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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2007-10-11 トンデモ医療裁判

[]日経メディカルでトンデモ医療裁判の特集 日経メディカルでトンデモ医療裁判の特集を含むブックマーク

誰かが書くかなと思っていたけどあまり話題にあがらないので自分で書く。今月号(2007年10月)の日経メディカルの特集は、「医師を襲うトンデモ医療裁判」であった。


■日経メディカル 2007年10月号(魚拓

医師を襲うトンデモ医療裁判

 医療の限界や不確実性を考慮せず、医学的な根拠も蔑ろにする「トンデモ」判決が、医療界を脅かしている。そのトンデモなさは、萎縮医療を促進するだけでなく、ハイリスク診療科や病院からの医師の逃散を招いている。

 このままでは、司法が原因でこの国の医療が崩壊することになりかねない。(P56)


医療系のブログでさんざん言われてきたことである。しかし、いくら医療者向けの雑誌とはいえ、紙ベースの出版物でトンデモとまで言い切った司法批判は珍しいのではないか。私の記憶では、「医療者側に厳しい判決と言わざるを得ない」とか、せいぜいそのくらいまでだったように思う。記事は、トンデモ判決を分類したPart 1、具体的な裁判例を紹介したPart 2、訴訟を回避するための方策を論じたPart 3の3部構成。

Part 1では、トンデモ判決を「最高水準要求型」、「説明義務過剰型」、「因果関係こじつけ型」、「医学根拠希薄型」の4つに分類する。また、鑑定人の問題も指摘している。『鑑定人が、現場の実態や時代背景などを考慮せず「考えられる最良の医療」を鑑定書に記してしまうことがあるという(P57)』。ネット上で法曹界の方々の主張を聞くと、鑑定書が出された以上、それに従った判決をせざるを得ないとのこと。確かにそうであろう。だとすると、トンデモ医療裁判の原因は、鑑定書を出した医療側にもあるということになる。ただ、それだとトンデモな鑑定書を書いてくれる医師を1人でも訴訟相手が見つけてくれば、標準的な医療を行っていても裁判で負ける可能性があるわけだ。これもシステムの問題であって個々の裁判官や弁護士の資質とは別の問題なのであろう。医療事故を起こした医療従事者を責めても問題が解決しないのと同様に、トンデモ判決を出した裁判官を責めても問題は解決しないかもしれないことは心に留めておくべき。

Part 2では、4つの事例を扱っている。1つ目は、八戸市立市民病院で耕運機で巻き込まれた男性が、ガス壊疽になり下肢切断となった例。縫合する際に通常より太い糸を使ったことが血行障害を、ひいてはガス壊疽を引き起こしたとされた。記事では「医学的根拠希薄型」と「因果関係こじつけ型」の合併した"重症例"という評価。ブログでは、たとえば■もう外傷なんて診ない!(うろうろドクター)や■やられ放題 「八戸市立病院の敗訴確定=左足切断の手術ミス−最高裁 」(勤務医 開業つれづれ日記)で、同様の評価がなされている。

2つ目は、奈良県五條病院で急変し死亡した交通外傷患者に対し、死因は外傷性心タンポナーデであり超音波検査や心嚢穿刺を行うべきだったとされた例。ポイントは診療にあたったのが脳外科医で、脳外科医一般に求められれる医療水準は満たしていたのにも関わらず、それ以上の医療を求められたという点。記事では、事故当時の医療状況では救急医であっても外傷患者に積極的に超音波検査を行うのは標準的でなかったこと、そもそも患者の死因が心タンポナーデであったことからして不確定であったことを指摘している。ネット上では、■良心と保身の狭間で(産科医療のこれから)で、詳しく述べられている。引用された判決文を読む限りでは、鑑定書の問題などではなく、現実離れした要求を医療者につきつけたこの裁判官の資質を疑わざるを得ないと思うのだが、法曹関係者はどうお考えか。

3つ目は、脳内出血に対し早期にマンニトールを開始すべきだったとされた例。しかし、添付文書には「脳圧により一時止血されていたものが、頭蓋内圧の減少とともに再び出血し始めることもあるので、出血源を処理し、再出血の恐れのないことを確認しない限り、本剤を投与しない」とある。「これに対して高松高裁は『添付文書に従うか否かは医師の裁量権の範囲である』として、マンニトール投与の時期を逸した過失を認めた(P64)」。つまり、禁忌でも使うべきだったというわけ。使って結果が悪かったら、「禁忌なのに使った過失を認める」となっていた予感。この件についてはネットでは見つけられなかった。事件は1998年11月14日、判決は2005年5月17日に高松高裁であったとのこと。

4つ目は、帯状疱疹を低温やけどと誤診し、ステロイド外用剤を処方したために帯状疱疹後神経痛が生じたとされた例。記事では専門医による「最善の治療をしても、帯状疱疹後神経痛は残る場合がある。アシクロビルを早く使えば神経痛が残らないなら、皮膚科医は誰も悩まない」「(ステロイドを)1日外用したせいで神経細胞に浸透し、ウイルスの増殖を促したとは考えにくい」との意見を載せている。この件もネット上では見つけられなかった。事件は2002年1月、判決は2005年5月25日に名古屋地裁であったとのこと。

Part 3では、訴訟を回避するために、「隠さない」「チームでスピード対応」「真実を話し謝罪する」「メディエーターを置く」「払うべきものは払う」といった対策が述べられている。しかしこれでは訴訟の確率は減らせても、ゼロにはできない。トンデモ裁判を避けることもできない。

トンデモ裁判は悪だ。それは事実だ。しかし、最近私はこう思うようにもなっている。悪いのは、裁判以外に医事紛争を解決する手段がほとんどない制度の欠陥だ。無過失補償制度や医療事故を調査する第三者機関などの、裁判以外の医事紛争解決手段の早期導入を願う。

地下に眠るM地下に眠るM 2007/10/12 01:41 実質的な権限をにぎっている行政があまりにも無責任ではにゃーかと思うにゃ
各都道府県の厚生支局に医事紛争解決を目的とした部署を設け、訴訟はその部署における裁決を経た後でなければできにゃーようにするのがいいのではにゃーだろうか。
また、医療事故を保障する公的な保険制度もあっていい。患者と病院と国庫で保険料を負担して、運営を第三者機関にまかせるとか。

InoueInoue 2007/10/12 07:58 「脳に割り箸が刺さった我が子と大学病院の態度」というひどい本があります。杏林大学事件の当事者の母親が書いた本ですけれども、高校教師という(いちおう)インテリのくせして、視野の狭さはひどいものがあります。見過ごせないのは、
「医療ミスをしても医師は病院が弁護士の手配をしてくれるし保険もあるから痛くもかゆくもない。こっちは自費で弁護士雇って裁判をおこして云々」
とあったことです。あの耳鼻科医は、民事と刑事で裁判おこされた影響で、仕事できなかったと思うよ。示談で手打ちにしたくても、保険会社が納得してくれないと勝手に示談にはできない。

ssd666ssd666 2007/10/12 08:30 鑑定医に資格制度を導入するだけでいいと思いますけどね。
各学会の評議委員程度の学識を要求。
これだとハグレ医者無頼系の、その手の弁護士と結託する医者を排除できそう。
ただ、福島の事件みたいに、腫瘍が専門なのに鑑定医を引き受けていたら
次々に頼まれて、結局、周産期の大事件の鑑定医にまで、引きずり出されて裁判の現場で、
「あー、こういう事件で意見を述べるのにふさわしい周産期医療の専門家は誰ですかあ」
とか聞かれて、被告の親分とか、その仲間の旧帝大系の教授(被告側鑑定医として出廷予定)
を答えさせられるという羞恥プレイに陥る間の抜けた人はどうしようもないですが。

匿名匿名 2007/10/12 08:48 審決通→神経痛でOK?

NATROMNATROM 2007/10/12 10:02 >審決通→神経痛
訂正しました。ご指摘感謝。

newKamernewKamer 2007/10/12 10:07
>『鑑定人が、現場の実態や時代背景などを考慮せず「考えられる最良の医療」を鑑定書に記してしまうことがあるという(P57)』
 これは、他の分野の技術者なんかでも、普通にあることですね。例えば、納期とかを「何も問題が無く至極順調だった場合」で見積もって、公式資料としてしまうことなどです。実際には少しでも想定外のことがあれば、守れない納期になってしまうと。そして、想定外のことがないなどということもまずない。

arrackarrack 2007/10/12 15:17 高松高裁の該当箇所のみ「この点,被控訴人病院は,グリセオール,マンニトール等の脳圧降下のための利尿剤は,急性頭蓋内血腫が疑われる患者には,出血源を処理し,再出血のおそれがないことを確認されるまではその使用が禁忌であり,能書にもそのことが明記されている旨主張し,これにそう乙ロ22の1,2,23,証人Hがある。しかし,能書は製薬会社の製造物責任を果たすための注意書きであって,薬剤の作用機序やその使用によってもたらされ得る危険性を了解した上で,これに従うか否かは医師の裁量権の範囲内である(つまり,利尿剤による出血の危険より血腫や浮腫の悪化のほうが生命へのリスクが大きいと判断した場合はその使用が許容される。)。能書と異なる使用をすることは,日本神経外傷学会のガイドラインにも採用されている(乙ロ30)ところでもある。被控訴人病院の上記主張は採用できない。」
判断基準は学会ガイドラインによるところが大のようで。

JA50JA50 2007/10/12 16:48 効能書きが実際の臨床の場では「古い」ものであったり、効能書きの書かれていない治療分野に使われていたりする。
それを分かった上で、臨床医は保険薬を使っている。
しかし、それは、いつ何時、査定されるかもしれない(この場合は、病院の持ち出しとなる)や、もしそれで何らかの副作用が出た場合には、効能書きに書かれていない使い方をしたとして裁判に負けるかもしれないと、ビクビクしながらのものなんです。
教科書に書かれていることも、そのまま臨床に使えるわけではない。
また、ガイドラインもそうです。そのまま使えるわけではない。
医師は、いつも自分の知識と経験から、目の前の患者に「医師の裁量」で、治療をしている。

しかし、医療裁判では、これは「医師の裁量」だと、いつもいつも主張しているが、まずたいてい通らない。一顧だにされないと言ってもいいくらい。
それを、「医師の裁量」だから、効能書きに書かれていない使い方をすべきだったと言われて、敗訴の根拠にされるとは、驚きました。

defensive medecine。
これつつきる。

arrackarrack 2007/10/12 17:09 >現実離れした要求を医療者につきつけたこの裁判官の資質を疑わざるを得ないと思うのだが、法曹関係者はどうお考えか。

結論からいうと普通の裁判官ですね、ということです。
基本的に法曹、特に裁判官が責任を負うのは法律の条文です。
現実がこうだから(それに沿っておらず)トンデモ判決だ、というのはその世界に生きる人にとってはそうでしょうが、別の世界(条文の世界)の人は条文がこうなってるからこう判断するしかないよね、ということになります。
これが裁判官は世の中を知らないといわれる原因の一つでしょうが、これを外れると法律によってたつ裁判という法システムが機能しなくなります。
ですから、裁判官が判断基準として条文をだしてそれにそった判断をしてるにすぎないのに、それに対して「現実離れ」してるという批判は的外れ、ということになります。正しい批判は、その条文からそのような判断基準をたてるのはおかしい、というものです。本件でいえば「救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること」という法令の文言等から、医師の注意義務としてはどのような基準が立てられるべきか、ということであり、この裁判官の立てた基準に対する批判は法令に依拠したものでなければ批判としての意味を持ちえません。
もしこの裁判官が、「救急医療の現実」から「条文の世界」をこえた「現実」に沿った判断をした場合、いくら一般人として合格でも、それは条文の世界に生きる裁判官としては失格ということになります。
裁判官は事実(現実)のために法律を曲げないし、事実のために法律を変える権能をもつのは立法府であるというということをお忘れなきようにおねがいします。

どうも日経メディカルの記事はどのような事実を認めるかという事実認定上の問題(3つめの事例)と、どのような基準をたてるべきかという法律解釈上の問題(2つめの事例)をごっちゃにして医療裁判記事を書いているように見受けられます。
問題としている裁判における事象のレベルが違うのですから、対応策、解決策も変わってきます。

ちなみに↑の投稿の「判断基準」という言葉は事実認定レベルでつかっています。

JA50JA50 2007/10/12 17:50 裁判官は(というよりこの国の司法はと言うべきか)、現実よりも条文を優先するということなんでしょう。
いくら現実離れし、条文通り守れば現場を破壊することになろうが法律をその通り適用すると。

我々は、そういう美しい国にいるわけで、その国にいるかぎり従わざるをえない。

defensive medecine !!

NATROMNATROM 2007/10/12 19:02 arrackさん、コメントありがとうございました。

>条文をだしてそれにそった判断をしてるにすぎない

「救急医療について相当の知識及び経験」という条文から、心エコーおよび心嚢穿刺まで含めた技量を要求するのは条文にそった判断でしょうか。実際には心嚢穿刺は通常の二次救急施設ではできないような高度な技量でしょう。となると、「救急医療について相当の知識及び経験」に心嚢穿刺を含めるのは間違った判断ではないですか。「相当の知識及び経験」がどこまで含まれるかは裁判官の胸先三寸で決まるものではないと思います。最高レベルではなく、一般的な二次救急施設で働く医師の知識および経験が「相当の知識及び経験」であるという判断ではいけないのでしょうか。

sci98sci98 2007/10/12 20:17 ssd666さん
>鑑定医に資格制度を導入するだけでいいと思いますけどね。
鑑定医資格のない医師の鑑定書の証拠能力を否定するわけにはいけませんから、「資格のない医師の鑑定書は著しく証明力が劣る」という実績を作らないといけませんね。
arrackさん
>高松高裁の該当箇所
なんと、全部被告側の提出証拠なんですね。

arrackarrack 2007/10/12 20:33 判決を読むと3次救急と2次救急の差異は医療設備や医師の具体的施術レベルにおける差異であり、医師の診察判断能力においては救急医であるなら同じであるべきとしているように読み取れます(判決文「2次救急医療機関における医師としては,本件においては,上記のとおり,Fに対し胸部超音波検査を実施し,心嚢内出血との診断をした上で,必要な措置を講じるべきであったということができ(自ら必要な検査や措置を講じることができない場合には,直ちにそれが可能な医師に連絡を取って援助を求める,あるいは3次救急病院に転送することが必要であった。)」)
また1次から3次までの救急指定については、病院の具体的症状対応レベルに基づく分類であって、医師の診察能力に基づく分類でないことや、法令に医師の経験上の差異を認めるような条文がない以上、二次救急であることを基準とした解釈をとることは難しいと思われます。
つまり判決は救急指定である以上、そこの医師の(診察)レベルは(1次2次3次の区別ではなく)「救急医」であるべきということを救急病院等を定める省令等を根拠に判断しているものと考えます。

NATROMNATROM 2007/10/12 23:29 条文がない以上、「3次救急施設でも2次救急施設でも、医師も診察判断能力においては救急医であるなら同じであるべき」というのはいいのですが(本当は良くないけど)、ならば「救急医療について相当の知識及び経験」の基準を3次救急施設で働く救急専門医に置く理由は何でしょうか。条文があるんですか?1次救急施設で日常的に救急医療に当たっている一般医のレベルを「救急医療について相当の知識及び経験」とみなしてもいけない理由は何かありますか。実際、彼らは救急医療についての知識も経験も持っています。実際、救急医療を行なっていますもの。なぜ彼らの知識や経験が「相当」ではないと言い切れるのですか?

そりゃ、条文に「救急専門医(救急認定医と救急指導医)が常時診療に従事していること」と書いてあるのであれば、「条文をだしてそれにそった判断をしてるにすぎない」という説明にも納得いきます。でも実際の条文は、「救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること」ですよね。条文は解釈の余地があり、より常識的な、現実に即した解釈も可能だったんじゃないんですか。

arrackarrack 2007/10/13 00:04 判決文を読み直してみましたが、上記の「そこの医師の(診察)レベルは(1次2次3次の区別ではなく)「救急医」であるべきということを救急病院等を定める省令等を根拠に判断しているものと考えます。」の私のコメは間違いですね。
判決文に「2次救急医療機関の医師として,救急医療に求められる医療水準の注意義務を負うと解すべきである。」としてあるので「相当」の基準を2次救急の救急医水準にもとめていると思います。
この次に2次救急の救急医はどのようなものであるべきか、は鑑定書による事実認定の世界になると思います。

以下、リンク先にはない裁判所の判断部分の抜粋
第3 当裁判所の判断
1 前提事実に証拠(甲1,9ないし19,21,乙1 ,2,4,7ないし12,21,23,24,26,検乙1(枝番を含む。),原審における被控訴人E本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。
1 Fは,平成5年10月8日午後4時23分ころ,Jを助手席に乗せた乗用車を運転中,奈良県五條市a町b番地先路上(県道c線)で,民家のブロック塀に衝突する交通事故を起こした。乗用車は,前バンパー,ボンネット,左右前フェンダー凹損等の状態であり,前部が大破し,ハンドル等の作動実験は不能であった。現場にスリップ痕が認められないことから,通常走行する程度の速度で衝突したものと考えられ,また,Fはシートベルトを装着しておらず,乗用車にはエアバッグ装置もなかった。
 まもなく救急隊が交通事故現場に到着したが,救急隊員の判断によると,意識状態は,3−3−9度方式で,Jが〈1〉−2(覚醒しているが,見当識障害あり),Fが〈3〉−2(刺激で覚醒せず,少し手足を動かしたり,顔をしかめる状態)であり,Jは,胸痛を訴えながらも,自力で救急車に乗車したが,Fは,救急隊員により救急車に収容され,気道を確保されて,本件病院に搬送された。
2 本件病院は,院長ほか33名(定数)の医師を擁し、2次救急病院に指定されている。奈良県内には,高度救命の3次救急病院として,橿原市所在のKと奈良市所在のLがあり,本件病院から救急車で,前者は30分程度,後者は1時間以上要する距離にある。
 本件病院は,平成5年10月当時,医師2名(外科系,内科系各1名),看護婦(現・看護師)2名等で当直業務をしていたが,時間外にも,外科医,麻酔科医,看護婦等に連絡し,30分程度の準備時間をかければ手術をすることができる態勢を整えていた。なお,同日の当直は,外科系医師が被控訴人E,内科系が小児科の医師であった。 
 被控訴人Eは,当時,本件病院の脳神経外科部長であり,日本外科学会認定医及び日本脳神経外科学会専門医の認定を受けていた。また,M医師は,本件病院の副院長で,日本外科学会及び日本消化器外科学会の認定医であり,消化器外科を専門としていた。
 なお,本件病院には,救急専門医(救急認定医と救急指導医)はいない。
3 FとJは,同日午後4時47分ころ,本件病院に搬送された。被控訴人Eが両名の診察に当たり,救急隊員からブロック塀に自動車でぶつかって受傷しているとの報告を受けた。
 Jは,意識清明で,Fの正確な名前もJが答えたが,胸部痛をしきりに訴えており,胸郭の動きが異常であり,胸部損傷が窺われた。他方,Fは,不穏状態であり,意味不明の発語があり,両手足を活発に動かしており,呼びかけに対しては辛うじて名字が言えるという状態で,意識状態は3−3−9度方式で30R(痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する不穏状態)と判断された。
4 Jについては,来院時の血圧が180/90mmHgで,容体は安定しており,被控訴人Eは,まず肋骨骨折,肺挫傷,血胸等の有無の確認のため,胸部X線検査を実施したが,その検査途中に,呼吸困難を訴え,呼吸不全,循環不全,意識障害が出現した。このため,被控訴人Eは,当時手術室で他の患者の手術の麻酔管理をしていた脳神経外科のN医師に応援を依頼し,ともに救命措置を講じたが,血圧維持は困難で,措置中に現像ができた胸部X線写真で肋骨骨折,肺挫傷等の重篤な異常が認められたので,Kに転送することにし,午後6時頃,救急車にN医師と看護婦が同乗し,心肺蘇生を続けながら,Kまで搬送した。Kには午後6時30分頃到着し,直ちに蘇生術が試みられたが,外傷性心破裂のため午後6時40分頃死亡した。
5 Fについては,被控訴人Eは,まず頭部の視診,触診をして項部硬直の有無,眼位,瞳孔等の確認をし,振り子状の眼振を認めた。次に,胸部の所見をとり,頬からあごにかけて及び左鎖骨部から頸肋部にかけて打撲の跡を認めた。呼吸様式,胸部聴診に問題はなかった。腹部の聴診と視診では,明らかな腹部膨満や筋性防御の所見はなく,腸雑音の消失,亢進はなかった。また,四肢の動態に異常な点は認めなかった。
 この頃のFのバイタルサインは,体温は不明,血圧は158/26mmHg周辺で推移していた。なお,Fの勤務先の定期健康診断(平成4年10月6日実施)における血圧は,108/78mmHgであった。
 被控訴人Eは,その後,Fが頭部を受傷しており意識障害があることから,頭部CT検査を実施することとし,M医師の応援を求めた。FはCT室に搬送され,頭部CT検査が実施されたが,CT室において,採血も行われた。頭部CT検査が終了したのは,午後5時9分であった。
 被控訴人Eは,頭部CT検査に引き続き,頭部,胸部,腹部の単純X線撮影を実施することにし,Fは,一般X線撮影室に搬送され,午後5時22分から28分にかけて,頭部,胸部,腹部の単純X線撮影がされた。
 なお,FのX線撮影が開始される前に,Jの容体が急変したため,被控訴人Eは,Jの蘇生措置に当たっており,FのX線写真等を検討したのは,午後5時30分をかなり過ぎていた。
 被控訴人Eは,Fの頭部CT及び各X線写真に異常な所見がないことを確認し,また,午後5時12分に算定された抹梢血液検査結果(乙1の37頁)では貧血を認めず,全診療経過を通して血尿の所見もなかった。また,午後6時15分頃から30分頃にかけて,被控訴人Eの下に血液生化学検査の結果報告書(乙1の36頁)が届けられたが,CPKの値は197mU/mlとかなり高かった(正常値は10〜130mU/ml)。
6 被控訴人Eは,特に緊急な措置を要する異常はないものと認め,Fを入院させたうえ,経過観察とすることが相当と判断した。また,M医師も,午後6時頃,病室でFを診察したが,腹部は触診で軟,筋性防御等の所見はなく,貧血を認めず,X線写真と総合すると,経過観察とするのが相当と判断し,被控訴人Eにその旨伝えた。
 このため,被控訴人Eは,Fを経過観察にすることにし,看護婦に,病名を頭部外傷〈2〉型,バイタルサイン4時間(最低4時間ごとに血圧等の測定や観察をするという意味)などと記した脳神経外科入院時指示表(乙1の38頁)を作成し,看護婦に交付した。Fは,午後6時30分頃,一般病室への入院措置がとられ,意識障害は継続していたが,呼吸は安定しており,点滴が開始された。被控訴人Eは,本件病院に駆けつけていた控訴人AにFの病状を説明し,同控訴人は,その説明を聞いた後,帰宅した。
7 ところが,同日午後7時頃,Fの容体は急変し,看護婦から血圧測定ができないとの連絡があり,被控訴人Eらにおいて,血液ガス分析のための採血を行ったが,その途中で,突然呼吸停止となり,胸骨圧迫式(体外式)心マッサージ,気管内挿管等の蘇生術を施行したが,効果がなかった。また,ポータブルX線検査を実施したが,明らかな異常を認めず,さらに,外傷性急性心タンポナーデであれば,心嚢穿刺によって劇的に状態を改善できると考え,超音波ガイドを使用せずに,左胸骨弓の剣状突起の起始部から6cmまで穿刺する方法を試みたが,うまくいかず,心嚢で液体を得ることはできなかった。なお,被控訴人Eは,研修医の時の救急救命センターでの研修を除けば,これまで心嚢穿刺をしたことがなかった。
8 Fは,同日午後8時7分死亡した。被控訴人Eの死亡診断は,胸部打撲を原因とする心破裂の疑いであった。
2 上記認定事実を前提として,まず,Fの死因につき検討するに,G鑑定が述べるとおり,Fの死因は外傷性急性心タンポナーデによるものと認めることができる。以下,その理由を述べる。
1 証拠(甲4,5,22,乙26,G鑑定)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
 外傷性急性心タンポナーデは,心挫傷や心破裂(心室破裂の場合は,現場で即死するのが常であるが,しばしば見られる心房の心耳と呼ばれる先端部の小穿孔などでは出血速度が遅い場合がある。)部から出血した血液が心臓を取り巻く心嚢内に徐々に貯留し,心臓を外から圧迫する結果,拡張期に心臓内に溜まる血液量が減少するために,心拍出量が著しく減少する病態である。心嚢内の貯留血液量に比例して心拍出量が減少するわけではなく,心嚢内の貯留血液量がある一定量(成人であれば200cc程度とされる。)を超えた時から,急速に心拍出量が減少し,症状が現れるのが特徴である(逆にいえば,心嚢内の貯留血液量を症状が現れる前の量以下にすると,症状は急速に回復する。)。
 外傷性急性心タンポナーデの特徴的な臨床症状は,突然発症するショックと同時に頸動脈の怒張,中心静脈圧(CVP)の上昇が見られることである(外傷患者のショックのほとんどは出血性ショックであるが,このときには頸静脈は虚脱しCVPは低下するので,急性心タンポナーデと出血性ショックは容易に鑑別できる。)。外傷性急性心タンポナーデの原因である心損傷(心挫傷,心破裂を含む。)を疑わせるものとしては,CPKなど心筋酵素の上昇,12誘導心電図における異常がある。また,院内での医師の目前で起こった心呼吸停止については,直ちに適切な心肺蘇生術が行われた場合には,癌や慢性疾患の末期でそれが原因となって心呼吸停止状態になったときを除き,後遺障害もなく,完全に回復するのがほとんどであるが,急性心タンポナーデが原因の場合には,心嚢内で心臓が圧迫され心腔内の血液量が少ないので,胸骨圧迫式(体外式)心マッサージを行っても,有効な血流が得られず,急性心タンポナーデを解除しない限り,蘇生は極めて困難である。急性心タンポナーデについては,胸部超音波検査によって確実に診断することができる。

2 これをFについてみると,Fは,前記認定のとおり,シートベルトを装着しない状態で,ブレーキ痕もなくブロック塀に衝突しており,高エネルギー外傷を受けたと考えられること,血液生化学検査により,CPKの値が197mU/mlと高い数値を示していたこと,受傷後循環動態が安定していたにもかかわらず,午後7時頃に容体が急変したこと,適切な心肺蘇生術を施行したが,全く反応がなかったことなどは,上記の外傷性急性心タンポナーデの特徴と合致し,Fの死因が外傷性急性心タンポナーデであると考えることによって,Fの臨床経緯を最も合理的に説明することができる。
 なお,被控訴人Eは,Fの容体が急変した後の午後7時頃に撮影した胸部正面単純X線撮影(検乙1の3)で異常を認めていないが,証拠(G鑑定)によると,胸部正面単純X線撮影では,心陰影の明瞭な拡大としては捉えることができないので,上記X線写真で心陰影が拡大していないことをもって,急性心タンポナーデの存在を否定することはできないことが認められ,上記認定,判断を左右するものではない。
 また,H鑑定は腹腔内出血が死亡原因であるとするが,証拠(G鑑定)によると,上記胸部正面単純X線撮影(検乙1の3)で中心陰影が縮小していないことから,急速な出血が死亡原因であるとは考えられず,その可能性は医学的に否定されることが認められ,H鑑定を採用することはできない。
3 次に,被控訴人Eの過失又は注意義務違反の有無について検討する。
1 前記認定のとおり,Fは,乗用車運転中にブレーキ痕もないままブロック塀に正面から衝突し,車の前部を大破する事故によって受傷しており,事故の態様からして,Fに極めて強い外力が及んだ可能性が高いことを容易に推測することができ,被控訴人Eも,救急隊員からブロック塀に自動車でぶつかって受傷しているとの報告を受けていたことからすると,Fに対し,高エネルギー外傷を受けている可能性が高いことを前提にして,診察等をする必要がある。
2 そこで,高エネルギー外傷を受けている可能性の高い患者に対し,いかなる診察,検査,措置を講じるべきであったかについて検討するに,証拠(甲4,5,8,22,乙26,G鑑定)によると,次の事実が認められる。
 受傷機転から高エネルギー外傷が疑われる場合には,まず最初に,血圧・脈拍数の測定(不整脈の有無も確認),呼吸数と呼吸に伴う胸壁運動(上気道狭窄,フレイル運動)の確認,呼吸音の左右差(気胸,血胸,気管支内異物)や心雑音(心損傷)の有無,冷汗(ショック準備状態)やチアノーゼ(肺酸素化障害),頸動脈怒張(緊急の処置を必要とする緊張性気胸や急性心タンポナーデで見られる。)の有無,意識レベル,腹部所見(腹腔内出血,管腔臓器の損傷による腹膜炎症状,圧痛部位),四肢(変形,運動,知覚,血流)の状態を調べなければならない。これらの確認は,2,3分で終えることができる。なお,頸椎を初めとする脊椎損傷が否定できるまでは,体位交換に際しても極めて愛護的に行わなければならない。また,着衣は,全て取り去り,全身の体表を調べ,外力が及んだ部位を把握する必要がある。その後,心嚢液の貯留,胸腔内出血,腹腔内出血に焦点を絞って,胸腹部の超音波検査をする(この検査は数分あれば可能である。)。その他に,動脈血ガス分析(呼吸機能と循環動態の評価),血液検査(初期は主に貧血の評価),血液生化学検査(基礎疾患,肝損傷,心筋損傷の評価)を実施する。
さらに,その後,胸部と腹部の仰臥位単純X線撮影,頸椎の正・側面撮影をする。以上の診察及び検査は,高エネルギー外傷患者については,症状がない場合でも必須である。
 以上の診察及び検査により,何らかの異常所見が得られた場合には,それぞれに応じて必要な処置及び診断を確定するための精査(CT検査はここに含まれる。)を行う。ただし,呼吸や循環動態が不安定な時には,それらに対する処置を最優先し,CT検査などは後回しにする。
 診察及び検査により,特別な異常がない場合でも,高エネルギー外傷患者は,入院経過観察が必要である。このときには,バイタルサインを連続モニターするか,頻回に測定する。また,初回の検査で異常がなくても,胸腹部の超音波検査を初めは1〜2時間間隔で繰り返し行う。
3 以上認定の事実に照らすと,被控訴人Eにおいて,高エネルギー外傷による軽度の意識障害を伴ったFに対し入院させ経過観察を決定したことは,妥当な判断であったといえる。
 しかしながら,Fに対しては,胸腹部の超音波検査,動脈血ガス分析を行う必要があったというべきところ,胸腹部の単純X線撮影,頭部CT検査を除けば,高エネルギー外傷で起こりやすい緊急度の高い危険な病態(急性心タンポナーデ,緊張性気胸,腹腔内出血,頸椎損傷等)に対する十分な評価が入院前にできていなかったにもかかわらず,看護婦に対し,バイタルサイン4時間等の一般的な注意をしただけで,具体的な経過観察の方法を示さなかったことは,適切とはいえない。高エネルギー外傷患者の経過観察としては,超音波検査をはじめ,呼吸循環動態,理学的所見を繰り返し調べるべきであった。
 そして,証拠(G鑑定)によると,Jにみられたように心破裂による外傷性急性心タンポナーデは,出血速度が早いため,現場即死あるいは受傷後短時間で発症するが,Fのように,受傷後2時間半頃に症状が出るのは,心破裂は極めて稀で,ほとんどの原因は心挫傷であること,心挫傷の場合は,心嚢穿刺又は心嚢を切開して貯留した血液の一部を出すことで症状を改善することができ,心臓の手術は必要ではないこと,血液を吸引除去あるいは手術的に心嚢を開放(心嚢切開又は開窓術)していれば,救命できた可能性が極めて高いこと,Fは受傷から容体が急変するまでの約2時間半は循環動態も安定していたので,この間に重度外傷患者の診療に精通する施設に搬送していれば,ほぼ確実に救命できたことが認められる。
4 以上からすると,被控訴人Eとしては,遅くとも経過観察措置を講じた時点で,速やかに胸部超音波検査を実施する必要があり,それをしていれば,心嚢内の出血に気づき,直ちに心嚢穿刺により血液を吸引除去し,あるいは手術的に心嚢を開放(心嚢切開又は開窓術)し,仮に本件病院で心嚢切開又は開窓術を実施できないのであれば,3次救急病院に搬送することによって,救命することができたということができ,被控訴人Eの過失・注意義務違反を認めることができる。

うんうん 2007/10/13 10:25  結局、人は自分の生きている世界のことは良く分かっているが、そうでない分野には疎く、自分のよく分かっている世界の判断基準を援用して判断し、批判しがちである、ってことでしょ。裁判官しかり、医者しかり、マスコミしかり。

NATROMNATROM 2007/10/13 10:44 >2次救急の救急医はどのようなものであるべきか、は鑑定書による事実認定の世界になると思います

「死因は何か」「救命可能性はあったか」という医学的論点についてなら、鑑定書によるのは納得できます。また、「現実に、一般的な2次救急医のレベルはどのようなものか」についても、鑑定書によるというものわかります。しかし、「2次救急の救急医はどのようなものであるべきか」ってのも、「鑑定書による事実認定」なんですか?「『2次救急の救急医は』胸腹部の超音波検査を行うべきだった」と鑑定書に書かれていたのでしょうか。引用部分からは読みとれません。

「救急医療について相当の知識及び経験」には胸腹部の超音波検査は必ずしも含まれないと私は思います。鑑定書にもそこまで踏み込んでは書かれていないと思います。もちろん、条文にも書いていません。条文と鑑定書から、「裁判官が解釈し」、判断したんじゃないのでしょうか。「条文がこうなってるからこう判断するしかないよね」と仰いますが、条文には解釈の幅があるんじゃないんですか?この件に関して、「条文の世界」をこえず、「法律を曲げず」、かつ、もう少し救急医療の現実に沿った判断も可能だったのではないでしょうか。

falcon171falcon171 2007/10/13 11:13 arrackさん 初めまして falcon171と申します。

昨年11月にこの奈良救急心嚢穿刺判決がネットで話題になったとき、新小児科医のつぶやき(2006年11月8日 http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20061108)に少しコメントを書かせて頂きました。このエントリは、まとまっていると思います。是非ご一読の上、ご
意見頂ければ幸いです。

判決のarrackさんの引用部分までは、いいたいことはあるが、あまり誰も問題にしていなかったと思います。
問題になったのはその直後からの、

以下判決引用
我が国では年間約2千万人の救急患者が全国の病院を受診するのに対し,日本救急医学会によって認定された救急認定医は2千人程度(平成5年当時)にすぎず,救急認定医が全ての救急患者を診療することは現実には不可能であること,救急専門医(救急認定医と救急指導医)は,首都圏や阪神圏の大都市部,それも救命救急センターを中心とする3次救急医療施設に偏在しているのが実情であること,したがって,大都市圏以外の地方の救急医療は,救急専門医ではない外科や脳外科などの各診療科医師の手によって支えられているのが,我が国の救急医療の現実であること,本件病院が2次救急医療機関として,救急専門医ではない各診療科医師による救急医療体制をとっていたのは,全国的に共通の事情によるものであること,一般的に,脳神経外科医は,研修医の時を除けば,心嚢穿刺に熟達できる機会はほとんどなく,胸腹部の超音波検査を日常的にすることもないこと,被控訴人Eは,胸腹部の超音波検査が必要と判断した時には,放射線科あるいは内科に検査を依頼しており,自ら超音波検査の結果を読影することはなかったこと,当日,被控訴人Eとともに当直に当たっていた小児科の医師も,日常的に超音波検査をすることはなく,単独で超音波検査をすることは困難であったことが認められる。
 そうだとすると,被控訴人Eとしては,自らの知識と経験に基づき,Eにつき最善の措置を講じたということができるのであって,注意義務を脳神経外科医に一般に求められる医療水準であると考えると,被控訴人Eに過失や注意義務違反を認めることはできないことになる。G鑑定やH鑑定も,被控訴人Eの医療内容につき,2次救急医療機関として期待される当時の医療水準を満たしていた,あるいは脳神経外科の専門医にこれ以上望んでも無理であったとする。

しかしながら,救急医療機関は,「救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること」などが要件とされ,その要件を満たす医療機関を救急病院等として,都道府県知事が認定することになっており(救急病院等を定める省令1条1項),また,その医師は,「救急蘇生法,呼吸循環管理,意識障害の鑑別,救急手術要否の判断,緊急検査データの評価,救急医療品の使用等についての相当の知識及び経験を有すること」が求められている(昭和62年1月14日厚生省通知)のであるから,担当医の具体的な専門科目によって注意義務の内容,程度が異なると解するのは相当ではなく,本件においては2次救急医療機関の医師として,救急医療に求められる医療水準の注意義務を負うと解すべきである。

 そうすると,2次救急医療機関における医師としては,本件においては,上記のとおり,Fに対し胸部超音波検査を実施し,心嚢内出血との診断をした上で,必要な措置を講じるべきであったということができ(自ら必要な検査や措置を講じることができない場合には,直ちにそれが可能な医師に連絡を取って援助を求める,あるいは3次救急病院に転送することが必要であった。),被控訴人Eの過失や注意義務違反を認めることができる。
判決引用終わり

の部分です。

これを読む限り、問題は、arrackさんのいわれる「この次に2次救急の救急医はどのようなものであるべきか、は鑑定書による事実認定の世界になると思います。」ではないと私は考えます。
G鑑定やH鑑定でも本件医師は「2次救急医療機関として期待される当時の医療水準を満たしていた,あるいは脳神経外科の専門医にこれ以上望んでも無理であったとる。」という鑑定はあるが、「2次救急医療機関勤務医として不十分とする鑑定結果」は少なくとも判決文上は見あたりません。もし、そういう鑑定結果が有れば、判決文の「しかしながら」以後に必ず「X鑑定によれば  」と書かれるだろうという風に推測しますが違いますでしょうか?

ということで、鑑定の問題ではないと思います。現場、現実の事情で、法文は曲げられないのはわかりますが、この「通達」があれば、「普通の裁判官」はこういう判決を出す、といわれれば、「心嚢穿刺の技量」を持たない「普通の多数派医師」は2次救急現場からの撤退を選択するというのも、当然とお考え頂ければ幸いです。
申し訳ありませんが、「法律改正運動」はする気は私にはありません。法律を改正して医師をリスクフリーにした方が現場に残る気になりますよ、その方が国民のお得なんじゃないですかと言う意見をネットで言うことで責は果たした、後は国民がお考え頂くということで。

apjapj 2007/10/13 12:59  専門的知識にまで踏み込んで込み入った判断をしなければならないのなら、知財と同じように、高裁のあるような場所に、医事紛争が専門の裁判官を集めて、そこで解決を図るといったことをしないとまずいんじゃないですかね。普通は、専門性を要する判断は全体のごく一部だから、鑑定書をいくつか出せば足りるけど、医事紛争は判断の全てにある程度の専門知識を要求されるわけでしょ。裁判官が医療水準の相場の見積もりを間違えているということなら、専門に特化した裁判官を用意しないと……。

杉山真大杉山真大 2007/10/14 23:14 >apjさん
藤末参院議員とこでコメントしたことがあるのですけど、その知財高裁にしてさえ往々にして大企業の利益擁護に走っている感があると思いますね。まぁ、医事高裁が出来ればトンデモ訴訟への歯止めにはなるかも知れませんけど、今度は厚生省の権益擁護になったりしそうな希ガス・・・・・

rageyragey 2007/10/18 00:43 医療事故長に関する共同通信の論説。
いや、ひどいですよ。M3で読めるので今度読んでみてください。
「ひどい医者を刑事告発できなくなるので遺族の間に不安が」
「刑事告発への道を閉ざしてはならない」
毎日新聞が医療崩壊を推進って言うレベルじゃねーぞ、共同通信のひどさは。
何でも担当記者が私怨で動いてて、特に産科医療を壊滅させようと躍起になってるらしいですよ。

NATROMNATROM 2007/10/18 09:02 厚労省試案では、「調査内容の刑事手続き利用を認めた」んですけどね。

真っ白素人真っ白素人 2015/06/11 16:07 初めまして。
検索で発見したこちらのページを興味深く拝見させていただいてます。

このエントリーで、薬品の禁忌と医師の裁量についての記載がありました。

そこでお聞きしてみたいと思うことが一つ浮かびました。

去年くらい(正確には覚えておりません。申し訳ありません)に、プロポフォールの小児への使用が大きな事件となりましたが、natromさんとしてはこの事件に対してはどのようなご意見をお持ちなのでしょうか?
こちらに書き込むのはマナー違反かもしれないのですが、あまりこのような場所に書き込むこともなく、他にふさわしい場所も思いつかなかったもので、あえてこちらに書き込みました。
このコメントが目に止まり、ご回答頂けたならば幸いです。

真っ白素人真っ白素人 2015/06/11 16:12 携帯よりの投稿で、改行などが見にくいなどの点、申し訳ありません。
また、既出の内容でしたら申し訳ありません。

NATROMNATROM 2015/06/12 08:51 真っ白素人さん、こんにちは。コメントありがとうございました。小児の集中治療における人工呼吸中の鎮静に対するプロポフォールの使用禁忌の件ですね。まず、一般論をお話しします。

添付文書に禁忌と記載されている薬剤を、医師の裁量で使用することはあります。医学が進歩して添付文書が記載されていた当時と医療事情が変わったことや、患者さんの特殊性(たとえば、添付文書上使える薬にことごとくアレルギーがある)によります。禁忌であるからと薬を使わずに患者さんが死ぬぐらいなら、薬を使うべきです。つまり、単に禁忌となっている薬を使ったからというだけでは不適切だとは言えないということです。「禁忌とされているけれども、理由があって使うのだ」ということを十分に医療者は自覚し、患者さんにもご説明し、カルテにも記載しておかなければならないのは、当然のことです。

プロポフォールの小児への使用の件はどうかといいますと、これはもう私の専門外から外れますので、確定的なことは言えません。ただ、医師専用掲示板でのやり取りなどを聞くに、問題となった医大病院での使用は安易であったのではないか、使用するにしても原則禁忌なんだからもうちょっと慎重にすべきであった、という論調が多いようです。