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2008-02-19 何がシロアリの真社会性を進化させたのか?

[]何がシロアリの真社会性を進化させたのか? 何がシロアリの真社会性を進化させたのか?を含むブックマーク

シロアリの遺伝的カースト決定のエントリーを書くためにいろいろ調べ物をした。その過程で「シロアリはなぜ真社会性を進化させたのか?」という疑問に対して、納得のいく答えを得たような気がするので忘れないうちに書いておく。まず、真社会性とは何か、から。E.O.ウィルソンは以下の3項目を真社会性を満たす条件としてあげた。


(1)複数の個体(ハチではメス)が共同して育児を行なう。

(2)二世代以上の個体が共存し、娘がコロニーの維持のため母親の仕事を手伝う。

(3)繁殖(=産卵)にかかる個体間の分業とカーストが存在する。


真社会性昆虫とはアリとかミツバチとかアシナガバチとかシロアリとかがそう。実はアブラムシにも真社会性を持つものがいる。アシナガバチの仲間には、複数のメスが巣を共有するけど別に分業していないとか、娘が育児を手伝うがその気になれば産卵もできるというカーストが未分化な種とかがある。生物進化を考えれば、アシナガバチはコロニーを作らない祖先種から漸進的に進化してきたはずであり、さまざまな段階の社会性を持つ種があっても不思議ではない。この話もすごく面白いのだが置いといて、なぜチョウやバッタやカブトムシは社会性を進化させなかったのに、アリやミツバチやシロアリは社会性を進化させたのか?という話をする。

社会性昆虫の進化はダーウィンにとって難問だったとされている。だって自然選択説とはつまり、「より繁殖に成功するような性質が選択されて進化する」てことだぞ。不妊になって他の個体の世話をするような「利他的」な性質がどうやって進化した?全然繁殖に成功していないじゃん。この難問に答えたのが、ハミルトンによる血縁淘汰説。自分は不妊であっても、血縁個体の繁殖成功を通じて自分の遺伝子を残すのだ(遺伝子からの見方をするならば、血縁個体を世話させる遺伝子は血縁個体を通じて自己を残す)。

アリ/ハチ(膜翅目)についての4分の3仮説は有名であろう。アリ/ハチの性決定システムはちょっと特殊で、オスは半数体(染色体数=n)、メスは二倍体(染色体数=2n)である。性染色体はない。減数分裂がないから一匹のオスの産生する精子は遺伝的にどれも同一(これ重要!)。卵子は普通に減数分裂して生じるが、未受精のままだとオス(n)、受精するとメス(2n)になる。アリのオスにはお父さんはいないわけ。重要なのは、精子が遺伝的に同一のため、同一ペアから生まれたメス同士は血縁度が近くなることだ。

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アリ/ハチの4分の3仮説:オス個体では減数分裂が起こらず、その配偶子(精子)は遺伝的に同一である。メス個体(女王アリ)由来の配偶子(卵子)は減数分裂が起こるのでそれぞれ異なり、お互いに遺伝子を共有する度合いは平均して50%である。受精卵はメス個体になる(ワーカーもしくは女王)。父親由来の遺伝子はすべて同一、母親由来の遺伝子は50%だけ同一。血縁度は100×0.5+50×0.5=75%となる。

ややこしい計算については興味がある人は「社会性昆虫 血縁度」とかでググってもらうとして、アリのメスにとっては、妹の血縁度は75%(つまり4分の3)、娘の血縁度は50%となる。コストが同じなら娘を一匹育てるよりも、妹を一匹育てるほうがお得(遺伝子的な意味で)。同胞を育てるほうが得というのはオスには当てはまらない。だから、アリ/ハチのワーカーはすべてメス。アリの遠い祖先に、いちいち家を出て苦労して巣を作って娘を育てるぐらいなら、家でおかんの手伝いして妹を育てたほうがマシだと気付いた奴がいたんだよ。実際のところ、アリ/ハチの社会性の進化はハミルトンの4分の3仮説だけで説明できるような簡単なものじゃないようなんだけど、それはそれとして4分の3仮説は納得力の高い話である。

アブラムシについては簡単。奴ら、クローンだから。血縁度100%。血縁淘汰で説明可能。じゃあ、シロアリは?シロアリの性はXY性染色体で決まる。4分の3仮説は使えない。単為生殖もするけど、あくまでパートナーが見つからなかったときの代替手段。シロアリはなぜ真社会性を進化させたのか?専門家の間でも議論があるようだけど、とりあえず以下のような話で私は納得できた。

シロアリの祖先種って、どんなだったろう?ゴキブリとシロアリは近縁であることは結構知られている。ゴキブリは家の中で見かけることが多いのだけどそりゃ単に人の近くいるからよく見かけるだけで、ゴキブリの多くは林の中に住んでおり、朽ち木なんかを食べる。シロアリの祖先も、多分、朽ち木の中に住んでいた。朽ち木って結構でかいよね。小さなシロアリが食べきるまでには時間がかかる。朽ち木の中で生まれたシロアリは、わざわざ危険を冒して遠くの朽ち木を探しにいくよりか、そこにたっぷりある朽ち木を食べればいい。問題は、交配相手。近くには近親しかいない。近親交配はデメリットもあるんだけど、分散のリスクのほうが大きければ近親交配したほうがよい。実際、現生のシロアリでは、繁殖ペアのどちらかが死んだら、息子か娘かが新しい繁殖虫となる。

というわけで、シロアリの祖先は近親相姦し放題。実験用マウスを扱っている人なら分かると思うけど、同系交配をどんどん続けていくと、ホモ接合の度合いが高くなり、いわゆる「純系」に近くなる。となると、いわば娘も息子も妹も弟も遺伝的には皆同じ。クローンみたいなもん。もう自分で繁殖しなくても、弟や妹を育てても一緒。アリ/ハチと違って、シロアリのワーカーはオスメス両方いる。ここまででもだいぶ納得しそうになるけど、話はこれだけではない。

近親相姦の花園であった朽ち木も、いつかは無くなるときがくる。そうなればいやがおうでも 分散せざるを得ない。分散の過程で多くの個体は死ぬが、運よく生きのびて、パートナーと巡りあった個体は新しい花園を築くであろう。パートナーも、おそらく別の花園で長い同系交配を続けてきた、別系統の「純系」である。純系に近い個体は、ホモ接合の度合いが高いがゆえに、その配偶子は同一性が高い(アリ/ハチの精子と同様に)。同一性の高い配偶子同士が受精した受精卵も、同一性が高くなる。

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循環的同系交配理論:王アリおよび女王アリは、何代もの同系交配によって、どの遺伝子座もホモ接合となっている。減数分裂は起こるが事実上配偶子は遺伝的にほぼ同一である。よって受精卵同士も遺伝的にほぼ同一であり、血縁度は100%である。図には性染色体は示されていない。子はオスもメスも生じうる。

つまり、コロニー創設ペアの子は、お互い同士ほとんど同じ遺伝子を持つことになる。血縁度ほぼ100%。一方、自分で繁殖しても血縁度100%の子は作れない。コストが同じなら、自らが繁殖するよりも、同胞を育てたほうがお得(遺伝子的に)という状況が生じるわけである。利他的な不妊のカーストが進化しやすい状況だ。一言でまとめれば、近親相姦がシロアリの真社会性を進化させた。実際、この話がどれくらい正しいのか私には分からないけれども、自分では納得できたからこれでいいのだ。というか、利己的な遺伝子 <増補新装版>のP488あたりに書いてあった。やっぱりハミルトンの説だ。

たまごどんたまごどん 2008/02/19 22:13 なるほどぉ〜。利己的な遺伝子を読み直したくなったけど、引越しの真っ最中で、段ボールの奥底にあるという罠。ハミルトンは偉大な学者だピョンなあ。

diamonds8888xdiamonds8888x 2008/02/20 06:07  1991年版だとp264「10.僕の背中を〜」ですね。「両者は少なくとも親と子の関係ぐらいの近縁関係をもたねばならないのである。〜それが実際に起こったのは社会性昆虫においてのみだったようだ。(p276)」。これを受けて、ハダカデバネズミに関しては補注(p497〜)で触れられていますね。近縁関係の強さが要因である点は同じと。

tontontonton 2008/02/20 10:59 > 自らが繁殖するよりも、同胞を育てたほうがお得(遺伝子的に)という状況が生じるわけである。

 とすれば、そのような遺伝子が増えるはずです。(遺伝子淘汰)
 アリならば不妊のワーカーが大部分となったように、シロアリでも不妊で子育てをするものが大部分になったはずです。

 一方、Wikipedia 「シロアリ」によると、こうあります。

> シロアリは親が子の一部を不妊の兵アリにすることによって真社会性になったと言っていい。

 全部ではなく一部が不妊になるだけです。
 不妊であることでたくさんの遺伝子を残せて有利であるなら、どうしてほぼ全部が不妊にならないのでしょう? アリならばほぼ全部が不妊になるのに、どうしてシロアリではそうならないのでしょう?
 不妊であることでたくさんの遺伝子を残せて有利である、ということは本当なのでしょうか?

RORO 2008/02/20 11:15 シロアリはアリと違っていつかは巣である木から出て行かないといけないわけで、
そのときのために繁殖機能を残してあるのでは?
離散したときに繁殖機能をもつ個体が僅かしかいなければ遺伝子が残せなさそうですし。

NATROMNATROM 2008/02/20 11:44 tontonさんは、Wikipediaだけで分かった気になって「〜のはず」などと判断するのは止めて、一度、きちんと進化生物学を学んでみてはいかがでしょうか。それ以前の問題のような気がしますが。

アリやミツバチでは、なぜ完全に不妊のカーストが大多数を占めるのか、という問題は確かに興味深いです。ROさんが理由の一つを指摘してくれました。だけど、この問題を議論するには、細部の知識が必要だと思います。

shinok30shinok30 2008/02/22 19:38 >近親相姦がシロアリの真社会性を進化させた。実際、この話がどれくらい正しいのか
>私には分からないけれども、自分では納得できたからこれでいいのだ。というか、
>利己的な遺伝子 <増補新装版>のP488あたりに書いてあった。やっぱりハミルトンの説だ。

ハミルトンは膜翅目についても3/4仮説では説明が困難な事例(永久的多女王制など)については,
「個体群粘度」という概念を持ち出して,
「複数のメスが産卵する場合でも,限られた地域個体群に由来するならば遺伝的に近縁である」と考えたようですね
(「アシナガバチ一億年のドラマ―カリバチの社会はいかに進化したか」のp234-あたりに出てきます)

「血縁度」というのは「祖先から受け継いだ遺伝子を共有する確率」であり,
遺伝子を次世代に残す方法として「血縁度の高い個体」というバイパスを想定したところが新しかったのですが,
もし,自分と遺伝子を共有する確率の高い個体がいるなら,
必ずしも「血縁」ということにこだわらなくても良いということなのかも知れません

素人A素人A 2009/04/18 08:24 不勉強故トンチンカンならすみません。

>遺伝子からの見方をするならば、血縁個体を世話させる遺伝子は血縁個体を通じて自>己を残す

これがちょっとひっかかります。血縁個体を世話させる遺伝子が意思をもって遺伝子を残そうとしているように聞こえてしまいますが、そうなのでしょうか?
自然選択というものを考えると、"世話する遺伝子をもつ体を産む遺伝子"が
残れば淘汰されず続いていくので、"世話する遺伝子"が100%だろうと50%だろうと
特に残る必要がないように思えます。いかがでしょうか。
うーん系統だって勉強したい

素人A素人A 2009/04/18 08:38 変な文になりました。
>血縁個体を世話させる遺伝子が意思をもって遺伝子を残そうとしているように聞こえてしまいますが、そうなのでしょうか?

血縁個体を世話する遺伝子が意思をもって自分の遺伝子を残そうとしているように、でした。

つまり、"世話する遺伝子"は、"世話する遺伝子を生む親"という、似た親からうまれたためいわばたまたま似てるだけであり、
親とは似ても似つかぬ遺伝子や形質をもっていてもOKではないでしょうか?
つまり、本家の遺伝子からみたときに世話さえしてくれればなんでもよい。
とすると、血縁淘汰、種淘汰、群淘汰なんていう概念自体があまり意味を
なさないようにおもえてしまいます。

NATROMNATROM 2009/04/18 17:22 もちろん遺伝子に意志はありません。遺伝子に意志があるかのようにたとえるのは、説明のための方便です。ドーキンスの「利己的な遺伝子」が読むとしたら手頃です。ネット上なら、Wikipediaの血縁選択説の項がよさそうです。私も専門的に学んだわけではありませんので、細部については保障できませんが、大まかなところは正しいと思います。

"世話する遺伝子をもつ体を産む遺伝子"についてですが、世話をする対象を選ばない遺伝子は、自己増殖に寄与せず、搾取されるだけなので消えてしまいます。"世話する遺伝子"が生き残るためには、世話をする対象を選ばなければなりません(意志をもって選んでいるのではなく、比喩的表現です)。世話をする対象が"世話する遺伝子"を持つ(あるいは持つ確率が高い)ときに限り、"世話する遺伝子"は生き残れます。

どの個体が"世話する遺伝子"を持つかどうかは、血縁関係でわかります。言いかえれば、遺伝子をどれくらい共有しているかでわかります。親が子の世話をする種は多いですが、子は親と遺伝子を共有しているため、子も"世話する遺伝子"を持っています。同胞(兄弟姉妹)も遺伝子を共有し、同胞の世話をする種も知られています。シロアリの場合は、このエントリーで書いたような特殊な繁殖形態を持っていますので、子よりも同胞のほうが遺伝子を共有する割合が高くなり、社会性が進化しやすいのです。

素人A素人A 2009/04/19 15:51 ありがとうございます!
とりあえずドーキンス買いに行こうとおもいます。
>世話をする対象が"世話する遺伝子"を持つ(あるいは持つ確率が高い)ときに限り、

世話をする対象が ”世話する遺伝子を体を生む遺伝子”を持つ、のタイポでしょうか?
これであれば頭でイメージがわきました。
わかるとパズルがはまるようにすっきりしますね。
素人の初歩的な質問に親切な回答をありがとうございます。
これからも進化学系のエントリもかいてください〜