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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

0017-01-26 窓際記者の独り言さんへ その2

窓際記者の独り言さんとの「議論」は同じところをグルグル回って前に進みません。その理由は窓際記者の独り言さんが、がん検診やワクチンなどの予防医療についての知識がないからです。ツイッターでは字数制限があるので、こちらで解説いたします。

「専門医が「併用検診でともに陰性の場合、5年間はまず心配ない」と言っています」 「専門医が「併用検診でともに陰性の場合、5年間はまず心配ない」と言っています」を含むブックマーク

もちろん、そのような主張をしている専門医は存じております。ただ、その専門医に、「だったら、HPVワクチンは不要ですか?」と尋ねてみたら、「いや、そんなことはありません。30歳未満は併用検診は対象外ですし、HPV感染を予防することで円錐切除を要する人が減りますし、そもそも検診では100%防げるわけじゃないからね」と答えるでしょう。

ニセ医学を支持している人は、一次文献にあたることなく、専門家の書いた文献の都合の良い部分だけを持ち出して間違った信念体系を作ってしまいます。窓際記者の独り言さんが提示した二次文献にはHPVワクチンの必要性について述べた部分もありますが、その部分は都合よく無視します。ご自分では「中立的な資料、公的な資料や推進派と思しき資料もたくさん読ん」でいるつもりでしょうが、予防医療について基礎的な知識に欠けているため偏った見方しかできないのです。

併用検診でともに陰性の場合でも、浸潤子宮頸がんが発症することはあります。従来検診群と比較するとその罹患率比は0.3、つまり、従来検診群で浸潤子宮頸がんが10人発症するところが、併用検診でともに陰性の場合は3人が発症します*1。がん検診としてはかなり優れた成績ですが、それでも「100%近く」防げるわけではありません。

「併用検診でともに陰性の場合、5年間はまず心配ない」と書いた専門医も、そうした「がん検診の相場感」は承知の上でしょう。併用検診の有用性を一般の方の説明するときに、そうした細かい情報をどこまで伝えるべきかどうかという問題です。「併用検診でともに陰性の場合でも浸潤子宮頸がんになることがある」というメッセージを伝えると、5年間という長い検診間隔で大丈夫というメッセージが伝わらない可能性があります。併用検診でともに陰性の場合でも浸潤子宮頸がんになることがありますが、これは検診間隔を縮めても防げませんし*2、いずれにせよたいていは大丈夫です。なので、(細かいことはともかくとして)「まず心配ない」と表現されるのです。

複数の専門機関が「HPVワクチンは安全である」と言っています*3。これも細かい情報をどう伝えるべきかという問題に相当します。窓際記者の独り言さんは、こうした「HPVワクチンは安全である」という主張に賛成しますか?しないとしたら、「併用検診でともに陰性の場合、5年間はまず心配ない」という主張には賛成するのに、「HPVワクチンは安全である」という主張に賛成しない理由を教えてください。

「提示されたページに飛んで、そこに出てきた文章が「本文」だと思うに決まっている」 「提示されたページに飛んで、そこに出てきた文章が「本文」だと思うに決まっている」を含むブックマーク

有用な医学論文のほとんどがPubmedで検索できます。論文を提示する方法にはいくつかありますが、ネット上ではPubmedのID番号(PMID)、もしくは、URLを提示したりします。たとえばこんな具合。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24192252

リンク先を見れば、該当論文が2014年のLanet誌に掲載されていることがわかります。要約も読むことができます。本文を読みたければ、該当するLancet誌を図書館の棚から探し出してきたり、ネット経由で本文のファイル(だいたいはPDF)を入手するかします。有料のこともあれば無料のこともあります。誰もが図書館や有料論文にアクセスできるわけではないので、本文を読まないこと自体はいいんです。私も、本文を読めなかったり、ざっと読み流すだけだったりすることがあります。問題は、窓際記者の独り言さんが、Pubmedの仕組みについてわかっていなかったということです。必要に応じて上記論文を提示したんですが、なんと窓際記者の独り言さんは、「提示されたページに飛んで、そこに出てきた文章が「本文」だと思うに決まっているでしょう」*4とおっしゃいました。

提示されたページって、Pubmedの個別ページですよ?Abstract要約に決まっているじゃないですか。すごーく短い論文で要約だけで全文ってこともなくはないですが、この論文はそうじゃないって見ればわかるでしょう。そもそも、該当ページにはちゃんとAbstractと書いてありますし、Full text linksもあります。リンク先には"To read this article in full you will need to make a payment"とあって本文は有料だと英語が読めればわかります。

そもそも、医学論文を読む習慣があれば、「提示されたページに飛んで、そこに出てきた文章が「本文」だと思うに決まっている」なんて勘違いはしません。つまり、窓際記者の独り言さんは、医学論文を読む習慣もなければ、探す手段ももっていないわけです。いまどき、医師でなくてもPubmedを使いこなす人はたくさんいますが、まあ非専門家にとってはハードルが高いかもしれません。それはいいです。請われれば教えます。

しかし、医学論文を読む習慣もないのに、他人に向かって「あの論文は細胞診とHPV検診の比較であって、細胞診と併用検診の効果比較ではありませんよ。その違いを理解してます?」*5などと言い放つのはいったいどういうわけでしょう。なんでそんなに自信たっぷりなんですか?本文を読んでいないどころか、本文が別に存在するということすら知らなかったというレベルなのに*6

*1https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24192252

*2:より正確には「防げない可能性がきわめて高い」。一般の人に説明するときにどこまで細かく情報を伝えるべきかという問題ですね

*3:たとえば https://www.cdc.gov/vaccinesafety/vaccines/hpv/hpv-safety-faqs.html#A2

*4https://twitter.com/fukutyonzoku/status/824565753659600896

*5https://twitter.com/fukutyonzoku/status/822382455998935041

*6https://twitter.com/fukutyonzoku/status/823370233654034432

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0017-01-24 窓際記者の独り言さんへ

[]窓際記者の独り言さんへ 窓際記者の独り言さんへを含むブックマーク

HPVワクチン接種に反対、ないしは消極的な立場の人の中に、子宮頸がん検診の効果について過大評価している人が散見されます。典型的には、「子宮頸がんは定期的な併用検診で100%予防できる」と主張しているはたともこ氏です。思うに、HPVワクチンに反対することで生じる将来の子宮頸がんの発症や死亡に向き合えないのでしょう。

実際のところ、子宮頸がん検診は不完全です。検診で浸潤子宮頸がんの発症や死亡を一定の割合で減らすことができるけれども、「100%近く」防ぐのは無理です。だからこそ、HPVワクチンが開発されてきたという経緯があるのです。より感度の高いHPV-DNA検査を併用しても不可能です。さて、ここでは窓際記者の独り言さんという方のツイートを取り上げます。窓際記者の独り言さんは、「現在ある検診技術を総動員すれば」、100%近く子宮頸がん死を防ぐことが可能だと主張します*1


「併用検診の効果を直接判定した調査は一つもありません」という主張は間違いです。実際には、質の高い研究デザインであるランダム化比較試験(RCT)が複数行われています。4つのRCTを総合した研究は2014年のLancet誌に発表されており*2、その研究によれば、HPV-DNA併用検診は、これまでの細胞診による検診と比較して、浸潤子宮頸がんの罹患率比(rate ratio)は0.6です。

罹患率比が0.6とは、細胞診群から浸潤子宮頸がんの罹患が10人生じるところ、HPV-DNA併用検診群では6人生じることを意味します。つまり、細胞診群と比較してHPV-DNA併用検診群では40%、浸潤子宮頸がんの発症を防げるというわけです。40%でも防げるのはたいへん素晴らしいことですが、「100%近く」ではないですね。検診は完全ではありません。だからHPVワクチンとの併用が推奨されているのです。

はたともこ氏や窓際記者の独り言さんが、「100%近く」可能だと誤解した理由には心当たりがあります。


子宮頸がん検診ついて基礎的な知識があれば「偏った海外研究の恣意的引用」どころか、「3〜5割は見落とし」というのは妥当な数字であることがわかるはずです*3。問題は、「HPV検査との併用なら検診感度は100%近くになる」の部分です。感度が100%近いからといって「HPV検査併用なら100%近く子宮頸がん発症や癌死を防げる」わけではありません。

(がん検診はたいていがそうですが)子宮頸がん検診は広くがんの疑いのある人を拾い上げて、精密検査で治療介入が必要な人を見つけ出します。子宮頸がん検診では精密検査はコルポスコピーという検査です。原著論文にまでさかのぼれば、「検診感度は100%近く」というのが、精密検査で異常がある人をほとんど見落とさないという意味であって、浸潤がんやがん死をほとんど防ぐという意味ではないことがわかります。

「コルポスコピーでの異常をほとんど見落とさないのであれば、浸潤がんやがん死をほとんど防ぐはずだ」という反論が予測できますが間違いです。窓際記者の独り言さんは、そのような主張を裏付ける論文を提示できません(というか、医学論文を読んだり、検索したりという習慣がないとしか思えません)。精密検査での見落としがほとんどゼロになるHPV-DNA併用検診をしてもなお細胞診群と比較して40%しか浸潤子宮頸がんを防げないという証拠からも明らかです。

専門家にとっては、検診が不完全であることなど当たり前です。なので、「HPVワクチンは思ったより危険かもしれない」と主張している専門家は少数ながらいるけれども、「HPV-DNA併用検診を行えば子宮頸がん死をほぼ防げるので、HPVワクチンは不要である」と主張している専門家はいません。専門家のコンセンサスは、「ワクチンも検診も両方必要」です。

HPVワクチンや検診の議論に参加したいのであれば、できればがん検診やワクチンについて基本的なことを理解してからにしたほうがよいと思います。とくに「偏った海外研究の恣意的引用?」とか「サマリーに書いてある内容さえ理解していない」とか他人を批判するならなおさらです



窓際記者の独り言さんに質問です

  • 「少なからぬ専門家が「リスクに見合うだけの効果が見込める」と判断しているその疫学的根拠が、私には非常に危ういものに見えます」*4とのことですが、疫学の勉強をして一次文献にあたった上でそうご判断されたのでしょうか?

窓際記者の独り言さんは、「あなたの議論は単なる論点ズラしです」*5と、質問に答えませんでした。けれども私には重要な論点であると考えます。少なからぬ専門家の判断が正しいかどうかを評価するには、最低限の知識が必要だからです。



  • 「HPV-DNA併用検診を行えば子宮頸がん死をほぼ防げるので、HPVワクチンは不要である」と主張している専門家がいないのはなぜですか?

窓際記者の独り言さんは、「ワクチンメーカーが巨額の資金を使って販促やロビー活動を行い、少なからぬHPVワクチン推進の立場の調査研究に手を貸している」*6からだとほのめかします。これはニセ医学支持者の常套手段でもあります。もちろん、製薬会社の影響はありますが、まったく必要のないワクチンを広く導入させるほどの力はありません。「製薬会社が販促やロビー活動を行えば、大多数の専門家が騙されるか陰謀に乗っかるかすると、窓際記者の独り言さんはお考えなのでしょうか?」とお尋ねしたところ、「製薬メーカーからすれば、広げた網に1割しか入らなくても大成功でしょう。しかも問題は数より影響力」*7とのお返事でした。なるほど、影響力のある少数の専門家に製薬会社に有利な発言をさせることなら可能かもしれません。過去にもそういう事例ならあります。しかしその場合、少数ではない専門家が黙っている理由はなんですか?


  • るいネットとかを根拠にニセ医学の情報を集めて勉強した気になって「西洋医学は信頼できない。私には非常に危ういものに見えます」とか主張しているニセ医学支持者と窓際記者の独り言さんとの違いはありますか?

窓際記者の独り言さんは、るいネットというサイトを引用しています*8。前後のツイートも見ましたが、別に批判的に言及したわけではありません。るいネットは「タバコ発ガン説のウソ」とか「ケムトレイル:核戦争時代のエアロゾルと電磁兵器」とか主張しているサイトです*9。とてもじゃないですが、まともな論者が引用するようなサイトではありません。ニセ医学支持者によくありますが、「中立的な資料、公的な資料や推進派と思しき資料もたくさん読ん」でいるつもりが、(ちょうど「検診感度は100%近く」のように)知識不足によって誤解したり、十分に理解できなかったりしていることがよくあります。窓際記者の独り言さんはそういうニセ医学支持者と区別がつきません。「どの一次資料を読んだのかご呈示ください」という指摘には答えられず、窓際記者の独り言さんは「過去の私のツイート履歴をご確認ください」と返事をしました*10。もちろん、ニセ医学支持者も同じことを言います。ニセ医学支持者と窓際記者の独り言さんの違いがわかりません。


  • 「過剰診断はやり方を工夫すれば、防げますよ」*11とのことですが、どのようなやり方で、どれぐらい過剰診断を防げるのでしょうか?

検診に伴う過剰診断は大きな問題です。検診間隔を空けたり検診対象者を制限したりするなど過剰診断を減らす方法はありますが、その場合、見落としが増えるというトレードオフがあります。そういう意味で仰っているとしたら、「現在ある検診技術を総動員すれば、(100%近く防ぐことが)可能」という主張と整合性が取れません。いったいどのような意味で「過剰診断は防げる」とおっしゃったのか、明確にしてください。

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0017-01-19 胃がんにおけるピロリ菌の「真の」相対リスクはどれくらい?

[]胃がんにおけるピロリ菌の「真の」相対リスクはどれくらい? 胃がんにおけるピロリ菌の「真の」相対リスクはどれくらい?を含むブックマーク

個人的にはとても興味深い話だけど、かなりマニアックだし、調べ方がまだ不十分なので、裏(過去日付エントリー)に書きます。

■ピロリ菌は胃がんの原因の何%か?において、ピロリ菌の相対リスクを5〜10倍として集団寄与危険割合を計算し、「ピロリ菌が原因である割合はおおよそ75%〜90%ぐらいであった」と書いた。するとコメント欄において、ピピットさんから、「ピロリ菌に感染している人は未感染者に比べて20倍以上胃がんになりやすい」としている医療機関のページがある、とご指摘していただいた。

ウェブ上には「20倍以上」「20〜30倍」といった記述があることは承知していたが参考文献等が見当たらず、後述するように総説やメタアナリシスでは20倍というような大きな数字ではなかったため、該当記事では相対リスクは5〜10倍として書いた。ところが、ピピットさんから、■ヘリコバクター・ピロリ感染管理−マーストリヒト IV/フローレンス コンセンサスレポート−において、



初期の疫学的データでは非噴門部胃癌におけるH. pylori感染のリスクは3倍と推定されたが、より正確な方法論および適正なコントロール群を用いた疫学的試験により、リスクは20倍もしくはそれ以上と示唆されている84,175


と教えていただいた(とても興味深い情報、ありがとうございました)。2012年の"Gut" という雑誌に掲載されている。消化管分野では一流誌といっていい。参考文献が2つ提示されている。



■Helicobacter pylori in gastric cancer established by CagA immunoblot as a marker of past infection. - PubMed - NCBI

■Is Helicobacter pylori infection a necessary condition for noncardia gastric cancer? - PubMed - NCBI



どちらも症例対照研究で、それぞれ2001年と2004年に発表。オッズ比(相対リスクの近似値)は21.0 (95% CI, 8.3-53.4) 、28.4 (95% CI: 3.7, 217.1)で、「20〜30倍」という数字の根拠はこれらの文献と思われる。(『誰かが「盛った」数字が一人歩きしている可能性もあると私は考えます』とコメントしたけれども違いました。ごめんなさい。でも文献提示してくれよ)。サンプルサイズはそれほど大きくないが問題はそれだけではなく、「ピロリ菌感染者」の定義の違いに由来する。

「胃がん+ピロリ+相対リスク」で系統的レビューやメタアナリシスは調べていたけど、20〜30倍という数字ではない。たとえば、2001年の、12の症例対照研究のメタアナリシス。



■Gastric cancer and Helicobacter pylori: a combined analysis of 12 case control studies nested within prospective cohorts. - PubMed - NCBI



"These results suggest that 5.9 is the best estimate of the relative risk of non-cardia cancer associated with H pylori infection …"(相対リスクのもっともよい推定値は5.9倍であることが示唆される)とある。これは2001年と古く、「より正確な方法論および適正なコントロール群を用いた疫学的試験」が考慮されていないのかもしれない。しかし、2011年(つまり20倍とか30倍とかいう研究が発表された後)の系統的レビューおよびメタアナリシス。



■Helicobacter pylori infection and gastric cardia cancer: systematic review and meta-analysis. - PubMed - NCBI



相対リスク"RR = 3.02; 95% CI 1.92-4.74"。つまり3倍。「より正確な方法論」と比較して、かなり乖離があるわけですな。ポイントはピロリ菌が産生するタンパク質CagAにある。「20〜30倍」という数字を出した症例対照研究はいずれもCagAを考慮に入れている。

さてここで、ピロリ菌感染(曝露)と胃がん(疾患)の関係の強さを知りたいときに必要な数字をおさらいしよう。ピロリ菌に感染している胃がん患者さんを何百人集めても、それだけではピロリ菌と胃がんの関係はわからない。ピロリ菌感染がある胃がんの人数、ピロリ菌感染がない胃がんの人数、ピロリ菌感染があって胃がんでない人数、ピロリ菌感染がなく胃がんでない人数の4つの数字が必要だ。表にするとこう。

f:id:NATROM:20170119171047j:image

オッズ比の計算方法


ここで問題になるのは誤分類。「本当は胃がんだけど胃がんじゃないと誤診」とか、「本当はピロリ菌感染ありだけで感染なしと誤診」とかいう例が混ざると結果が不正確になる。胃がんの診断はほぼ正確と考えていい。しかし、過去の研究ではピロリ菌の感染の有無は抗ピロリ菌抗体で判断していたんだけど、これが不正確。とくに「ピロリ菌に感染し続けて、胃粘膜が萎縮し、いかにも胃がんのリスクが高そうなくせに、抗ピロリ菌抗体が陰性になる」という例がある。ピロリ菌感染の有無で胃がんリスク評価する検診方法(ABC検診)でD群に分類されている。

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ABC検診の説明。■ABC検診(胃がんリスク分類) | デンカ生研株式会社から引用。赤丸は引用者による。

胃がんリスクが高いくせにピロリ菌感染なしと誤分類されると、オッズ比はてきめんに下がる。オッズ比=ad/bcでいうと、aが減ってbが増えるからだ(誤分類でcが減ってdも増えるけどその増え方が非対称)。

そこで、「抗ピロリ菌抗体以外の、もっとピロリ菌感染を正確に判断する方法」が採用された。それが、ピロリ菌が産生するタンパク質CagA。タンパク質そのものを測定したり、CagAに対する抗体を測定したりする。CagAを採用することで、「胃がんリスクが高いくせにピロリ菌感染なしと誤分類」を減らせることができる。すると、オッズ比が10倍とか20倍とか30倍とかになる。抗ピロリ菌抗体だけで判断すると、3倍程度、高くてもせいぜい5〜6倍なのに。

ただね、CagAを採用すると、今度は逆に相対リスクを過大評価すると思うんだよ。CagAそのものが胃がんリスクに関係しているから。「ピロリ菌感染歴があるのに抗ピロリ菌抗体陰性の人」のうち、胃がんリスクの高いCagA陽性の人だけをピロリ感染ありと分類し、胃がんリスクの低いCagA陰性の人はピロリ菌感染なしと分類する。すると「真の」相対リスクより高めの数字が出る。「ホントはピロリ菌感染あり。でも抗体もCagAも陰性でピロリ菌感染なしに誤分類される人」がどれぐらいいるかはわからないけど、いないはずはない。

「胃がんリスクには影響しないけどピロリ菌感染有無をより正確に測る指標」があればいいんだけど、今のところはそんな便利な指標はない。「抗ピロリ菌抗体だけだと相対リスクを過小評価、CagAを加味すると過大評価」することを念頭において判断するしかない。そして、日本人を対象にしたそこそこサンプルサイズの大きい症例対照研究では、抗ピロリ菌抗体だけだと相対リスクは5.1 (3.2-8.0)、CagAを加味すると10.2 (4.0-25.9)という結果だった。



■Effect of Helicobacter pylori infection combined with CagA and pepsinogen status on gastric cancer development among Japanese men and women: a nest... - PubMed - NCBI



そう考えると、やっぱり相対リスク20〜30倍というのは「そういう研究もある」程度で、やっぱり過大評価だと思う。また、よしんば相対リスク30倍という数字を採用したとしても、集団寄与危険割合は99%もの高い数字にはならない(97%ぐらい)。

臨床医の興味の対象は介入の効果(除菌したらどれぐらい胃がんが減る?どういう人にピロリ菌の検査をすべき?)なので、ピロリ菌の「真の」相対リスクはあまり重視されない。5倍だろうと30倍だろうとたいして違わない。「ピロリ菌を調べて除菌したらこんなにいいことがありますよ」という主張に都合がよいので、ちょっと大きめの推定値が採用される傾向があるのかもしれない。というかあると思う。

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