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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2007-06-25 万波誠医師による病腎移植は容認できるか

[]地雷原を走る勇者 地雷原を走る勇者を含むブックマーク

癒着胎盤からの出血のため帝王切開中に妊婦が死亡した福島県立大野病院事件、あるいは、転送先の国立循環器病センターにて脳出血により妊婦が死亡した奈良県大淀病院事件について、医師のブログの間では概ね産婦人科医について好意的である。どちらの事件においても、診断や救命が困難な症例であり、医師の手落ちが死亡の原因ではないとみなされている。医師のかばいあいに過ぎないとみなす人もいるかもしれないが、いつも医師同士でかばいあうわけではなく、マスコミからバッシングを受けても医師からあまり擁護されない例もある。

病腎移植を行なった宇和島徳洲会病院の万波医師は、特に報道の初期のころはマスコミから激しいバッシングを受けていた。にも関わらず医師のブログでは擁護のコメントはあまり見られていない。大淀病院事件のときは第一報を報じた毎日新聞の記事を含め、記事の誤りが検証され、記者の名前が医学的に不正確な報道を行なうマスコミの象徴としてウィキペディアで(一時的にだが)項目が作られたりしたのと対照的である。私は最近知ったのだが、万波医師への支援を表明する非医療従事者がかなりいる。大野病院事件・大淀病院事件の産婦人科医の支援者の多くが医療関係者であるのに比べても対照的だ。この違いはどこから来るのだろう?

対象疾患の違いは理由の一つであろう。産科医のお世話になるのは一生に数度のみで、癒着胎盤や分娩中の脳出血はきわめてレアである。一方で、腎移植を待ち望む慢性腎不全患者の数は多い。だが、それ以外にも理由があるように見える。私の見るところでは、万波医師の人柄に対する信頼、支持者の医学的知識の欠如、学会に対する不信感などである。伝え聞く話では、万波医師の人柄は尊敬に値するものであることは確からしい。病腎移植は、移植腎の不足している現在においては、十分に考慮に値する医療である。しかし、万波医師の行った医療の是非と、万波医師の人柄や病腎移植の是非は独立した問題である。

たとえば、万波医師はB型肝炎ウイルス陽性(HBs抗原陽性、HBe抗原陰性、HBe抗体陽性)ドナーから腎移植を行なっており、「肝臓専門医にコメントを求めたところ、当時の肝臓病の常識として感染性はないと判断されるとのことです」とコメントしている*1。実際のところは、移植が行なわれた当時であっても弱いながらも感染力があるとするのが常識であり、少なくともこの件では万波医師の行った移植には大きな問題点があったと言わざるを得ない。腎臓病については私の専門外であるが、「HBe抗体陽性なら感染性はない」などと移植医であるにも関わらず発言する医師の言うことには懐疑的にならざるを得ない。センセーショナルな見出しはどうかと思うが、読売新聞では「息子は万波医師の実験台…B型肝炎感染者の腎移植*2」と報じた。実験台ならばまだマシである。後の患者さんの役に立つからである。実際には万波医師は十分なデータを取っていなかった。万波医師は自分のやっていたことが実験的な医療であるという認識に欠けていたと思われる。万波支援者は、医学的知識の欠如ゆえかB型肝炎ウイルス陽性ドナーからの移植を問題視していない*3。万波医師の不備は不備として認め、それとは別に病腎移植を推進したほうが結果的に透析患者の救済に役立つであろうに。

予測が難しく急激に予後が悪くなる疾患を扱うことも、倫理委員会の承認や文書によるインフォームドコンセントなしに実験的医療を行なうことも、どちらも現状においては危険である。しかし、前者の危険は避けることができない。誰かが産科医療や救急医療を行なわなくてはならない。内科医であっても、踏む確率が小さいだけで、「歩いてくるクモ膜下出血」や「症状のない心筋梗塞」などの地雷の上を歩いている。だからこそ、大野病院や大淀病院の産婦人科医が地雷を踏んだとき、多くの医師が擁護したのである。しかし、後者はどうか。いまどき、万波医師のような無茶な実験的医療を行なう医師はそうはいないだろう。倫理委員会の承認を取ることや、きちんとしたインフォームドコンセントを取るのは確かに煩雑な手続きである。しかし、勇み足で問題のある医療(たとえば感染対策なしのB型肝炎陽性ドナーからの移植など)が行なわれるのを未然に防ぐために必要な手続きである。少し遠回りになるが安全な道があるのにも関わらず、わざわざ地雷原を突っ切り、しかもそこに地雷があることを認識していないのは勇者ではない。



関連記事

■病腎移植とB型肝炎

■病腎移植のドナーが提訴

*1:病気腎移植推進・瀬戸内グループ支援ネット - 市立病院調査委員会の報告について:URL:http://www.setouchi-ishoku.info/article.php/20070501164629986

*2:息子は万波医師の実験台…B型肝炎感染者の腎移植(読売新聞):URL:http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070501ik0a.htm

*3:たとえば
市立宇和島病院の調査委員会、最終報告を発表〜“腎移植→B型肝炎感染→死亡”だったのか?(Because It's There):URL:http://sokonisonnzaisuru.blog23.fc2.com/blog-entry-380.html、

なんで急性膵炎でなくなったのに、ウィルス感染死になるの?肝炎ウィルスって急性膵炎になるんだあ?(地獄への道は善意で舗装されている):URL:http://blogs.yahoo.co.jp/sxed2004/4732082.html

bamboobamboo 2007/06/25 16:17 今日は大淀病院の件の初公判ですね。ちゃんと報道されるのかな。実情に即した冷静な審理になることを望んでいます。患者側に思い入れたっぷりの修羅場だけは勘弁して欲しい。

杉山真大杉山真大 2007/06/25 20:22 そう言えば政府が、ここへ来て高リスク研究に積極的な援助をしようとしてるんですよね。このことが「地雷原を踏む勇者」を作らないか、個人的には気になりますね。
#アメリカでも採用されてるって言うけど、アメリカの現実はどうなんだろ?

通りすがり通りすがり 2007/06/26 12:17 「初公判」って、だれか逮捕か在宅起訴されて刑事裁判になってるんですか?
民事は「第○回口頭弁論」です。

bamboobamboo 2007/06/26 19:06 通りすがり氏、ご指摘感謝。実をいうと自信がなかったのでブログでは「民事裁判が開始される日」と書いた。我ながら勘が良い。調べてから書けよ>自分

tkcntkcn 2007/06/26 21:39 *3のBlogの方は、どうも本気でB型肝炎陽性もありだと思っているようですが、話の中でHBeAbとHBsAb、死体腎と生体腎の話が混ざっているし、おそらく非常に混乱した知識を基にしているか、最初から結論が決まっていて理屈を後付しているのではないかと思ってしまいます。
しかし、この方は「法律の専門家」ということらしく、こういう人が民事、刑事の判断に関与することもあるのだとおもうと、暗い気持ちになります。

REVさんぽくREVさんぽく 2007/06/26 21:52 妊産婦死亡率出産10万あたりおよそ6。
blog.m3.com/OB_Gyne/20070617/1
「2005年の妊産婦死亡数が62人であることから,毎年約4500人の妊産婦が死に至る可能性をもつ重症管理を受けていたと算定される」
life threatningなアレは産科的DIC(セイラームーンの作者)、PTE、など比較的慢性化しにくい感じ?(脳出血で助かれば後遺症残すでしょうがレア中のレア)
一方、移植を待ち望む慢性透析患者は25万人以上、1年あたり死亡数2万5000人弱。
週3回3時間の拘束を余儀なくされ、粗死亡率10%弱の生を生きていく(リアルリアリティ?)
http://d.hatena.ne.jp/pbh/20070625/1182757719
に。回答になるかな?

sci98sci98 2007/06/26 21:55 ちなみに公判って、広義には公訴の提起以降訴訟が終結するまでの一切の訴訟手続を指すから、第一回公判手続を初公判って書くのもちょっと混乱の元ですね。って、私も平気で初公判って書くけど。

kmori58kmori58 2007/06/27 03:23 つい先日レシピエントになりそこねた私がやってきましたよ。万波氏の病気腎移植はおっしゃる通り問題だと思いますが、レシピエントがすでに同じウィルスに感染している場合には移植してもいいのではないかと思います。過去に某先生がアメリカから病気腎をもってきてその基準で移植したケースがありました。そのときもマスコミに叩かれてましたけど。
>2つ上の人へ
10%の死亡率で11年たつと70%の人が死んでるはずですが、11年経ってもまだ生きてる私って超人ですか。死亡率は年齢調整しないと。QOLはおっしゃる通り問題ですけどね。あと3時間じゃなく4時間。病院にいる時間なら5時間ですね。

NATROMNATROM 2007/06/27 07:11 なんらかの感染対策(すでに感染しているレシピエントを選択するのを含めて)を行なった上での移植は十分考慮に値すると思います。複数の報告もあります。問題は、「(HBe抗体陽性なら)感染性はないと判断される」などという万波医師の非常識さ、および、教科書すら読む努力すらせずに万波医師の言うことを鵜呑みにしている支持者です。

トラックバック先で「客観的証拠を無視し、米国の移植事情も知らず、臨機応変に反応のできない者がいる」とか言われちゃいました。客観的証拠を無視しているのはどちらなのかを近日中に示します。

InoueInoue 2007/06/27 08:29 何にせよ、病腎移植は緊急避難でしかない。移植医療を推し進めたいなら、「臓器移植カードを持ってる脳死患者は移植ドナー」ではなく、「臓器移植拒否カードを持ってる脳死患者はドナーから除外する」という規定にするしかない。脳死になったら、デフォルトは移植ドナーってことで。

電気屋電気屋 2007/06/27 21:02 産経新聞に最近オーストラリアではかなり病腎移植が行われているとの記事がのり、万波氏に好意的な内容となっていました。

日豪の病腎移植グループ交流 「患者の苦しみ同じ」http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070618-00000018-san-soci

NATROMNATROM 2007/06/27 22:41 オーストラリアに限らず、HBs抗原陽性ドナーからの腎移植は結構なされているようです。しかし十分な感染対策のもとになされており、万波医師のように「感染性はない」などという非常識な判断をした上での移植例はおそらくほとんどないでしょう。

担癌患者からの移植についても、海外ではきちんとしたインフォームドコンセントがなされ、きちんとデータを取った上でのことだろうと思います。