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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2009-10-14 なぜ丙午の年に乳児死亡率が高いのか

[]なぜ丙午の年に乳児死亡率が高いのか なぜ丙午の年に乳児死亡率が高いのかを含むブックマーク

丙午(ひのえうま)の年に出生率が低下することはよく知られている。ウィキペディアの丙午の項によると、「この年に生まれた女性は気が強い」「一般庶民の間では、この年生まれの女性は気性が激しく、夫を尻に敷き、夫の命を縮める(男を食い殺す)とされ」たとのことである。迷信ではあるが、迷信を信じている人が一定数いれば、迷信を信じていない親にも丙午の年の出産を避けるインセンティブが働く。最近では昭和41年つまり1966年が丙午であったが、その前後の年と比較して出生率が減った。

ここまでは別に不思議ではないのだが、丙午の年は、出生率が減っただけでなく、乳児死亡率が高かったのだ。私はこのことを基礎から学ぶ楽しい疫学という本で知ったのだが、この本には丙午の年に乳児死亡率が高い理由も同時に述べてあったので、考える暇がなかった。答えはこのエントリーの下の方に書いてあるので、クイズとして楽しみたい方は、途中までで読むのをやめて考えてみてほしい。とりあえず、厚生労働省のサイトの人口動態総覧(率)の年次推移というページのデータを用いてつくった、昭和41年の前後の出生率および乳児死亡率のグラフを提示する。

f:id:NATROM:20091013181214j:image

出生率および乳児死亡率の年次推移

乳児死亡率がどんどん下がっていること自体が壮観だが、丙午の年に微妙に足踏みしているのがおわかりだろうか。順調に乳児死亡率が減少すれば丙午の年の出生千人あたりの乳児死亡は17か18ぐらいのはずなのが、前年より増えて19以上であった。飢饉や疫病といった環境悪化があったのなら、出生率の減少および乳児死亡率の上昇は説明できるが、昭和41年の出生率低下は迷信によって人々が受胎調節を行ったためであるから、それで乳児死亡率が増加するというのは普通には考えにくい。また、近藤(1980)によれば、乳児死亡率だけでなく、先天異常乳児死亡率も丙午の年に増加しているそうだ。昭和41年は乳児先天異常死の実数は少ないものの、分母となる出生数がそれ以上に少ないため、前後計5年間で最も先天異常による乳児死亡率が高い。

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丙午前後の先天異常乳児死亡率(昭和41年の先天異常死亡率を太字で示した)











生まれてしまったのを無かったことにした、なんて怖い考えに陥りそうであるが、丙午の年の乳児死亡率、あるいは先天異常乳児死亡率の増加は合理的な説明が可能なのである。近藤(1980)から引用する。


乳児死亡率は一般に(ある年の乳児死亡数)/(その年の出生数)として算出される。しかし、この算出方法による乳児死亡率は、厳密にいえば乳児死亡の正確な危険度をあらわしているとはいえない。真の危険度を示すためには、分母は分子の母集団と一致していることが必要であるが、前記の算出方法はこの条件を満たしていないからである。乳児死亡とは出生後1年未満の死亡であるから、出生直後の死亡から生後1年近いものまで含まれている。例えば、ある年の5月における乳児死亡については考えてみると、月令3ヵ月以前の乳児死亡はこの年の出生であるが、月令5ヵ月以後はすべて前年の出生である。月令4ヵ月の乳児死亡には、この年の出生と前年の出生の両方の可能性がある。この場合、年次別に死亡率を計算する場合の分母を年間の出生数とすると、月令3ヵ月以前の乳児死亡はこの年の出生が母集団となるが、月令4ヵ月の一部と月令5ヵ月以後の乳児死亡は前年の出生が母集団であり、死亡数の出生数である分母とは一致しない。このようなことは出生数の年次推移に大きな変動がなければ実用上は無視できるが、出生数の急激な増減があった場合は十分に留意する必要がある。


要するに丙午の年の乳児死亡実数に前年生まれの乳児の死亡が含まれてしまうことが、見かけ上の乳児死亡率の増加をもたらしているわけだ。ちなみに丙午の翌年、昭和42年の乳児死亡実数には丙午生まれの乳児の死亡が含まれるため、乳児死亡率は見かけ上減少する。乳児死亡率のグラフを再び見て欲しい。丙午による乳児死亡率の見かけ上の変動が影響している年が、丙午とその翌年であるのがわかるだろう。

厳密に言うならば、これだけでは「丙午の年の乳児死亡率の増加は見かけ上のものである可能性がある」とまでしか言えないが、近藤(1980)は日令、週令および月令別の先天異常乳児死亡数のデータを用いて、統計学的に丙午の年の前後において先天異常乳児死亡の危険度に増減があったとはいえないと論証している。また、丙午の年の出生率減少の原因は、受胎調節のみならず、年末年始の届け出操作があり、それも見かけ上の乳児死亡率の変動に影響することも考察している。ただし、影響としては小さいようだ。近藤の論文は、ネット上で見ることができる(近藤良、1966年(ひのえうま)における先天異常乳児死亡率の見かけ上の増加について)ので、興味のある方はどうぞ。



参考文献

丙午(ウィキペディア) URL:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%99%E5%8D%88

中村好一著、基礎から学ぶ楽しい疫学、医学書院

第2表-2 人口動態総覧(率)の年次推移 URL:http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii01/soran2-2.html

近藤良、1966年(ひのえうま)における先天異常乳児死亡率の見かけ上の増加について、先天異常 20:7-16, 1980 URL:http://ci.nii.ac.jp/Detail/detail.do?LOCALID=ART0003016358&lang=ja



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■丙午の年の死産率が高いのはやっぱり・・・?

tom-kuritom-kuri 2009/10/14 18:03 へえ、なるほどー。うちの嫁がまさに丙午なんで、安心した〜(笑)
やはりトルストイは正しい@人間の悪の根源は二つしかない、それは怠惰と迷信だ。

wadjawadja 2009/10/14 22:38 いやー、まさかとは思ったけど、丙午年に乳児殺人が多かったなんて結論でなくてよかったよ。いくら迷信があるとは言え、生まれたばかりの実の子を殺せる親がたくさん居るなんて思いたくないし。

pmjpmj 2009/10/15 01:53 とは言いながら、丙午の年末と年始近辺で出生数が不自然な動きをするという話がありませんでしたっけ。

gryphongryphon 2009/10/15 07:21 普通に「迷信深い親が、積極的または消極的なネグレクトなどで”子殺し”をしたから」と思っていました

NATROMNATROM 2009/10/15 09:21 丙午の年の年末年始の届け出操作は1万人程度と推定されているそうです。

ハッターハッター 2009/10/15 09:50 丙午でございます。
12歳くらいの頃ひとまわり(60歳)上の親戚の丙午の女性とおしゃべりしたことをなんとなく今でも覚えています。美しくて素敵な方でした。

pikapika 2009/10/15 12:53 丙午年生まれではないけど、たまに、後足で思いっきり蹴り飛ばしてやりたい、という気持ちになるときがありますね。(笑)
ところで、私事で恐縮ですが、病院の検査結果が出たので、あっちの「ゲスブ」に書いておきました。お時間のあるときに読んでいただければ幸いです。

NANNAN 2009/10/16 07:38 私も丙午です。
丙午年の乳児死亡率が高くなる原因は、自分が丙午生まれであるせいか、別の文献で読んで知っていましたが、もう随分前の話なので、このエントリを懐かしく読ませてもらいました。

さきさき 2009/10/16 23:30 一見して、子殺しを想像してしまいましたが、数字の扱い方でそんな風に見えてしまうことがあるんですね。
いつも眉に唾をつけてデータを見ないといけませんね。

それから、もし子殺しがあったと仮定するならば、男女比が異なると思うのですが、
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/1999np/
このへんを見ると、男女比は前後の年とそんなかわらないように見えます。
(数字じゃなくて、グラフなので正確ではありませんが)

次の丙午は20数年後。迷信が残るのかどうか興味深いです。
将来は男女の産み分け技術も進むでしょうし、どうなるんですかね。

カズカズ 2010/11/05 22:49 はじめまして。つい先日こちらのブログのことを知りまして、興味深く読ませていただいております。
去年の記事にコメントするのもアレかな…とは思いましたが、丙午の体験談としてひとつ書かせて頂こうかなと。
私は丙午の女ですが、母が私を妊娠しているときに周りから色々言われたそうです。まず、産科の先生から「丙午になるからやめたほうがいい」と中絶を勧められ、近所の人や姑にも「産むの!?」とかなり否定的に言われたそうです。でも、気の強い母はそれらが逆効果になって「意地でも産んでやる」と発奮して私を産んだそうです。余談ですが、私はかなり気が強いですけど、丙午のせいではなく母からの遺伝だと思っています(笑)
母と同じ先生にかかってた人の中には言われるがまま中絶した人もいるでしょうし、産むつもりでも周りからの負の言動で精神的に弱って結果的に流産とかの悲しいことになってしまった人もいるのではないかと思います。
(ちなみに、その先生は「女の子は将来お嫁の貰い手が無いかも」とか心配していたみたいなので、「善意の人」ではあったと思います)