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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2008-06-24 アメリカ合衆国では医療過誤について刑事責任を追及するか

[]アメリカ合衆国では医療過誤について刑事責任を追及するか アメリカ合衆国では医療過誤について刑事責任を追及するかを含むブックマーク


小倉秀夫氏のわら人形論法っぷりは芸の領域まで達している。


不条理な脅しには屈してはいけない(la_causette)

 最初は、救急時の刑事免責だけかもしれないけど、次は一般的な業務上過失致死傷罪についての刑事免責、未必の故意ありの場合の刑事免責、確定的故意ありの場合の刑事免責、不法行為責任(債務不履行責任)からの民事免責、行政罰制度の廃止等へ要求をエスカレートさせていく危険はあります。最初の時に脅しに屈して、「個々の患者の生命<<<医療を受けられることによる国民全体の利益」ということで刑事免責を認めてしまえば、これらの免責を全部受け入れないという理由はなくなってしまいます。

 さらには、医療とは離れた犯罪ないし不法行為に関する民事または刑事上の責任の免除を医師たちが求めてきた場合にも、その要求に屈しなければいけなくなるかもしれません。「医師というのはストレスがたまるのだから、女性患者に対するいたずらくらい容認されなければ、到底やっていかれない。医師の大量逃散を防ぐためには、文字通り医師に包括的な免責特権を与えよ」と脅されたとき、一度その種の脅しに屈した社会はずるずると脅しに屈し続けることになるかもしれません。


医療者が無制限の刑事免責を要求しているわけではないことなど、まともな読解力を持った人間にはわかりそうなものなのに。そりゃあ、どこで線引きするかについて意見の不一致はあろう。たとえば、三重県の谷本整形における、点滴による院内感染事件が刑事罰にあたるかどうか。私にはこの件は擁護しようがない、刑事事件になっても仕方がないのではないかと(今のところは)思われるが、この件でも再発予防の観点から安易に刑事罰を課すべきではないとする医療者もいるかもしれない。ただ、意見が分かれたとしても、話し合いによって歩み寄りはできるであろう。

一方、あたかも医療者が未必の故意ありの場合の刑事免責、確定的故意ありの場合の刑事免責、果ては「女性患者に対するいたずら」までをも免責せよと要求するかのような物言いは、小倉秀夫氏が初めから話し合う気などまったくないことを示している。小倉秀夫氏のような「意見のみが弁護士の意見だと思うと他の弁護士の方に失礼に当たる」のだろうとは思うが。医療者が仮に、「大野病院事件で逮捕されるのを認めると、次は産科領域の死亡はすべて、次に科によらず死亡例はすべて、さらには死亡に至らない合併症、しまいには採血に失敗しただけで逮捕されるようになる」とでも主張してみたとしよう。小倉秀夫氏の論法がいかに愚かかよくわかる。

医療者が危惧しているのは、谷本整形における院内感染のような事例ではなく、大野病院事件のように、結果が悪ければたとえ水準以上の医療を行っていても逮捕されうる事例である。「医師が刑事訴追される確率は低いゆえに医療業界を崩壊させるかどうかは疑問である」という旨の主張を小倉氏は行っているが*1、死にうる病気を扱う科の医師が、「大野病院事件で逮捕されるのであれば、自分もいつ逮捕されるかわからない」と思うのは当然である。例外は、マスコミ相手に大口を叩くのを主な仕事としている自信家ぐらいだろう。

これが、臨床医を辞めたら無職になるというのなら、確率の低い刑事訴追に目をつぶって臨床を続けることもあろう。しかし、リスクの低い仕事を行うという選択肢もあるのだ*2。いずれはリスクの低い働き口も飽和し、報酬も下がってくるであろうが、今のところは、逆にドロップアウトしたほうが高給なぐらいだ。ドロップアウト先が飽和したそのときに、医療業界が崩壊していないなんてことがありえるだろうか。

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■医療過誤について刑事責任を追及するのは先進国では日本だけなのか、にも別の意見を述べておく。小倉氏は米国を「医療上のミスに関して医師等の刑事責任を追及する国」としているが、必ずしも法学の専門家で意見が一致しているわけではなさそうである。樋口範雄著「医療と法を考える―救急車と正義」によれば、


アメリカの研究者でこれまで数十年間,日米の医療と法の比較研究を行ってきたロバート・レフラー教授は,わが国における医療安全に関する法規制について,最も重要なアメリカとの相違点は,刑事司法が果たす役割の大きさであると述べる。彼によれば,福島の事件も都立広尾病院事件*3も,さらには横浜市大の患者取り違え事件ですら,アメリカでは刑事事件にならない。少なくともなる確率は相当に低い。民事訴訟になることは当然であり,看護師や医師の行政処分はありうるが,医療従事者は,事故の後,刑事手続きをおそれることはほとんどない。刑事事件になるとしたら,殺人はむろんだが,酩酊した医師や薬物常用者の医師が手術をするなどのきわめて限定された場合である。(P146-147)


日本の医療従事者も、殺人や酩酊した医師による手術について刑事免責は求めていない。福島大野病院事件が起こって初めて、刑事免責を求める声が大きくなったのだ。小倉氏が引用したイェール大学のEdward Monico博士と、ロバート・レフラー教授のどちらが正しいのか*4専門家ではない私には判断できないが、少なくとも「日本で刑事事件になるような医療事故でも、アメリカ合衆国においてはほとんど刑事事件にならない」と言っている法学の専門家が存在することは指摘しておく。



関連記事

■避けようのない事故を起こしたトラック運転手は起訴されるか

*1:URL:http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2008/06/post_3596.html

*2:参考:■「日替わりで…増加するフリーの医師」

*3:引用者注:点滴薬を取り違えて看護師が注入し患者が死亡した事件について、看護師が業務上過失致死罪で刑が確定、事後処理にあたった主治医、病院長、監督者たる東京都衛生局の看護師以外の当事者について、死亡診断書に虚偽の記載をしたとして虚偽有印公文書作成・同行使罪、医師法21条違反で起訴がなされた。同書P138より要約

*4:あるいは小倉氏もしくは樋口範雄氏の解釈が正しいかどうか

macskamacska 2008/06/24 23:13 アメリカで刑事責任を問われにくいというのが事実だったとして、そのかわり民事裁判に訴えられるリスクが日本に比べてものすごく高いので単純に比較できないのではないでしょうか。

physicianphysician 2008/06/25 01:08 そういう論点ではない気がしますが?

lets_skepticlets_skeptic 2008/06/25 09:10 わら人形論法かつ、すべり坂論法ってやつですね。

雪の夜道雪の夜道 2008/06/25 09:52 意図的な作文でないならば、すでに妄想の領域と考えられます。

AironeAirone 2008/06/25 11:53 モトケンブログから彼の発言をROMしてますが、O弁護士のすさまじい読解能力には驚くばかりです。本気ならP科受診勧めますが...。頭いい人の粘着は始末が悪い。

匿名希望匿名希望 2008/06/25 17:47 「匿名であり医師であることにより、自分が神であるかのような特権意識を持つ。奴らはさらなる特権(刑事免責)を求めている」
 ○○って言ったほうが○○、の論理に従えば、顕名であるという特権意識で何を言ってもいいと思っている・自分に誤謬が無く他人からの指摘に一切のブレがないという●●の方が神自意識に近いかと。
医師は自分が神に近いと思っているところと遠い職業ではないかな。針刺しひとつ、投薬治療ひとつとっても理論どおりに行かないことばかり…あたるはずの血管にあたらない、下がるはずの熱が下がらないetc.
以前どこかで指摘されていたが、彼や彼の家族の担当受持ちになる●療関係者が気の毒でならない。あ、神だから不死身なのか。

ssd666ssd666 2008/06/25 18:49 誰がやったか知りませんが、彼にあの文章を書かせた人の才能はすごいな。
わら人形をさらに操り糸で動かしているような芸術。

ナナシーナナシー 2008/06/25 22:38 プロ野球のピッチャーが故意ではないデッドボールで打者を死なせてしまった場合に刑事責任を問われるとしたらプロ野球は成り立たないだろう。...と思うけど、小倉氏にかかると、これを認めると野球賭博や淫行なども認めなくてはならなくなる事態に陥るから認めてはいけないとなるんでしょうね。

ナナシナナシ 2008/06/26 23:15 みんなのアイドル小倉先生の人気に嫉妬(棒読み)
小倉先生が実名なのは、自分が間違ったことをしないと分かっているからなのですね。一方もし全力で叩かれれば埃の出る(担当したのに不幸にして亡くなられたことがある、良かれと思って投与した薬物で副作用が出たことがある、なにか1回でも合併症と名のつくものに遭遇したことがある)医師達はとてもおっかなくて実名なんて晒せない、可哀相な小羊的立場であるだけなのに……

とととと 2008/06/27 13:29  しかし、トラック運転手が故意でなく歩行者をひいても、まず免責にはならないですよね。
 警官は免責になることが多いようですが。

ssd666ssd666 2008/06/27 14:04 何十周遅れのわら人形ですかい>トラック運転手が故意でなく歩行者をひいても、まず免責にはならない

nucnuc 2008/06/27 14:11 トラック運転手は正しく仕事していれば、人が死なないが、
医者は正しく仕事をしていても、人が死なないとはいえない、っていうか死んで当然。

というのが常識だったのが社会の形態が変わって人の死をほとんど知らない無垢な人たちが増えたために、相当因果関係がないのに刑事罰を求めるようになっているのが問題点だと理解してます。

とととと 2008/06/28 11:56 >>トラック運転手は正しく仕事していれば、人が死なない

 前走車から転落した人間をどうがんばっても物理的によけようがなくひいた場合でも、免責されず、起訴、有罪とされる場合は昔から多々ありますけど。

nucnuc 2008/06/28 21:49 それは知りませんでした。判例ありますか?
ただ、問われるとしたら業務上過失致死でしょうから、なんらかの「過失」があったと認定されているんでしょう。
教わるように車間距離〜停止距離になるようにきちんと運転していれば止まれるはずなのにその義務を怠った、ということでしょうか。
判例を見ないことにはなんともいえませんが。

NANoNANo 2008/06/28 23:49 >しかし、トラック運転手が故意でなく歩行者をひいても、まず免責にはならないですよね。

トラック運転手に限らず、すべての運転者は業務上過失致死などに問われる可能性が高いよね。無論、道路交通法および交通裁判に不備はあると思う。だけど、トラック運転手(運輸業就労者)のリスクを掲げて、「医師はよっぽど優遇されているじゃないか」という論法を持ち出すのはおかしい。運輸業におけるリスクはその対象の中において問えばいいのだし、医療を行うもののリスクもやはり、その中で問えばいい。各職業間におけるリスクの不均等はひとつメタな議論。