ヒトパピローマウイルスの感染が見つかり、年に数回も継続的に何年も検診を受け、がん化に怯えながら経過観察を続けなくてはならなくなる方たちや、妊娠後に16型・18型ヒトパピローマウイルスの感染が見つかり妊娠をあきらめざるおえなくなる方たちや、出産までがん化の恐怖にかられながら過ごさざるおえなくなる、数字には表れない本当に多くの苦悩に満ちた方たちが少しでも生まれないように、科学的妥当性よりも、目に見える被害らしきものに対する情緒を優先した圧力に屈せず、闘ってくれる男気のある子宮頸がんワクチンを推進しようとする方々についてはどのように評価されるのでしょうか?

私に言わせれば、恣意的に情報を誇張したりしてミスリードする一部の人たちを除けば、どちらも評価すべきものであると考えています。

仮に評価に値しないと感じる医師たちがいるとすれば、この問題を対岸の火事ととらえ、日和見を決め込んでいる多くの医師ではないでしょうか。

もちろん、単に発言の場がないだけの方もたくさんいらっしゃるとは思います。しかし偏見かもしれませんが、火の粉を避けるためにだんまりを決め込んでいる医師もまた多くいるように感じます。

hisahisa 2018/04/11 09:18 これだけ統計数字的にもワクチンの副作用とはいえない結果が出ているにもかかわらず、いくら筋道をたてて説明しても感情だけで反発する人たちに対して、辛抱強く発言していくのもなかなか難しいでしょう。特に医師たちは一応理系だから、ここまで全く常識も通用しない人たちの相手は、心が折れていきます。

おるおる 2018/04/11 18:20 「それでも」って言い続けるしかないでしょうが、usotsukibakariさんのように見て考えてくれる人もいます。
情報を発信し続けるNATROMさんには頭が下がる思いです。

usotsukibakariusotsukibakari 2018/04/11 22:51 ここで演説されてもね。
産婦人科医の80%以上は、ご自分の娘さんにんHPVワクチン接種してませんし、
厚労省の職員も、娘さんには接種しないのはよく知れたデータですから。
あと、米国の上院議員は、半分以上が自分の子供にはワクチン接種しないし、オバマ大統領とオーストラリアの首相は、なぜか自分の娘には子宮頸がんワクチン接種しなかったのご存知ないんですか? ま、そんなとこです。
医師が理系とは思えない、理系の1人より。

トラちゃんトラちゃん 2018/04/11 23:21 1)「産婦人科医の80%以上は、ご自分の娘さんにHPVワクチン接種してません」
2)「厚労省の職員も、娘さんには接種しないのはよく知れたデータです」
3)「米国の上院議員は、半分以上が自分の子供にはワクチン接種しない」
4)「オバマ大統領とオーストラリアの首相は、なぜか自分の娘には子宮頸がんワクチン接種しなかった」
根拠となるソースはありますか? ※反ワクチン論者のWebサイトに書いてあったとか,被害者(と称する)団体の関係者のTwitterで見た,とかじゃなくて。別に英語のものでも構いませんよ。

usotsukibakariusotsukibakari 2018/04/12 00:00 ソースは全部私のTwitterのTLに出てきます。
あと、厚労省の職員は、直に聞きました。
色々と人脈持ってますので。
もちろん、お医者様とも。同級生、親類、お医者様だらけ。
直接本音を聞ける立場におります。

あめりかなまずあめりかなまず 2018/04/12 16:53 >ソースは全部私のTwitterのTLに出てきます。
探してみたのですが、個人的に一番気になる
1)「産婦人科医の80%以上は、ご自分の娘さんにHPVワクチン接種してません」
の根拠データが見当たりませんでした(2~4は探していません)。ご教示していただけますでしょうか。

フォーチュンフォーチュン 2018/04/12 23:36 usotsukibakariさん、「ここで演説されてもね。」って あ〜た!主義主張じゃなくたって、自分の意見を皆が見ている中で述べれば、
それは演説ですよ。で、このエントリーでは、usotsukibakariさんが一番初めに演説をぶっこんでますから〜残念!!・・・ちと古い?

次に「産婦人科医の80%以上は、ご自分の娘さんにHPVワクチン接種してません」って話だけど、そもそもこのアンケートに答えた医師の娘が、2013年〜2017年までに接種対象年齢じゃなかったら、娘にワクチンを接種していませんってことになってしまいそうですし、
ひょっとしたら、娘のいない医師に対して「娘さんはワクチンを打ちましたか?」っていう質問をしたら、答えは「ノー」ということになり、80%以上の医師の中に入ってしまうのでは?つまり、どんなアンケートを取ったのかは分かりませんが、どのような医師に、どのような質問をして、その答えをどのような判断でどういった統計処理したのかが分からなければ、あまり意味のないお話のように思いますよ。
また、例え医師がワクチン推進の持論を持っていたとしても、自分の娘だからと言って、副反応らしき報道を見て不安に駆られている娘を、しばりつけて接種するような方などいないでしょう。
ナトロム先生ですら、どんなに理を尽くしてもワクチン反対派の意識をかえることが困難なように、報道をうのみにして感情移入してしまった人を、ワクチン接種を容認する意識にかえることは、容易じゃないでしょうね。医師の80%以上が娘に対し接種できなくてもなんら不思議じゃないかもしれないね。

それ以外のお話に対しては、ご存じないですし、「ま、そんなことです」ってどんなこと?
これらの話の何が重要なのかさっぱり分かりませんよ。どれもどうでもいい話じゃないのかな。

誰もHPVワクチンの権威でもないし、HPVワクチンに関する知見の話でもない。

usotsukibakariさんも、理系を自認するのなら、こんな本質とほとんど関係のない出来事をもとにワクチン接種の是非を判断するのは、危険じゃないかい?
もっとワクチン接種のメリットとデメリットを、誰にでもわかるような科学的論拠をもとに、比較検討した内容でナトロム先生を言い負かさなきゃ、自称理系の名折れだよ。

それに、もしそれができれば、ワクチン反対派の中でも最大の功績だと思うよ。

2018-02-23 SNSのせいで落語を楽しめない

[]SNSのせいで落語を楽しめない SNSのせいで落語を楽しめないを含むブックマーク

私は桂春蝶師匠(3代目)の落語が好きだ。上手い下手、良し悪しを判断できるほど落語を聴きこんでいないので、この記事で語るのは私の主観による好き嫌いの話である。初めて聴いた春蝶師匠の噺は、私の記憶が確かなら、『看板のピン』である。落語は同じ演目でも演者によって異なり、それが楽しみの一つなのだが、春蝶師匠の『看板のピン』は大胆なアレンジがなされていて、ものすごく面白かった。そして華がある。以降、春蝶師匠が福岡で公演するときにはできるだけ聴きに行った。

古典も新作も楽しめたが、ちょっと違和感を感じるときもあった。『約束の海〜エルトゥールル号物語』は、100年ちょっと前に日本近海で座礁したトルコの軍艦の乗員を近隣の村民が一丸となって助け、その恩義をトルコ人たちが忘れていなかったという逸話を新作落語にしたものだ。美談にしすぎというか、「日本スゲー」感が過剰に思われた。それでも木戸銭分は十分に楽しめたし、聞き手の好みはそれぞれで「いい話」を強調した噺が好きな人もいるし、抑えめにさらりと語るのが粋に感じる人もいるのだろうと考えていた。

今後も機会があれば春蝶を聴きにいくつもりだ。ただ、これまでのようには楽しめないかもしれないと危惧している。特にエルトゥールル号の話を次に聴いたときには、1回目ほど楽しめないだろう*1。理由は春蝶師匠のツイートである。





すでに多数の批判がなされており、炎上と言っていい状態である。私は、貧困問題はいまの日本でも重要な問題であり、貧困は自己責任ではないと考える。春蝶師匠は若いころに苦労されたそうだ*2。春蝶師匠が努力によって成功したのは事実だろうが、誰もが同じ条件で同じように努力できるわけではない。生活習慣病の自己責任論にも通じるが、社会的に成功したり健康であったりするのは、自分の努力だけではなく、運によるものもある。「努力すればなんとかなる」という環境がそもそも恵まれたものなのだ。

「思想と芸は別である」という意見もあるかもしれない。確かにジャンルによっては、作家の思想と作品を完全に分離して受け取ることができる(少なくとも私にとっては)。政治信条が自分と真逆の作曲家や小説家や漫画家の作品を、作家と切り離して私は楽しめる。

けれども、落語は違う。作曲家と曲、漫画家と漫画よりも、落語家と噺はずっと密接だ。次に春蝶師匠の噺を聴くときはきっと、SNSでの発言なんか忘れて落語を楽しめばいいと思いつつ、何かが心に引っかかり続けるだろう。古典落語には貧乏人が出てくる噺は多い。春蝶師匠は「世界中が憧れるこの日本」における貧困問題についてツイートしたのであって多くの噺の舞台となる江戸時代の貧困までは「自分のせい」だとは思っていないのかもしれない。ただ、そうは言っても聴く方は気になるのだ*3。また、エルトゥールル号の話は、「これを聴いて大喜びする人たちがいるのだろうなあ」などと思ってしまうだろう。芸人はSNSでの発言を止めろと言いたいわけではない。「私はこう感じる」という主観の話である。「炎上も芸のうち、それが春蝶師匠の魅力だ」と考える人だっているのだろう。

立川談志師匠(家元)の落語を私は生で聴くことはできなかった。私が聴いた談志師匠の噺はすべて記録された音源からである。暴言が多かったと聞く。現在だったら炎上していただろう。中には差別的だったり説教臭かったりするマクラ*4があり、そういうのは私は苦手だ。けれども噺に入ると気にならない。そんなことはどうでもよくなる。なぜかはわからないが、これこそが芸なのかもしれない。春蝶師匠には炎上など忘れてしまえるような芸を期待する。

*1:落語は同じ演者の同じ演目を何度聴いても楽しめるのだ。細部が微妙に変わっていたりするし、変わっていなけば変わっていないでそれは芸である。桂歌丸師匠の『竹の水仙』を数年おきに3回聴いたが、私の記憶の範囲内では、まったく違いがわからなかった

*2https://twitter.com/shunchoukatsura/status/966116865448673280

*3:たとえば春蝶師匠が『人情八百屋』を演ったとして純粋に噺を楽しめるだろうか?どう演るのか別の意味で聴いてみたいが

*4:むろん時代的な背景があるのはわかる。そうは言っても聴く方は気になるのだ

マイティミキマイティミキ 2018/02/24 11:05 大阪の落語好きおばさんです。医療関係者です。
春蝶師匠は好きな落語家さんですが、日本に関しての認識、貧困問題に対する考え方には違和感を感じます。貧困とまでは呼べないまでもダブルワ−ク、トリプルワ−クで余暇を楽しむ余裕もない、なまけてないのに低賃金。ふつうに8時間働いて暮らしていけない人がいかに多いか。大企業ばかり現実を見てほしいなあ、

マイティミキマイティミキ 2018/02/24 11:11 文章途中で、送信してしまいました(>_<)
大企業ばかりが溜め込んで、賃金も上げないで、日本の経済が停滞して当たり前の現状。こんな国がいいかなあ…。余裕がないと落語会にも行けないのにね〰(^_^;)

おるおる 2018/03/21 14:47 年配の方によくある「絶対的貧困」と「相対的貧困」をごっちゃにして、テレビで取り上げる「貧困問題」を見て呟いちゃったんじゃないでしょうか?私も手取り15万で家賃8千円、通信費4万円とかで食費を削らないと暮らせないという貧困家庭をみると呟いちゃいそうです(通信費は理由があって必要らしいですが)
「自分のせい」とは思いませんし努力だけではどうしようもないこともわかっているのですが、人(国や企業)のせいにする前に「自分でも考えましたか?」とは聞きたくなります。

mushimushi 2018/03/21 19:52 >おるさん

春蝶師匠は"絶対的に"自分のせい、と書いているので、それが問題なのだと思います。
「自分でも考える」というのは、ある程度余裕があって始めてできることなのかもしれません。

2018-02-16 インフルエンザ蔓延予防のための受診は必要か?

[]インフルエンザ蔓延予防のための受診は必要か? インフルエンザ蔓延予防のための受診は必要か?を含むブックマーク

高リスクグループや重症者でなければ受診は必要ないというけれども、インフルエンザだったら他人に感染させないために解熱してから2日間は自宅での安静が必要であるのだから、きちんと受診して診断してもらう必要があるのではないか」という意見を聞く。

結論を言えば、インフルエンザの蔓延防止が目的であっても診断や検査目的の受診の必要性は乏しい*1。とくに流行期においてはそうだ。なぜなら診察や検査でインフルエンザを否定するのは困難だからである。

インフルエンザ迅速検査はご存知の方も多いだろう。「スワブ」という綿棒を細長くしたようなものを鼻の奥に入れて検体を採取するあれだ。鼻汁や鼻腔ぬぐい液中のインフルエンザウイルス抗原を検出することで、15分以内に検査結果が出る。インフルエンザ迅速検査で陽性であった場合は、ほぼインフルエンザだと確定する。しかし、インフルエンザ迅速検査で陰性であってもインフルエンザではないとは断定できない。

インフルエンザの患者にインフルエンザ迅速検査を行って、正確に陽性と結果がでる確率(感度)はおおむね60%〜90%だ。幅があるのは発症してからの時間やウイルスの型、手技、迅速診断用キットの種類などの影響を受けるからである。2017年の系統的レビューおよびメタ解析では感度は61.1%とされている*2。日本からの報告ではもうちょっと良い数字であることが多いが、それでも一定の割合で偽陰性(=本当はインフルエンザなのに誤ってインフルエンザではないという検査結果が出てしまうこと)が生じる。

流行期には発熱患者の6割とか8割とかがインフルエンザである*3。仮に70%の確率でインフルエンザである患者さんに対し感度が80%の検査を行い、結果が陰性だったとしよう。この患者さんに対して「あなたはインフルエンザではないので熱が下がったらすぐに出勤していいです」と言っていいだろうか?

こうした患者さんが100人いたらそのうち70人がインフルエンザだ。この70人のうち検査陽性は70×0.8 = 56人、検査陰性は70−56 = 14人。インフルエンザではない30人は全員検査は陰性である*4。陰性の結果が出た14+30 = 44人のうち、インフルエンザではないと正確に診断できるのは30÷44 = 約68%である*5。検査だけでインフルエンザではないと診断してしまったら、残りの3割強の患者さんがウイルスを巻き散らすことになりかねない。

なので、インフルエンザの蔓延防止が目的なら、流行期の発熱患者は検査の結果に関わらず、インフルエンザであるとみなして対応するのが望ましい。すなわち、発症してから5日間かつ解熱して2日間は出勤せずに自宅で安静にする。私の外来ではそのようにご説明している。抗インフルエンザ薬については症状の重篤度、年齢や背景疾患、本人の希望などによって処方するかどうかを判断する。検査が陽性であっても一律に処方するようなことはしない。

f:id:NATROM:20180216150831j:image

流行期のインフルエンザ迅速検査の考え方

検査前確率が高いと検査結果で方針が変わらないので検査は原則として不要だ。実際には患者さんのリスクの程度、インフルエンザ以外の疾患の可能性、患者さんの希望等々に配慮して検査するかどうかを判断する。

医師であっても検査の限界をよく理解していない場合がある。そのような医師が偽陰性例に「インフルエンザではない」というお墨付きを与えてしまうことが、インフルエンザの蔓延を助長しているかもしれない。そもそも、インフルエンザではない普通の風邪であったとしても、解熱してすぐに出勤はしないほうがいいだろう。まだ治っていないかもしれないではないか。

「とは言うものの、そうそう休んではいられない」という事情はわかる。よくわかる。診察室内では個別の事情にはできる限り配慮する。それはそれとして、インフルエンザの流行期には「検査で陰性なら解熱してすぐに出勤してもよい」「他人に感染させないためにも積極的に病院を受診して検査を受けたほうがよい」という方針は医学的には不正確で、かえって流行を促進しかねないことが周知されればありがたい。



関連記事

■特異度と偽陽性率と陽性反応的中割合と

*1:症状がきつい、不安が強い、自分では重症かどうか判断できない、診断書が必要、持病があるといった場合は受診してください。ここでは、それほど症状はきつくはないけれども、「インフルエンザが流行っているから念のために検査を受けてこい」などと上司に言われて受診するようなケースを主に想定している

*2https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28520858

*3https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28520858

*4:厳密に言えば100%ではないが100%に近い

*5:陰性反応的中割合という

type-100type-100 2018/02/16 17:46 インフルエンザでも受診の必要性は乏しいというのはもっともと思います。
ただ自分が病人の場合一番怖いのは、そのままだと死んだり重症化するような強い病気を、自己診断で風邪やインフルエンザと勘違いして治療の機会を逃してしまうケースだと思います。
この程度の症状なら放置してよい、逆にここまで行ったら病院に行くべきというような、素人でも分かる基準はあるのでしょうか?

NATROMNATROM 2018/02/16 19:22 type-10さん、コメントありがとうございます。前回のエントリーの

インフルエンザで「早めの受診」が必要なのはどんな人?
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20180202#p1

が参考になるかと思います。日本語で読めて信頼のおけるサイトなら厚生労働省の

インフルエンザかな?症状がある方へ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/inful_what.html

を参照してください。厚生労働省のサイトは2009年の新型インフルエンザを対象にしていますが、結果的に季節性インフルエンザの対応としても使えます。というか、季節性インフルエンザでも受診の目安を厚生労働省は出せばいいのに。何で出さないんだ。「ワクチンは製薬会社の陰謀がー」とかおっしゃる人々がなぜか「安易な受診を抑制しないのは開業医や検査会社や製薬会社の既得権益を守るためだー」とはあまり言わないのが不思議であります。

何度も書くようですが、不安であったり自分で重症かどうか判断できないときは受診してください。私の一連の主張は「医療機関が迷惑だから軽症者は受診するな」とするものではなく、患者個々の利益を考慮してのものです。「そうそう休んではいられない」という現状は仕方ないですが、こうやって声を上げないといつまで経っても現状のままです。

NATROMNATROM 2018/02/16 19:27 それから簡便な受診の目安として「インフルエンザの流行期ではなければ受診しないような軽い症状なら受診しなくていい」が挙げられます。たまに、というか、しばしば、「普通の風邪の症状ですが、インフルエンザだったらいけないので受診しました」という患者さんがいらっしゃいます。

Lhankor_MhyLhankor_Mhy 2018/02/16 22:04 typo指摘します。
> この70人のうち検査陽性は100×0.8 = 56人

NATROMNATROM 2018/02/16 22:06 Lhankor_Mhy さん、ご指摘ありがとうございました。修正いたしました。