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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

0011-08-30 白血病についての大雑把な解説

[]白血病についての大雑把な解説 白血病についての大雑把な解説を含むブックマーク

■今回報道された急性白血病と福島原発作業の因果関係は?というエントリーについて、id:rnaさんから、『「事前の健康診断で白血球数の異常がなかったとしても、まったく不思議はありません」ここもうちょっと説明が欲しい。』とのコメントをいただきました。なので、たいへんに大雑把でありますが、白血病と血液検査(末梢血検査)について説明してみます。血液内科をご専門とする先生方は、以下の説明を読んでいろいろ思われることがおありでしょうが、なにぶんやっつけ仕事ですので、大目に見ていただければ幸いです。看過できない誤りがあればご指摘ください。


f:id:NATROM:20110831000210j:image

白血病の発症を示すシェーマ


血液の中に含まれる白血球は、骨髄の中で造血幹細胞が分裂増殖分化してできます。正常の状態がAです。

白血病細胞が生じて分裂増殖してしばらく時間が経ったのがBです。骨髄の中にわりとたくさん白血病細胞がいますね。ごく少数ですが、白血病細胞が末梢血の中にも出ています。「事前の健康診断で、骨髄の検査まで行えば、なんらかの異常が発見されていたかもしれません。あるいは、末梢血であっても、白血球の形態の異常の有無を顕微鏡で詳しく見ていれば、なんらかの異常が発見されていたかもしれません」と書いたのは、Bの状態を想定していました。Bの段階では、症状はありません。もしかしたら、注意深く問診をしたら、微熱が出るとか、骨痛があるとか、があるのかもしれませんが。

白血病細胞が増えすぎて、骨髄から溢れる状態がCです。こうなってはじめて、末梢血にも白血病細胞がわんさか出ます(不思議なことに白血病のタイプによっては出なかったりします)。白血病細胞が増えすぎることも問題なのですが、正常な骨髄細胞の場所が奪われるのも問題です(場所だけでなくサイトカインとかの影響もあるんだろうけど)。正常な血球、つまり、血小板、赤血球、正常に分化した白血球が減少します。すると、出血したり、感染しやすくなったり、とにかくろくでもないことが起きます。

白血病のタイプにもよりますが、B→Cへの推移が急激なタイプの白血病がある、というのが私の理解です。イメージとしては、骨髄の中でどんどん白血病細胞が増えるものの、正常な骨髄細胞の増殖をさまたげるまでは症状に乏しく、骨髄がパンパンになった時点で、ダムが決壊するがごとく、症状が出たり、末梢血での異常所見を認めたりするというものです。下流の流れを見ただけではダムにどれくらい水がたまっているのかわからず、ダムが決壊してはじめて異常が判明する、というイメージです。

NATROMNATROM 2011/09/19 10:36 blueboyさんという人が「白血病についての大雑把な解説」についてコメントしています。

NATROM氏の白血病記事
http://d.hatena.ne.jp/blueboy/20110918/1316354834

blueboyさんはこの記事を評価してくれていますが、誤解もあるようなので指摘しておきます。


>もともとは普通の場所に書いてあったらしいのだが、どういうわけか、日付の年を 0011年にして、まったく目立たないところに収納してしまった。

もともとこの場所に書いてあります。


>今回の NATROM氏の話は、彼の独自の見解であり、それだからこそ、有益だ。私としては、高く評価する。

別に独自の見解ではありません。「血液内科をご専門とする先生方は、以下の説明を読んでいろいろ思われることがおありでしょうが」と書いたことからblueboyさんが誤解したかもしれません。「独自の見解」と「正確性を犠牲にした大雑把な説明」の区別をつけましょう。

blueboyさんは、おそらく南堂久史氏です。「南堂久史によるドーキンス批判」(http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20061005)や、「インフルエンザ診断ゲームで学ぶ検査閾値と治療閾値」(http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20101109)で批判したこともあります。何か言いたいことがあれば、コメント欄に書き込んでくれてもいいのに(それとも、書きこんでくださったこともあったのかな?)。

「間違った独自見解」よりも、「正しい批判」のほうが有用だと私は考えています。批判されて反論できずぐうの音も出なくなった人から見たら、このブログは「他人の悪口ばかりで、読んでいてうんざりする」かもしれませんが、そういう人を対象には書いていません。私としては、「間違った独自見解」のほうがうんざりします。南堂久史氏のブログにはそんなのばかりです。「間違った独自見解」だけならともかく、「間違った独自見解」に基づいて他人を批判するのだから、批判されかえされて当たり前。

0011-08-12 「T細胞の改変で末期の白血病患者が全快」の元論文を読んでみた

[]「T細胞の改変で末期の白血病患者が全快」の元論文を読んでみた 「T細胞の改変で末期の白血病患者が全快」の元論文を読んでみたを含むブックマーク

とりあえずやっつけなので、裏のほうへ載せる。適宜、修正する可能性がある。正確性を求める人は、直接、論文を読んでください。


■T細胞の改変で末期の白血病患者が全快、米研究 国際ニュース : AFPBB News

 米ペンシルベニア大(University of Pennsylvania)の研究チームは、患者から採取したT細胞に遺伝子操作を施し、CD19たんぱく質(がん細胞もこれに含まれる)を発現させる全細胞を攻撃するよう改変した。また、副作用を伴わずがん細胞を早期に死滅させるため、他のT細胞とがん細胞が結合した瞬間にT細胞の増殖を促す改変も行った。

 この治療法を適用した3人の慢性リンパ球性白血病(CLL)患者のうち、1人は64歳男性で、血液と骨髄に3キロ分のがん細胞があった。治療後2週間はほぼ何の変化もなかったが、その後吐き気、悪寒、高熱を訴えるようになった。検査の結果、改変T細胞の数が急増しており、吐き気や熱はがん細胞の死滅時に現れる腫瘍(しゅよう)崩壊症候群の症状だと分かった。治療開始から28日目までにがん細胞は死滅し、1年後の検査でもがん細胞は検出されなかった。


がんに対する免疫療法ってのは、以前からなされているけど、いまいちパッとした結果が出ていない。いろいろ理由があるんだろうけど、臨床的に問題になる癌細胞ってのは、免疫の目をかいくぐって増殖できるのが残っていると考えられる。そんなに簡単に免疫で死ぬような癌細胞なら、そもそも増えることができない。なので、免疫療法はいろいろ工夫をしなければならない。いくつか期待できるものもある。けれども、今回の例のような成果が上がっているものは、私の知る限りではない。興味があったので、原著を読んでみた。とりあえず、NEJMのほうだけ。


■Chimeric Antigen Receptor–Modified T Cells in Chronic Lymphoid Leukemia ― NEJM


ただ漫然と「免疫力を上げる」ではなく、リンパ球を細工した。詳細については私は詳しくないが、ウイルスを利用した遺伝子導入技術を使ってCD19という抗原を持つ細胞を攻撃するリンパ球を作ったようだ。「CD19抗原」というのが、重要なキーワード。CD19抗原は、Bリンパ球の前駆細胞やBリンパ球系の癌細胞に発現している。前駆細胞と癌細胞って似ているからね。「癌細胞だけが持つ抗原を攻撃対象にすれば、副作用なく癌が治るんじゃね?」というのがそもそもの発想。

まず、普通の抗癌剤について説明しよう。普通の抗癌剤(細胞障害性抗がん剤)ってのは、細胞分裂をしている細胞に効く。癌細胞ってのはガンガン細胞分裂をしているから、細胞分裂を邪魔してやると弱る。しかし、人の体内で細胞分裂をしているのは癌細胞だけではない。細胞分裂の盛んな正常な細胞もまきぞえを食う。抗癌剤を使うと白血球や血小板が減るのは、骨髄で血球を作っている細胞もガンガン細胞分裂をしているから、まきぞえを食いやすいのだ。そんなわけで普通の抗癌剤は副作用が大きい。

そんで最近出て来たのが、分子標的薬。有名なのはイレッサ。癌細胞が持つ分子を標的にしているから分子標的薬。「細胞分裂の盛んな細胞を全部攻撃」と比較するとスマート。もし、癌細胞だけが持つ分子があればとても素敵なんだけど、そうはうまくはいかない。「癌細胞も持つけど、正常な細胞も持つ」というのが普通。それでもだいぶ効く。血液系の病気によく使われるのがリツキシマブという分子標的薬。CD20抗原に対する抗体。CD20抗原も、B細胞系だけに発現するから、他の細胞がまきぞえを食いにくい。

で、今回のが、ちまちま抗体を入れるのではなく、癌細胞をやっつけるリンパ球を入れちまうという発想。腫瘍崩壊症候群が起こるぐらい効いた。すごい。細胞免疫治療後の腫瘍溶解症候群が起こったのは初めての報告だそうだ。これまでの細胞免疫治療って、劇的に効くものじゃなかった。日本語記事のほうに「副作用を伴わず」とあるが、これは不正確。腫瘍崩壊症候群以外の重篤な副作用はなかった、ということ。重篤でない副作用はある。

すんごい気になるのが、癌細胞だけではなく正常な「Bリンパ球の前駆細胞」もCD19抗原を持つってこと。とうぜん、まきぞえを食う。「末梢血と骨髄からBリンパ球がいなくなった」とか書いてある。大丈夫か。Bリンパ球は抗体を作る働きがある。予想されたように、低ガンマグロブリン血症(血液の中の抗体が足りなくなった)が起こって、免疫グロブリンの点滴をされた。これは「重篤でない副作用」ってことになる。ただし、意外と大丈夫なものらしい。「繰り返す感染症は起こらなかった」とある。

リツキシマブ(CD20抗原に対する抗体)の使用によっても、正常なBリンパ球は減る。リツキシマブについては、広く使用されており、それなりの安全性は確保されている。「リツキシマブが安全に使用できることからわかるように、長期のBリンパ球減少は対応可能だ」みたいなことが書かれている。ただ、「リツキシマブは投与するのをやめればBリンパ球減少は回復するけど、癌細胞をやっつけるリンパ球を入れちまったらどうなるかわからん」とも書かれている。癌細胞をやっつけるリンパ球はけっこうしぶとく生き残って、だからこそ良く効くのだけど、コントロールできなくなるかもしれない。長期の安全性は不明ってことね。あるいは、人によっては、「繰り返す感染症」を起こすかもしれない。この辺は未知数。

あと、他の癌に応用できるか、という問題。CD19抗原のように、癌細胞が目立つ分子(腫瘍抗原)を持っていれば、理論上は同じような治療が可能である。ただ、そんなにうまくはいかないと私は思う。少なくとも万能な治療法ではない。「かなり強い効果を持つ分子標的薬」という位置づけではないか。副作用は強いほうだと思う。少なくとも、一般的に言われている「免疫療法」のような副作用の少なさは期待できないと思う。

それから、「癌細胞をやっつけるリンパ球」自体が、異物として免疫攻撃を受けるかもしれない。普通は、こういう変な抗原を持つ細胞は排除される。今回使用された「癌細胞をやっつけるリンパ球」、対Bリンパ球用だったので、「排除される前に正常なBリンパ球を先制攻撃」した結果、生き残ったのかもしれない。たとえば、膵臓癌が持つ腫瘍抗原を攻撃対象とした「癌細胞をやっつけるリンパ球」を注入しても、そのうち他の免疫細胞が「癌細胞をやっつけるリンパ球」を攻撃して、うまく働かないかもしれない。

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