NATROMのブログ

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ダーウィン進化論の終焉

進化論ってのは、昔っから学会で公式に否定されたり、崩壊したり、死亡診断書が書かれたりしている。現在の進化生物学の発展ぶりを見ると、実は誤診で脳死に到っていなかったのかもしれない。さて、いろいろと大変な進化論だが、今度は終焉したらしい。世界日報の記事。プロローグ(上)だけ無料で読める。


■ダーウィン進化論の終焉 科学の新パラダイムID(インテリジェント・デザイン)(世界日報)


内容はいつものやつ。世界日報と産経新聞以外のメディアがID論を批判していることを、『「ID理論=創造論・宗教」とレッテル張りする偏向記事ばかり目立つ』としているけど、実際にID論は創造論で宗教なのだからしょうがない。ID論が科学なら、ちゃんとした科学雑誌に論文を掲載すればいい。「有力なピアレビュー付きの科学雑誌を含め数百の論文を発表している」とあるけど、実際のところ一流の雑誌に載ったものは一つもない(参考:インテリジェントデザイン関連論文(忘却からの帰還))。結局、自然科学を理解していない、ダーウィン進化論を信じたくない読者が対象なのである。世界日報のほうが偏向記事なのだ。

ID論の背後に宗教的動機があることは明らかなんだけど、ID論支持者は建前上はそれを隠しておくべきであるはず。しかし、この世界日報の記事はあまり上手に隠せていない(ていうか、世界日報に載っているということ自体が、宗教的動機の存在を示唆しているのだけど)。たとえば、ID論を「執拗に妨害」している米国自由人権協会(ACLU)の説明はこのようなもの。


米国の学校でダーウィニズムに異を唱える動きにことごとく反対し、訴訟を起こすなどして妨害している無神論団体。同性愛者の権利も擁護している。

この記者、および想定読者にとって、無神論者や同性愛者の権利の擁護者は敵なのだろう。宗教的な理由で同性愛者の権利などを認めたくない人にとっては、有効な記述である。しかし、日本の多くの読者にとってはたいして重要な情報ではない。むしろ、同性愛者の権利を擁護している良い人たちであると思うのではなかろうか。ID論が科学であって宗教でないのなら、無神論者で同性愛者の権利を認める人の中に、ID論を支持する人がいてもいいはずなのにね。一方、信仰を持っていても、科学としてのダーウィン進化論を支持する人はいくらでもいる。宗教と科学は別物だからだ。

最近、ジェンダーフリーやら純潔教育やらでの議論をウォッチすることが多いのだが、ID論に対する立ち位置から、論者の自然科学に対する理解力を測ることができる。「ID論は進化論を否定する似非科学」と断じる方と、「科学でないなら、論争にならないだろう(論争になっているところをみると科学なのかもしれない)」といった阿呆な発言する方では、どちらが自然科学について理解しているのかは明らかだ。無論、純潔教育の是非は自然科学の扱う範囲外だけど、ID論が科学かどうかも分かんない人が教育について語るのは寒い。宗教的動機からID論を支持したいのだろうけれども、ID論を持ち出すのは逆効果。「世界日報にもトンデモ大馬鹿記者がいて遺憾だね。それはそれとして、純潔教育は必要だ」などと語る論者がいれば、よく話を聞こうかという気になるけど。


[補足]

■幻影随想 別館経由で、世界日報の記事をタダで読めるブログ「■e-News」を発見したよ。たとえ、有力な科学雑誌に掲載されたID論に好意的な論文があるかのようなデマをしょっぱなから垂れ流しているとは言え、「フアーでは無い」と決め付けるのはよくないから読んでみよう。

読んでみても、やっぱり内容はいつものやつだったけど。それにしても、この記者が進化生物学を含めた自然科学をまったく知らない*1のはともかくとして、好意的に紹介しているID論についても情報が古い。せめて、最新のID論を紹介してくれれば情報としての価値はあるだろうけど。

ちなみに、このe-Newsとかいうブログは、世界日報の記事をそのまんま転載しているようなのだが、著作権とか大丈夫なのだろうか(棒読み)。

*1:「生命の進化が何もかも、偶然の変化と自然選択で説明できるとするダーウィニズム」だって。それは誰の脳内のダーウィニズムかな?それに、この記者どうやら「種の起源」を読んでいない。「種の起源にはこうある」とか言ってその部分はデントンの「反進化論」からの孫引き。ダーウィン進化論を知らないのに批判するのは「フアー」じゃないのか