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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2009-08-10 ナイチンゲール曰く、「ホメオパシー療法は根本的な改善をもたらした

[]ナイチンゲール曰く、「ホメオパシー療法は根本的な改善をもたらした」 ナイチンゲール曰く、「ホメオパシー療法は根本的な改善をもたらした」を含むブックマーク

ホメオパシーは「同種療法」とも訳され、さまざまな物質を限りなく薄く希釈することで治療効果が得られるとされている代替療法の一種である。ホメオパシーで処方される「丸薬」は、原料の物質を1分子も残っていないほど希釈したのちに乳糖もしくは蔗糖にしみ込ませて作られる。通常の薬理学的見地からは、ただの「砂糖玉」と変わらない。臨床的にも効果はプラセボと変わらない。そんなわけでホメオパシーは「由緒正しいニセ科学」とみなされている。

さて、とあるブログ経由で、ナイチンゲールがホメオパシーに言及していることを知った。なんでも、「ホメオパチー療法は素人女性の素人療法に根本的な改善をもたらした」のだそうだ。「この用薬法はまことによく出来て」いるともある(強調は引用者)。ナイチンゲールがホメオパシーについて言及した"Notes on Nursing: What it Is and What it Is Not"(看護覚え書)は、1860年に書かれた。近代看護の創設者、統計学の先駆者とされているナイチンゲールと言えども、19世紀の人間であり、ホメオパシーの非科学性を見抜けなかったのか。それとも、翻訳に問題があるのか。翻訳の問題であるなら、原文にあたればいい。Googleブックスで"Notes on Nursing"の該当箇所を検索した*1

f:id:NATROM:20090811010143j:image

Notes on Nursing, Florence Nightingale (Easy Read Edition) P136より引用*2


確かに、"Homoeopathy has introduced one essential amelioration(ホメオパシーは本質的な改善をもたらした)"、"its rules are excellent(その規則は素晴らしい)"とある。結論から言うと翻訳には問題ない。ならば、ナイチンゲールは本当にホメオパシーを評価していたのだろうか。和訳ではあるが前後の文章を読んでみた。だいたいは想像がついていたが、いやもう、まったく想像通りというか、ある意味想像以上だった。「看護覚え書―看護であること・看護でないこと」(現代社; 改訂第6版)の「女性の無謀なしろうと療法。健康の法則の正しい知識のみが、これを阻止する」という章より引用する。

cover


男性たちはよく、これら健康に関する法則を女性に教えることは賢明ではない、なぜなら彼女たちは自分勝手に薬を使うようになるからであり、そうでなくても現に見かける素人療法には目にあまるものがあるではないか―これは事実である―と主張する。ある有名な医師の話によると、医師の処方としては経験上考えられもしないほどの多量の甘汞が、急病時に、また常備薬として、母親や女家庭教師あるいは看護婦などの手で、子供たちに与えられているということである。また別の医師によれば、そのような女性が身につけている薬の知識といえば甘汞と緩下剤だけである、という。これはよくあることで否定のしようもない事実である。素人女性によるこうした無謀な下剤の乱用は、およそ医師など専門家の処方においては絶対に考えられない。


医師から処方された薬を、素人女性が素人判断で自分勝手に使うという主張である。ナイチンゲールは、こういった素人療法を、鋭利な刃物を「ふりまわして」遊んでいるようなものだ、と批判する。また、正しい適用法や効果をろくに知らないのに、ロンドンの内科医から取り寄せた処方薬を友だちや貧しい隣人たちに与えるご立派なご婦人方"excellent women"を例に挙げ、「無経験な人間の投薬は、何の益ももたらさない」と結論した後に、ホメオパシーについて言及する。


ホメオパチー療法は素人女性の素人療法に根本的な改善をもたらした。というのは、その用薬法はまことに良く出来ており、かつその投薬には比較的害が少ないからである。その「丸薬」は、どうしても善行を施して満足したい人たちが必要とする一粒の愚行なのであろう。というわけで、どうしても他人に薬を与えたいという女性には、ホメオパチーの薬を与えさせるとよい。さしたる害とはならないであろう。


ホメオパシーに効果があると信じている人にとっては、確かに不可解であろう。「根本的な改善をもた」らし、「用薬法はまことに良く出来て」いるにも関わらず、なぜ愚行なのだろうか、と。しかし、ホメオパシーの「丸薬」が、ただの砂糖玉だと知っている人から見れば不可解なところは何もない。ナイチンゲールは、素人判断で薬を使わせたら危なっかしいので、薬を与えたがる素人女性にはただの砂糖玉でも与えさせておけと言っているわけだ。"its rules are excellent(その用薬法はまことに良く出来ており)"というのはもちろん風刺であり皮肉である。全体的に「看護覚え書」は皮肉がきつい。正しい用法も効果も知らないのに友だちや貧しい隣人たちに処方薬を与える「ご立派なご婦人方」"excellent women"も皮肉表現だ。ナイチンゲールは、白衣の天使などではなく、賢く皮肉っぽい政治家であるかのように私には感じられた。実際、ナイチンゲールは統計学を駆使し、陸軍と政府を相手取ってイギリスの衛生・看護を改善した改革者であったという。



関連記事

■ナイチンゲールの毒舌

*1:"homeopathy"ではなく"homoeopathy"で検索するのがコツ

*2:URL:http://books.google.co.jp/books?id=CKRINihAKP0C&printsec=frontcover&dq=Notes+on+Nursing#v=onepage&q=&f=false

apjapj 2009/08/11 13:34  ナイチンゲールについては、子供向けの伝記を読んだ知識しか無かったんだが……なかなか楽しそうな姐さんだな。話が合いそうな気がする。いやね、私も、「どうしても何かの健康食品に頼らないと心の安定が保てないなら、妙なものに嵌ると命の危険があるから、効果の期待できないナントカ水に嵌っててくれる方が安全」と言ったりしてるわけで。考えることは同じか……。

アマデウス龍彦アマデウス龍彦 2009/08/11 16:16  軽い病気だったら、下手な医療(医者)にかかるより、ホメオパシーでもやってた方がましな気がする、と付け加えたいです。

ゆんゆん探偵ゆんゆん探偵 2009/08/11 16:35 軽い病気だと思っていたら、深刻な病気の前触れだったというのは、よくある事です。賢明な皆様におかれましては、ご自身とご家族の大切な命を守るため、体調不良を感じたらホメオパシーなどでごまかさずに、素直に医療機関で診療を受けられますよう。

NATROMNATROM 2009/08/11 18:32 1860年ごろのホメオパシーには比較的害が少なかったかもしれませんが、現在の日本でのホメオパシーは、ステロイド否定・ワクチン否定と容易に結びつきますので、害が少ないとは言えません。「現代医学否定とは切り離してうまくホメオパシーと付き合える」だけのリテラシーを持った人であれば、別にホメオパシーでなくったって、「水分とって暖かくして寝る」というコストのかからない安全な方法を選択できると思います。

nonenone 2009/08/11 20:41 訳文が下記の抜粋に思えるけど、リンクがないのはなんで?

http://plaza.rakuten.co.jp/homeopathy1kaori/diary/200907280000/

dazitdazit 2009/08/11 21:53 kikulogのホメオパシー関連記事であれだけの醜態を晒した人が性懲りも無く出張って来てますね。

NATROMNATROM 2009/08/11 22:06 訳文は、「看護覚え書―看護であること・看護でないこと」(現代社; 改訂第6版)によります。

mimonmimon 2009/08/12 06:35 「健康食品」の安全性・有効性情報のサイトを
http://hfnet.nih.go.jp/
ためしに、「タダラフィル」で検索すると、84件もヒットしました。
アンナモンどう考えても、食品とは言えないでしょう。
売るほうも売るほうなら、買うほうも買うほうです。

pikapika 2009/08/12 16:06 >「用薬法はまことに良く出来て」いる

どこかで聞いたことがある台詞・・・そっくり!
大笑いしました。(笑)

tektek 2009/08/16 07:34 > 白衣の天使などではなく、賢く皮肉っぽい政治家である

正しくは「白衣の天使であり、賢く皮肉っぽい政治家である」です。
優しい心をもち、それを実践するために、賢く皮肉っぽい政治家である必要があったのです。結果として患者にとっては「白衣の天使」として見えました。裏でどんなに奮闘していたかは見えないから。

大事なのは双方の面を持つことです。優しい心なしに、賢く皮肉っぽい政治家であるだけの医者は、現代にもいますけど。こういう excellent な doctor には、私も患者としてさんざん迷惑をこうむりました。

tektek 2009/08/16 07:51 > 原文にあたればいい。Googleブックスで"Notes on Nursing"の該当箇所を検索した

そこ、探すのに骨が折れました。一発で見つかるわけじゃないんですね。
Google の英文検索なら、簡単に見つかりますよ。最初から普通にググったほうがよかったのでは? 
http://digital.library.upenn.edu/women/nightingale/nursing/nursing.html

NATROMNATROM 2009/08/16 09:46 「白衣の天使」からイメージされるキャラクター像について言っているのですよ。それから、原文がわからないのに、どうやって英文検索するんですか?そりゃ、該当箇所の英文がわかれば、普通のGoogle検索でも引っ掛かります。

ふまふま 2009/08/17 19:20 中立的で良い評価だ、と思います。>ホメオパシー

nanacnanac 2009/09/06 12:56 学校にあった看護覚え書よ読んでいて同様の部分を見つけニヤリとした記憶があります
彼女の若い頃は確かに天使のようでありますが晩年は老獪な軍人のようであります
そんじょそこらの看護理論家でもこんな顔の人はいねーであります