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2010-02-01 我々は迷信行動を行うハトになっていないか?

[]我々は迷信行動を行うハトになっていないか? 我々は迷信行動を行うハトになっていないか?を含むブックマーク

■体験談は証拠にならない〜浄霊による体験〜では、「浄霊」の後、熱が下がったという体験談を紹介した。「浄霊」に病気を治すという効果がないことに、おそらくは読者の大半は同意していただけると思う。しかし、「浄霊」には効果があると誤認してしまう人もいる。なぜか?効果のない治療法が用いられていたのは、「浄霊」のような宗教関係だけではない。西洋医学も200年ほどさかのぼれば、瀉血や水銀療法といった効果のない治療を行ってきた。それどころか、何百年もさかのぼらなくても、最近でも「実は効果のなかった」という治療法はわりとある。有名どころでは、脳循環代謝改善剤の多くが、再評価の結果、効果効能を取り消された。

実際には存在しない効果を誤認してしまう理由はいくつかある。ここでは、人間には続けて起こった二つの出来事に何らかの因果関係を読みとってしまう傾向がある点について考えたい。「浄霊」した後に、「熱が下がった」わけだから、「熱が下がった原因は浄霊だろう」と考えるのは、それほど不自然ではない。脳循環代謝改善剤についても、効果を実感していた医師はわりといたと聞く。「処方」したあとに、「症状が改善した」のであれば、「症状が改善したのは脳循環代謝改善薬が効いたのだろう」というわけだ。

実は、こうしたありもしないパターンを読みとるのは、人間だけではない。有名な例では、ハトの迷信行動というものがある。アメリカの心理学者スキナーの開発したスキナーボックスは、動物の学習を研究できる装置である。通常は、スイッチをつつくと餌(報酬)をもらえるような仕組みにしておく。このスキナーボックスに入れられたハトは、スイッチをつつくことを学習する。「虹の解体」では、特殊なスキナーボックスによる研究を紹介している。


実験室に話を戻すと、スキナーは、それぞれ異なった目的をもつありとあらゆる種類のスキナーボックスを作り出して、膨大な研究集団を組織し研究を進めた。そして一九四八年、スキナーボックスの基本は踏襲しつつも、ある天才的な仕組みを考案した。彼は、行為と報酬の因果関係を完全に切断してみたのである。彼は、鳩が何もしていなくとも、時々「報酬を与える」ように装置を設定した。こうなると実際に鳩に必要なことは、くつろいで報酬を待つことだけである。しかし実際には鳩はこのようにはしなかった。そのかわり、八例中六例で、鳩は、まるで自分たちが報酬を受けられる動作を身に付けているかのように、スキナーが「迷信行動」と呼ぶものを作りあげたのである。正確に言うと、こうした行動の内容は鳩によって異なっていた。次に「報酬」がもらえるまで、一羽は独楽のように回転し、二、三羽は反時計回りに回った。別の鳩は箱の特定の上方の角に向かって繰り返し頭を突き出した。また別の鳩は頭で見えないカーテンを持ち上げるかのように、「ぐいと持ち上げる」行動を示した。二羽は別々に、頭や体を周期的に左右に「振子を揺らす」ような動作を開発した。この最後の動作は、たまたまではあるが、何羽かのゴクラクチョウの求愛ダンスにかなり類似したものに見えたに違いない。スキナーが迷信という言葉を使ったのは、鳩が、本当はそうでないのに、まるで自らの一定の動作が原因となって、報酬のからくりに影響を及ぼしていると考えているかのように行動したからである。(P221)


「浄霊」や脳循環代謝改善薬の処方は迷信行動である。ホメオパシーもそうだ。「迷信」の例には枚挙にいとまがない。珍しい形の雲が地震を予知するという話がある(■地震雲と誤認知を参照)。「珍しい形の雲」のあとに、「地震が起こった」のであるから、因果関係があるのだろうというわけだ。仮説を検証するには、地震雲の観測があったときとなかったときとで、地震の発生率に差があるかをみなければならない。

もしかしたら、脳循環代謝改善薬と同様に、現在、標準医療とされている治療の中にも迷信行動が含まれているかもしれない。ある治療法に効果があるかどうかは、患者を二群に分けて、治療群と対照群を比較することで検証される。治ったという体験談は証拠*1にならない。迷信行動を行うハトは、「グルグル回ってれば餌をもらえたぜ」という体験談を語るだろう。ホメオパシーの信者は、レメディがよく効いた体験談を語るだろうし、地震雲の研究者は、地震雲の観測の後に地震が起こった例をいくらでも持っている。

「浄霊」やホメオパシーを迷信行動と断定した一方で、標準医療については迷信行動が含まれている「かもしれない」とした理由は、標準医療については、原則的に、比較対照試験が行われ、効果があることが確認されているからである。脳循環代謝改善薬についても比較対照試験は行われていた。しかし、審査が不十分であったのだ。時代背景もあったのだろうが、効果がない薬に無駄な医療費が使われていたことについては批判されるべきだ。ただし、体験談を根拠に代替医療を擁護している人たちは、脳循環代謝改善薬を批判する資格はない。標準医療を批判的に検証するためには疫学的な思考が必要だ。

あらゆる出来事について疫学的な手法で因果関係を検証するわけにはいかない。赤信号と青信号をそれぞれ1000回ずつ渡ってみて交通事故に遭う頻度を比較するのは非合理的だ。日常生活において、直観的な因果関係を信じることは多くの場合問題を起こさない。でも、ときには、「自分は迷信行動を行う鳩になっていないか?」と問うてみてはどうだろうか。

*1:ここで言う「証拠」とは「第三者の検証に耐える証明の可能な客観的根拠」のことを指すと。念のため。

いまだいまだ 2010/02/01 18:28 すでにネタになっているかもしれませんが、"体験談"に加えて"平均への回帰"で科学的な装いを補強するのもよくある話ですね。血圧が高めのモニター何人かにイワシノアターマ体操を1週間行ってもらい、その前後で全員の平均を比較すると下がりました、という類。

excelexcel 2010/02/01 19:59 ここで「昨日と同じように明日も太陽が昇ると信じる根拠は何もないですものね」なんて言ったらミスリードだとたしなめられてしまうでしょうか。
世界人口の99%は確実に実物を見たことがない根拠なら有名ですが。

nucnuc 2010/02/01 21:06 え、明日突然逆回転を始めない根拠なんてないですけれども。

wadjawadja 2010/02/01 23:24 え、明日突然逆回転を始める根拠なんてあるのでしょうか?

とおりすがりとおりすがり 2010/02/02 02:50 え、根拠がないことは明日突然逆回転を始めない根拠になるのでしょうか?

opium_lifeopium_life 2010/02/02 05:38 そもそも太陽の運行状況は地球上全人類の約半数が常に観測し続けているのですが…

7$¥ナナシー7$¥ナナシー 2010/02/02 07:54 地球の自転が明日突然逆回転しないという推定は慣性の法則というさまざまな場面で確かめられている物理法則によるものだから、それを否定するにはそれに匹敵する根拠を出さねばならず、それがないなら逆回転する可能性が極めて低い(考慮するに当たらない)と考える根拠となるでしょうね。

NATROMNATROM 2010/02/02 09:16 nucさんは、科学哲学でよく言われる帰納法に対する懐疑のことを仰っているのだと思います。わかりやすい説明はこの辺?→http://sci-tech.jugem.jp/?day=20071129

mayumi_charronmayumi_charron 2010/02/02 16:25 神社の娘として一言。迷信には形成パターンが幾つかあります。たとえば、神社の注連縄の結界は、一見して迷信と分かるただの飾りです。でもあれは、神社の元型になった高床式倉庫に張り巡らされた蛇の抜け殻がルーツなんです。穀物蔵を食い荒らすネズミを、天敵蛇の臭いで追い払う、本物の結界技術だった時代があるのです。迷信的風習も、由来を辿ると迷信ではない根拠に行き着くことがあります。知識の生成過程まで調べて慎重に吟味しないと、真偽が見極められないものって多いですね。

exelexel 2010/02/02 16:42 帰納法と迷信行動は紙一重だといいたかったのですが…。
変な流れにしてしまってなんともスイマセン。

wadjawadja 2010/02/02 23:35 すいません、つい下手な突っ込みを入れてしまいました。本当は、「逆回転しても日は昇るじゃん」てのも考えたんですけど(殴

ROMってますROMってます 2010/02/08 00:03 いつも楽しく拝見させていただきます。
今回のスキナーボックスの記事は感動しました。

迷信行動は「ジンクス」と名前を変えると殆どの人間が持っているんじゃないでしょうか?私の大好きなパチンコ屋に行くとスキナーのハトのような人が多く見かけられます。
タブーやおまじないなども根っこは同じだと思いますがその普遍性の高さを思うと、人がハトから脱することも簡単ではないと思い知らされます。
ありがとうございました。

AH1AH1 2010/02/08 12:09 ハトではないのですが、やはりスキナー箱を用いた動物実験で、二つの箱のどちらに餌があるかわからない場合、ランダムに開ける個体と、右ばかり開ける、あるいは左ばかり開ける個体があるんだそうです。
そういう「自分ルール」は自然に形成されるものなのかもしれません。

つきピエつきピエ 2012/03/23 19:55 なぜおみくじの大吉(14%)が「100万分の7.5」とか「1万分の3」とか「100分の6」という確率で連続するのでしょうか。
(大吉を20%で計算した場合は100000分の6と10000分の16と100分の1)
記録上、50回しか引いてないのに。(記録にないところのものも含めるともっとヤバい確率の連続がある)
大吉が出る確率をもっと引き上げれば19回連続で大吉が「出なかった」方の確率が小さくなる。

つきピエつきピエ 2012/03/23 20:03 なぜおみくじが「100万分の7.5」とか「1万分の3」とか「100分の6」という確率で連続するのでしょうか。
(↑大吉14%で計算)(大吉を20%で計算した場合は100000分の6と10000分の16と100分の1)
記録上、50回しか引いてないのに。(記録にないところのものも含めるともっとヤバい確率の連続がある)
大吉が出る確率をもっと引き上げれば19回連続で大吉が「出なかった」方の確率が小さくなる。
過去50回のおみくじを大吉、中吉、小吉、吉、半吉、末吉、凶でグラフ化すると完璧にではないがいい感じに起伏してる。

まぁなぜそんなに連続しまくったかというと、もちろん私情があるからだけど、それは科学に関係ないから書かないでおくね。